目黒将司氏といえば、アトラスの『ペルソナ』シリーズや、『キャサリン』『真・女神転生III -NOCTURNE-』などでサウンドコンポーザーを務め、ゲームファンにその手腕を広く知られているクリエイターである。そんな目黒氏が、2021年9月末をもってアトラスから独立し、インディーゲーム作家としての道を歩んでいくことが先日発表された。(速報記事はこちら

 このニュースはゲームファンや業界関係者をも大いに驚かせたが、アトラス作品での作曲活動は今後も続けていくほか、インディーゲームクリエイターを支援するプロジェクト“講談社ゲームクリエイターズラボ”のサポートを受けて、目黒氏が新作ゲーム『GUNS UNDARKNESS』を開発中であることも併せて発表され、氏のこれからに期待したくなる吉報でもあった。

 そこで当記事では、先日のINDIE Live Expo Winter 2021にて『GUNS UNDARKNESS』を正式にお披露目した目黒氏へのインタビューを実施。氏とは10年来のお付き合いをさせていただいているファミ通編集者の川島KGが、いちファンの視点で気になることをたっぷり聞いてきた。目黒氏やインディーゲーム(を遊ぶこと、作ること)に興味がある方は、ぜひ読んでほしい。

目黒将司(めぐろしょうじ)

1996年にアトラスへ入社。『女神異聞録ペルソナ』からサウンドに携わり、以降、『真・女神転生III –NOCTURNE-』『ペルソナ3』『ペルソナ4』『キャサリン』『ペルソナ5』など、多数の作品でサウンドを手掛けてきたほか、PSP版『ペルソナ』『ペルソナ2 罪』『ペルソナ2 罰』ではディレクターを務めた。2021年9月末をもって、アトラスから独立。

20年以上在籍したアトラスからの“独立”

――まずは改めて、独立おめでとうございます。

目黒ありがとうございます。おかげさまで、どうにか無事に発表できました。

――他媒体さんのインタビュー記事も拝読しましたが、今回は『GUNS UNDARKNESS』の動画などが正式にお披露目されてからの、初めてのインタビューということで。ぜひ、いろいろとお話を聞かせてください。

目黒はい。よろしくお願いいたします。

――まず、今回の発表で驚いたのは、目黒さんがアトラスを退社なさったという事実や、作っているインディーゲームの内容もそうなのですが……。何より、たったひとりで何年間もゲームを作り続けていたという、その並々ならぬ熱意にビックリしました。

目黒おお、そうでしたか。

――と言いますのも、僕自身、子どものころに『RPGツクール』を遊んだり、最近になって興味本位でUnreal Engine(※)を触ってみたことがあって、たったひとりでゲームを作ることの大変さを素人なりに痛感していたんです。だからなおさら、これを何年も続けられる目黒さんはスゴいなぁと……。

※Unreal Engine……Epic Gamesが開発・提供しているゲームエンジン。高度なリアルタイム3D制作や、ゲーム開発に必要な機能を集約したプラットフォーム。目黒氏はこれを使って『GUNS UNDARKNESS』を作っている。

目黒なるほど(笑)。まずは、独立するまでの経緯を改めてお話しすると、2005年ごろにアトラス社内で出した企画書がたまたま評価してもらえて、それがズバリ、かの有名な某スニーキングアクションゲームを連想させる感じのRPGでした。諸事情により、このタイトルは最終的に開発中止となってしまったのですが、このころからキャラクターCGのセットアップやモーション作りなども自分でやったりしていたので、たとえ開発チームが解散しても機材さえあれば、いつかは完成させられるかもしれないという手応えを感じていたんです。それが、2016年ごろのことでした。

――そこから、おひとりで開発を続けて再チャレンジしたのですよね。

目黒はい。そのころにUnreal Engineとの出会いがあって、僕ひとりでもこれくらいのものが作れるんだぞ! というのを偉い人に見てもらおうと思っていました(笑)。結果として、開発中止の決定は覆らなかったものの、僕の本気を認めてもらえて。あくまでも個人として、プライベートの時間と場所を使ってゲームを作り続けるのは自由だから構わないと言ってもらえました。それが2017年のことです。そうなると、社内で作っていたものをそのまま使い続けるわけにはいきませんから、グラフィックもシナリオも、何から何まで自分でイチから作り上げていく日々が始まりました。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?

――それが、今回お披露目された『GUNS UNDARKNESS』になるのですね。2017年から作り始めて、形になってきたのが2020年だったとのこと。

目黒そして2020年の10月に、講談社さんのゲームクリエイターズラボに応募しました。第1期には約1200もの応募があったようで、受かるわけがないだろうと気楽に構えていたら、1次選考に受かって、12月の暮れごろには最終選考まで行かせていただいて。今年の1月に面談があった際、援助金の対象となる正式なメンバーからは外れるけれど、特別賞という形でこれからいっしょに進めていきましょう、というお話になったんです。僕としても、この作品は無料配布でもいいやと当初は思っていたのですが、講談社さんのサポートをいただけるなら、しっかりとした形でリリースしたいなと。独立することを心に決めたのは、このころでした。

――そう決心するまでの約3年間(2017年~2020年)、会社の仕事をしながらプライベートでもずっとゲームを作り続けてきたわけですよね。

目黒平日はいつも朝6時に起きて、自分のゲームをいじってから10時ごろに出社していたので、毎朝2時間くらい作業する習慣ができていました。休日は5~6時間くらい費やして、いまは毎日それ以上の時間を充てられるので、楽しく進めています。

――目黒さんは、ゲーム作りのどの作業も好きだと以前おっしゃっていましたよね。僕なんか、シナリオやフィールドマップを作るのは好きだったんですけれど、そのほかにも用意しなくてはいけない要素が膨大で、早々に挫折しました(笑)。

目黒でも、僕も飽きっぽい性格をしているので、たとえばグラフィックを作るのに飽きたら別の作業を……といった具合に柔軟な切り替えができなかったら、長くは続かなかったかもしれません。最近は、キャラクターデザイナーのイリヤ・クブシノブさん(※)からいただいたイラストをもとに、Character Creatorというソフトを使ってPCに取り込んで、3Dモデルをデザインに近づけようと必死に作業しています。

※イリヤ・クブシノブさん……ロシア出身、日本在住のイラストレーター。『攻殻機動隊 SAC_2045』などでキャラクターデザインを務める。

――目黒さんのTwitterを拝見すると、そういう日々の奮闘が伝わってきて興味深いです。イリヤさんには、どのようなキッカケで依頼したのですか?

目黒接点は今回が初めてです。今年の初めごろ、Twitterを見ていたらイリヤさんのイラストをたまたまタイムラインで見かけて、これはスゴいと思ってリンクをたどっていったら、『ペルソナ』シリーズをお好きでいらっしゃることがわかって、「これはもしかしたら、お願いしたらワンチャンあるのでは……!?」と(笑)。ちょうど、講談社さんがイリヤさんとつながっていたので、打診してほしいとお願いしたんです。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
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アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
イリヤ・クブシノブさんのイラストがこちら(一部)。『GUNS UNDARKNESS』の主要キャラクターとキービジュアルをイリヤさんが担当している。

――そして、テーマ曲の作詞をLotus Juiceさんが手がけていますね。

目黒Lotusさんは、ご存知の方も多いと思いますが、『ペルソナ』シリーズで大変お世話になってきたアーティストさんです。じつは、このテーマ曲はもともと、例の開発中止になったゲームを作っていたころの産物で、とても気に入っていまして。これだけは引き継がせてほしいとアトラスさんにお願いして、然るべき形で許可をもらいました。ただ、シナリオの内容は変わっているので、それに合わせて歌詞も変えなくてはいけませんでした。せっかくLotusさんに作詞していただいたものなので、その軌道修正もLotusさんに改めてお願いさせていただきました。

――Lotusさんらしい、さすがのパワーを感じます。テーマ曲のボーカルを務めるのは、“歌ってみた”系の活動をされている、たきまことさんですね。こちらはどういう接点だったのでしょう?

目黒従来の作品では、歌い手の方を紹介してくれる業者さんに希望するイメージをお伝えして、候補を提示してもらっていたので、今回もまずは同じように、イメージを伝えるための参考となる歌をネットで漁ってみたんですよ。それで、“歌ってみた”のおすすめランクングとか、そういう類の動画をYouTubeで見まくっていたら、たきまことさんの声質がイメージにぴったりだったんです。さっそく業者さんにその動画を見てもらおう! ……と思ったのですが、ここでふと気付いたんですよね。もう、僕から直接ご本人に打診しちゃえばいいじゃん、って。

――イリヤさんはTwitter、たきまことさんはYouTubeが最初のキッカケ、というのは、いまの時代らしいアプローチの取りかたですね。

目黒こういうのも、インディーゲームっぽくていいかなと(笑)。

ゲーム作家になるフラグは、だいぶ前から……

――振り返ってみると、目黒さんは確かにだいぶ前から、サウンドだけに留まらないゲーム作りへの思いを語っていましたよね。たとえば、約12年前の、この記事……。

目黒うわぁ、懐かしい(笑)。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
週刊ファミ通2009年4月3日発売号より。“次世代を担う注目クリエイター”のひとりとして、目黒氏にご登場いただいた。

――これは、目黒さんが初めてディレクターを務めたPSP版『ペルソナ』の発売が間近に控えていたころの記事ですね。この中で目黒さんは、「私は音楽制作者のまえにゲーム制作者でありたいと、つねに思っています」とおっしゃっていました。

目黒確かにそうでした。当時、すでに社内でゲームの企画書をいくつか作っていましたね。

――この記事では同時に、「アトラスではもともと、ゲーム制作を細かく分業せず、スタッフみんなで意見を出し合うんです。“みんなでひとつのゲームを作っている”という意識が強いんですね」ともおっしゃっていました。そういうメーカーでの経験をふまえて現在に至ったことも、目黒さんにとっては貴重な道のりだったのではないでしょうか。

目黒そうですね。ただ、入社する前はそこまでアトラスという会社のことを知っていたわけではなくて。僕が大学3年のころに世の中でバブルが弾けたので、就職せずに大学院へ行けば、卒業するころには景気が上向いているかなぁと思ったら、逆にさらなる就職氷河期へ突入してしまい……。就職活動では20社に落ちて、21社目で拾ってくれたのがアトラスさんだったんです(笑)。

――お互いにとって貴重な出会いでしたね……! ちなみに、大学時代は流体工学(空気や水の流れを解明する学問)を研究していたとのことですが、お仕事には何らかの形で活きたのでしょうか?

目黒大学では、コンピューターで流体の動きをシミュレーションする研究をして、数値を打ち込むと解が出てくるプログラムなどを作っていました。あと、当時の母校では、理系の学部に入ると「ひとり1台はポケコン(※)を買え」と言われていたので、みんなポケコンを持っていたんです。同じ機種の人どうしであれば、作ったプログラムを転送し合うことができたので、それでよくレースゲームやゴルフとか、分かりやすいジャンルのゲームをいろいろ作っていました。

※ポケコン……ポケットコンピュータ。携帯できる小型コンピューター。スマホやタブレットが普及している現在はほぼ生産されていない。

――同好の士が大勢いたのですね。

目黒僕の学科は1クラスに100人以上いて、その半分くらいが同じ機種のユーザーだったんです。だから、プログラムを転送すると毎回20~30人は遊んでくれて。自分の作ったゲームを人に遊んでもらう楽しさは、あのころから感じていましたね。

――先ほどのファミ通記事では、幼稚園児のころからエレクトーンを習って、小学生のころ、ファミコンの代わりに買ってもらったパソコンでプログラミングを始めた、という経歴も紹介していました。大学どころか、子どものころから筋金入りじゃないですか……!

目黒いやいや、知識がまったく無いよりはマシでしたけれど、プログラムの才能に乏しいというのは学生のころからわかっていて。さらに言うと、人が一生懸命作ってくれたものに対してダメ出しをするのが僕は苦手というか、とても心苦しくなってしまうので……。それでも必要なことは言わなければならないディレクターという職種は、やっぱり僕には向いていないのかなぁと、仕事をしていて思うこともありました。

――なるほど……。ところで、プライベートでは何度かサバイバルゲームをご一緒させていただきましたが、あれも今なら言える、『GUNS UNDARKNESS』への布石でしたよね。

目黒ああ、はい(笑)。確か、2012年あたりからサバゲーをご一緒しましたね。

――1度、目黒さんが運転する車で、相模湖近くのサバゲーフィールドに連れて行っていただいた記憶があります。そのときも雑談として、いつか自分のゲームを世に出したいという野望を話してくださいました。

目黒そう、そんなこともありましたね……!

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
これはファミ通が企画した、ゲームメーカー対抗のサバイバルゲームに参戦していただいたときの目黒氏(写真左)。

――『GUNS UNDARKNESS』の画面を見ると、サバゲーをやっているような雰囲気もありますよね。やはり、実際の経験が活きているのでしょうか。

目黒活きています。フィールドの構造やゲーム性もそうですし、あとは、どこまでゲームに実装するかは未定ですけれど、サバゲーが強い人って、往々にしてハンドシグナル(※)をカッコよく駆使するじゃないですか。あれも表現してみたくて、試しに組み込んでみたのですが……。

※ハンドシグナル……戦場で声を出すと敵にも聞かれてしまうので、手の動きや指の形などで「ゴー」「止まれ」「集まれ」といった合図を味方に送ると、サバゲーでも戦略的に立ち回れる。

――ハンドシグナル、良いじゃないですか!

目黒『GUNS UNDARKNESS』はスニーキングの要素も含むので、“ゴー”とか“集まれ”とかを意味するハンドシグナルを実装するのもアリかなーと思っていたものの、実際にゲームを遊び続けてもらうことを想定したときに、そういうコマンドの存在がテンポを妨げる恐れもあると感じたんですよね。ジャンルとしてはターン制のRPGなので、プレイに慣れてくるとそういう面倒なことはすっ飛ばして早くバトルに進ませろ、という心理になるかもしれないと。

――なるほど。しかし、たとえそういう心理が働く要素だとしても、作り手が自由に作れるのがインディーゲームですし、究極的には目黒さんがやりたいことは何でもやってほしいなぁという気持ちはあります。

目黒そうですね……。現状はサクサク遊べることを目指して作っていますが、いちおう仕組みとしてはそういう要素も入れられる余地を残してあるので、どこまで実装するかは今後検討していきたいです。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?

――楽しみです。目黒さんは子どものころから、サバゲーやミリタリーの分野もたしなんでいたのですよね。

目黒いやいや、ガチのミリタリー好きの方々から見れば、僕なんて足もとにも及びませんよ(笑)。この分野との出会いは小学生のころで、通っていた学習塾の向かい側にモデルガンのお店があったので、毎日のように通って、穴が開くほどカタログを見まくっていましたが……それでも僕なんてまだまだです。

――弾が出るエアガンではなく、モデルガンだったのですね。

目黒当時、僕のまわりではモデルガンが流行っていたんですよ。なおかつ、火薬を使うタイプは親に怒られるから使えなくて、よく友だちと公園などに集まって、弾は出ないけれどサバゲーごっこをしていました。

――以前ご一緒したサバゲーではSIG 552を使っていましたよね?

目黒よく見ていますね(笑)。SIGは性能とコストパフォーマンスがよかったので選びました。あとは、HK 416のガスガンとか。

――『GUNS UNDARKNESS』では、銃のバリエーションをどのように考えていますか?

目黒物語の舞台はいわゆる“ポスト・アポカリプス”な2045年でありつつ、銃器は現代にあるものをモデルにしていて、中身の構造は実銃とまったく違うという設定です。僕が考える未来の銃を出しても誰も得しないと思うので(笑)、みんなが好きな銃をなるべく出したいなと。

――そのあたりのお話、サバゲーマーとしてはもう少し聞きたいです(笑)。

目黒銃器には設定として5つのカテゴリがあって、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、グレネード&ショットガン系です。弾の口径による威力などの違いはありますが、性能としては5つのカテゴリで統一していて、その口径によって、プレイヤーが装備しているスーツの被ダメージが計算されます。また、たとえばハンドガンに対する防御力を高めているスーツは、別の何らかの武器に弱くなるといったゲーム性を考えています。

――なるほど。いわゆる3すくみならぬ、5すくみの関係でしょうか。

目黒当初は7すくみくらいを考えていたんですけれど、そんなに多いとさすがに覚えきれないですし、かといって3すくみだと少ないし……ということで、5すくみがちょうどいいかなと。さらに言うと、ハンドガンはアサルトライフルに強かったりするのですが、それはあくまでもスーツの特性なので、ハンドガンを持っている人が必ずしもアサルトライフルに勝てるとは限らない、といった具合です。

――スーツといえば、Twitterでは“アンカー”を実装したと先日呟いていましたね。

目黒ああ、見てくださったのですね。射撃の衝撃に耐えるため、足のかかとからアンカーを射出するという設定があるので、それを実装してみたんです。キャラクターの3Dモデルのうち、かかと部分だけ別扱いにして、ブループリントで開けてアンカーが出るという仕組みにして、ヒールの部分にアタッチさせて、実際に射撃のモーションをさせたらヒールと足がズレちゃうのを1日じゅう調整して……というのをやっています。

――専門的だ……。ファミ通ではよく、新作ゲームの第1報をお届けするときに開発進行度のパーセントをお聞きしているのですが、現時点ではどれくらいでしょうか?

目黒オムニバス構成となるシナリオのうち、0章と1章がほぼ形になっていて、いまは2章に取り掛かっています。なので、全体の進捗は30~40%くらいですね。僕としては、独立してから制作に費やせる時間がグンと増えたので、2022年のうちにはリリースしたいと思っていたのですが……。

――先日のINDIE Live Expoでは“2023年”と発表されていました。

目黒そこは、講談社さんの慎重なご判断で(笑)。このゲームにはかれこれ5年近く手をかけているので、早くリリースしてスッキリしたいです。

――あれ、他媒体さんのインタビューでは「この作品をライフワークにしたい」とおっしゃっていませんでしたっけ?

目黒それもあるのですけれど、やはりフリーになった以上、さらにつぎの作品を出すとしたらどんな世界観やシステムがいいかを考えていきたい気持ちもあって、やっぱり早く出したいです。

――差し支えなければお聞きしたいのですが、目黒さんほどの実績がある方ですから、独立の発表後には各方面から仕事のオファーもあったりしたのでは……?

目黒いやいや、そうでもないですよ(笑)。引き続きサウンドを担当させていただくアトラスさんへの義理や、自分のゲームをまずは優先したいという思いもありますし、当面のあいだは、仕事をこれ以上増やすことはあまり考えていないです。

――もし、また何かあったら取材させてください!

独立してまで、描きたかったテーマ

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?

――僕も含め、サバゲーをたしなむ目黒さんを存じ上げていた観点からすると『GUNS UNDARKNESS』には納得感があるのですが、『ペルソナ』シリーズなどで目黒さんを知った方たちには、ちょっと意外だったかもしれませんね。

目黒そうかもしれません。ただ、今回の発表に対しては、僕がゲームを作っていることにまず驚かれて、その世界観についてはあまりツッコミがなかったような気がします。

――『GUNS UNDARKNESS』のテーマはズバリ、“真実の愛”なのですよね。

目黒はい。なぜかはわからないですけれど、日本のゲームには“愛”を真っ正面からテーマにしたものが少ないというのを、以前から感じていまして。

――それも目黒さんらしいなぁと思いました。こう言うと大袈裟かもですが、人間に対する希望を持ち続けている方なんだなぁと。

目黒おお、そうですか?(笑)

――昨今のゲームや映画などのシナリオは、しばしばその根本に“人類は愚か”という見かたがあったり、自らが作り上げた高度なテクノロジーのしっぺ返しを食らうような内容も多かったりします。そんな中で、“真実の愛”というテーマは、なんというか、純粋ですよね。

目黒僕としては、人類はいつか革新の時を迎えて、貧困の問題や差別はなくなるという希望を持っています。江戸時代にしても明治時代にしても、現代の価値観から見ると、なぜそんなことが……と思ってしまうほど穏やかではない文化や出来事がたくさんあったじゃないですか。でも、もしかしたら今から100年後には、「人々が核兵器で武装したり、各地で戦争していた時代があったなんて信じられないよね!」っていう価値観で、令和や平成が語られるような時代になっているかもしれません。そういう、世界が“革新”していく過程を描けたらいいなと思っています。

――壮大ですね……! 目黒さんにとって、いわゆる『スター・トレック』の世界や、『機動戦士ガンダム』の先にあるような世界が、ひとつの理想形なのでしょうか。

目黒新スター・トレック』だと、人類はすでに革新しきっていて、貧困や差別がまったくない世界という前提でストーリーが進んでいきますよね。たまに、そういった問題を人類は過去に乗り越えてきたらしいことが垣間見えるセリフもありますが、いつ、どうやってそれを成し遂げたかの描写はほとんどないんです。

――確かに、そういうプロセスを具体的に描いている作品は少ないかもしれませんね。

目黒そんな思いもあって、どうしたら人類は革新できるのだろうか……というのを、僕なりに考えてみるようになったんです。このテーマは、今回の『GUNS UNDARKNESS』に限らず、その先に作るかもしれないゲームにおいても考えていきたいつもりです。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?
アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?

作曲家として、そしてゲーム作家として。

――目黒さんなので『GUNS UNDARKNESS』のサウンドも楽しみなのですが、どういう方向性で考えているのでしょうか?

目黒今回は、オルタナティヴ・ロックのような感じにしたいと思っています。と言っても、その分野に詳しいわけではないので、僕の中でのオルタナロックです。講談社の方から「ニルヴァーナ(※アメリカで殿堂入りを果たしたロックバンド)みたいな感じですか?」と聞かれたときは、「すみません、あまり聴いたことないです」と返してしまいました(笑)。

――(笑)。それでも目黒さんは以前から、作品に応じていろいろなテイストの曲を生み出してきましたよね。『キャサリン』のときはクラシック、『ペルソナ5』ではアシッド・ジャズ、『真・女神転生 STRANGE JOURNEY』では映画音楽のような要素を取り入れていました。

目黒曲作りで大切なのは、音楽がゲームの世界観に合っていることと、音楽のほうからもゲームのセールスポイントを引き立てられるアプローチをすること、なんですよね。僕に依頼をしてくる側のスタンスにもよりますが、「こういう感じでお願いします」とテイストを細かく指定されるよりも、このゲームに合いそうな音楽を自由に作ってくださいと言われるほうが、僕としてはテンションが上がります。

――そうやって、さまざまなテイストに対応するための引き出しは、どのように増やしているのですか?

目黒うーん……自慢できることではないんですけど、僕はあまり積極的に音楽を聴いているほうではないと思うんです。インプットが多かったのは大学生くらいまでですね。その後は、世の中でどのような曲が流行っているのかをカウントダウン番組などで把握して、ちょっと聴いてみる程度で。

――意識してインプットするというより、日ごろからそういうアンテナを張っておく、という感じなのですね。

目黒なるべくいろんな曲を作れることが、音楽作家としてはベターな在りかただと思っています。たまに、“目黒節”といったお言葉で僕の曲を評価していただくこともあって、もちろん悪い気はしないのですが、むしろそういう作家性を感じさせないようにもなりたいので、こちらもまだまだ道半ばです。

――独立して、作曲やゲーム開発に必要なものはどう揃えましたか?

目黒必要なものはイチから買いました。いまの時代、PCとソフトがあれば大抵のことはできますね。あとは、プラグイン(ソフトの機能拡張)やアセット(自作のゲームに組み込める3Dモデル、テクスチャ、サウンド、スクリプトなどの素材)のセールを見逃さないようにして、欲しいものを買い漁ったり。

――Twitterでもよく、お買い得なセールの情報に注目されていますよね。

目黒そういう予算を管理したり、スケジュールを立てたりするのも大好きなんですよ。予定からちょっと踏み外しても、また予定を組み直すのが楽しかったりして。

――ディレクターというより、プロデューサーみたいですね。

目黒そうかもしれないです(笑)。いま狙っているセールは、テーマ曲を仕上げるにあたって、アトラス在籍時に重宝していたドラムの音の感触を出したいので、そういったライブラリーを買うべく絶賛待機中です。

インディーゲームはいいぞ……!

――インディーゲーム作家としての日々をスタートさせた目黒さんですが、昨今のインディーゲーム界隈については、どのように見ていますか?

目黒最近はSteamだけじゃなく、家庭用ゲーム機でもインディーゲームが増えてきましたよね。中には、個人で作っているとは思えないほどクオリティーが高い作品もあって……。いよいよ本格的なレッドオーシャン(競争が激しい市場)になってきたので、正直ちょっと勘弁してほしいです(笑)。でも、飛び込んだ時期はちょうどよかったと思いますね。「目黒にもゲームが作れるなら、自分もやってみよう!」と思った方がいらっしゃるとして、僕よりもずっとスゴいゲームを完成させるとしても数年はかかると思うので、それより先に僕のゲームを出せるでしょうから。

――僕に言わせれば、個人でのゲーム作りを何年も続けられること自体、貴重な才能かと。

目黒作っていると本当に楽しいので、続けられる人は熱意がどうこうではなく、ただ楽しいという気持ちがずっと続くんだと思います。同年代でバイタリティーあふれる活動を続けている業界の方々と比べたら、僕なんてぜんぜん怠け者だし、やりたくないことはやらないし、バイタリティーとは対極的な人間です。それでも楽しく続けられているので、ゲーム作りに興味がある方には「きっとみんなできるから大丈夫ですよ!」と伝えたいですね。

――とはいえ、いちばんの課題になるかもしれないのは、ゲームエンジンなどの専門的なツールの習得ですよね。目黒さんはUnreal Engineをどのように勉強したのですか?

目黒界隈で“極め本”と呼ばれていた『Unreal Engine 4 で極めるゲーム開発』のお世話になりました。これで勉強すると、ゲーム作りに必要な知識がひととおり身につきます(※)。この本がなかったら僕もたぶん無理でした。

※“極め本”はUnreal Engine 4の旧バージョンを扱った本のため、現在の最新バージョンでは参考にならない内容も一部含まれます。

――おお、そんな本があったのですね……!

目黒この本を読み通すこと自体は、1~2ヵ月もあればできます。あとは、実際にゲームを作っているときに分からないことがあったらネットなどで逐一調べて、ときには解決するのに数日かかることもあって……。そういう足止めがほぼ無くなるくらいに慣れるまで、僕の場合は2~3年かかりました。

――まさに、継続は力なりというか、好きこそ物の上手なれというか……。

目黒あ、でも、どの作業も好きとは言いましたが、UI(※)を作るのはシンドいですね。こんなに大変だとは思っていなかったです。

※UI……ユーザーインターフェイス。ゲームでは、各種情報を表示する画面のデザインや機能、メニューの構造などを指す。

――それは、『ペルソナ』シリーズなどに代表される優れたUIをたくさん見てきたから、余計にそう感じるのではないですか?(笑)

目黒いやぁ、痛感しますね。地味なお話になるんですけど、たとえば、プレイヤーがボタンを押したらカーソルがどこに動いたり、画面のアイコンや情報表示がどう変わったり、カーソルがいちばん下に行ったときにもう一度入力するといちばん上に戻ったり……といった、プレイヤーがごく当たり前に操作できるようにするための挙動のひとつひとつを、プログラムとして細部まで組んでおかないといけないんです。もっと効率のいい組みかたはあると思うんですけれど、数あるプログラム作業の中でUIがいちばん大変で……。

――プレイヤーがあまり想像することのない部分の苦労ですね……。『GUNS UNDARKNESS』のUIは、画面の奥側に向かっていくようなデザインが特徴的だなと思いました。

アトラスから独立した目黒将司氏にロングインタビュー!『ペルソナ』シリーズなどの楽曲を手掛け、インディーゲーム制作にも邁進していく目黒氏の展望とは…?

目黒あれは、UIのプレートを3次元空間のカメラの左右にくっつけるようにして作っています。ここにも地味な苦労があって、ああいうのはキャラクターが上や下を向いたときにデザインが破綻しやすいので、そうならないように傾きの係数を掛けるなどして調整しています。

――いやはや、そういう作業もすべて目黒さんがひとりでやっているというのは、やっぱり感服してしまいます。

目黒でも、個人制作の限界はありますよ。僕のアトラス時代をご存知の方が期待してくださっている部分と、僕にできる部分が大きく乖離していないか、正直ちょっと心配しています(笑)。インディーゲーム作家としての処女作ですし、数千円くらいでリリースするゲームですから、フルプライス級のクオリティーまでは期待しないでいただければと……。

――目黒さんが作るゲームの第1弾として、完成を楽しみにさせてください。ファミ通ではインディーゲームを紹介する連載もやっていますので、完成したらそちらにもぜひ!

目黒はい! ぜひ呼んでください! 実際にできたものを遊んでいただいたら「やっぱりあのお話はなかったことに……」と言われないように、がんばります(笑)。

――ありがとうございました!

(取材日:2021年11月10日)