イラストレーターのキム・ヒョンテ氏率いるSHIFT UPが制作を手がけ、グローバルブランドLevel Infiniteより配信予定のスマートフォン向け新作ゲーム『勝利の女神:NIKKE』(読み:ニケ)。本作は“ラプチャー”と呼ばれる鋼鉄の生命体がに襲来し、人類が地下のアークに避難したポスト・アポカリプス世界が舞台のガンシューティングRPG。“NIKKE(ニケ)”と呼ばれる美少女ヒューマノイドが地上を奪還するべく戦いを繰り広げる内容となっている。

『勝利の女神:NIKKE』

【勝利の女神:NIKKE】ティーザーPV

 2019年に行われた新作発表会“CRANK IN SHOWCASE”で発表され、2021年に韓国で開催されたゲームショウ“G-STAR 2021”ではプレイアブル出展された本作は日本でも展開。近々クローズドベータテスト(以下、CBT)も予定されている。

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『勝利の女神:NIKKE』公式Twitter

 本記事では、本作のエグゼクティブプロデューサーであるキム・ヒョンテ氏のインタビューをお届け。作品の成り立ちや魅力についてお聞きした。なお、ガチャの仕様や詳細、キャラクターの追加頻度については今後タイミングを見て公開していくということで、回答は得られなかった。

『勝利の女神:NIKKE』
キム・ヒョンテ氏

キム・ヒョンテ氏

イラストレーター、ゲームクリエイター。日本では『マグナカルタ』や『ブレイドアンドソウル』で知られる。2014年にSHIFT UPを創業。2017年に配信されたスマートフォン向けゲーム『デスティニーチャイルド』ではディレクターとキャラクターデザインを担当した。(文中はキム)

社内コンテストから生まれた『勝利の女神:NIKKE』

――『デスティニーチャイルド』では原作、ディレクション、キャラクターデザインなどを担当されていましたが、『勝利の女神:NIKKE』にはどのような立場で携わられているのでしょうか?

キム開発が動き出したときは、プロデュースとキャラクター全般のビジュアルを担当していましたが、現在はエグゼクティブプロデューサーとしてプロジェクトの全般を見ながら主にイラストレーターとして参加しています。

――本作の開発経緯を教えてください。

キム社内コンテストで1位だったものを発展させたものになります。最初の企画では一人称のFPSだったのですが、キャラクターの後ろ姿をしっかり見せたいと思い、いまのようなTPSにしました。『デスティニーチャイルド』は胸を魅力的に見せる作品でしたが、『勝利の女神:NIKKE』は後ろ姿を魅力的に見せる作品になっています(笑)。

――本作のようなシューディングゲームは横画面が多いと思うのですが、縦画面にした理由をお聞かせください。

キムキャラクターとフィールドの画面を同時に見てもらうには縦長のほうがいいと思いました。横画面は背景が中心になるのでFPSには向いていると思うのですが、キャラクターを大きく見せるのあればTPSのほうがいいなと。

『勝利の女神:NIKKE』

――キャラクターの表現方法としてイラストアニメーションを選んだ理由を教えてください。2017年のファミ通のインタビューでは「次回ゲームを作るときは、私も3Dでやります(笑)。」と発言されていましたが。

キム当時3Dをやりたいと言ったのは、3Dのゲームを追求したいという意味で、そちらは別プロジェクトの『Project Eve』で挑戦しています。『勝利の女神:NIKKE』は『デスティニーチャイルド』で培った2Dの技術を発展させたものになっているため、『デスティニーチャイルド』の精神的続編とも言えます。

――キャラクターの動きが『デスティニーチャイルド』よりも進化しているように感じました。工夫した点や苦労した点を教えてください。

キムツールをSAIに変更しました。変更した理由はふたつあり、ひとつはより自由な動きを実現したいということ、もうひとつは開発の人材募集がしやすくなるからです。

 SAIに変更したことで、射撃の動きなどでキャラクターそれぞれに個性が出せるようになりました。もちろん、ツールを変更したという理由だけではなく、弊社のひとりひとりがキャラクターに愛情を持っており、こだわって動きを作っているからだと思います。

『勝利の女神:NIKKE』

――1キャラクターあたりの平均制作時間を教えてください。

キムそれぞれ射撃やしゃがみなど多彩なアクションがあり、ほかにもSDキャラクターやカットインも存在するので、キャラクターによって時間は大きく異なります。

 ただ、自分のほうで時間を見積もるときは、キャラクターイラストに2週間、アクション部分に2週間、合計1カ月ぐらいで考えています。

――キャラクターによって射撃モーションやカバーアクションが異なるんですね。

キムはい。同じ種類の武器を持っていたとしても、キャラクターによってこまかく動きを変えています。

――武器はどのぐらいの種類があるのでしょうか?

キム基本的にはロケットランチャー、スナイパーライフル、アサルトライフル、マシンガン、サブマシンガン、ショットガンの6種類で、サービス開始後に増やしていく予定です。

 また、剣を振り回すものや、片手で銃を撃ちながらもう片方は盾を持っているような特殊な武器もあります。また、バイクマニアのシュガーというキャラクターであれば、バイクの後ろに隠れて銃を撃ったりとキャラクターの個性を反映したものも多いです。

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『勝利の女神:NIKKE』
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――韓国ではすでに本作がプレイアブル出展されていますが、ゲームユーザーからはどのような反応がありましたか?

キム新型コロナウイルスが感染拡大しているなか、7000人ぐらいの方にプレイしてもらえました。ほとんどの方が高い評価をしてくれてうれしかったです。

タイトルにもなっている“NIKKE”に込められた意味とは?

――『勝利の女神:NIKKE』の世界観とストーリーを教えてください。

キムラプチャーという正体不明の存在に侵略された世界が舞台になります。わずかに残った人類がアークと呼ばれる地下に隠れています。そして、地上を奪還するための最後の希望となる存在がヒューマノイド兵器の“NIKKE”になります。

――本作の舞台を世界崩壊もの、いわゆるポスト・アポカリプスにした理由を教えてください。

キム弊社には壊れた機械や建物などの廃墟が好きなクリエイターが多いんです。また、私自身もSFにハマっていたことがあり、ポスト・アポカリプスには憧れているところがあります。そのため、『Project Eve』も本作と同じようにポスト・アポカリプスが舞台となります。

 また、少女が世界を救うために戦うという荒唐無稽なストーリーは世界のひとつでも滅ぼさないと説得力が出ないなと思っています。

『勝利の女神:NIKKE』
『勝利の女神:NIKKE』
『勝利の女神:NIKKE』
『勝利の女神:NIKKE』

――キム・ヒョンテさんが影響を受けたポスト・アポカリプスものの作品はありますか?

キム多すぎてすべてを取り上げるのは難しいのですが、自分のなかのベストは木城ゆきとさんの『銃夢』と士郎正宗さんの『攻殻機動隊』『アップルシード』です。

――すべて女性主人公ですね。

キムああ、そうですね! 言われて気付きました(笑)。NIKKEが女性であることはストーリーの理由があるのですが、そういった作品の影響もあるかもしれません。

――本作には男性キャラクターも登場するのでしょうか?

キムストーリー内には登場します。ユニットとして実装するかどうかは未定です。

――戦闘型ヒューマノイドの“NIKKE”という名称にはどのような意味が込められているのでしょう。

キムゲームのタイトルにもなっていますが、これは勝利の女神であるニケから取っています。最後の最後に人類を導いてくれる存在として、“NIKKE”と呼ばれるようになったという経緯があります。

――“NIKKE”のひとりが主人公なのでしょうか? 本作の主人公とメインキャラクターについて教えてください。

キムまず、本作ではプレイヤー自身が主人公となります。メインキャラクターはラピとマリアンのふたりで、ラピは冷静で警戒心の強い女の子ですが、一方のマリアンは愛らしくて人懐っこいヒロインになります。

 本作では彼女たちがヒューマノイド同士や人間たちとの交流を経て成長していく姿が描かれることになります。また、物語のなかにはラピとマリア以外にも多彩なヒューマノイドが登場して物語を盛り上げることになります。

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ラピ
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マリアン

――キャラクターをデザインするうえで、もっともこだわったポイントを教えてください。

キムヒロインとしての魅力を持ちつつ、戦うキャラクターとしても違和感のないデザインにすることです。

 本作にはさまざまなキャラクターが存在しており、普通にかわいい女の子もいれば、ほかのゲームに比べて露出度の低い兵士のようなキャラクターもいますし、ロボットのように武装していて性別がわからないようなキャラクターもいます。そのバラエティも魅力ですね。

――キム・ヒョンテさんお気に入りのキャラクターを教えてください。

キムマリアンがお気に入りなのですが、ストーリーのネタバレになってしまうため理由は語れません。歯がゆいです(笑)。

――デザイン面でお気に入りのキャラクターは誰でしょうか?

キムスノーホワイトというキャラクターです。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の“ガンダム試作3号機(デンドロビウム)”のようなイメージで、全身を武装している女の子で、ほかのゲームではなかなか見ることのできないデザインになっていると思います。

『勝利の女神:NIKKE』
スノーホワイト

――リリース時のストーリーボリュームや実装キャラクター数について教えてください。

キムストーリーに関しては長編の小説1冊ぶんぐらいのボリュームになるため、モバイルゲームとしてはかなり多いです。リリース時に登場するキャラクターは約60体を予定しています。

――敵となる“ラプチャー”とは何者なのでしょう?

キムストーリーのネタバレになるため詳細は言えないのですが、ラプチャーもさまざまな種類が存在します。とくに、ボスはデザインや動きもこだわって作っているので期待してほしいです。

『勝利の女神:NIKKE』

――ラプチャーは言語を用いるのでしょうか?

キムほとんどのラプチャーは話せませんが、なかにはしゃべるものもいます。

――なるほど。なぜ話せる個体がいるのか? というところもポイントになってきそうですね。ラプチャーをデザインするうえでこだわった部分は?

キムこちらもネタバレになるので詳しくは言えないのですが、ラプチャーは古代に存在した虫や魚をモチーフにしています。デザインにもストーリーの意図があるので注目してみてほしいです。

 とはいえ、「格好いいから」という単純な理由でデザインしているものもあります。

ゲームセンターでプレイするガンシューティングのようなプレイ感覚

――ここからはゲーム部分に関して伺います。まずはバトルについて教えてください。

キムバトルは5人のキャラクターを編成して戦うことになり、ステージの状況に応じてキャラクターや武器を入れ替えながら戦闘を進めていくことになります。また、バトル以外の要素としてはキャラクターの育成やプレイヤーとの親密度を上げるといったことができます。

『勝利の女神:NIKKE』

――キャラクターや武器の入れ替えはリアルタイムで行えるということでしょうか?

キムはい。プレイヤーは5人のキャラクターのうち、ひとりを操作することになり、その操作キャラクターを変更することができます。

――動画ではマルチプレイができるように見えました。ほかの人のキャラクターを一次的に借りるのでしょうか? それともほかのプレイヤーが直接操作しているのでしょうか。

キム画面にいる5人のキャラクターはそれぞれ別のプレイヤーが操作することになります。いわゆるPvEの形ですが、遅延などはなく、ほかのキャラクターのエイムが表示されます。

 感覚的に近いのはゲームセンターのガンシューティングで、プレイしていた人にとっては懐かしさ、遊んだことがない人には新鮮さを感じてもらえるのではないかと思います。

――操作についてお聞かせください。プレイヤーはどんなことができるのでしょうか?

キム画面をタップすることで銃を撃つことができ、手を離すことでカバーアクションやリロードをすることができます。ふたたびタップをすると銃を撃ちますが、キャラクターによってはチャージ時間が必要なこともあります。

 なお、エイムを補助するオートエイム機能のほか、オートバトルも用意しています。

『勝利の女神:NIKKE』

――画面をタップし続ければ攻撃をし続けるということですか?

キム画面にエイムの対象がいれば撃ち続けます。ただし、弾切れになったり対象の敵がいなくなったときは攻撃できなくなります。また、敵が壁に隠れたりしているときは、その壁を壊すようなアクションも存在します。

――カバーアクション中は無敵ですか?

キム隠れているものには耐久値があり、その耐久値が無くなると破壊されます。キャラクターではなく、遮蔽物を攻撃してくる敵もいるので、そういった敵の行動に対処するのも重要になります。

『勝利の女神:NIKKE』

――キャラクターの育成やカスタマイズ要素についてお聞かせください。

キムキャラクターの成長要素は一般的なゲームと同じです。キャラクターの武器はその人物の個性なので変えることはできませんが、衣装を変更して楽しむことは可能です。

――一般的というと、キャラクターは戦闘に参加することでレベルが上がる仕組みでしょうか?

キム戦闘に参加すると経験値の素材が手に入り、その素材を使うことでレベルアップできます。ほかにも、ほかのゲームに実装されているような成長システムは一通り入っています。

――PvPは存在するのでしょうか?

キム企画はありますが、本作はPvEをメインにしているため、リリースのタイミングでは実装する予定はありません。基本的にはプレイヤー同士で協力して進むのが基本のゲームデザインになります。

――シューティング部分以外に“タワーチャレンジ”、“ロストエリア”、“前哨基地”、“アリーナ”などコンテンツが収録されていますが、それぞれどのような内容なのか教えてください。

キム“タワーチャレンジ”はメインと同じくシューティングを楽しむモードになります。このモードは出撃するキャラクターに制限があるので、どういったパーティを組むのかといった楽しみがあります。

 “ロストエリア”は3Dフィールドを探索するモードです。パズルを解いたりすることでアイテムを入手できます。“前哨基地”は主人公たちの生活する場所でヒロインたちと交流することができます。新たな施設を建設してアップグレードすることも可能です。

 “アリーナ”は非同期式のPvPで、編成を組んで出撃すると自動で戦闘が行なわれます。リアルタイムにしなかった理由は、ユーザーがストレスを感じてしまうと思ったからです。

――近々CBTがあるようですが、これらのコンテンツはどこまで遊べるのでしょうか?

キムCBTは1週間ぐらい遊ぶことができ、全体の2割ぐらいのシナリオを体感できます。また、アリーナ以外のすべてのコンテンツを楽しむことができます。

――CBTを遊ぼうと思っている人に向けて、プレイのコツなどがもしあれば教えてください。

キムみなさんがこれまでプレイしてきたシューティングとは違う要素が入っているので、チュートリアルはしっかり確認していただきたいです。また、ステージで詰まったときは編成を見直してみてください。

――『デスティニーチャイルド』は『ストリートファイター』シリーズや『BLAZBLUE』シリーズなど多彩な作品とコラボをしていますが、本作に関してはコラボを予定していますか?

キムはい。魅力的な作品とのコラボを予定しているので発表を楽しみに待っていただければと思います。

『勝利の女神:NIKKE』

――ここからは、キム・ヒョンテさんご自身のことをお聞かせください。イラストレーターになった経緯は?

キムもともと絵を描くことが好きで漫画家を目指していたこともあります。ただ、その時期は漫画に対する規制が厳しい時代でもありました。

 その後、ゲーム会社に入社して、デジタルで絵を描くことの楽しさに目覚めました。そのなかで自分がやりたいことはゲームにあると気付きました。最初にゲームの仕事をしたのは1996年で、知り合いに手伝ってほしいと頼まれたからでした。そのときはひたすらドットを打っていましたね。

――影響を受けたイラストレーターはいますか?

キム当時は投稿サイトが活発でいろいろなイラストを見ていたので、これというものをあげるのが難しいですが、影響を受けたのは士郎正宗さん、村田蓮爾さん、寺田克也さんです。近年では黒星紅白さんにも影響を受けました。

――キム・ヒョンテさんと黒星紅白さんではイラストのタイプが異なる印象があるのですが、どのような部分に影響を受けたのですか?

キムキャラクターをシンボル化する方法や、色味の付け方などを勉強させていただきました。イラストのタイプは違いますが、色の使い方などはとても影響を受けています。なお、『勝利の女神:NIKKE』にはいままで描いていないようなキャラクターもいるので楽しみにしてほしいですね。

――ゲーム開発で影響を受けた方は?

キムペルソナ』シリーズの橋野桂さん、『デビルメイクライ』や『ベヨネッタ』の神谷英樹さん、『ファイナルファンタジー』シリーズの野村哲也さんに強く影響を受けましたね。橋野さんの『ペルソナ』シリーズからは音楽やスタイルなどいろいろな面から影響を受けました。神谷さんからはバトルについて、野村さんからはアーティストがゲームを作ることについてインスピレーションを受けました。

――最後に、リリースに向けての意気込みや、本作を期待しているゲームユーザーにメッセージをお願いします。

キム『勝利の女神:NIKKE』というゲームをひとことで言うと“密度の高いゲーム”となります。“密度の高いゲーム”とは企画、ビジュアル、サウンド、すべての面で詰め込まれているということです。いろいろなスタッフが密度を上げる努力をした結果がクオリティとして反映されているので、ぜひゲームをプレイしてみてもらいたいと思います。何気ない動作ひとつを取ってもこだわっているので、楽しみにしてもらいたいです。

 日本では『デスティニーチャイルド』以来、4年ぶりの新作になりますが、前作以上のクオリティのものが届けられるように鋭意製作中です。今後も情報を発信していくので楽しみにしていただければと思います。

『勝利の女神:NIKKE』