野村哲也氏×キム・ヒョンテ氏 デザインとゲーム制作について語り合った特別対談の模様を全文掲載!

日本を代表するクリエイターである野村哲也氏と、韓国で高い人気を誇るイラストレーターのキム・ヒョンテ氏による、初の対談が実現! 

 かねてより互いの存在を認めながらも、これまで出会うのことのなかった野村哲也氏とキム・ヒョンテ氏。デザインとゲーム制作、双方の面で国を越えた人気を誇り、第一線で活躍するふたりが邂逅する。彼らは互いの作品をどう思っているのか? クリエイティブへのこだわりは? そしてキム氏の新作『デスティニーチャイルド』は、野村氏の目にどう映るのか? 限られた時間ながら濃密なやり取りがあった、その模様をお届けしよう。

※本記事は週刊ファミ通2017年10月19日号(2017年10月5日発売)に掲載された記事に加筆・編集を行ったものです。

野村哲也氏(左・文中は野村)
 『キングダム ハーツ』シリーズや『FFVII リメイク』のディレクターを務める。また、多数の『FF』シリーズ作でキャラクターデザインを担当。『ディシディアFF NT』ではクリエイティブプロデューサーとしても作品に携わるなど、多方面で活躍するクリエイター。

キム・ヒョンテ氏(右・文中はキム)
 韓国・ソウル在住。日本では『マグナカルタ』や『ブレイドアンドソウル』で知られる著名なイラストレーター。2014年に新会社SHIFT UPを立ち上げ、新作『デスティニーチャイルド』ではキャラクターデザインだけでなく、ディレクションも担う。

お互いを知ったきっかけは……

――おふたりは、どういったきっかけでお互いのことを知りましたか?

キム ゲームがきっかけでした。私が学生のころに、『FFV』を手に入れてシリーズをプレイし始め、『FFVII』で野村さんを知りました。『FFVII』は、キャラクターデザインもそうなのですが、世界観やストーリーが衝撃的で。それを見て、「自分もこういうものを作りたい」と思うようになりました。私は日本語があまりできませんが、当時はもっとできなくて、プレイするために辞書を片手にプレイしていたんですよ(笑)。

――相当な熱意があったんですね! 野村さんは、どこでキムさんのことを?

野村 『マグナカルタ』(※1)です。これまでに見たことのないイラストで、衝撃的でした。そこで調べて、キムさんが描かれていることを知って。イラストは日本でも受け入れられるテイストといいますか、違和感のないデザインで、「これはヤバい人が現れた」と思いました(笑)。

※1……韓国のソフトメーカーであるSOFTMAXとの共同開発で、バンプレスト(現バンダイナムコエンターテインメント)から2004年11月11日に発売されたPS2用RPG。キム・ヒョンテ氏がキャラクターデザインを担当した。

キム 光栄です(笑)。

野村 なかでも惹きつけられたのは、独創的だった衣装です。細かい装飾まで独特で。

キム 直接、そういった言葉をいただいてうれしいです! 当時、僕が絵を描き始めたころ、日本でもWebサイトで自分のイラストを公開するのがブームで、それらを見て真似しながら描いていたんですよ。だから、そこに混じっても違和感がないのでしょうね。とはいえ、やはり国や文化の違いはあるので、何かしらの特色がそこで出たのかなと思います。

――キムさんは、野村さんを知った『FFVII』が発売されたころ、すでにイラストレーターだったのですか?

キム まだ本格的にやっていたわけではないのですが、フリーランスとして依頼を受けていました。野村さんのことは、イラストレーターとしてはもちろん、映像ディレクターとしても尊敬しています。『FFVII アドベントチルドレン』(※2)は大好きです。野村さんが手掛けられていたころの『FFヴェルサスXIII』(※3)の映像も、すごく好きで。

※2……『FFVII』の2年後が舞台となる、2005年公開の映像作品。
※3……『FFXV』の前身となった作品。 

野村 ありがとうございます。自分が映像を作るときは、それを“初めて見る人の気持ち”で演出することを心掛けています。制作側である以上、当然中身は知っているのですが、その視点で作るよりも、“知らない人がその映像を初めて見たときの感覚”を重視しています。

キム そういった視点で作るからこそ、“日本人だからわかる”のではなく、国を越えて世界中の人たちに伝わるんでしょうね。

――おふたりはデザインをする際に、自国以外の展開を見据えてデザインをされているのでしょうか。

キム 基本的には、(舞台やキャラクターに)特定の国の設定がなければ、とくに気にせずデザインすることにしています。わざと韓国色を出そうとしたり、グローバルなものにしよう、という意識はありません。韓国では僕の絵が、「韓国っぽくない」と批判されることもあるのですが、それを言われると「韓国っぽさって何?」と思います。昔の韓国のマンガやイラストは、実写に近いものが多かったので、そういうものと比較すると、私の絵は韓国っぽくないってことなのかもしれないですが。

野村 自分も海外展開の有無などがデザインに影響することはないですね。映像と同じでデザインも、初めて見た人がどう思うか、そこに注力しています。海外向けに、と意識しようとしても、たとえば韓国の人の感覚は日本人の僕にはわからないですから、できないです(笑)。

キム 私もそう思います(笑)。

――キムさんは『FFVII』以外でも野村さんの関わったタイトルで印象に残っているものはありますか?

キム どれも印象に残っています。とくに『FFVIII』に登場する八頭身のキャラクターを見てショックを受けましたね。個人的にいちばん好きなのは、『FFX』です。どうやってあのような世界的なデザインができあがったのか、本当に知りたいですよ。

野村 『FF』は毎回、たくさんの人が、いろいろなことを言うんです。多方面からオーダーが飛んでくるので、それを反映しつつ描いたら、ああなったというか(苦笑)。

キム わかる気がします。自分も以前『ブレイドアンドソウル』(※4)に関わったときに、ターゲットが中国だったので、「中国ならこうすべきだ、ああすべきだ」などといろいろ言われていました。しかし、そういわれながら作ったデザインが逆に中国の方には「中国っぽくなくて斬新だ」と言われました。

※4……2012年に正式サービスを開始した、韓国のNCSOFTが運営するMMORPG。日本では2014年にサービスインし、テレビアニメも放送された。

野村 自分を曲げず、“らしさ”が出ていたんですね。

キム でもいま振り返っても、やはり私は『FFVII』にすごく影響を受けているなと。ティファがとても好きなんです。どこが好きなのかは、ちょっと言えないんですが(笑)。

野村 キムさんの絵を見ていると、どこが好きなのかわかる気がしますけど(笑)。

野村氏も注目のLive2Dで動くキャラクター

――作業環境についておうかがいできればと思うのですが、アナログとデジタルのどちらで作業されているのでしょうか。

キム 最近は完全にデジタルで作業する人が多いですが、私は最初に鉛筆描きをして、それをスキャンしてデジタルにしています。最初に紙の上で全体を見ないと、描きにくいんです。

野村 自分もそうです。一度紙に描いて、それをスキャンしています。全体像が見たいので、A4の紙に描くんですよ。キャラクターの顔などは、すごく小さくなります。だから、歳を重ねるごとに、その小さい顔に目を描くのが見え辛くてたいへんになってきました(笑)。

キム ええ!? ポスター用などに大きなイラストを描くときも、そのサイズで描かれるんですか?

野村 全部同じサイズです。大判のポスター用ともなると、キャラクターも増えますから、ますます小さく描かないといけなくなります。ものすごく限られたスペースに、細かく描き込むため、震えないよう息を止めて。酸欠になりながら描いてます(笑)。

キム 命を懸けてますね(笑)。

――大きい紙に変えようと思ったことは?

野村 いまさら変えられないですね。机も、すごく小さいですし。

キム 会社に大きなデスクをお持ちなのでは?

野村 会社では集中して描けないので、最初の線画は基本、自宅で描いているんです。パソコンの横で、ちまちまと……。日本の住宅は狭いんですよ(笑)。

――キムさんは会社でデザインをされているのですか?

キム 締め切りが近くなれば、どこでも描きます(笑)。以前はずっとイラストだけを描いていましたが、いまはディレクターも兼ねているので会議や打ち合わせが多く、その合間に描いていますね。でも、忙しい中で描いているほうが、いい絵になることが多いんです。何も考えずに描いたほうが、いい絵が描けるんだなと。絵だけに集中していると、「今回の絵はいちばんいいものにしよう!」ということを意識しすぎて、それがあまりよくないのではないかと最近は思っています。

――野村さんも、連日締め切りに追われながら作業されていますが?

野村 追われながらというか、何ならいま頼まれてるものは遅れてるんですけど(苦笑)。締め切りがきても、出てこないものは出てこないので、こればかりはどうしようもないですね。ただ、脳内では何度もラフを描いているんです。脳内で固めてから実際に描き、なるべく一発で仕上げます。傍から見ると、何もしていないように見えるのが難点ですが(笑)。

キム ああ、同じです(笑)。私もラフはくり返さず、描くときはポイントになるところを思いきりデフォルメするので、身体の比率を間違えていることもあります。ただ、それについてはあまりに気にしていなくて、自分が「お尻を大きくしたい」と思ったら、たとえバランスが多少崩れても、思いきり大きくするほうを優先します。

野村 それはいいことだと思います。

――おふたりは共通項がいくつもあるようですね。イラストレーターであり、ディレクターでもあるという立ち位置も近しいものがあるのでは?

野村 イラストについては、自分はイラストレーターだとは思っていないんですよ。あくまでも“ゲーム用のデザイン”だと思っていて、絵を専門で描かれている方ほど作品にこだわっているわけではないですね。ゲームになったものが最終形で、自分の絵はそれまでの通り道にすぎないというか。そこから仕上げていくものだと思っているので、自分がデザインした段階では完璧を求めてはいないんです。

キム 少し違う話になりますが……。私が『マグナカルタ』にイラストレーターとして参加したとき、自分が描いた絵と3Dモデルの違いに違和感があったんです。そこで、自分が描いたものをそのまま3Dにしたいと思うようになり、『ブレイドアンドソウル』では、イラストレーターとしてではなく、アートディレクターとしてチームに加わり、なるべく自分の絵と3Dモデルの違いが出ないようにしました。

――ゲームにおいてキャラクターをCGモデルで起こすとき、デザイン画との差異含め、どう表現するかは難しいところですよね。

キム 『ブレイドアンドソウル』でそうした取り組みを8年続けたところ、自分が描いた絵をなるべくたくさん、そのまま見せられるゲームを作りたくなり、それでできたゲームが、『デスティニーチャイルド』なんです。

――『デスティニーチャイルド』は、キムさんのイラストがたっぷり見られるだけでなく、Live2D(※5)を使ったキャラクターの動きが非常に滑らかですよね。

※5……2Dのイラストを立体的に見せつつアニメーションさせる技法。

キム 企画段階では、単に絵が表示されればいいと思っていたのですが、そうなるとほかのゲームとの差別化ができないので、Live2Dを採用して、自分の絵を動かしてみました。それが、本当に難しくて。難しすぎて夜中にひとりで叫んだことも。「Live2Dを作った人は悪魔だーっ!」って(笑)。ですが、動かない絵と動く絵を比較してみたら、動かない絵を採用する選択肢はありませんでした。そのせいで、開発スタッフが4倍に増えたわけですが(笑)。

野村 Live2Dでアニメーションをつけるのは、ご自身でやっているんですか?

キム 初期のサンプルは自分で作っています。そこから知り合いに声をかけたりして、人を増やしていきました。最近はだいぶ増えてきましたが、当時は日本でも韓国でもLive2Dが使える人はあまりいなくて、必死に勉強しましたね。

野村 『デスティニーチャイルド』ではイラストがあまりに滑らかに動いていて、「どうやってるんだろう?」と思っていたんですよ。少し前に、2Dのイラストが動く表現方法が出てきたとき、自分も興味があって人に聞いたところ、みんな「よくわからない」という答えで、それっきりになっていたので気になっていました。

キム 3Dモデルを高いクオリティーで作るとなると、多数のスタッフと資金が必要です。Live2Dの場合は、ひとりの汗と根性でできあがるのがいいポイントかもしれません(笑)。

野村 Live2Dは、1枚の絵から動かしているんですか? それとも何パターンかの絵の組み合わせですか?

キム まず、1枚の絵を200パーツくらいに分割します。データ上でそれらの各パーツを組み立てて、キャラクターの骨を入れます。それから、8方向から見たキャラクターの絵も必要です。Live2Dの作業をするスタッフは、絵を描けて、ある程度のデッサン力もないといけません。1枚しかない元絵を見て、顔の角度が変わったときの絵を描き起こさなくてはいけないので。

野村 なるほど……。自分は3Dでいいかな……。

キム (笑)。本当にたいへんではあります。でも、動いているのを見たらそれがすごくうれしくて。誰かが、Live2Dは“デジタルの編み物”と言っていましたが、その通りでかなり手の込んだものです。……ですから、次回ゲームを作るときは、私も3Dでやります(笑)。

――『デスティニーチャイルド』は、韓国では昨年から配信されていますが、どういう評価を受けているのでしょうか。

キム 大ヒットと言えるくらいにはなっています。ストアの売り上げランキングのトップによく並んでいますね。韓国は基本的にPCゲームが主流なのですが、スマートフォンゲームも数年前から伸び始めてきています。

――ヒットした要因を挙げるとしたら?

キム うーん……難しいですね。おそらくですが、Live2Dを使ったゲームは、これまで韓国にはほとんどなかったんです。みんな綺麗な3Dモデルで作られたゲームが好きで、出るゲームもほとんどそういう作品です。一方で、そのほかのものを求める人や、2Dのテイストが好きな人たちもいて、そこに『デスティニーチャイルド』が刺さったのかもしれません。

野村 日本でリリースしようというのは、キムさんの意思で?

キム はい。私は『FF』はもちろんこと、いろいろな日本のゲームをプレイして育ってきたので、日本でゲームを出したいという思いがあります。『マグナカルタ』や『ブレイドアンドソウル』は、自分の立ち位置などの都合で日本でのプロモーションにはあまり寄与できなかったので、『デスティニーチャイルド』は自分の手で、しっかりとお披露目しようと思っていました。

野村 これはキャラクターが動いているところを前面に押し出して、ユーザーに見てもらうのがいちばんいいと思います。相当なインパクトがある。これだけ動いてくれるんだから、ガチャでどんなキャラクターが出ても楽しめそうです(笑)。

キム 野村さんにそう言っていただけて光栄です!