SF的な雰囲気で幕を開ける壮大なストーリー。その中で描かれる親子の確執。『スター・ウォーズ』ではない。PC用MMORPG『ELYON(エリオン)』の話だ。
2021年9月24日から9月27日にかけてプレオープンテストが開催。レベル40前後のID(インスタンスダンジョン)やRvR(勢力間の大規模な戦い)など、さまざまな遊びを体験できた。
とはいえ、“コンテンツが多い”、“システムが充実している”などは、最近のMMORPGでは当たり前の売り文句。システムがよくできていても、それを体験できるところまで進めてもらわなかったら意味がない。プレイヤーのモチベーション維持は大切だ。
筆者にとっては、それが“物語”だった。先が気になって仕方なくなるストーリーがそこにあった。
壮大な物語をウリにしたゲームは少なくないが、壮大すぎるあまり、ときとして他人事のように感じてしまう。
ところが、『ELYON』は少し違った。ゲームを始めると、SFやスペースオペラ的な雰囲気の中で大事件に巻き込まれる。これがチュートリアルだ。操作を覚えつつ進めていくと、今度はファンタジー風の大地に降り立つことに。そこで出会った一組の親子の関係は、良好とは言えないようだった――。
壮大なようでいて、目の前で描かれるのは“親子の確執”である。お互いを思いやりながらも微妙に意見が食い違い、主人公(プレイヤーキャラ)を介してコミュニケーションを取るようなシーンもあった。
自分自身も物事の当事者として関わっているようで、だがその先に運命的な何かが待ち受けているような感覚がある。「壮大すぎて置いてけぼりにされる」といった、ありがちなガッカリを感じなかったのだ。
SF、スペースオペラ、親子の確執。あれ、これもしかして『スター・ウォーズ』的なのでは……?
そう気づいた筆者が物語に引き込まれるのに時間はかからなかった。
ファンタジー風のキャラでSF風の世界へ
まずは本作の導入部分と、その不思議な世界観について解説していこう。キャラクターメイキングでは5クラス(※)、4種族から男女を自由に選んで作成できた。
クラスごとに種族や性別の制限があるMMORPGは多い。そんな中で、キャラクターに自己投影しやすいのはありがたい。
※クラス:すでに発表済みの“スレイヤー”は未実装だった。
プレオープンテストで選択できたクラスについて、簡単に解説すると以下のとおり。筆者は今回、おもに“エレメンタリスト”を使ってプレイした。
- ウォーロード
- 防御に秀でた前衛クラス。敵を引き付けて一気にせん滅することもでき、攻防ともに安定したパーティーの壁役。
- エレメンタリスト
- 氷や炎といった属性の魔法を駆使する後衛クラス。範囲攻撃を多く持ち、高い火力で敵をなぎ倒す。
- ミスティック
- 自然の力を借り、攻撃や回復などを多岐に渡り行なう後衛クラス。支援クラスでありながら、単独でも十分な戦闘能力を持つ。
- アサシン
- 近距離と遠距離を切り替えつつ、素早く立ち回る前衛クラス。敵の不意を突いて、致命的な打撃を与えていく。
- ガンナー
- 銃器や爆発物を駆使して戦う後衛クラス。機動力を活かして跳び回りつつ、地雷などの罠も設置可能。
種族は人間、エルフ、亜人、オークの4種類。亜人のかわいさについつい目が行きがちだが、客観的に見ると王道のファンタジーらしい顔ぶれだ。クラスも、ファンタジーらしいものが揃っていると言えるだろう。
だが、前述したように、いざゲームを始めてみるとファンタジーというよりSFめいた光景が目の前に広がるのだ。
新天地を求めて旅立った方舟“インベントゥス”は、旅の過程で機械生命体“黒の使徒”の襲撃を受ける。大ピンチの中、船内で眠っていた主人公が目覚める……のだが。
どう見てもファンタジーの目覚めかたではない。完全にSFだ。
チュートリアルを含む導入部分(インベントゥス内部)からして、筆者は本作の世界にかなり引き込まれた。ファンタジーかと思いきやSF。その後で戦闘に突入すると、エレメンタリストである筆者のキャラはしっかりと魔法使いのような攻撃を放つ。敵は機械なのに。
ましてや本作は、ノンターゲティング形式で自由に動き回れるアクションRPGだ。魔法使いらしく立ち回る主人公に対し、いかにも機械的な武骨な動きで迫り来る敵。この組み合わせには、不思議と惹かれるものがある。
いわゆる“スペースオペラ”と称される作品群の、科学が発展し宇宙で暮らす時代でありながら魔法のような不思議な力が実在する世界観。この世界観に浸るだけでも、筆者としてはワクワクが止まらなかった。
チュートリアルのラストシーンはインベントゥス攻防戦の真っただ中。主人公は事故で開いたゲートに吸い込まれてしまう。そして、別次元と思われる世界“ハース”へと漂着する。
筆者が選んだ勢力“オンタリー”の物語では、女性の下級騎士カルメンがその落下現場に駆けつけ、主人公は彼女に同行することになった。
スペースオペラのような世界で光る人間ドラマ
降り立ったのは、インベントゥスのことを誰も知らない、しかも文明レベルが高いとは言えない世界。主人公はこの世界からインベントゥスに戻る手段を求め、騎士たちのお世話になりつつ、自らも力を貸していくことになる。
展開としては王道だ。この王道展開に加えて、若く未熟で無鉄砲な女性騎士カルメンと、その父であり現地では英雄として讃えられるデルガドとの確執という、人間ドラマも展開していく。
世界観の壮大さに対して物語の規模が小さく感じるかも知れないが、筆者としてはこれでいいと感じている。主人公が世界の危機や真実に関わっていくRPGは多いが、ことMMORPGにおいてはそれが合わないこともあるだろう。
MMORPGはその世界の一員になるジャンルだ。主人公は特別な存在というより、一介の兵士のような立場に近いと思う。レベル20~30程度のキャラクターがいきなり世界を救うことはできないし、期待をかけられるのも違和感がある。身近な人々を救いつつ、世界を回す歯車のひとつとして存在できるほうが、ゲームに没入しやすい。
スペースオペラ的な導入に、神秘的な魔法の力が存在する世界観、親子の確執をもとに描かれるヒューマンドラマ。これらを総合してやや大雑把に“『スター・ウォーズ』的な”と評したが、物語が『スター・ウォーズ』に似ているわけではない。
ただ、そういった大作映画を観ているような驚きは味わえると思う。謎めいた単語や設定に心躍らせていたら、まさにSFとファンタジーを融合させたロボット兵器“魔甲機”が登場。乗り回して大暴れするのは何とも爽快だ。
丁寧でバランスのいい演出
ストーリーをぶつ切りにしない演出も好印象。装備の強化などのようなチュートリアル要素が急に解説ウィンドウで出てきたりするのではなく、物語の流れに無理なく組み込まれている。
カルメンが「これから行く場所では(強化が)必要になるだろうから教わってきなさい」といった感じで誘導してくれるので、やる気がふつふつと湧いてくる。
ストーリーへのモチベーションが、ゲームをより楽しむための鍵になる場面もあった。今回のプレオープンテストでは、レベルが30台に乗ったくらいからレベルアップの速度がダウン。レベリングの労力が格段に増えるのだが、そのときの気分をストーリーが支えてくれたのだ。
本作ではレベル40になるとパーティー用のIDなどへ行けるようになり、一気にキャラクター強化が楽しくなる。だが、ここまでのレベリングを面倒に感じ、レベル40になかなか到達できない人も多くなるのではとも思えた。
このレベル30台のあたりにストーリーの展開がシンクロ。この先どうなるんだ? と続きが気になって仕方ない。続きを見るためには一定レベルに到達する必要があるため、ストーリー目的でレベリングをがんばれるのだ。
とくにレベル40頃はストーリーの盛り上がりも最高潮。意地でもレベルを上げたくなった。
壮大かつ魅力的な世界観と、プレイヤーを当事者として引き込んでいくヒューマンドラマの絶妙なバランスが、じつに見事。ウィングを広げて大空を飛び回ったり、ドラゴンのお宝をこっそり頂戴したりといった要素は、SFとファンタジーの両側面からプレイヤーを定期的に刺激してくれる。
世界観に没入でき、ストーリーの続きが気になるという点において、本作は高水準にあるかと思う(好みの違いもあるので、あくまで筆者の主観だが)。プレオープンテストでは体験できなかったストーリーの続きがどうなっていくのか、いまから気になって仕方がない。
システム面でも楽しめる要素満載。時間をかけて遊びたい!
ストーリーをどんどん先へと進めたい一心だった筆者。レベル30くらいからは出現する敵も強くなり、打たれ弱いエレメンタリストだとゴリ押しもできなくなっていった。
そこで役立ったのが、幅広いキャラクターカスタマイズと強化を可能としている本作のシステム群。その中でも重要なのが“スキル特性”だ。
本作はノンターゲティング形式のアクションMMORPG。キャラクターのレベルが上がるとさまざまな“スキル”を覚え、攻撃や回復といったアクションの手段が増えていく。
スキル特性によって、その選択肢はさらに増加する。スキルにはそれぞれ4つの派生型が用意されており、ゲームを進行していくと獲得できるスキル特性ポイントを割り振ることで、異なる性能に変化させられるのだ。
これらは単なる強化版というわけではなく、もとのスキルとはまったく別の性能になるものが多い。自分のプレイスタイルに合わせて、スキルの組み合わせやポイント割り振り方法を見出していくわけだ。
スキル特性ポイントの分量は限られているので、どうしても足りない部分が出てくる。ポイント割り振りを考えるだけで、気付くと30分ほども経っていることはざらだった。
スキル特性ポイントだけでも十分ボリュームがあるのだが、キャラクターをカスタマイズできる要素はまだまだ用意されている。“ルーン特性”システムは、スキル特性ポイントと同じくらい奥深い。
これは、装備に設けられたスロットに“ルーンストーン”を入れることでそのストーンが持つ属性のポイントが得られ、一定値に達すると特殊能力が発動するというもの。ルーンストーンをランクアップさせる強化要素に加えて、スロット数が限られている中でどの特性発動を狙うかといったパズルゲーム的な要素も楽しめる。
なお、ルーンストーンをスロットに入れと強化段階に応じたスキル特性ポイントが発生するため、スキル特性ポイントとも密接に関わっている。
特定の属性のルーンストーンしか装着できない装備もある。また、強化し過ぎたものを受け付けなかったりなど、大きな制限がかけられていることも。
これが装備を選ぶうえで攻撃力などの数値以上に悩ましい要素となっており、装備選びもパズルゲーム的と言える。カードゲームにおけるデッキ構築のように、じっくり考えるのが楽しいのだ。
要するに、より多くのルーンストーンやその強化素材に加え、よりスロットが多い装備を入手すればするほど、スキル特性ポイントとルーン特性ポイントは増加。カスタマイズの幅が増えておもしろさも倍増するわけだ。
いいルーンストーンを求めてゲームを進め、レベリングをがんばり、IDを目指すこともまた、ゲームをプレイするうえでの重要なモチベーションになるかと思う。
そしてIDで獲得できた装備も、単に素材を使って強化するだけに終わらず、ほかの装備を素材としてより強力な装備に生まれ変わらせる“再錬”や、追加能力を付与する“魔法付与”などでカスタマイズしていける。
キャラクターの強化要素はまだまだある。身に着けると特定の能力を強化でき、自身も成長させられる特殊な装備コンテンツ“ルミナス”。シーズンごとにリセットされるポイント(RvRなどの特定コンテンツで獲得する)でキャラクターを強化する“マナ覚醒”などだ。
正直に言う。最初、筆者はキャラクター強化要素が多すぎるように感じてしまった。怒涛のように登場する要素に、「ここまでやるのはちょっと面倒だなぁ」と疲れてしまったのも事実だ。
だがプレイを進めてみると、焦る必要はないことに気づいた。とくに重要なのは“スキル特性”と“装備強化”と“ルーンストーンの研磨(スキル特性ポイントとルーン特性ポイントの獲得)”の3つで、あとはゲームに慣れた頃に、ゆっくり着手しても問題なさそうに思えた。
スキル特性とルーン特性をちょっと意識して活用するだけでも、かなり幅広い戦闘が楽しめる。氷結効果で敵の動きを止めて、そこに氷結中の敵にはダメージが増える電撃系のスキルをありったけ叩き込むなど、スキル連携が狙い通りに決まると非常に気持ちいい。
MMORPGらしく、好きな要素を選んで遊びたい
釣りやハウジング、ならびにマイハウスでの資源採集といった、MMORPGではおなじみの生活系コンテンツも存在。これらもプレイ必須というバランスにはなっていない。自分のペースに合わせて、好きなコンテンツをつまんで楽しめそうだ。
このように、コンテンツは豊富だ。遊びたいものを見つけていくのもまた、プレイを続けるうえでのモチベーションになるかと思う。
筆者はストーリーや世界観をおもに楽しませていただいたが、フィールド各地に点在する巨大なボスに挑んだり、NPCに話しかけて挑戦するミニゲームを遊んだりと、遊びの要素はもはや数えきれない。
遊びの幅が広いというのは、もはやMMORPGでは当然となった昨今。ただ多いだけでなく、そのコンテンツを通してゲーム自体をもっと遊びたくなり、もっと先が見たくなるという点が重要かと思う。
その点で『ELYON』はかなり期待が持てるタイトルだと感じた。今後の正式リリースに向けて、さらに魅力がブラッシュアップされることを期待したい。