『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』のプロデューサーが語るMMORPGの過去・現在・未来

 スクウェア・エニックスが運営中の3つのMMORPG。そのプロデューサーたちが一堂に会し、それぞれの作品や“MMORPG”について語り尽くす!

 スクウェア・エニックスがサービスを提供するMMORPG『ドラゴンクエストX オンライン(以下、DQXオンライン)』、『ファイナルファンタジーXI(以下、FFXI)』、『ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV )』。どのタイトルも長期運営中ながら新たな展開があり、さらなる飛躍を見せている。そこで今回は初となるプロデューサー同士の鼎談企画を実施。各タイトルの現在や、お互いから見た各作品の魅力、そしてこれからのMMORPGについて想いをうかがった。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

※本記事の一部はすでに10月28日発売の週刊ファミ通にて掲載済みですが、こちらはその全文となります。
※本記事では『ドラゴンクエスト』を『DQ』、『ファイナルファンタジー』を『FF』と表記しています。

Profile

青山公士氏(文中は青山)

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

 『DQXオンライン』プロデューサー。1999年にスクウェア(当時)に入社し、『FFXI』の根幹となるネットワークサービス・PlayOnline(プレイオンライン)のディレクターを務める。その後『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』に関わった後、テクニカルディレクターとして『DQXオンライン』の開発に参加。2018年からは齊藤陽介氏の後を継いでプロデューサーに就任。

松井聡彦氏(文中は松井)

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

 『FFXI』プロデューサー。開発初期からバトルプランナーとして『FFXI』に関わる。その後2010年にディレクターへ就任するが、直後にリードバトルプランナーとして旧『FFXIV』チームへ異動。そして2012年に再び『FFXI』チームに戻り、田中弘道氏の後を引き継いでプロデューサーに就任した。

吉田直樹氏(文中は吉田)

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

 スクウェア・エニックス 取締役執行役員 第三開発事業本部長。『ドラゴンクエスト』シリーズ初のアーケードタイトルである『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』のゲームデザインとディレクションを担当。開発初期の『DQXオンライン』に関わった後、2010年12月に『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。現在、『ファイナルファンタジーXVI』のプロデューサーも兼任している。

全世界でも異例の“3つのMMORPG同時運営”が可能な理由

――今回はスクウェア・エニックスの運営する3つのMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGのプロデューサーの皆さまによる、初の鼎談インタビューとなるわけですが……まずは改めて考えると、“ひとつの会社が3本のMMORPGを長期運営している”ということ自体、全世界的に見てもかなり異例だと思います。ほかのメーカーで真似しようと思ってもなかなかできないと思いますが、なぜそれが実現できているのか、それぞれのご意見をうかがえますでしょうか。

松井 スクウェア・エニックスの開発者はマニアというか、とことん“攻めていく人たち”なので、そういう意味では「1本だけではもったいない」と考えたのかもしれませんね(笑)。もちろん運営していくには開発スタッフだけではなく、サポートしてくれているコミュニティチームや、情報システム部の方々の力も重要ですが。

青山 私はもともと別の会社からスクウェア(当時)に入社したのですが、そこで感じたのが“大きな組織でものを作るのが得意な会社だ”ということです。人がたくさんいれば大規模なMMORPGが運営できるかというと、決してそんなことはなく、人がいるうえで“しっかりと組織立って作れている会社”だからこそ実現できているのかもしれません。

吉田 僕はふたつ理由があると思っていまして、そのひとつは、「とにかくやってやろう!」という、いわば“無計画さ”からですね(笑)。投資ベースで考えている企業さんなら、複数のMMORPGの開発と運営はリスクが高すぎて無理だと考えるのが普通です。もし1本のMMORPGが当たったなら、別のものを作るよりも“当たったものを大きくする”のが一般的でしょう。そういった意味で、よくも悪くも“怖さ”より“チャレンジ”のほうが上回る風土が、スクウェア・エニックスにはあるんだろうと思います。

 もうひとつの理由は『FFXI』の存在だと思っています。『FFXI』はご存知のとおり、坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)が当時大きく旗を振って、「絶対『FF』でオンラインRPGを作るんだ」と言って進められたもので、その熱量がものすごく高かった。そして多くの人が『FFXI』に夢中になった結果、いまスクウェア・エニックスには“『FFXI』を経験したゆえにこの会社に集まった人たち”がけっこういると思うんです。まだ日本にPCゲームの文化が根付いていなかったあの時代に、『FFXI』を通じて初めてMMORPGを遊んだ人たちが、今の開発に多いのはかなり大きい要素ですし、結果的に“MMORPGとは何か”がわかる人が多い会社になったのではないかと。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――それは開発・運営の両面においてでしょうか?

吉田 運営面では『FFXI』のスタート前に、Sage Sundiさん(セージ・サンディ氏。元『FFXI』のグローバルオンラインプロデューサー)が『Ultima Online(ウルティマ オンライン)』(※)のチームを引き連れてきてスタートした、コミュニティー&サービス部の存在がかなり大きいと思いますね。

※:1997年にサービスが開始された、MMORPGの草分け的なタイトル。

青山 Sage Sundiさんが来る前の『FFXI』のβテストの時代は、まだきちんとした運営チームが存在せず、どうやってプレイヤーの方々からフィードバックをもらうか、ほとんど手探りの状態でした。そこに彼がきてくれてチームを構築してくれた感じですね。

――そのコミュニティー&サービス部が、いまや約20年にわたってスクウェア・エニックスのMMORPGの運営を担っていることを考えると、かなり大きい存在ですね。

吉田 アドバンテージはメチャメチャ大きいと思います。プレイヤーの皆さんの個人情報を扱っていることもあり、初期から機密ルールも徹底していましたしね。僕も青山さんと同様、中途でスクウェア・エニックスに入社している人間ですが、入社したばかりの時に驚いたことがありまして……。『FFXI』チームでは組織運営の一環として、サーバーに緊急事態があると赤色灯が回ってサイレンが鳴るんです。

――え!? 実際に会社の中にサイレンがあって鳴るんですか?

吉田 そうです。まさに“エマージェンシー”ですね。一気に緊張感が張り詰めますし、だれから見ても緊急事態だとわかるのです。これは今や『FFXIV』も含め、手法としてそのまま維持されています。

――それは具体的にどういう状況で鳴るのでしょうか?

青山 サーバーはどうしてもハード面のトラブルが発生しますので、全サーバーをGMが監視して、1台でも落ちるとサイレンが鳴るといった感じですね。

吉田 市販ではそのような機器はないと思うので、あれは自前開発ですよね?

青山 自前ですね。さらに音が同じだと、どのタイトルのサーバーのトラブルかがわからないので『DQX』に関しては、例の♪デロデロデロデロ~という“呪われた時などに流れるME”になっていました。ただ、一時期サーバートラブルが頻発する時期があって、みんなのモチベーション下がるから別の音にしてほしいというリクエストもあり変更されたと聞きました(苦笑)。

吉田 それ、ほかでは絶対聞けない話ですよね(笑)。ちなみに初期から『FFXI』の開発をされている松井さんから見て、初期の運営はどうでした? それとも開発でそれどころではなかった感じですか?

松井 そうですね。僕は作っているときは運営側を見ている余裕すらなかったです。

青山 私は当時、『FFXI』のゲーム側ではなく、PlayOnline(プレイオンライン/※)側でネットワーク接続やパスワード認証に関わる部分などを担当していたので、ほとんど何もなかったところからどんどん運営組織が構築されていくのを間近で見ていました。

※:スクウェア(当時)が2002年にスタートさせたネットワークサービス。このサービスを利用することでさまざまなゲームがプレイ可能となっていた。現在の提供コンテンツは『FFXI』のみ。

――当時はインターネット自体、まだADSLなどの黎明期でしたよね。分厚かった『FFXI』のβテストのマニュアルも、ほとんどがゲームの説明ではなく、インターネット接続に関する説明だった記憶があります。

青山 そういえば当時の思い出として、QA(Quality Assuranceの略。さまざまなチェックによって品質管理を行う部署)から提出された不具合報告のなかに、「ネットワークの設定をしないとネットワークにつながりません」というものがありました。そりゃそうでしょうと(笑)。それが不具合報告として挙がってくるような時代だったんですね。

松井 QAもそういう意味で今に至るまで鍛えられていったのかもしれませんね。

青山 そんなQAの皆さんの力も、うちの強みのひとつでしょうね。

――ちなみに初めてMMORPGの開発に携われたタイミングというと、やはり青山さんと松井さんは『FFXI』からでしょうか。

青山 そうですね。ただし私の場合はあくまでプレイオンラインの開発でしたので、MMORPGとしての『FFXI』には関わっていませんでした。

――吉田さんは、最初は『DQX』からでしょうか?

吉田 僕はかつて青山さんと同じくハドソンにいて、まずはプレイヤー側としてMMORPGをメチャメチャ遊んでしたのですが、そのとき開発のプログラマーさんたちと一緒にプレイしていたんです。「これはどういう仕組みで動いているのか?」とか、「サーバーとクライアントは、どういった意図でプログラムが分けられているのか」とか、質問攻めにしていました。

 チートされる原因などもゲームをしながらプログラマーに解説をしてもらい、僕がハドソンを退職する直前には、実際には世に出ませんでしたがプレイステーション2(以下、PS2)のテストキットでネットワークゲームを作っていたんです。ハドソンを退社した後もオンラインを使ったゲームの開発は、ちょこちょこやっていて。やがて僕は、『DQX』の4人目の初期開発メンバーとしてスクウェア・エニックスに入社。そういった知識や経験が事前にあったのもあり、その頃から、「もうMMORPGは任せておけ」みたいな空気でやっていました(笑)。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――それをうかがうと、やっぱりPS2初期の時代である2000年前後は、いろいろなゲームの開発者の方々がネットワークに目を向けていた時期なんですね。

吉田 実際『ウルティマ オンライン』の日本サーバーにいるのは、ほとんどがゲーム開発者か大学生、あるいはその家族で主婦の方が多かったのです。マジンシアという町の銀行の上が、ゲーム開発者のたまり場のようになっていました。当時はネットワークに興味がある開発者はかなり多かったでしょうね。

松井 私がプレイしたのは『EverQuest(エバークエスト)』(※1)のほうでしたけれど、テレホーダイ(※2)の時間以外は通信料がすごくて、ガクガクしていました。でもやめられない(笑)。

※1:1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMORPG。
※2:NTT東日本・西日本が1995年に開始した電話サービス。深夜23時~翌朝8時までは、特定の相手に対する通信が時間に関わらず一定料金となった。

吉田 テレホーダイの時間帯を待てず、日中に遊んでしまうと、日本から海外に重量課金状態で電話している状態になるので、6~7万円の電話代請求が来て……。当時、うちのオカンに、「ダイヤルQ2にハマってるんじゃないか?」と疑われて、泣かれましたよ……(苦笑)。

青山 その話はじめて聞きましたよ(笑)。

吉田 いくら説明しても通じないんですよ。「結局海外に電話してるんでしょ!」って(笑)。

3つのMMORPG、それぞれの黎明期

――今年2021年で『FFXI』は19周年、『DQX』は9周年、『FFXIV』が新生8周年(旧『FFXIV』からは11周年)になりますが。ここまで3本のMMORPGが成功し、運営が続いてきたことの感想をうかがえますでしょうか。

松井 僕はスクウェア(当時)に入社して30年くらいになるのですが、その中の20年は『FFXI』を作っていた形になります(笑)。ここまで続けてこられたのは、やはりお客様が支えてくれたおかげですね。日本では最初に経験したMMORPGが『FFXI』だったという人が多く、一度離れてもそういった方たちが戻って来て、そういう方たちに支えられている。それは最初にプレイした当時の熱量にもよるのかなと思います。

吉田 『FFXI』というゲーム自体の凄さもありますが、時代にもマッチしていて、あのときの熱量は独特なものがありましたよね。

松井 あの頃に積極的にオンラインゲームを遊ぼうとする人は、やはりある程度ネットワークへの意識が進んだ人たちが多く、そういう人たちをガッツリ取り込めたというのが大きかったと思います。

――たしかに『FFXI』の初期プレイヤーの方々は、チャットをしていてもネットリテラシーが高い方が多かった感じですね。

吉田 そういう意味ではプレイヤーの方々だけでなく、インターネットサービスプロバイダの皆さんがオンラインゲームに理解を示してくれるようになったのも、『FFXI』のおかげだった気がします。『FFXI』をきっかけに“ゲームを遊ぶ人がインターネットを使っている”ということを理解してもらえたんじゃないでしょうか。

青山 たしかに、そうかもしれないですね。「プロバイダの設定が変わったせいでプレイオンラインにつながらない」という問い合わせがたくさん来た結果、うちと各プロバイダさんのエンジニアで話し合って解決して……というケースがありました。最近はありがたいことに、プロバイダの設定でつながらなくなったというケースはあまり聞かないですね。

――次に『DQXオンライン』についてもお聞かせください。『FFXI』でMMORPGが浸透した後、今度は『DQ』をオンラインゲームにするにあたり、低年齢層も意識するなど、また違った苦労があったのではないでしょうか?

青山 そうですね。低年齢層もそうですし、もっと高い年齢層も意識しました。『DQ』シリーズはとにかくプレイヤー層が幅広いので、『DQXオンライン』の開発初期の頃は“『DQ』にするのか、MMORPGにするのか”が常に議論になっていましたね。その結果、『DQXオンライン』は「いままでの『DQ』と変わらない遊びかたにしよう」となり、私はそれでよかったと思っています。結果的に他のMMORPGとの住み分けもできていますし。

吉田DQVIII』の開発が終わって藤澤さん(藤澤仁氏。初代『DQXオンライン』ディレクター)が合流された際、「“MMORPG”ではなく“DQオンライン”をコンセプトにしよう」と徹底していたのを覚えています。例えば新生以降の『FFXIV』が“全世界のMMORPGの標準的な要素を全部入れる”ことを考えたのに対し、『DQXオンライン』はそれらの要素によって『DQ』らしさがなくなったり、UIが多すぎて恐怖感が出てしまったりするくらいなら、“いつもの『DQ』をそのままオンラインする”ということを、初期から決めていましたね。

青山 おなじみのコマンドウインドウなどもそうですね。

吉田 でもそこからさらに具体化するのが大変で……。バトルシステムも4案くらいあったと思います。それこそ『FF』シリーズのATBバーのようなUIも候補のひとつになっていたくらい。

青山 いままでの『DQ』であればリアルタイムではないのでゆっくり考えられたけれど、オンラインだとそれができないので、どうやって『DQ』らしさとリアルタイム要素を融合するかは悩みましたね。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――そんな苦労を経て、2012年に『DQXオンライン』がリリースされるわけですが、その約2年前の2010年9月に旧『FFXIV』のサービスが開始し、その年の12月に運営体制が刷新されます。そこで吉田さんが『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターになり、当時『FFXI』のディレクターに就任直後の松井さんが『FFXIV』のリードバトルプランナーに異動されましたが……。

吉田 いいえ、実際には僕より先に、松井さんがヘルプでチームに合流していましたよ。1カ月くらいの差でしかないですが。松井さんは旧『FFXIV』の開発自体にはノータッチでしたよね?

松井 ですね。

吉田 そして正式サービスが始まり、不出来から炎上があって……そこで、バトル周りをなんとかするために松井さんが合流し、僕は最後ですね。

松井 そこで「さあどうしよう」と考えたときに“新生”の話が立ち上がって……。

吉田 “新生”を決めますが、旧版も継続してアップデートするので、改めて役割を色々調整していくことになりましたね。松井さんは新生の方向性が決まるまでは、継続して旧版のバトルの立て直しを、髙井浩(氏。現『FFXVI』ディレクター)がVFXとグラフィックスのシステム周りを見る形になったわけです。

松井 旧『FFXIV』はいろいろな要素を入れようとしてわかりにくくなっていたので、バッサリ改造しようと考えました。敵視まわりをきっちり可視化してわかりやすくしたのもその一環ですね。

吉田 松井さんと権ちゃん(権代光俊氏。現『FFXIV』バトルセクション:マネージャー)とふたりで、まずは旧版の大改修をゴリゴリ進めてもらいましたね。ジョブもなかったので、ベースのバトルシステムを作り替えてから7ジョブを一気に足してもらいました。

――しかし改めて振り返ると、お三方それぞれが、これまでお互いの作品に細かく関わられてきたわけですね。そもそも現場スタッフ間でも、お互い交流があったりするのでしょうか?

吉田 定期的な情報交換こそやっていませんが、たとえば『FFXIV』には『DQXオンライン』や『FFXI』に関わっていたスタッフも多いので、各自で情報交換はしているみたいですね。

松井 『FFXI』と『DQXオンライン』の交流については、『DQXオンライン』の開発中に、青木さん(青木和彦氏。『DQX』ワールドプランナーチーフ。過去の『FF』シリーズスタッフでもある)から「ナイズル島(※)ってどうやって作っているの?」と聞かれたことがあり、でしたら現場同士で話ができるようにと、飲み会を何回かセッティングしたことがありましたね。『FFXI』と『FFXIV』については、そもそもかつての『FFXI』スタッフが『FFXIV』には多いので、個人的な交流はかなりあると思います。

※:『FFXI』のコンテンツのひとつである“アサルト”の「ナイズル島踏査指令」のこと。自動生成されるダンジョンで、ブロックごとに提示される作戦目標をクリアしていくのが目的。現在に至るまで人気コンテンツとなっている。

吉田 いまだと『FFXI』と『FFXIV』は同じ部署ですので、サーバーエンジニアリングは共通のスタッフで行っていますし、僕も『FFXI』がどういう動きをしているかなどは全部把握しています。

青山 『FFXIV』チームと『DQXオンライン』チームについては部署こそ異なりますが、じつは開発初期は両方のグラフィックデザインの設計を皆川さん(皆川裕史氏。『FFXIV』アートディレクター)が担当されていたんですよ。ですから共通のツールなども存在していたのですが、考えてみるとMMORPGをふたつ同時に担当されるって異常ですよね(苦笑)。しかもあのときは『FFXIII』と『FFXIV』と『FFXV』と『DQXオンライン』が並行で進んでいて……。

――その時代の『FFXI』は拡張コンテンツ『禁断の地アビセア』がスタートした頃でしょうか?

松井 『FFXIII』の発売タイミング(2009年)で言えばそうですが、『FFXIV』チームが最初に立ち上がったのは『プロマシアの呪縛(2004年)』の発売後の頃ですね。

吉田 すごいですよね。これらが全部同時進行していたって……。なかでもスタッフの調整が大変で、まずは発売が最も近かった、『FFXIII』にスタッフを集中しよう、と決まり、ようやくいろいろなものが流れ始めた。そんな中で旧『FFXIV』はある意味、最も貧乏クジを引いたといますか……。とにかく新しいスタッフや腕のいいスタッフが空くと、河本ちゃん(河本信昭氏。旧『FFXIV』ディレクター)が全社プランナーのマネジメントのトップだったこともあって、「自分のところは大丈夫だから」と他のタイトルへ人を回したのです。結果、旧『FFXIV』は、河本ちゃんを筆頭にプランナーがスクリプトをガリガリ書くというスタイルになり、結果は“新生エオルゼア”として作り直すことになるわけですが……。これは会社のいろいろな問題が噴出した結果であり、旧『FFXIV』チームだけが悪かったとは未だに思ってないです。

――3つのMMORPGを同時に運営するのもスゴイことですけれど、そもそも、ひとつのMMORPGを作り、さらにそれを作り直すこと自体が尋常じゃないですよね。

松井 それはそうだと思います。しかも旧『FFXIV』自体も、約2年間運営しつつでしたからね。

吉田 当時は調べれば調べるほど、“作り直したほうが圧倒的に早い”としか思いませんでしたが、もう1回やれと言われても無理だと思います。というかやりたくないですね(苦笑)。あれは怖いもの知らずだったからこそ、できたことだと思います。

松井 当時、現場での吉田さんは、「いいよ、俺が責任取るから好きなようにやれよ」というスタンスだったじゃないですか。だからやれたんだと思います。例えば旧『FFXIV』の改修が1回のパッチでは絶対に終わらないボリュームだとわかったときに、吉田さんが「じゃあ3回に分けていいよ」と言ってくれなければ、あそこまでの改修はできませんでした。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

吉田 その改修をしなければいけないことは、自分も含めて理解している。それを無理に1回で作ろうとしての結果が旧『FFXIV』だと思ったのです。自分の目で見て、実際にスケジュールやタスクを確認して、確かに、「その改修には3回のパッチが必要だ」と。プレイヤーの皆さんには申し訳ありませんが、物理的にそれしかないのであれば、それを着実にやるしかない。それにあたって、僕にとっても松井さんの存在が大きかったんです。当時のプレイヤーにとっては、僕はよくわからない吉田という開発者でしかない。仮に改修に時間かかりすぎて非難されたとしても、その責任は僕が取って、その後の開発の顔としては『FFXI』プレイヤーからの信頼の厚い、松井さんが表に出ればなんとかなると思ったんです。最終手段はそれでしたので、精神的に助けていただきました(笑)。

別作品のプロデューサーから見た『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』の魅力とは?

――ここからは、それぞれの作品に関してお互いに「ここはスゴイ!」「ここは自分の作品と違う」と感じることをお聞きしたいと思います。まずは『FFXI』に関して、吉田さんと青山さんにうかがってよろしいですか?

吉田 何度か他の機会でも語っていますが、『FFXI』の基幹システムは、言いかたが悪いですが、“気が狂っている”レベルでスゴイんです。当時のPS2自体が素晴らしいハードではありましたが、当然いまのハードとは比較になりません。そんななかで『FFXI』は、あの時代のプログラマーとデザイナーの“極限”であり、いまだにあれを超えられてない部分があると思うくらいです。いま見ても動いているのが信じられないくらい基礎システムがスゴすぎる。だからこそグラフィックについても、20年経ったとは思えないくらい独自の空気感を持っており、そこが衝撃的でした。

もうひとつは、ストーリードリブンであるというところですね。MMORPGはどうしても物語より、“広い世界を数千人で共有してみんなでロールプレイをする”ところが出発点になるのですが、そこで『FF』シリーズならではのストーリーにこだわった結果、『FFXI』は主軸にストーリーを持ち込んだ最初のMMORPGになりました。そこは本当に画期的で、それがあったからこそ『FFXIV』もストーリーに注力できていると思います。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

松井 当時はMMORPGの作りかたが確立していなくて、スタンドアローンのゲームを作るような作り方で大ボリュームのMMORPGを開発してしまった結果だと思います。もちろん技量のあるスタッフの皆さんが大勢いたのも大きく、さらにその皆さんがMMORPGだからといってストーリーやビジュアルに手を抜かず、「そこまでやるのか!」ってくらい必死に作っていたからでしょうね。ポリゴン数の制限があるなか、テクスチャーの描き込みだけで建物の質感を表現したりとか……本当に頭が下がります。

青山 吉田さんに語っていただいた内容以外で私が『FFXI』についてスゴイと思うのは、20周年を迎えようとしている現状でも、まだ更新が続いているというところですね。いまだにプレイヤーのみなさんがいるなか、サブスクリプション(一定金額)型のサービスとしてある程度放置するということをせず、定期的に更新を続けている。これからも継続していくことを考えると、本当にスゴイと思います。

――ではつぎに、松井さんと吉田さんから見た『DQXオンライン』はいかがですか?

松井 僕はWii版の初期しか遊んでいないのですが、たしかに『DQXオンライン』は“ドラゴンクエスト”でした。当時は機種がWiiのみでしたので、家族でPCなどを並べて遊ぶことができませんでしたが、それができていたらもっと続けていたかもしれません。キッズタイムというシステムや、自分のキャラクターを預けて他の冒険者が借りられるシステムなどを見て、こういうことこそ『FFXI』を10年やってきた僕らが気づくべきことだったんじゃないかと、悔しさも覚えましたね(笑)。ひとりでも遊べて、かつ緩やかにほかのプレイヤーとつながれる、こんないい方法があったのか、と。

吉田 自分は『DQXオンライン』の正式サービスが始まる前に、新しいIPを立ち上げるためにチームを離れ、さらにその後『FFXIV』へ……という流れだったのですが、正式サービスが開始してから見たときに、「やっぱりDQオンラインなんだな」と思ったのが、アップデートにおいても“ワンオフの遊びを作っている”ということでした。

『FFXIV』の場合は、とにかく『World of Warcraft (ワールド オブ ウォークラフト)』(以下、『WoW』。※)型のMMOを目指していたので、コンテンツの物量が必要でした。それを達成するために、“良い意味でのパターンや型を作って速度と物量をカバーし、一定数に達したら新しい型を作りコンテンツを横に広げていく”が基本です。でも、『DQXオンライン』の場合はパターン化できないワンオフの遊びを常に提供している。

※:アメリカのゲーム会社Blizzard Entertainmentが開発したMMO(多人数同時参加型オンライン)RPG。

 僕はオフライン側の『DQ』関連タイトルにも多少関わっていたのですが、振り返るとそれは『DQ』シリーズ全般で言えることかもしれません。例えば、いまは最新作として『DQXII』が発表されていますが、そこにはきっと『DQ』シリーズでありつつ『DQXII』ならではの遊びが入っていると思います。『DQXオンライン』も同じで、『DQ』のオンラインゲームであることにこだわりつつ、基本的にはコンテンツをゼロベースで企画している。それがスタッフに浸透しているんだなと、チームを離れてみて思いました。しっかりしたストーリーを届けているという部分では『FFXIV』にも通じるところがありますが、より『DQオンライン』というひとつの共通意識でまとまっているのが『DQXオンライン』だと思いますね。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

青山 そこは堀井さん(堀井雄二氏。『ドラゴンクエスト』の生みの親)の存在が大きいです。新しい企画も堀井さんが「うん」といえばOKですし、そこはわかりやすいですね。

――ちなみに、いま堀井さんはどういう形で関わられてるんですか?

青山 『DQ』関連タイトルが多いので、さすがにベッタリと見てもらうわけにはいかないのですが、要所要所で開発の提案に対して堀井さんの意見をうかがって作っています。

――ではつぎに『FFXIV』について、松井さん、青山さんにおうかがいします。

青山 『FFXIV』は参考として途中までプレイさせていただいたのですが、いちばん大きいと感じたのは“世界標準である”というところですね。あれは吉田さんの感覚で全部作っているのですか? それとも世界のMMORPG動向に詳しい方が揃っているのですか? 

吉田新生エオルゼア』のときの基本となるシステム概要書は、自分ひとりで……。「それが一番早いから全部書け」って言われて(苦笑)。そのときに書いた要素は、実際の『FFXIV』の雛形の70%くらいのボリュームだったと思います。それに対して『WoW』をプレイしていた先鋭スタッフも取り込み、彼らと権ちゃんを筆頭にして、僕の概要書を練り込んでくれ、さらに組み立てていった感じですね。

 これを作って行く過程で、“いつでも戻ってこられるし、いつでも追いつけるMMORPG”という骨格が見えてきたのです。そのためのゲームサイクルはその時点で完成していて、細かい調整はしているものの、現在でもベースは変えていないです。『FFXIV』チームにはMMORPGのエキスパートが多く、論理と設計に強い。その上で新型の遊びを作るときに、ある程度感覚が使われる、という感じです。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――その時点の最新のアラガントームストーン(※)をためることで最新の装備に更新できるというシステムなども、その時点から固まっていたのですね。

※:『FFXIV』のさまざまなコンテンツをクリアすることでたまるポイント。大型パッチ2つごとに新たなものに更新される。最新のポイントをためさえすれば現時点での最強性能に近い装備を入手することができ、新規・復帰プレイヤーも最前線のコンテンツに追いつきやすい。

吉田 そうですね。どのコンテンツで何がいくつ排出され、どのパッチで新たなものがアンロックされて次の装備を取れるかといった報酬表は、いまでもそのときのフォーマットが脈々と受け継がれています。

青山 相当考えて作られているな、というのは感じますね。

吉田 あとは“サイクル”をどれくらいの周期で考えるかですね。人の人生は、だいたい3年で大きく変わると思っているんです。日本だととくに中学3年間、高校3年間がサイクルになり、大学も4年制ではありつつ、就職を考えると3年くらいでライフスタイルが変わる。社会に出ても3年くらいで、仕事がおもしろくなる人、結婚して環境が変わる人などが出てきます。ですから3年サイクルでお客様が入れ替わっても、いまの時代はそれが当たり前だと思っています。それにあわせてどのように遊びのサイクルを考えるか、ですね。

青山 『FFXI』もそうですが、そのサイクルで全世界同時にリリースできているのが本当にスゴイですね。そのためには英語・フランス語などに翻訳する期間が必要だと思いますが『DQXオンライン』はグローバルではないぶん、その期間を設けてないので、それを考えると相当楽をしているなと(笑)。ちなみにローカライズについては、やはり『FFXI』で培った下地が大きいのでしょうか?

吉田 旧『FFXIV』自体、もともと『FFXI』チームの翻訳サイクルをそのまま持ってきていますので、僕が『FFXIV』を引き受けたときには、すでに翻訳チームのワークフローが出来上がっていました。それは言うまでもなく、『FFXI』の経験がとてつもなく大きいと思います。ちなみにいまの青山さんのお話を聞いて思いましたが、もし『DQXオンライン』がグローバル対応で全世界同時アップデートだったら、ワンオフじゃなかったかもしれませんね。翻訳期間を考えなければギリギリのギリギリまで作れるから……。

青山 まさにそうなんです(笑)。

吉田 翻訳がある場合、実際のデータの〆切はパッチのかなり前になります。と言いつつ、いつもローカライズにはギリギリをオーバーして、苦労を飲み込んでもらっていますが……。ですからローカライズの有無はアップデートのサイクルにかなり影響しますね。

青山 ギリギリまで作るとしても、お客様の反応を見てちょっと変えたりといった、調整レベルですけれどね。でもローカライズがあるとそれができなくなるなあと(笑)。

松井 たしかにテキスト系の締め切りは早いですね。さらにウチの場合、ローカライズチームは翻訳しているだけではありません。かつて『FFXI』で翻訳していて現在『FFXIV』にいるスタッフは、みんなゲーム自体が大好きで『FFXI』チームのときは日本のスタッフより先にローカライズチームがキャラクターやアイテムの名前を決めてくれたことがありました。「日本特有の言葉遊びをすると海外翻訳で困ってしまう」といったフィードバックをいただいたり、海外プレイヤーの反応も教えてくれたりして、まさに開発の重要なメンバーですね。

――とくに『FFXI』『FFXIV』の両方に関わられている方でいうと、マイケルさん(マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏。現『FFXIV』ローカライズスーパーバイザー)はスゴイですよね。『FFXI』時代からゲームに深く関わり、『FFXIV』では世界設定にも関わられている。さらにライブではドラムやボーカルで活躍され……。

吉田 コージと同じスペックの人はおそらくもういないですね。そういう意味では、ウチは特殊な人材が多すぎるかもしれません(笑)。

――ちょっと話が脱線してしまいましたが、松井さんから見た『FFXIV』はいかがですか?

松井 MMOの王道で、かつスクウェア・エニックスの看板を背負えるすごいカッコいいタイトルです。ちなみにゲーム内容についてではないのですが、コロナ禍の前に忘年会などで『FFXIV』のスタッフたちに会ったときに感じたこととして、みんな自信を持った顔になっているんですよね。たぶんみんな楽しく仕事をしていて、それが顔に出てきてるんじゃないかなと思います。

あと『FFXI』の初期はMMORPGのノウハウが少なく、コンシューマーゲーム感覚で開発していた部分も多かったため、いろいろな問題がありました。そこをきっちり改善して、確固たる理論のもとに成立させているところがすごく、羨ましく思っています。イチからもう一度MMORPGを作れといま言われたら、さすがにしんどいなとは思いますが『FFXIV』の調整を見ると「くそー、俺もがんばらないと」といった気持ちになりますね。

吉田 いまおっしゃった理論のひとつがジョブですね。『FFXI』もそうですが、ひとりのキャラですべてのジョブがプレイできるのは、じつはほかのMMORPGと比べると特殊です。だからこそ、新生にあたってそこを“反撃ののろし”に使っていこうと考えました。結果的に『FFXIV』は、ひとつのコンテンツに対してクリアのパターンをあえて少なくし、“メカニクスと戦う”デザインにしています。そのメカニクスに対して、ジョブごとに異なる要素を使って遊ぶというところが、『FFXIV』の重要なポイントですね。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

お互いのプレイヤーも体験してほしい3つのMMORPGの“今”

――ここで、それぞれのタイトルの最新のお話もお聞かせください。まず『DQXオンライン』は11月11日にバージョン6である『ドラゴンクエストX 天星の英雄たち オンライン』が発売されますが、こちらの見どころを教えてください。

青山 『FFXI』や『FFXIV』もそうだと思いますが、まず皆さんが注目しているところはメインストーリーだと思いますので、それを新たな場所で楽しんでいただきたいと思います。バージョン1から登場しているキャラクターもそうですし、これまで名前だけ登場していたキャラクターもバージョン6で出てくるので、ぜひ楽しみにお待ちください。

――“天界”に関しては、これまでも天界が舞台だった『DQIX』とのつながりを思わせる展開がありました。今回はその関係性がさらに見えてくるストーリーということでしょうか?

青山 これに関して言うと、どういった形で触れていくべきか悩んでいたんです。そうしたら、7月に放送した番組内で堀井さんからつながりをほのめかす発言が出てしまって(笑)。実際につながりがあるのか、関連性のあるストーリーなのかはノーコメントですが、冒険者の皆様には想像を膨らませながら楽しんでいただきたいと思います。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――新職業の海賊、新コンテンツの源世庫(げんせいこ)パニガルムについて魅力をお聞かせください。

青山 海賊に関しては、大砲を設置する、いままでの『DQ』にはないタイプの職業です。

――てっきり『DQVII』の海賊のイメージかと思ったのですが、ちょっと異なりますね。

青山 『DQXオンライン』オリジナルの海賊になります。もちろん呪文なども持ってはいますが、基本は大砲を設置して遠距離物理攻撃をするという強力なアタッカーになっていますので、それを楽しんでもらえればなと思っています。

――パニガルムについてはどのようなコンテンツになるのでしょう。

青山 これまでの『DQX』のバトル人数は最大8人だったんですが、このパニガルムでは12人でバトルできるようになりました。いまの『DQXオンライン』の8人バトルコンテンツとしてはアストルティア防衛軍や邪神の宮殿があり、それなりに強い敵が登場するものの、オートマッチングで気軽に楽しめるバランスになっています。今回のパニガルムもそれくらいの難度でワイワイ楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。

――つぎは『FFXI』についておうかがいします。いまは来年5月の20周年に向けてさまざまな動きがありますが、最も注目なのは昨年から始まった新たなストーリー『蝕世のエンブリオ』だと思います。その見どころと、今後どう展開していくのかをお聞かせください。

松井 『FFXI』には20年ぶんの物語の蓄積がありますが、そこに出てくる登場人物たちの語られていなかった部分を少しずつ語っていこうというのが『蝕世のエンブリオ』の横糸になります。それ対して、たびたびキーワードとして登場している“謎のタマゴ”や“怪しい3人組が持っている黒い剣”の謎が縦糸となって、物語が核心に向かって紡がれていく形になります。さらにその物語がやがて高レベル向けのバトルコンテンツへの入口にもなっていきますので、ぜひそれに向けて物語を進めて楽しんでいただけたらと思います。

――現在公開されている部分だけでも、三国やアトルガン皇国を巡って懐かしいキャラクターに会ったりすることで、ヴァナ・ディールの物語を追体験しているような感じになりますよね。過去に『FFXI』をプレイしていた人たちにはぜひ見てほしい内容だと思います。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

松井 その物語を楽しんでいただくためにも『蝕世のエンブリオ』の開始条件としては、さまざまなミッションの物語や『ヴァナ・ディールの星唄』のクリアが必要になっています。とはいえ、いまはレベル上げがすごく簡単になっていますし、レベルを上げさえすれば物語を追うことも容易になっているので、未クリアの方はぜひ順を追って物語を体験していただき、そのうえで『蝕世のエンブリオ』を楽しんでいただければと思います。

――いまの『FFXI』は、いわゆるエンドコンテンツ的なものでなければ、オフライン感覚のソロプレイで物語を体験できますよね。

松井 初期の頃に『FFXI』を離れてしまった方はわからないかもしれませんが、現在はさまざまなNPCを呼び出し、自分+NPCで簡単にフルパーティ並の戦力で冒険ができるようになっているので、基本的にはひとりでいろいろなものを遊べるようになっています。

――ひとまず“物語だけでも全部体験したい”と思えば、すぐにできると。

松井 『FFXIV』もそうですが、物語に関しては我々のウリではあるので、ぜひそこは楽しんでいただけたらなと思います。

――ではつぎに、11月23日に発売される『ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ』の見どころをお聞かせください。

吉田 すでに明言していますが、『暁月のフィナーレ』では、 “ハイデリン・ゾディアーク編”と呼んでいる旧『FFXIV』から始まった物語がクライマックスを迎えます。もちろん『FFXIV』自体が終わってしまうわけではないので、そう受け取られてしまうリスクも考えて悩みはしました。ただ“出し惜しみをしない”というのも『FFXIV』のチャレンジのひとつだと思っていまして。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

 人気のドラマや漫画が、事情があって引き延ばしに入ったときって、やはりわかってしまう。であれば、これまでの物語の伏線や謎をすべて出し切るからこそ、またつぎの新しい物語を書きやすくなるだろうと。これまで積み上げてきたからこその物語が体験できると思いますので、ぜひそこに注目していただきたいです。それと同時に拡張パッケージとして、リーパーと賢者というふたつの新ジョブが登場しますし、ベースシステムにも細かく手を入れています。例えば帯防具をなくして、武器や指輪の所持枠を増やしたりなどですね。

――物語がどのような“フィナーレ”を迎えるのか、いまから楽しみです。

吉田 もちろん先程もお話しした通り、これからも『FFXIV』は続きますし、もうちょっとしたら“次の10年”についてもお話しする機会を作ろうと思っています。ですがまずは、“ハイデリン・ゾディアーク編”のラストの衝撃を、ぜひ世界中の皆さんと一緒に味わってもらいたいですね。そのうえで、“このつぎはどうなっていくんだろう”というワクワク感まで、今回の『暁月のフィナーレ』でお届けできればと思っています。

――ひとつの物語を最後まで体験できるという意味では、休止しているプレイヤーはもちろん、未体験のプレイヤーにもぜひ体験してほしいところですね。

吉田 現在、本当にたくさんの新規プレイヤーがいらっしゃるので、せっかくですからお祭りだと思って入ってきてほしいです。そして『FFXI』『DQXオンライン』『FFXIV』が20周年、9周年、8周年と長期運営できているからこそ、お互いのプレイヤーの皆さんも、自分のプレイしているタイトルのパッチや拡張が落ち着いたらでいいので、ぜひほかのタイトルを覗いていただければと思います。それぞれフリートライアルや無料体験版もありますし。

――どうしても「オンラインはちょっと……」という人は一定数いると思いますが、3タイトルとも『DQ』ファンや『FF』ファンであれば絶対体験しておいたほうがいい物語があふれていると思うので、いちプレイヤーとしてもそう思いますね。

吉田 今日のインタビューで、それぞれのタイトルの“切り口の違うおもしろさ”は、ある程度お伝えできたかなと思います。

――本来であれば『FFXIV』は拡張パッケージ前の落ち着いた時期ですが、ここまで新規プレイヤーが増えているのは、フリートライアルの影響が大きいのでしょうか?

吉田 うーん、それだけではないとは思うのですが。

――吉田さんから見ても想定外なんでしょうか?

吉田 結果については分析できますが、理由についてはちょっとわからないです。ひとつ言えるのは『FFXIV』だけでなくゲーム全般として、“発売日が関係なくなってきている”と感じています。自分の友だちやコミュニティのあいだで盛り上がっているときが始めどきであって、発売が古い・新しいは、特にオンラインゲームの場合、あまり関係なくなってきていますね。“いつそのきっかけがくるか”がポイントです。でもそれを予測するのは本当に難しく、ファンフェスティバルや配信番組などで、いかにそういう空気や環境を作っていくのかが、また新しい挑戦となりそうですね。

これからのMMORPGの形とは?

――話は変わりますが、かつてソーシャルゲームが台頭してきたときに、「今後サブスクリプションのMMORPGは時代にそぐわなくなる」という意見が多く見受けられました。しかしそれから現在に至り、再びMMORPGへの注目度がアップしている印象があります。そんな中、これからのMMORPGはどうあるべきだとお考えですか?

青山 F2P(フリー・トゥ・プレイ)のソーシャルゲームの売上は実際高いと思うのですが、それに対して月額のMMORPGには“安定したコミュニティの中でゆっくり過ごせる”という安心感があると思います。それが今の時代に再びマッチしてきているのではないでしょうか。一定の金額が必要だとしても、ソーシャルゲームのガチャを引く金額に比べたら安いですからね。例えば『DQXオンライン』の場合、我々としては“ドラゴンクエストの遊園地”として『DQ』ファンの皆さんに場所を提供しているイメージですが、そういったことが今までも、これからもMMORPGにとっては重要なのかなと思っています。

松井 僕にとってプレイヤー視点でのMMORPGは、 “膨大なボリュームがありつつ、リセットがきかない要素を真剣に遊ぶゲーム”だと思っていました。そして作る側に回ってみると、やはりボリュームの多さが大変だと実感しています。ですので、軽い気持ちでMMORPGを作ってサービスするのは、今後も厳しいとは思っています。さらにMMORPGは遊ぶ方にとってもすごく時間を費やすゲームなので、安定したクオリティで続けていくということの保証をしてあげないと、お客さんが怖がってしまう。ですのでまずやらなければいけないのは、“将来的にこのゲームは安定して発展・継続していく”ということをアピールしつつ、月々のパッチでそれを証明していくことかと思います。それが大事なのは昔から変わりませんね。

――結果的にそうやって『FFXI』が継続しているからこそ、約20年のあいだプレイヤーの“帰る場所”であり続けているのかもしれませんね。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

松井 『FFXI』は『FFXI』なりに継続してコストをかけて作っているので、それは大事ですね。初期投資したぶんをバーッと回収したら終わり、というやり方だとしんどいでしょう。

吉田 F2Pのゲームの「マイクロトランザクション(アイテム課金型)」というのは、“プレイヤーがやったことや、いまやることに対して課金をする”ということで、いわば瞬間的な物々交換だと思うんです。だからわかりやすいし、納得が得られやすい。それに対して「サブスクリプション」のMMORPGは、「これから1カ月、どの程度遊ぶかどうかわからないのに定額料金を払うのか?」という部分がネックです。ですがいまは、そこが安心感につながってきている。通信サービスや動画配信サービスもそうですが、“これだけのボリュームが保証されている”ということさえわかれば、むしろ定額のほうが安心だと。ですので、この二つは良し悪しではなく、サービスの違い、ですね。流行はもちろんありますが。

――いまの流れはそうなっていますね。

吉田 もしかしたら新しいビジネスモデルが出ることで、また流行り廃りは変わっていくかもしれません。でもMMORPGの“人と世界を共有する”ことの魅力は廃れないだろうと思っています。変わるとしたら、ここから先は別の方向性に2極化するかもしれませんね。

――具体的にはどのような方向性でしょうか?

吉田 ひとつは、すごく濃密なコミュニティを作って“人との共有が世界を成り立たせる”タイプです。例えばサンドボックス型で、かつPvPやPKもあって、かつ“Time to Win”とは違う形でそこにしかない体験が揃っている、といったイメージですね。可能性はすごくあると思っています。ただし、おそらくプレイ人口が数百万までいかないと思うので、マイクロトランザクションでないと成り立たない可能性が高い。ARPPU(ひとりあたりの課金額)が高い人たちに支えてもらいつつ、でも唯一無二の体験ができるという形ですね。

もうひとつは『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』と同様に、世界をみんなで共有しつつ、でもつながりは薄くていいというタイプです。みんなが思い思いのことをプレイする中で、自分は自分で好きなことをやっている。でもほのかに世界が共有されていて、それが気持ちいい。それが先程の安心感にもなっているのではないでしょうか。

――いずれの方向もオンラインゲームとしての可能性がありそうですね。

吉田 でも、そろそろオンラインゲームという単語も消えてしまうのではないかと思います。なぜなら、すべてのゲームがオンラインになってしまうからです。つぎは“MMORPG”というジャンル名も、だれか変えてほしいですね。未経験の人にとっては、それだけでちょっと警戒心が働いてしまうと思うんですよ。“みんなで遊ぶRPG”とかに変えてほしいです(笑)。

――(笑)

吉田 事実、名称を変えてもいい段階まで来ていると思うんです。改めて、3本のMMORPGのいずれも長いあいだ運営できているのは、各ゲームのプレイヤーの皆さん、コミュニティの皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。

『DQXオンライン』『FFXI』『FFXIV』インタビュー

――最後に青山さん、松井さんからもメッセージをお願いいたします。

青山 隣に20周年になろうとする『FFXI』のプロデューサーがいるのでアレですけど(笑)、『DQXオンライン』は来年10周年を迎えます。開発初期に、たぶん前任のプロデューサーの齊藤陽介が「10年は続けたい」と言っていたと思うのですが、実際に『DQ』がオンラインになったときに、どのくらい遊んでもらえるかは未知数でした。でもお客様に支えられてここまで来ることができましたので、来年の10周年は派手に大きく盛り上げていきたいと考えています。ぜひ今後も楽しみにしてください。

松井 『FFXI』については現在展開している『蝕世のエンブリオ』の前に、『ヴァナ・ディールの星唄』でいったん物語が完結しています。ですが、やはり物語がない世界は寂しいなと考え、『蝕世のエンブリオ』を立ち上げました。こちらは来年の20周年にかけて完結する予定です。すごくいい話で、コンテンツとしても皆さんを満足させられる出来になっていくと思いますので、いま休止されている方には戻ってきていただきたいです。いま遊ばれている方は、ぜひ引き続きよろしくお願いします。

そして、かつて遊んでいたけれどちょっと離れているという方も、エミネンス・レコードというクエストをこなすことでリハビリができるようになっていますので、ぜひ復帰を検討していただけたらと思います。また、ゲーム外では”WE ARE VANA'DIEL"という特設サイトを、20周年のカウントダウンとして立ち上げました。こちらはいままでの『FFXI』の集大成的なサイトになりつつあるので、そちらのほうも見ていただいて、Twitter等でコメントを発信して皆さんで盛り上げていただけたら幸いです。