2021年10月15日、NHKで放送された番組が、ゲームファンを中心に話題となった。番組の名は『ゲームゲノム』。ゲームをテーマにした、NHK初の“ゲーム教養番組”である。

 第1回目の放送では、小島秀夫監督率いるコジマプロダクションが手掛けた『デス・ストランディング』を特集。小島監督とMCの本田翼さん、ゲストとして星野源さんが出演し、4つのキーワードをもとに『デス・ストランディング』の魅力を掘り下げていった。

 そんな同番組が、55分の拡大版に再編集され、『ゲームゲノム SPECIAL EDITION』の名で、NHK総合にて2022年1月24日0時35分~1時30分に放送。拡大版には、新たに未公開トークが収められている。

 そこで、『ゲームゲノム』の生みの親であるNHKディレクターの平元慎一郎氏にインタビューを実施し、番組が生まれた経緯や拡大版の見どころなどを伺った。このインタビューを一読して『SPECIAL EDITION』を観れば、番組がより楽しめるはず! ぜひ最後までチェックしてほしい。

(聞き手:ファミ通グループ代表/林克彦)

『デス・ストランディング』を特集したNHK番組“ゲームゲノム”拡大版が放送! 番組ディレクターが明かす小島秀夫監督との制作秘話とは?
『デス・ストランディング』を特集したNHK番組“ゲームゲノム”拡大版が放送! 番組ディレクターが明かす小島秀夫監督との制作秘話とは?

平元 慎一郎(ひらもと しんいちろう)

NHK所属のディレクター。『あさイチ』や『みんなで筋肉体操』などの番組制作に携わり、『ゲームゲノム』では企画の立ち上げを行った。文中は平元。

ありそうでなかったNHK初のゲーム教養番組

――最初にこの取材の経緯を読者の皆さんに説明したほうがよいかなと思うのですが、このあとお話をお伺いする『ゲームゲノム SPECIAL EDITION』の制作にご協力させていただいた際に平元さんとお話させていただいたんですよね。そうしたら驚くほどゲームファンで、ゲーム愛に溢れていて、失礼ながら「こんな方がNHKにいるんだ!」と思ったんです。同時に、だから『ゲームゲノム』のような番組が生まれたんだな、と腑に落ちて。せっかくなら平元さんの『ゲームゲノム』への熱意や『デス・ストランディング』と小島監督への想いをしっかりとお聞きしたいと思って取材の機会をいただきました。さて、前振りが長くなってしまいましたが、まずは『ゲームゲノム』という番組を立ち上げた経緯から教えてください。

平元こちらこそ、こういった機会をいただいてありがとうございます。僕は今年で33歳になりますが、ちょうど平成元年生まれで、自分たちの世代のことを勝手に“ゲームネイティブ世代”と名付けています。自我が芽生えたころには、スーパーファミコンが当たり前のようにある時代で、数年も経つとプレイステーションやニンテンドウ64が出てきて、ゲームの進化を子供時代、青春時代にまざまざと受けて育ちました。僕もゲームが大好きでしたし、いろいろなハードやソフトをプレイしてきて、映像コンテンツを何か作りたいと思うようになりました。一時期はゲームクリエイターにもなりたかったのですが、いろいろあってテレビ業界に就職したんです。

――ゲームクリエイターを目指すほど、ゲームにハマっていたんですね。

平元そうですね。僕は4人兄弟なのですが、ゲームでケンカをしてしまっても、ゲームで仲直りをしたり、姉や妹とまったく別のゲームの話題で盛り上がったりして。加えて、現実世界にはないエンターテインメントをインタラクティブに体験できるいい時代に生まれたなとも思っています。 大げさかもしれませんが、ゲームを通じて自分の世界を広げ、コミュニケーションを取ることで、自我も芽生えて、ゲームに育てられたという思いがあります。いまテレビ業界に入って10年目になるのですが、テレビ番組の作りかたがいろいろとわかってきた中で、自分ならではの新しい企画、新しい番組を作りたいと考えたときに、最初に思い浮かんだのが“ゲーム”でした。

――ゲームの切り取りかたはいくつかあると思います。今回は、教養番組としてゲームを深く掘り下げていますが、なぜそのような番組を作ろうと考えたんですか?

平元理由は大きくふたつあります。ひとつは、これまでのゲームを取り上げたテレビ番組は、ゲームを遊んでプレイ体験のみを切り取ったり、ゲームのあるある話をまとめたりするものが多いと感じたことです。もちろん、あくまで僕の個人的な感想ですし、そういった番組も非常におもしろいのですが、どうしてもゲームが好きな人向けだけの内容に見えてしまって。

――確かに、ゲームを知っているからこそいっしょに盛り上がれますし、マニアックなあるある話がわかったりしますからね。

平元ゲームに育てられたという思いがあるからこそ、ゲームはいろいろな価値観や思想に影響を与えうるものだと信じているので、ゲームに興味がない人や、ゲームから一度離れてしまった人でも楽しめるゲーム番組を作りたいと考えました。そして、「いまのゲームはこんなにすごいんだよ」、「名作と呼ばれるゲームにはこんな哲学やメッセージが込められているんだよ」といったことを、番組で伝えたかったんです。そうした思いを言い換えると、固い言葉にはなってしまうのですが、あえて娯楽のゲームと対を成すような教養という言葉を選んで、ゲーム教養番組にしました。

――なるほど。

平元もうひとつは、公共放送のNHKでゲームの番組を作るときに、特定の商品の宣伝で終わる内容にはしてはいけないと考えたことです。ただ単にゲームの紹介をするだけでは、それこそ単なる宣伝になってしまうので、ゲームに込められている開発者のメッセージや哲学、プレイヤーの皆様が感じたエモーショナルな体験をきちんと抽出してシェアすれば、文化論や作品論として、教養に繋げられるのではないかと考えました。

――ゲーム教養番組の企画は、平元さんがひとりで立ち上げたのですか?

平元企画の立ち上げはひとりで考えました。

――企画を考えた後は上司に提案というプロセスかなと思いますが、そのときの反応は?

平元NHKには、1枚の企画書に収めて提出するという様式美みたいなものがあるのですが、まずは僕が信頼しているプロデューサーに見てもらい、ブラッシュアップしてもらいました。それから採択を行う編成の部署の方たちに見てもらい、実現するためにいろいろな意見をいただいて、実際に採択してもらったという流れになります。上司や周囲の反応として印象的だったのが、ゲームの市場規模が大きくなっていて、カルチャーとしても根付いていることを、ゲームをあまりプレイしない上の世代の方たちもすでに認識してくれていたことです。そして、文化論、作品論を語る教養番組としてなら、実現できる可能性は大いにあるんじゃないかと、前向きな意見をいただけました。

――企画を見せたときの感触はかなりよかったと。

平元むしろ、これまでNHKにゲームを扱ったレギュラー番組がなんでなかったんだろうという話にもなって。僕自身、15年前、10年前に、同じようなコンセプトの番組が存在してもおかしくはないと思っていたので、まだ誰も企画を出していなくてラッキーでした(笑)。

――では、制作の許可はすぐにおりたのですか?

平元ひとつだけ言われたことがあって。レギュラー番組を目指すため、特番でまずは1本番組を作ってみようという中で、どのタイトルを選ぶかは議論させてほしいと言われました。要は、誰もが知っているメジャーな作品を選んだほうが、多くの人に観てもらえるんじゃないかと。さらに、ひとつのタイトルに絞ることで、その作品をまったく知らない人たちに番組の存在をキャッチアップしてもらえない可能性が高いのでは、という意見もありました。ただ、1本の作品を深く掘り下げないと、先ほどお伝えしたようなコンセプトの番組にはならないという確信があったので、僕は複数の作品をオムニバス形式で扱うことは絶対やりたくなくて。それで企画書に、最初から『デス・ストランディング』でやりたいと書いておいたんです。

――ゲームファンからすると、『デス・ストランディング』を取り上げることは何ら不思議ではないですが、ほかのタイトルは考えていなかったんですか?

平元確かにふだんゲームをプレイしていない人からすると、『デス・ストランディング』は馴染みがないかもしれないので、編成を説得できなかったときのために二の矢、三の矢も用意していましたし、ゲームをあまり知らない方でも名前を知っているような、メジャーなタイトルのゲームを扱うこともできるとは考えていました。それでも『デス・ストランディング』を第一に挙げたのは、あえて丁寧に説明をしないといけない作品を選びたいという思いからです。ゲームの文化論、作品論といった教養にたどり着くには、ストロークをもって説明する番組にしないと、『ゲームゲノム』の番組のメッセージをうまく伝えることができないと考えたんです。

――ゲームの教養番組として成立させるために、あえて一般的にもメジャーなタイトルを選ばなかったんですね。ただ、数あるタイトルの中から『デス・ストランディング』を選んだということは、平元さんがこの作品をお好きだったという理由もあると思いますが。

平元もちろん大好きなゲームです。

――平元さんの中で『デス・ストランディング』に決まるまでは、紆余曲折があったんですか?

平元それはなかったですね。僕としては『デス・ストランディング』でいきたいし、いけるという確信もありました。まずは、上司であるプロデューサーに作品の説明をしたんですが、そのなかでいちばん響いたのが本作のテーマである“繋がり”の世界観やゲームシステムだったんですね。コロナ禍でこのゲームを取り上げる意義を説明したところ、上司はふだんゲームをやらないのですが、「ゲームを遊ばない私でもハッとするようなメッセージが込められているから、『デス・ストランディング』でいこう」とすぐに納得してくれて。

『デス・ストランディング』を特集したNHK番組“ゲームゲノム”拡大版が放送! 番組ディレクターが明かす小島秀夫監督との制作秘話とは?

――番組で扱うゲームはすんなり決まったようですが、『ゲームゲノム』というタイトルはいかがでしたか?

平元番組のタイトルも当初から変わっていません。『ゲームゲノム』という単語を思いついたのは、2年以上前になります。ゲームの番組をいつか作りたいとずっと考えているうちに、『ゲームゲノム』というタイトルだけ思いついたのですが、じつはダジャレなんです(苦笑)。ゲームの“ー”とゲノムの“ノ”って似ているじゃないですか。それで『ゲームゲノム』が浮かんで、番組タイトルの登場シーンも“-”が斜めに傾いて“ノ”に変わっていくというようなイメージまで考えていたのですが、そのアイデアはけっきょく自らボツにしました(笑)。

――ダジャレからの発想とはいえ、番組のコンセプトにピッタリだと思います。

平元手前味噌ですし、後付にはなりますが、プレイヤーがゲームから受け取ったものだったり、ゲームクリエイターの方が作品に込めたりしたものが、プレイ体験を通して伝播して積み上がっていくことが、文化的遺伝子に通じるものがあると考えていたので、このタイトルでよかったです。

――本当にいいタイトルですよね。語感がいいですし、ゲームの遺伝子(ゲノム)を掘り下げる番組なんだろうなと想像しやすいですし。昨年10月に放送された番組を拝見して非常におもしろかったのですが、MCに本田翼さん、ゲストに星野源さんと小島秀夫監督を起用した経緯を教えてください。

平元文化人の方に出演していただいて、何かを伝える番組を作るときに、僕が大事にしているのが、お伝えする内容と出演者の方にちゃんと親和性があるかどうかです。これを実現するために、本番組では通常の番組とは異なるキャスティング論を取りました。最初に取り扱うゲームを『デス・ストランディング』に決め、つぎにコジマプロダクションさんに連絡をして、小島監督に出演してほしいとオファーしました。

――小島監督に直接交渉されたんですね。

平元はい。オファーする段階では、スタジオに実際に来ていただくのか、それともVTRの出演になるのか、まだ決まってはいなかったのですが、何らかの形で小島監督に出演してもらえないのであれば、番組で『デス・ストランディング』を扱うのは辞めますとご相談したところ、ご快諾をいただいて。最初に小島監督の出演が決まりました。

――『デス・ストランディング』を扱うなら、小島監督は欠かせませんからね。

平元そのうえで、ゲーム好きな本田翼さんがMCで、『デス・ストランディング』が大好きな星野源さんに文化人枠の代表として出演していただけませんかと、キャスティングのお願いをしています。本来であれば、番組MCとゲストを決めて、クリエイターの方をどうするかという順番になるのですが、『ゲームゲノム』は逆から考えています。

――本田さんと星野さんのキャスティングも最適でしたよね。おふたりともゲームに精通されていて、ゲストの星野さんが『デス・ストランディング』と小島監督のことを深く理解されていたうえで、的確に言語化して話されていたじゃないですか。あれがもうすばらしいなと思いました。

平元星野さんの視座は本当にすばらしかったですよね。収録中に、スタッフたちが何度もうなることもあって。キャスティングのすみわけとしては、MCの本田さんはゲーム好きなところはもちろん、一般の視聴者からすると、親しみやすさ、キャッチーさも期待をしていました。本田さんにはゲーマー目線でしゃべっていただきたかったので、『デス・ストランディング』をプレイしてどこかおもしろかったのか、どこに感動したのか、プレイした素直な感覚を大事にしてほしいとお伝えしました。一方で星野さんはアーティストとしていろいろな活動をされている中で、文化的な目線で『デス・ストランディング』を深く掘っていただきたかったので、そういったお願いをしています。

――本田さんと星野さんが異なる目線でトークをくり広げることで、番組が盛り上がりましたよね。

平元収録では、本田さんと星野さん、小島監督が本当に楽しそうに深い話をくり広げてくれたので、思った以上にテープが回ってしまって(苦笑)。それで今回の拡大版を作ることにもなったのですが、星野さんが披露してくれた考察の中には、30分番組では入り切らなかったものがたくさんあります。そこが拡大版のひとつの見どころになっています。小島監督が「そのメッセージに気づかれたのは、星野さんが初めてです」と感心されていた解釈もあったので、ぜひご期待いただければ。

――ゲームファンとしては、小島監督の笑顔が見られたのもうれしかったです。『ゲームゲノム』が放送された後、視聴者と局内の反響はいかがでしたか?

平元テレビの視聴率は、視聴習慣が大きく影響するので、視聴率はそこまで高くなかったのですが、Twitterやインターネットの反応はとてもよかったです。僕たちも視聴者の反応が知りたくて、エゴサーチを行ってみたところ、想像以上に盛り上がったなという実感があって。『デス・ストランディング』を知らなかった方たちには、ゲームにここまでのメッセージが込められていて驚かれているようでしたし、作品のファンの方たちには当時プレイしたときの感覚を言語化されてシェアされたのがうれしかったというご意見もありました。好評な意見が多かったと感じた一方で、30分はとにかく短いという感想を多数拝見しました(苦笑)。

――確かに、30分はあっという間でした。

平元時間に関しては、ファンの方には指摘されるだろうなと思っていましたが、ファン以外の方からも「3人のクロストークをもっと見たかった」という意見が寄せられていたのでうれしかったですね。

――視聴者の反応は概ね好評だったと。一方で局内の反応はどうでしたか?

平元局内でもいい評価をいただきました。周りの同僚たちはもちろん、『ゲームゲノム』がすごくおもしろかったですと感想メールをくれた地方局の後輩もいて。僕が知らないところでも、観てくれた同僚がたくさんいたのは驚きましたね。あとは、「このゲームで番組を作りたい」、「レギュラー化されたらチームに入りたい」といった感想も多く耳にしました。当たり前なのですが、局内にもこんなにゲームを好きな人間がいたんだなと気づくことができました。

――非常に好評だったとはいえ、1回放送された番組の特番をもう一度放送するのは、頻繁にあるのでしょうか?

平元まったくないわけではありません。反響が大きかった番組では、まれにありますね。

――やはりレアなケースではあるのですね。2021年10月に放送された後、どのような経緯で拡大版を作ることになったのですか?

平元理由はふたつあって、ひとつは僕たち制作チームが絶対に作りたかったからです(笑)。撮れ高がすごくて、30分の番組ではお伝えしきれなかったことも多かったので、尺を拡大して長い番組になっても楽しんでいただけると手応えを感じていました。もうひとつは、レギュラー化に向けたブラッシュアップを図りたいということです。この番組はNHKの中で開発番組といって、レギュラー化を目指す番組を一回作ってみようという取り組みでした。放送後に編成といろいろ協議をしていく中で、よかった点と足りなかった点の洗い出しを行い、拡大版を制作することでレギュラー化へのより確かな形を模索しようとなったんです。そのため、単に未公開パートを足すだけではなくて、新しい見せかたやコーナーを試しました。

『デス・ストランディング』を特集したNHK番組“ゲームゲノム”拡大版が放送! 番組ディレクターが明かす小島秀夫監督との制作秘話とは?

平元ディレクターが語る『SPECIAL EDITION』の見どころ

――こうして1月23日に公開される『ゲームゲノム SPECIAL EDITION』が誕生したと。ちなみに、『SPECIAL EDITION』というタイトルは、やはりゲームっぽいから決まったのですか

平元そうですね。編集中までは“拡大スペシャル”と呼んでいましたが、正式タイトルは『ゲームゲノム SPECIAL EDITION』になりました。でも、最初は“ディレクターズカット”にしようかなと思っていたんですよ。ゲームをリマスター化したり、新規要素を追加したりしたバージョンを、ディレクターズカットと名付けることがあるじゃないですか。

――そうですね。

平元ただ、小島監督とお話しをしているときに、「本来、ディレクターズカットは不本意に公開されたものに追加編集したものという意味なので、僕はあまり好きじゃない」とおっしゃっていて。確かに、昨秋放送された『ゲームゲノム』も、僕がディレクターとして30分という既に決まっている尺の中で全力投球した自負はあったので、ハッとしました。それでほかにどんな言いかたができるのかなといろいろ考えて、“SPECIAL EDITION”にしました。

――『SPECIAL EDITION』、いいタイトルです。内容面でもプラスアルファの要素が多いということで、改めて番組の見どころを教えてください。

平元やはり未公開トークが大きな見どころですね。10月の放送では4つのキーワードから『デス・ストランディング』を掘り下げていきましたが、それぞれのパートの中でもっと入れ込みたいトークがありました。ですので、『SPECIAL EDITION』では、未公開の中から厳選した箇所を新たに追加していますし、そもそもキーワードがひとつ増えて5つになりました。僕らは“第5のゲームゲノム”と呼んでいます。

――それはすごいですね。

平元じつは収録のときにキーワードを5つ用意して収録していたのですが、30分番組では、5つ目のキーワードがどうやっても入らなくて、泣く泣くカットしました……。『SPECIAL EDITION』では5つのキーワードから『デス・ストランディング』をさらに深く掘り下げています。あと、林さんに言うのも変な感じなのですが(苦笑)、林さんへのインタビューも新たに収録しています。

――お役に立てているとよいのですが。そういった新要素の詳細はぜひ番組で、ですね。

平元そうですね。楽しんでもらえるとうれしいですが、そもそも林さんのインタビューを収録したのは、第三者の引いた目線で『デス・ストランディング』のすごさを語ってもらえると、作品の魅力がより伝わるのではないかと考えたからです。もちろん、ただインタビューを行っただけではありません。林さんには、ゲーム専門誌の編集者として、長年ゲーム業界に関わっている専門家として、『デス・ストランディング』がテーマに掲げた繋がりの意味を、ゲームと現実社会との関わりといった目線でも紐解いてもらっています。いわば、繋がりにおけるゲーム史です。

――ほかにも見どころがあれば教えてください。

平元未公開トークやインタビューで追加した中には、『デス・ストランディング』以外のゲームの名前がたくさん登場します。そういったほかのゲームの映像を多くのゲームメーカーにご提供いただき、ふんだんに使用して番組を構成しています。『デス・ストランディング』はもちろん、ほかの作品の魅力も垣間見えるようになっていますので、その点も番組の新たな見どころだと思います。

――追加要素だけでもかなりのボリュームになっていると思いますが、番組の尺はどれくらい増えたのですか?

平元55分番組になりました。前回が30分なので、倍近い内容になっています。

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ファミ通WaveDVDなくして『ゲームゲノム』は生まれなかった!?

――『デス・ストランディング』をキーワードで切り取りながら掘り下げていく構成は、わかりやすいと感じましたし、切り取り方も深くゲームを理解していないとできないじゃないですか。とてもいい構成だなと思いましたが、あれは平元さんが考えたのですか?

平元キーワードを用意して掘り下げるというのは、プロデューサーのアイデアです。世界観やゲームシステムなど、これからどのような説明をするのか、キーワードを提示することで非常にわかりやすくまとめることができたと思います。

――番組では『デス・ストランディング』の映像もふんだんに使用されていましたが、ゲームのプレイ映像はコジマプロダクションに提供してもらったのでしょうか?

平元ゲームの映像に関しては、お借りしているものはほとんどありません。コジマプロダクションに許可をいただき、僕ともうひとりのスタッフが実際にプレイしてキャプチャーしています。基本的には用意した台本をもとに撮影をしていますが、アドリブで主人公のサムが転んでしまったシーンを使ったりもしています。

――僕たちもふだんゲームの動画撮影をするからよくわかるのですが、いい絵を撮るのはたいへんだったと思います。

平元苦労しましたね。『デス・ストランディング』は三人称視点のゲームなので、通常のプレイではサムの後ろ姿を見ることが多いです。でも、同じような見栄えだと、映像にしたときにおもしろみがないですし、特定の方向からサムを移さないと成立しないナレーションがあったり、サムの顔を見せながら表示したいテロップがあったりしたので、がんばっていろいろな映像を撮影したのが印象に残っています。あと、動画作りで言うと、ファミ通さんに感謝していることがあって。

――え、なんですか?

平元僕はファミ通WaveDVD(※)のファンで、最終号までずっと買っていたんです。この業界、仕事を志すきっかけを作ってくれたひとつがファミ通WaveDVDでした。ゲームをテーマにした映像番組としてもパイオニアだったと思っています。そういった意味でもとても感謝しています。

※エンターブレイン(当時)が発行していたDVD付きの月刊ゲーム雑誌(2011年3月発売号をもって休刊)。付属のDVDには、最新ゲーム情報やゲームを題材にしたバラエティーコーナーなど、さまざまなコンテンツが収録されていた。

――ありがとうございます(笑)。ファミ通WaveDVDは時代を先取りしすぎたんですよね。あと、内容がめちゃくちゃに尖りすぎていました(笑)。

平元尖っていましたね。いい意味でよくわからない企画がたくさんありましたから(笑)。

一同 (笑)。

――せっかくの機会なので、いちゲームファンとして、平元さんにとって『デス・ストランディング』がどのような作品なのかもお聞きしたいです。

平元難しいですね。(しばらく考えてから)僕はクリエイターとして、小島監督をとても尊敬しています。『メタルギア』シリーズをずっと作られてきて、独立されて、最初に出した『デス・ストランディング』がこの完成度なのかと。完成度という言いかたが合っているかはわかりませんが、世界観、ゲームシステム、メッセージ……どれをとっても新しいですし、洗練されていますし、受け取るメッセージがたくさんあって、それでいてゲームとして夢中になれる、本当にすごい作品だなと思いました。長年、多くのゲームをプレイしていると、感動するのが麻痺してくるんですけど、2019年に強烈に衝撃を受けたゲームでした。

――あの驚きはなかなか体験できないですよね。相対的に見ると、どうしても新鮮な驚きは減ってきてしまうのですが、『デス・ストランディング』は久しぶりにワクワクしました。どんなゲームかわからなくて。

平元そうなんですよね。どんなゲームかわからないタイトルって、いまはなかなかないというか。プレイするまでわからなかったり、プレイすればするほど新しい発見があったりする『デス・ストランディング』のようなゲームは、本当に稀有な作品なんだと思います。

――先見性もあったわけじゃないですか。コロナによって社会が分断されてしまったからこそ、これまで以上に繋がりが大事な社会になっていて。それも『デス・ストランディング』は示唆していました。

平元本当にそうでした。いいか悪いかは別として、このコロナ禍でお家時間が増えたことで、ゲームの価値が見直されたと思います。その数あるゲームの中でも、『デス・ストランディング』は変化球のように見えながらも深く問いかけてくれる作品だと思いますし、しかもコロナ禍になる前に企画、開発されていたことにすごく驚きました。

――ちなみに、実際にお会いした小島監督の印象はどうでしたか?

平元とても気さくな方でした。僕は大学生のときに『ゲームデザイナー小島秀夫の視点』という本をずっとカバンにしのばせていたほど、クリエイターとして小島監督の大ファンですし、ゲーマーとしても神様のような存在だと思っていて。小島監督と初めてお会いしたときはめちゃくちゃ緊張しましたが、「(『デス・ストランディング』のことを)わかってくださっていますね」と言ってくださったときはとてもうれしかったですし、番組のコンセプトにも共感していただいて、そこからはすぐに打ち解けたといいますか。気さくな親戚のおじさんのような(笑)。

――(笑)。

平元あとで小島監督に怒られちゃうかな(笑)。

――小島監督はユーモアがありますよね。

平元僕が番組の構成などを真剣に話しているときも、必ず冗談を交えて場を和ましてくれるんですよ。いまにして思うと、お互いに核となる部分をしっかり認識できていたから、安心して冗談を言ってくれていたのかなとポジティブに捉えることができますが、当時ははぐらかされているのかなってちょっと不安でした(苦笑)。でも、取材を通してとてもよくしてくださいましたし、収録が終わった後は、「こういった番組に取り上げてもらえるのはクリエイターとしてうれしいです。ぜひ続けてください」というお言葉もいただけて光栄でした。

――我々ゲームメディアの人間としても、NHKさんが真正面からゲームを扱って掘り下げてくれる番組を制作してくれるのは、すごくありがたいですし、ぜひ続けてほしいと思います。『ゲームゲノム』の今後の展開に関して、決まっていることがあれば教えてください。

平元現時点で決まっていてお伝えできることは何もないのですが、もちろん僕たち制作チームとしては、30分番組の反響や『SPECIAL EDITION』を作った手応え、ほかにも“ゲームゲノム”を掘り下げられるタイトルが数多く存在するので、第2弾、第3弾、ゆくゆくはレギュラー番組として作っていきたいという思いはあります。それが実現可能かどうかは、いままさに企画、交渉中で、局内で検討している段階です。また、担当するディレクターによって、同じ作品でも“ゲームゲノム”の掘り下げかたが変わってくるはずなので、そういった意味でもたくさんの作品を扱える番組になればいいなと思っていますし、僕自身、これまでの人生で知り得なかった“ゲームゲノム”を観てみたいなと考えています。

――番組の視聴者やゲームファンが、『ゲームゲノム』のレギュラー化に向けて、何か応援できることはありますか?

平元テレビ番組は、視聴者の皆様の反応がすべてだと思っています。それは視聴率だけではなくて、青臭いことを言うと、その番組を通してどれだけ多くの方を感動させることができたかが重要だと思っていて。具体的な数を知ることはできないものの、視聴率やSNSなどの盛り上がりが番組継続のひとつの指標になることは間違いないですし、その結果がよくも悪くも判断材料になってくると思います。

――改めて、『SPECIAL EDITION』の放送日などの告知をお願いします。

平元NHK総合で、1月24日0時35分から放送されます。リアルタイムで観るのが難しい方は、録画でもいいですし、放送後の番組を7日間いつでも視聴できるNHKプラスでも配信されます。まずは、拡大版の『SPECIAL EDITION』をご覧いただいて、SNSなどで感想を投稿してもらえると励みになりますので、応援をよろしくお願いします!

番組概要

  • 番組名:NHK総合・全国“ゲームゲノム SPECIAL EDITION”
  • 放送日時:2022年1月24日(月)午前0時35分~1時30分 ※日曜深夜 
  • 配信:NOD(NHKオンデマンド)配信あり/NHKプラスで同時配信&1週間見逃し配信あり