ゲーム開発者向けのカンファレンスGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)に合わせて行われる、国際的インディーゲーム賞“IGFアワード”の今年度最終ノミネート作が発表された。400作品以上のエントリー作の中から、Devolver Digitalから配信されている『Inscryption』とHumble gamesから配信されている『Unpacking』がともに大賞を含めた4部門に残っている。
というわけで本誌ではファイナリスト全作品を今年も紹介。対応プラットフォームや日本語対応の有無などについても全部調べておいたので、見逃していたタイトルのチェックや、海外のインディーゲーム開発者コミュニティからどんなタイトルが評価されているのかを知る役に立ててもらえると幸いだ。なお受賞作の発表は、アメリカのサンフランシスコで3月23日に行われるGDCアワードと同時開催されるIGFアワード表彰式で発表される。
‘Unpacking’ and ‘Inscryption’ lead in IGF nominations for #GDC22. Head here for the full list of finalists and hono… https://t.co/CFHTmgjdxB
— Independent Games Festival (@igfnews)
2022-01-08 02:02:51
Seumas McNally Grand Prize(大賞)
今年の大賞では、Devolverの2作品(Inscryption、Loop Hero)が代表するように、ジャンルを横断したり複合的なストーリー体験を実現しているタイトルが高く評価されている印象。また6作品中4作品が日本語対応済みというのも嬉しいところ。
- 『Inscryption』 (Daniel Mullins Games)
- 森の動物たちを使って戦うデッキ構築型カードゲーム……かと思いきや、それを軸に心理ホラーや一人称視点の脱出ゲーム系の要素が入ってきて、次第に別のゲームジャンルにも発展していく複合的なホラーゲーム。
- PC版が日本語対応で配信中
- 『Unpacking』 (Witch Beam)
- 人生の節目にやってくる“引っ越し”の荷解き作業をやっていくゲーム。物を取り出して並べていくことを通じて、(直接は語られない)その裏側にある人生の物語が察せられていく
- Xbox/Switch/PCで日本語対応で配信中
- 『Cruelty Squad』(Consumer Softproducts)
- 暗殺者として指定された標的を倒して脱出するのが目的のサイケデリックなレトロFPS。普通にプレイするとハードだが、目的遂行のために裏技的なテクを駆使して強引に解くのもアリの“壊れた”オープンな設計を志向している
- PC英語版が配信中
- 『Loop Hero』 (Four Quarters)
- デッキ構築型カードゲームと自動RPGが融合したゲーム。プレイヤーキャラクターはループ状のダンジョンを自動周回していくので、敵出現タイルなどをダンジョンに置いていき“生存しつつボスを倒せるぐらい強化”できるよう改変していく
- Switch/PC版が日本語対応で配信中
- 『The Eternal Cylinder』(ACE Team)
- 『ゼノクラッシュ』シリーズなど幻想的なアートスタイルのゲームを開発してきたチリのACE Teamの新作。奇怪な異星のクリーチャーを操作し、突然変異で新たな能力をゲットしながら冒険していく探索型アクションアドベンチャーゲーム
- PS4/Xbox/PC版が海外で配信中。日本語非対応
- 『Unsighted』 (Studio Pixel Punk)
- ブラジルのインディー開発チームによるSFテイストのドット絵アクションアドベンチャー。自我を保つために必要な希少エネルギー“Anima”をめぐり、記憶を失ったオートマトン(自動人形)のAlmaが崩壊した街を冒険する
- PS4/Xbox/Switch/PCで日本語対応で配信中
Excellence in Design(ゲームデザイン賞)
ゲームデザイン賞では大賞と同様に、ジャンルを横断したり、よくある役割(プレイヤー=殺人犯を追う探偵)をひっくり返した設計になっていたり、あるいは没入的な操作としてプレイヤーにキーボードを打たせたり(Midnight Protocol)といった、固定観念にとらわれない設計が評価されている感じ。
(※ただしそれぞれ過去に似たような設計がないわけではなく、単なる新奇性よりもそれを詰めた完成度が評価されているのだと思われる)
- 『Overboard!』 (inkle)
- 「自分が犯人」の探偵アドベンチャーゲーム。航海中の船を舞台に、プレイヤーの行動や見聞きしたことによってNPCたちが行動を変化させる中でうまく立ち回る
- PC/Switch/iOS/Androidで英語版が配信中
- 『Strange Horticulture』 (Bad Viking)
- 奇妙な客たちがやってくるオカルティックな植物店を舞台にした一種のパズルアドベンチャーゲーム。主人公は黒猫の相手をしつつ、植物図鑑を調べて客たちの妙な注文に応えていく
- PC海外版デモが配信中(製品版は2022年初頭に発売予定)。日本語非対応
- 『Webbed』 (Sbug Games)
- ニワシドリにボーイフレンドを奪われたメス蜘蛛が主人公の2Dアクションゲーム。糸を放って足場を作り、さまざまな虫たちと交流しながらマップを進んでいって奪還を目指す
- PC版が日本語対応で配信中
- 『Midnight Protocol』 (LuGus Studios)
- 架空のコンピューター画面を通じて展開していく“タクティカルハッキングRPG”。キーボードからコマンドを打ってネットワークに侵入し、セキュリティ検知を交わしながら目標を遂行していく
- PC海外版が配信中。日本語非対応
- 『Inscryption』 (Daniel Mullins Games)
- 『Unpacking』 (Witch Beam)
Excellence in Narrative(優れた物語体験に贈られる賞)
Excellence in Narrativeは、単に優れた脚本というだけでなく、ゲームならではの形を通じて語られる優れた物語体験に対して贈られる賞。往々にして個人的なテーマを扱っていたりニッチで複雑なストーリーテリングが鍵となっていることもあってか、言語対応が重要なのに日本語対応作品が少ないのは残念なところ。
また今年度のファイナリスト作では、“引越し前”の作品(Last Call)と“引越し後”の作品(Unpacking)があったり、インターフェースがWebサービスだったり(Neurocracy)架空のOSだったり(Closed Hands)メタ的にゲーム表現が出てくる(Inscryption)というのも面白いところ。
- 『Last Call』 (Nina Freeman and Jake Jefferies)
- 作者ニーナ・フリーマン氏の実体験に基づいた作品。引っ越しのためにさまざまなものが箱に詰められた部屋で、2人の回想を込めた数々の詩を通じて愛とDVにまみれた関係性が明かされていく。音声入力に対応しており、詩に対するレスポンスをボイスコマンドで行えるのもポイント
- PC英語版が配信中
- 『Neurocracy』 (Playthroughline)
- 2049年のWikipedia風サービス“Omnipedia”を通じて展開されるWebベースの代替現実ゲーム。参加者はOmnipediaの記事を参照したり編集履歴などもチェックしながら殺人事件の真相を追う。
- 英語で全10エピソードが配信済み。日本語非対応
- 『Closed Hands』 (Passenger)
- 架空の爆破テロ事件の影響を受けた5人の人々をめぐる、マルチエンディングのインタラクティブストーリーゲーム。架空のデスクトップOS画面を通じて提示されるさまざまな情報から、それぞれの物語が浮かび上がってくる
- PC英語版が配信中。
- 『Overboard!』 (inkle)
- 『Inscryption』 (Daniel Mullins Games)
- 『Unpacking』 (Witch Beam)
Excellence in Visual Art(美術賞)
優れたアートスタイルに贈られる美術賞では、2D/3Dやローエンド/ハイエンドを問わずさまざまなグラフィックスタイルの作品がファイナリスト作に。
- 『Behind the Frame 〜とっておきの景色を〜』 (Silver Lining Studio)
- 画家を主人公とする謎解きアドベンチャーゲーム。セルアニメーション風のグラフィックが特徴のひとつ
- PC/iOS/Android版が日本語対応で配信中。プレイステーション4/Switch版も配信予定
- 『Papetura』 (Petums)
- 紙細工で作られた世界を舞台にした、ポイント&クリック型のパズルアドベンチャーゲーム。モンスターたちに立ち向かう主人公“パペ”たちの冒険が、紙細工を撮影したアニメーションで描かれる
- PC版が日本語対応で配信中
- 『Fuzz Dungeon』 (Jeremy Couillard)
- 実写・落書き・ドット絵・ローポリ3Dなどが混在するファンキーでトラッシュな世界を冒険していくアドベンチャーゲーム
- PC英語版が配信中
- 『The Wild at Heart』 (Moonlight Kids)
- 家出した2人の子供が、森で出会った奇妙な住人や“セイレイ”たちと出会い冒険していく2Dアクションアドベンチャーゲーム。イラスト調のグラフィックが特徴
- プレイステーション4/Xbox/Switch/PC版が日本語対応で配信中
- 『Jett: The Far Shore』 (Superbrothers A/V + Pine Scented)
- 宇宙植民の先遣隊が未知の惑星で足がかりを作るべく奮闘するアクションアドベンチャーゲーム。広大な異星の風景を印象づけるスケール感のある描写が特徴
- プレイステーション4/5/PCで日本語対応で配信中
- 『The Eternal Cylinder』 (ACE Team)
Excellence in Audio(音響賞)
音響賞では、『Fez』や『Hyper Light Drifter』など海外インディーゲームに楽曲を提供することの多いDisasterpeaceや、グラミー賞にノミネートされているアーティストのJapanese Breakfastなどが関わった作品がファイナリストに並ぶ豪華な顔ぶれに。音響設計という点ではプレイステーション5の3Dサラウンドを使った『Jett: The Far Shore』も有力だ。
- 『Toem』 (Something We Made)
- 手描きイラストで構成された3D世界を舞台にした写真家アドベンチャーゲーム。写真を撮って問題を解決していく
- Switch/PCで日本語版が配信中。海外ではPS5版も配信中
- 『Mini Motorways』 (Dinosaur Polo Club)
- ミニマルなデザインの中で効率的な地下鉄網を敷いていく運営ゲーム『Mini Metro』の続編的作品。今回は道路を敷いていく。サウンドはDisasterpeaceが提供
- PC/iOS版が日本語対応で配信中
- 『Sable』 (Shedworks)
- バンド・デシネの大家メビウスのタッチのアートスタイルが印象的なオープンワールドアクションアドベンチャーゲーム。サウンドはJapanese Breakfastが提供
- Xbox/プレイステーション4/PC海外版が配信中。関係者によると日本語対応は依然として進行中
- 『Unpacking』 (Witch Beam)
- 『Jett: The Far Shore』 (Superbrothers A/V + Pine Scented)
- 『Inscryption』 (Daniel Mullins Games)
Nuovo Award(新奇性のある取り組みに対する賞)
Nuovo Awardは、独自性を評価する傾向のあるIGFをある種象徴するような、往々にしてなんとも説明しにくい新奇性を評価する賞。テキストでは説明しきれないので「遊んで感じろ」としか言いようがないゲームが多数。
- 『Memory Card 』(Lily Zone)
- 「2020年1月からHDDで見つけたものを毎月追加していく」という、作りかけのものから落書きまで雑多なもので構成されたプロジェクト。
- Itch.ioでPC英語版が配信中
- 『Okthryssia and Saturnia's Bureaucratic Adventures』 (Outlands)
- 超現実的な空間で叔父の形見分けを行うターンベースの2人プレイゲーム。自分のターンが来たらスクリーンの指示に従って奇妙な選択や会話により遺産分けを行っていく
- Itch.ioでPC英語版が配信中
- 『Space Hole 2020』 (Sam Atlas)
- 虹色に光り輝く空間を進んでいく一種の探索プラットフォームアクションゲーム
- PC英語版が配信中
- 『Tux and Fanny』 (Ghost Time Games)
- 「サッカーして遊ぼうと思ったらサッカーボールが潰れていたので膨らませる方法を探しに旅に出る」という目的を軸に、原始的なドット絵から3Dまでジャンル/キャラ/表現を横断して展開していくゲーム
- 海外でSwitch/PC版が配信中
- 『Sparkles & Gems』 (Resnijars)
- ラフなローポリ3Dの動物キャラたちが登場する対戦型のブロック崩し風ゲーム
- PC英語版が配信中
- 『Cuccchi』 (Fantastico Studio)
- イタリアの画家エンツォ・クッキの作品をテーマにした探索アドベンチャーゲーム
- 海外でプレイステーション4/Xbox/Switch/PCで英語版が配信中
- 『Cruelty Squad』 (Consumer Softproducts)
- 『Fuzz Dungeon』 (Jeremy Couillard)
Best Student Game(学生部門賞)
今年の学生部門賞では、東京芸大のチームによる作品がファイナリスト作に。
- 『Cai Cai Balão』 (Look Up Games)
- ブラジルで非合法化されたバルーン上げをテーマに、ローポリ3Dの街中をパルクール的に駆け巡って警察の追跡などを交わしながらバルーンをゲットしていく
- PC英語版が配信中
- 『Abriss - build to destroy』 (Randwerk Games eG)
- ターゲットにぶちあてて破壊するための建造物を建築する物理演算ベースのクラフトゲーム
- PC版が2022年前半に日本語対応で配信予定
- 『Letter Lattice』 (Ethan Zarov)
- ある単語からお題に合わせて1文字を変えて入れ替えていきゴールの単語を目指す言葉遊びゲーム
- iOSで英語版が配信中
- 『Smalllife』 (Yueqi Wu)
- 中国・深センの風景の中で、クリックによって干渉して変化を起こし、お題となるものを発見する謎解きゲーム。東京藝術大学大学院のチームによる作品
- PC版が日本語対応で配信中
- 『Nainai's Recipe』 (Fan Fang, Mai Hou)
- 祖母のレシピに沿って家庭的な中華料理を作っていくクッキングゲーム
- PC英語版が配信中
- 『Live Adventure』 (Live Adventure Team)
- 両親を探す姉弟の冒険を描くアクションアドベンチャーゲーム。姉が進んでいくのを弟がカメラで撮りながら追う“二人称”視点が特徴
- PC版が配信中