Frogwaresのオープンワールド推理アドベンチャーゲーム『シャーロック・ホームズチャプター・ワン』を紹介しよう。本作はプレイステーション5/Xbox Series X|S/PC版が2021年11月16日より順次配信開始。また別途プレイステーション4/Xbox One版の発売も予定されている。
若きシャーロックがかつて過ごした島で母の死の謎を追う
本作は、コナン・ドイルが生み出した名探偵シャーロック・ホームズを扱ったFrogwaresのアドベンチャーゲームシリーズの最新作。
前日譚的な作品でもあり、相棒ワトソンと出会う前の若きシャーロックが、かつてホームズ一家が暮らしていたという地中海の島“コルドナ”で自身の子供時代の記憶をたどりながら母の死の謎を追うことになる。
ワトソンではない“もうひとりのジョン”
というわけで本作にはワトソンは出てこないのだが、その代わりに幼なじみだという別の“ジョン”が相棒役として登場する。
シャーロックのことを“シェリー”と呼ぶ彼は、推理を手伝ってくれるだけでなく、時折シャーロックに追加のチャレンジ的な勝負を持ちかけてきたりするユニークな存在。ゲーム中でシャーロックがくだした判断を評価することもあり、どう反応したかは彼のつけている日記を通じて読むことができる。
オープンワールドアドベンチャーへの進化
過去作と構成の上でもっとも異なるのが、オープンワールドゲームへの進化だ。これまではチャプターごとにその事件に関連する場所だけが出てくる形式だったが、今回は本当にオープンワールドになっていて、チュートリアル的な位置づけの最初の事件をクリアーした後は自由にコルドナを行き来可能。
さまざまなサイドミッションで謎解き三昧
また、メインとなる事件を解決するごとにチャプターが進行していくようになっているものの、それ以外の進行は基本的にかなり自由。再ローディングやメインミッションの中断などをとくに挟まず、ほぼいつでもサイドミッション的な事件や謎解きに取り掛かったり、戻ってみることができる。本誌でプレイリポートをお届けした本作のプレビュー版デモではこの部分をあまり体験できなかったが、実はこのサイドミッションがなかなかのボリュームだ。
サイドミッションのサイズはさまざまだが、シャーロックが兄マイクロフトや警察からの依頼に挑むこともあれば、メインミッションの捜査の途中で気になる事件に繋がる噂を耳にすることもあるし、シャーロックの過去の記憶をたどるストーリー重視のものや、マイクロフトがかつてシャーロックの能力を試すために隠したコイン探し、そしてコルドナ全土で行われている財宝探しなどの収集系ミッションも存在。かなり謎解き三昧で過ごせる。
地元民に溶け込め! 変装要素が強化
シャーロックの変装は過去作にもあった要素だが、今作ではオープンワールド化と関連して強化されている。
コルドナは地中海の英国領という設定で、イギリス系に加えてオスマン・トルコ系住人やアフリカ系住人などもおり、国際色が豊か。そのため階級や人種による住人同士の複雑な感情があり、緊張関係にある間柄では聞き込みに支障をきたすことも多い。そこを変装でうまくごまかして情報を引き出すのだ。
なお変装はほぼいつでもどこでも行えるし(例外は服装が左右する重要なキャラの前にいる時)、お金が足りなければ服屋から借りられるもので済ませることもできる。“間違った服装で来ちゃったのでまた戻らないといけない”とか“民族衣装がないといけないのに金が足りなくて詰まる”ということがない、かなり合理的な設計になっている。
ちなみにミッションをクリアーして稼いだお金で買えるものは服か実家から散逸した家具類ぐらいで、どちらも結構安いので服はガンガン買っちゃうのを推奨したい。気分転換して遊べるし、いざという時に「あ、この属性用の服なかったわ」と買い出しに行くことがなくなるし。
TPS要素は限定的。苦手な人はスキップ可能
また三人称視点シューティング(TPS)要素も強化されている部分で、捜査の過程で襲撃されることもあれば、“盗賊の隠れ家”という専用のサイドミッションも用意されている。
「いや、謎解きだけやりたいんですけど……」という人もいると思うが、設定で難度を下げたりスキップ可能にできるので安心して欲しい。また基本的に集団と連続して戦うことになるが、そこまで難度も高くない(正直、この部分はあまり期待しない方がいい)。要素をまとめると以下のような感じだ。
- 銃を構えると自動スローが発動し、装甲(青)や敵をひるませる弱点など(黄色)がハイライトされる
- 装甲がある場合はまず撃ち抜いて破壊する
- 装甲がない状態では黄色の弱点を撃つと一定時間無抵抗になるので、近づいてQTEを完了すると逮捕状態になる
- マップ内のランプやガス弁なども黄色に光っていて、防護がない状態の敵が引っかかるように狙って撃つと無抵抗状態に持ち込める
- 近付いて時間チャージ式の“嗅ぎタバコ”を使うことでも無抵抗状態にできる
- しゃがんで物陰に隠れたり、ローリングで敵の攻撃を回避可能
- 基本は逮捕が理想。射殺してしまった場合は減点になったりジョンが不快感を示す
- ミッションの特定のパートや盗賊の隠れ家以外、たとえば街中などでは銃は抜けない
- また戦うステージは必ずアリーナ形式になっており、長方形型のエリアの各所の入り口から敵が湧いて襲ってくるという形
捜査&推理システムは基本的に近作を踏襲
本筋の捜査&推理は、過去作の『シャーロック・ホームズ:罪と罰』や『シャーロック・ホームズ -悪魔の娘-』をほぼほぼ踏襲したシステムだ。
メインミッションの事件では、さまざまな方法で手がかりを集めていって、“記憶の宮殿”(マインドパレス)で複数の手掛かりを組み合わせて結論を導き出し、犯人と思った人を糾弾すると同時に、逮捕して処罰は司法の手に委ねるか(≒死刑)事情を考慮して見逃すかを決める、というのがひと通りの流れとなる。
ちなみに、全手掛かりを集めても決定的証拠のようなものがなく推測を織り交ぜつつの最終判断になったり、間違った人を犯人に選んでもそのままゲームが進行するというのも旧作同様だ。
なおゲームのメインミッション系の大きな事件は4つあり、それぞれクリアーすると旧ホームズ邸で母の死の真相に迫るための重要な場所にアクセスできるようになっていくという構成。これに加えて、謎の真相が明かされるフィナーレの“母の愛”をあわせた全5章構成となっている。
ただし、先に書いたようにそれ以外にたくさんあるサイドミッションを自由に取捨選択できるし、サイドミッションには記憶の宮殿要素こそないものの事件のサイズ自体はそこそこ大きなものがあるので、合計プレイ時間は人によって大分異なるだろう。参考までに、記者のほどほどにサイドミッションをプレイしつつのクリアータイムは28時間だった。
捜査を進めるための各システムを紹介
というわけで“罪と罰”か“悪魔の娘”をやった人なら「おお、あれがオープンワールドになってるのね」と大体想像はつくと思うけども、やったことがない人も多いと思うので、捜査の過程で実際どんなことができるのか紹介しておこう。
要素としては、現場検証・“集中”モードによる現場の再構成・周囲の人への聞き込み・重要人物の観察(プロファイリング)・関係者の取り調べ・過去の資料の調査・化学分析などがあり、すでにある手掛かりを元にこれらの作業を行って、より深く具体的な手掛かりに迫っていく形となる。
- 【現場検証】 殺人現場や事故現場を見て、そこから手掛かりを拾っていく
- より細かく判断するために集中モードが必要とされることも
- そのまま集中モードでの現場の再構成にシフトすることも多い
- 【追跡】 集中モードで足跡や血痕などから対象が通ったルートを推定し追っていく
- 【盗み聞き】 周辺で誰かが話している噂話から手掛かりを得る
- 手掛かりになりそうなものとそうでないものを取捨選択していき、正解をすべて選ぶとクリアー。間違えるとペナルティでタイマーが減る
- ロケーション(場所)を探すよう指示が出ていても、実際はその周辺でその場所に繋がる噂を見つけるのが目的のことがある
- 街中で聞いた噂が新たなサイドミッションをアンロックすることがある
- 【現場の再構成】 現場検証などでわかった手掛かりから当時の状況を再構成する
- シャーロックが瞑想するあいだ、ジョンを操作して各ポイントで誰が何をしたかを切り替えて当てはめていく一種のパズル
- シャーロックの過去の回想でも同じ作業をする
- 【聞き込み】 ある手掛かりについてなにか知っていないか周囲の人に聞く
- 往々にして変装が必要
- 【観察】 重要人物をじっくり観察し、本人の様子や服装からプロファイリングを行う
- 最終的に2パターンの人物像から選ぶが、ちょっとした解釈や推測まじりの部分しか違いがないことも多い。外れていてもオーケー
- 【取り調べ】 聞きたい手掛かりを指定して、重要な関係者に何か知っていないか尋ねる
- 【資料調査】 警察署・新聞社・市役所の三ヶ所で過去の資料に当たれる
- 時期・エリア・内容の種類などを選んで検索し、当たっていると正解の資料が示される
- 総当りをやって外し続けるとジョンにひたすら落胆されるので注意
- 時期・エリア・内容の種類などを選んで検索し、当たっていると正解の資料が示される
- 【化学分析】 赤青緑の数字の試料と操作式を組み合わせて正解に揃えるパズルを解く
- サンプルの解析だけでなく、手に入れたアイテムを加工して使えるようにするといったシチュエーションでも行う
ファストトラベルはあるが、場所を見つけるのも探偵の仕事のうち
オープンワールドゲームでは移動手段として乗り物が用意されていることも多いが、本作には運転要素などは存在せず、各地のファストトラベル可能なポイントに象徴として馬車が置かれているのみ(馬車を見つけるとアンロック)。
また、一部の例外を除いてオープンワールドゲームでよくある目的地のアイコン表示がないのも特徴と言えるだろう。手掛かりとして新たな目的地の情報を得ても、実際にマップを眺めて「この通りとこの通りの交差点のあたりってことはこの辺だな」と大体アタリをつけて行ってみるしかない。
この場所探しが少し面倒で、大体は「あぁここか」と見つける嬉しさがあるものの、稀にどこの範囲を指し示しているのか微妙にわかりにくいサイドミッション(特に探しもの系)があり、無駄に時間がかかってしまうこともしばしば。このあたりは後述する低難度設定でもう少しゾーンを示してくれたりしても良かったのではないかと思わないでもない。
快適に謎解きを進めたいなら低難度の“若き探偵”がオススメ
この手のゲームを遊んでいてストレスが溜まるのが、ゲーム中の指示が意味するところをはかりかねて詰まってしまったり、捜査進展のカギになるオブジェクトがすぐそこにあるのを見失っていたり、調べ物の検索などを総当たりで試さざるを得なくなってしまうような状態だ。しかも今作はオープンワールドなので、疑心暗鬼になって「実はこっち方面を調べるのでは」とかやりだすとキリがない。
そういうのが嫌いな人は、恥ずかしがらずに低難度の“若き探偵”モードでプレイするのをオススメしたい。若き探偵モードでは(話しかけたり調べたり)インタラクト可能なものが白い点で表示されるほか、アクションアイコンで次の目的で行うべきことの方向性を教えてくれる。
このアクションアイコンがとても便利で、特定の人物と話さないといけないとか、あるいは周辺の人への聞き込みで答えてくれそうとか、記録に当たるべきとか、関係する場所を見つけないといけないといった指示の意図がわかるので、無駄足は大分減る。
またこれは、手がかりを集める道のりがスムーズになったり取りこぼしがなくなるだけで、最終的な推理の組み立てそのものまで簡単になるわけではない。なので、これで合っているのか合っていないのかわからないまま探索するのこそが楽しいというハードコアな人以外はまずこの難度でプレイしてみて、システムに慣れてきてから難度を上げたりアシストの内容をカスタマイズするか決めるといいだろう。
DLCにも期待! 本格的な大作として大きな飛躍を遂げた作品
というわけで本作、シリーズが一皮むけるきっかけとなった『シャーロック・ホームズ:罪と罰』の流れを継ぎつつ、オープンワールド化&大ボリューム化で大きく勝負をかけたタイトルとなる。
PCのレビュー版で遊んだ限りでは出来もかなりいいし、CD Projekt REDのアクションRPG『ウィッチャー3』や4A GamesのFPS『メトロ エクソダス』など、欧州系のゲームスタジオが“よくできた中堅タイトルシリーズ”から意欲作を仕掛ける時の勢いをビンビン感じた。それは開発元Frogwaresの全世界自主パブリッシングかつ、日本語含めて16言語にローカライズ対応という力の入れ具合からも感じられる。
恐らく好みが分かれるのは、推理モノだが複雑なトリックがあったりするのではなくどちらかと言えばそこにある人間ドラマがメインという、シリーズの基本テイストそのものだろう(ドラマ重視だから逮捕かさまざまな事情を鑑みて見逃すかというグレーな決着が効いてくるわけだけど)。
これは物語の大きな謎として用意されているシャーロックとジョンの過去や母の死の真相についても同様で、序盤でおおよそのところが大体読めてしまう勘のいい人も少なくないと思う。でもその分、サイドミッションなどでわかる膨大なサイドストーリーも含めて、そこに至るまでのドラマはしっかりしている。
なのですべての決着がついた後のエピローグの一連の流れはなかなかグッと来るし、後のシャーロック・ホームズに繋がる第1章(チャプター・ワン)にふさわしいものにちゃんとなっている。DLC(ダウンロードコンテンツ)として配信される追加エピソードも非常に楽しみだ。
そうそう、最後に一応書いておくと、最終ミッションに入ると戻ってやり残したサイドミッションを遊ぶことができなくなるので、最終章“母の愛”で旧ホームズ邸に戻る前に手動セーブを行っておくのをオススメする(ゲームシステム側が作るチェックポイントでも戻れるが)。