2021年9月30日に、MossmouthよりNintendo Switch、プレイステーション4、PC向けに『Spelunky 2』(スペランキー2)が発売された。同作は、2008年にリリースされた『Spelunky』の続編。前作の15年後の月を舞台に、『Spelunky』の主人公の娘であるアナが、行方不明になってしまった両親を助けるために、ペットとともに自動生成されるダンジョンに挑むことになる。シングルプレイモードに加えて、最大4人までの協力プレイ、オンラインによる対戦マルチプレイにも対応している。

 ここでは、『Spelunky』と言えばこの人!のデレク・ユー氏に、『Spelunky 2』開発の経緯などを聞いた。

『Spelunky 2』ニンテンドーeショップサイト 『Spelunky 2』PS Storeサイト
『Spelunky 2』が生まれた経緯をデレク・リー氏に聞く。「自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をしてもらいたい」

デレク・ユー氏

『Spelunky』、『Spelunky 2』 を開発。ビジュアル アーティスト兼ゲームデザイナー

『Spelunky』は依然として可能性を秘めた特異なゲームだと思った

――『Spelunky 2』を開発するにいたった経緯をお教えください。

デレク1作目の『Spelunky』をリリースした後に、ゲームの開発について本を書きました。

 そのあいだに、『Spelunky』のゲームデザインに関していろいろと考えて、このコンセプトでもっとやれることがあるのでは、と感じました。ローグライクというジャンルはとても人気が出て、いろいろなおもしろいアイデアが模索されましたが、それでも『Spelunky』は依然として可能性を秘めた特異なゲームだと思ったんです。

 たとえば、ローグライクなゲームの中でも、『Spelunky』ほどに破壊可能なマップにフォーカスした作品は多くありません。『Spelunky』において、マップ生成は、爆弾やツルハシで自分の道を切り開けるという事実を前提にしています。そのようなアイデアを膨らませていくことに興奮しました。

――本作は、BlitWorksとの共同開発となっておりますが、同社と共同開発をするにいたった経緯を教えてください。

デレクBlitWorksは、『Spelunky 2』の開発にあたって、私が唯一共同開発者として選んだ開発チームです。このチームは、『Spelunky』のPS3への移植にあたってすばらしい働きをしてくれましたし、オンラインのマルチプレイや動的な流体力学などの本作に登場する技術的に困難な要素についても、実装した経験があることも知っていました。また、自分にとっては、移植作業をともに行ったときにとてもいい関係が築けたという点も重要でした。私はアメリカにいて、彼らはスペインですが、彼らと仕事するのはとてもやりやすいんです!  だから、『Spelunky 2』で再びコラボすることに同意してくれて、とてもうれしかったですね。

――MossmouthとBlitWorksとの開発における役割分担はどのようなものになっていますか?

デレク役割分担という意味では、BlitWorksはプログラミングを担当し、私はゲームのディレクション、レベルデザインとアートワークを担当しました。前作の作曲家、エーリク・スールケが今回も音楽を担当してくれましたし、ゲーム内の日記を描くのにはジャスティン・チャンを起用しました。また、BlitWorksと緊密に活動しているスペインの会社、Lollipop Robotがゲームのデバッグを手伝ってくれています。

『Spelunky 2』が生まれた経緯をデレク・リー氏に聞く。「自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をしてもらいたい」

――『Spelunky 2』を開発するにあたって注力したポイントをお教えください。『Spelunky』の好評ぶりを受けて、とくに進化させたいと思ったポイントは何ですか?

デレク何より、ゲームシステムと世界観を拡大することでした。たとえば、「1作目のランダムなレベル生成の上に、もっとダイナミックで進むのが楽しくなるようなマップを作るにはどうすればよいか?」「いかにして、生きている、息づかいを感じるような空間にするにはどうすればいいいか?」「 キャラクターたちを、より興味深く結びつけるにはどうすればよいか?」といったところです。『Spelunky』は、プレイヤーがゲームの世界と触れあうことで、自分自身のストーリーを作るというゲームですから、私たちがゲームをより深いものに仕上げることができれば、プレイヤーの皆さんがプレイを通じて作るストーリーもまた、深いものになります。

――『Spelunky 2』でもトライ&エラーをくり返すことが醍醐味となるわけですが、死なせるという点において、注力したポイントやこだわったポイントなどありましたら、教えてください。

デレクほかのローグライクなゲームでは、死ぬことのもどかしさを、時間とともにキャラクターをアップグレードさせることで取り除こうとしています。『Spelunky』では、プレイヤーキャラクターは強くはなりません。何度遊んでも、ひとつの過ちが死を招くことに変わりないのです。究極的には、成功というのは、知識とスキルと忍耐の結果であると理解し、自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をプレイヤーにしてもらうのがゴールです。ただ、キャラクターの永続するアップグレードには頼れないため、ほかの方法で、死に対するもどかしさを、とくに新規のプレイヤーに対して下げる必要がありました。

 いくつかあるうちのひとつは、その回のプレイのサマリーをつけたことです。たとえ死んでしまったとしても、その過程で創り上げたストーリーを誇りに思うべきでしょう。それからこのゲームでリラックスできるハブとなる場所、ベースキャンプは、ゲームを進めるうちに拡大が可能なのですが、これは『Spelunky 2』ではかなり大きくなっています。

――今回配信されるNintendo Switch版は、海外では先行して配信されているPS4版やSteam版に比べて変化している点などありますか?

デレクNintendo Switch版の『Spelunky 2』は配信開始時点で、海外で先行して配信されているSteam版やPS4版にはない要素が加えてあります。たとえば、ゲーム内の実績チェックリストや、オンラインで友だちとアリーナモードで対戦できる点などです(これらの機能は、Steam版やPS4版にも追って加えられる予定です)。

 ほかにもSwitch版では、複数のSwitch本体を使ったローカルでのマルチプレイの実装に取り組んでいます。もちろん、前作も今作も携帯モードでプレイするにはピッタリの作品なので、Switchならではの携帯性を存分に活かしたいと思います!

『Spelunky 2』が生まれた経緯をデレク・リー氏に聞く。「自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をしてもらいたい」

じつは『スペランカー』は子どものころに数回遊んだだけ

――本作は、『スペランカー』にインスパイアを受けて開発されたタイトルであるとお聞きしています。改めてのご質問となりますが、せっかくの機会なのでお聞かせください。『スペランカー』のどのような点に刺激を受けて、『Spelunky』を開発されたのでしょうか。『Spelunky』シリーズにおいて、もっとも『スペランカー』が感じられるポイントは?

デレク驚く読者さんもいるかもしれませんが、私自身の直接的な『スペランカー』体験というのは、子どものころに友だちの家で数回遊んだだけなんですよ!  遊んだ時間はほんの少しでしたが、とてもポジティブな印象を持ちました。本当のことを言うと、当初、ケービング(英語で言う洞窟探検の意味)をテーマとして選んだのは、洞窟はランダム生成しやすく、またロープ、爆弾、ツルハシなど、洞窟を進んでいくために使用するお決まりのツールがあるからです。ふたつのゲームに、たとえばコウモリ、カギ、宝など類似する要素があるのは、共通して洞窟探検と80年代のアーケードゲームへの愛があるからだと思います。

 『Spelunky』でプレイヤーを追いかけ回す幽霊でさえ、じつは『バブルボブル』のすかるもんすたに影響を受けたものなのです。でも、『スペランカー』を理解しようとしたり、ゲーム特有の難しさを克服しようと腐心したりするのは楽しかったです。ほんの少しゲームが進展しただけでも得意満面になれる、という点には影響を受けていますね。

――『Spelunky』シリーズは、ゲームファンのあいだで確固とした評価を獲得していますが、どの点がとくに評価されたのだと自己分析されていますか?

デレク『Spelunky』のファンは、ゲームのインタラクティブ性を評価してくれているんじゃないでしょうか。本作では、キャラクター、アイテム、周囲の状況がさまざまな形で互いに作用し合っています。そのインタラクティブ性によって、あっと驚くような状況がいろいろな場面で生まれ、その回のプレイをどのように進めるのかを、プレイヤーがとてもクリエイティブに選択できるんです。

 プレイヤーがゲームプレイを理解し始める最初の段階では、死ぬことにとても緊張感を持つかもしれません。とくに、進捗が遅い場合はなおさらにそうでしょう。そして経験を積むにつれ、ゲームシステムの上であれこれ試すことが、このゲームの醍醐味だということに気がつくんです。死ねばすべてを失ってしまいますが、毎回のプレイは比較的短いため、少しずつ知識を蓄積してすぐ再挑戦できます。だから、ある意味『Spelunky』とは、みずからの行動によって生じる結果を認識することを、ゆっくり学んでいくゲームだと言えるでしょう。

『Spelunky 2』が生まれた経緯をデレク・リー氏に聞く。「自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をしてもらいたい」

――今回『Spelunky 2』の配信に合わせて『Spelunky』の日本語版もリリースされます。日本語化されることに対する率直なご感想をお教えください。

デレクとてもわくわくしています!  アーティストとデザイナーとして、日本のゲームは私に多大な影響を与えていますので、本シリーズを日本でリリースするのは、私にとって大きな出来事です。

 これはつねづね私が感じることなのですが、ゲームに没頭すると、時と場所を超えて、ほかのプレイヤーやゲームクリエーターの方々と会話をしているような気持ちになります。同じように日本のプレイヤーの皆さんも、『Spelunky』シリーズをプレイすることで、私や本作に携わった人たちについて学んだように感じてもらえたらうれしいです。願わくば、皆さん自身についても何か学べるといいですね。

――日本語ローカライズを担当するのは、ローカライズのクオリティーの高さで名高いハチノヨンなのですが、ハチノヨンにローカライズをお願いするにいたった経緯を教えてください。また、ローカライズ作業にあたって、ハチノヨンとのやり取りのなかで、印象的なエピソードなどありましたら、教えてください。

デレクハチノヨンが質の高い日本語ローカライズに尽力することを聞いていたので、同社のジョン・リカーディからコラボレーションについて持ちかけられたときに「イエス」と言うのは簡単でした。日本語への翻訳を手助けしたいと思うほど、本作を気にかけてくれたことがうれしいです。

 的確な翻訳とするために、ハチノヨンはおもしろい質問をしてきたことがありました。たとえば、『Spelunky 2』にEarという名前のショップのオーナーが登場するのですが、Earは英語では、音を聞くための身体の部位のことです。でもじつはこの名前、もともとEarlのつもりが脱字の結果そうなってしまったんです。ところが、それが英語圏のプレイヤーのあいだで愛されキャラになったため、そのままゲームに残し、リリース後には大きな耳までつけてあげました。ハチノヨンからは、このキャラクター名が文字通り身体の部位と同じ発音なのか、わざわざ確認があったのがおもしろかったです。名前の由来を説明したことも楽しい思い出です。

――最後に、Nintendo Switch版『Spelunky 2』に興味を持っている日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

デレクこの度やっと、本シリーズを日本のプレイヤーの皆さんに、ちゃんとした形で提供できて本当にうれしく思います。楽しんでいただけますように!  ゲームの感想もぜひお聞かせください。皆さんの『Spelunky』の物語は、大胆な脱出劇か、笑える事故か、はたまた、あっと驚くような筋書きとなるでしょうか? その物語を、我々にもシェアしてください。お待ちしています!

『Spelunky 2』が生まれた経緯をデレク・リー氏に聞く。「自分自身の技術の向上によって深い満足感を得る経験をしてもらいたい」

※[2021年10月4日19時20分]タイトルの人名表記に誤りがありました。お詫びして訂正します。