千住明氏は、音楽家として交響曲やオペラなど多数の純音楽の作曲・編曲を始め、テレビドラマ、映画、CM、そして『機動戦士Vガンダム』や『鋼の錬金術師』などのアニメ作品の音楽を担ってきた人物。それほどまでに幅広く活躍する氏が、これまであまり担っていなかったジャンルがゲーム音楽だ。

 その千住氏がひさびさに手掛けることになったゲーム音楽が、2022年3月4日にスクウェア・エニックスから発売される、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)用タクティクスRPG『トライアングルストラテジー』であり、これはその雄大さや荘厳さに期待せざるを得ない。

 今回は、『トライアングルストラテジー』BGMのレコーディングが行われたとき、同作の総指揮を執る浅野智也氏が、千住氏に同作の音楽コンセプトなどを訊ねたショートインタビューをお届けしよう。

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千住明(せんじゅあきら)

作曲家。1960年東京生まれ。東京藝術大学作曲科卒業。同大学院首席修了。修了作品は史上8人目の東京藝術大学買い上げとなり、同大学美術館に永久保存されている。日本アカデミー賞優秀音楽賞3回受賞など受賞歴多数。東京藝術大学特任教授。東京藝術大学 SENJU LAB 主宰。東京音楽大学特別招聘教授。
代表作に、ピアノ協奏曲『宿命』(ドラマ『砂の器』)、『四季』、『日本交響詩』、詩篇交響曲『源氏物語』、オペラ『隅田川』、『万葉集』、『滝の白糸』、中国ミュージカル『白夜行』など。
映画『黄泉がえり』、『追憶』、ドラマ『家なき子』、『ほんまもん』、『風林火山』、アニメ『機動戦士Vガンダム』、『鋼の錬金術師FA』、NHK『日本 映像の20世紀』、NHKスペシャル『平成史』、『新・ドキュメント太平洋戦争』、NHK『ルーブル美術館』など、多数の音楽も担当。(2022年1月現在)
URL: http://www.akirasenju.com

浅野智也(あさのともや)

スクウェア・エニックス所属のゲームプロデューサー。代表的なシリーズに『ブレイブリー』シリーズ、『オクトパストラベラー』シリーズなど。本作でも企画・プロデュースを担っている。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

いままでの経験をすべて注ぎ込んだような音楽になっている

浅野今日は本当にありがとうございます。

千住いえいえ、でももうたいへんなレコーディングになりました。これほど大掛かりになった収録はひさしぶりですね。僕は今年(2020年)で活動35周年になるのですが、大掛かりといってもここまで長い時間をかけたのは、ひょっとしたら初めてかもしれません。

浅野光栄なことです。あらためて今日、収録現場で聴かせてかせていただいて、すっごくカッコイイなと思いました。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

千住そうでしょ? オーケストラで収録するにあたって、通常は入れないリズム隊や打ち込みも入れているんです。というのも、今回の『トライアングルストラテジー』には、僕がいままで感じていた“カッコよさ”を全部注ぎ込んだつもりなんですよ。なので、すべての音楽ジャンルのよさが入り込んでくるような、とても重厚な曲ができたと思います。ただ、やっぱりバトル曲が多いので、みんな苦戦してますね。世界一のミュージシャンたちがひーひー言いながらやっています(笑)。

浅野(笑)。バトルの多さというのはゲーム音楽ならではという感じでしょうか。

千住もちろんそうです。アニメやロボットものの曲も過去に手掛けていますが、ここまで求められることはありませんでしたね。バトル曲とひと口に言っても、いろいろなバリエーションが必要になってくるのが、本当にゲームならではだと思いますね。ゲーム音楽自体は以前に打ち込みで作ったことはありましたが、これだけ生楽器で編成したものを、がっつりと書いたのは初めてなんです。言うなら、これだけバトル曲を書いたのも初めてですね。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

浅野ありがとうございます。いっぱいオーダーを出させていただいちゃって……。『トライアングルストラテジー』のBGMを作るときに考えられていた、コンセプトのようなものがあればぜひ教えてください。

千住そうですね、今回は、曲の中で“人間”を強く表に出そうと思ったんです。なんと言うのか、タクティクスRPGの曲だからこそ、裏にあるストーリーであるとか、登場するキャラクターそれぞれの感情であるとか、遊んでいる皆さまがゲームのシステムだけでは追えない部分を立体的に補足できるように作りました。

 本当に重厚な大河ドラマに合わせて、その裏側にある喜びとか悲しみを描くことで、後半になればなるほど、皆さまの中にじんわりと溶け込んでいき、いつのまにかこの世界から離れられなくなるような、そういう長い映画を観たような感じ。「またあの世界に行かなきゃ」と思っていただけるような、そういう音楽を作ったつもりです。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

浅野ありがとうございます。そういった意味で、とくにお気に入りだったり、思い入れがあったりする曲などありますでしょうか。

千住それがですね……じつはエンドロールのために何曲かをメドレーにしたのですが、そこに出てくるメロディーは、すべてとても想いのあるものなんです。

 たとえば、ゲームの最後のほうに、それぞれの実態が現れてきたりするシーンやエンドロールで使いたいと思って書いた「ジャスティスのテーマ(仮名)」という曲がひとつあります。それから「大聖院のテーマ(仮名)」や、あるいは悲劇のところでかかる曲なども。ほかにも、物語の背後に隠されていた実態がわかったときなどに流れる、迫力というか凄みというか、そうしたものを音楽で表しているような曲ですね。それぞれの曲には、そういうテーマがいくつかあるんですよ。

 自分としては、本当にいままでの経験を全部注ぎ込んだような音楽になっています。ゲームを楽しんでいる人たちが、本当に真剣にゲームにのめり込めるように、シリアスなシーンではその深刻さを感じるような曲になっています。僕らの言葉では、「マエストーソ(イタリア語 maestoso)」、つまり「威厳をもって」、「堂々と」という言葉があるのですが、物語に終わりが近づき、核心に触れるときにそう感じてもらえるよう、とくにエンドロールの数曲にはそういった思いを込めて作りました。

 それぞれの楽曲はもっと展開もできる作りをしています。ですからもし続編があるとしても、それに応じてどんどん姿を変えていけるような音楽を書いたつもりです。それぞれがもうメインテーマのようなもの。だから、広く対応できると思うんですね。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

浅野そこまで考えてくださっているのは、本当にありがたいですね。最後に全世界のゲームファン、スクウェア・エニックスのファンにひとこといただけたら……。

千住スクウェア・エニックスのゲームの楽曲をやるということは、やはり世界に向けて発信しているということです。僕もずいぶんグローバルに仕事をしてきたつもりですが、この作品は本当にグローバルな指向で、さまざまな国の人たちが、本当に真剣に興味を持っていると思います。この世界中で待っている人々に向けても、今回の音楽は世界レベルと誇れる音ですので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。ゲームと合わせて、サウンドトラックもぜひお楽しみいただきたいと思います。

浅野ありがとうございます。ゲームも負けないように頑張って作ろうと思います。

千住もちろんです、ありがとうございます。期待しています。お互いにがんばりましょう。

浅野今日はありがとうございました!

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」

 上記レコーディングにて収録された『トライアングルストラテジー』を彩る数々の曲が収められたサウンドトラックCDは、スクウェア・エニックスe-STOREで専売の『トライアングルストラテジー Collector's PACK』に収められている。また、このたび12月27日より、『TRIANGLE STRATEGY ORIGINAL SOUNDTRACK』の単品での予約受付が開始された。CD4枚組の大作で、2022年3月9日発売。価格は4180円[税込]。以下のニュースも合わせてご覧いただきたい。

『トライアングルストラテジー』作曲者・千住明氏インタビュー「ゲームを楽しんでいる人たちが「またあの世界に行かなきゃ」と、のめり込めるものを作った」