海外インディーパブリッシャーのChucklefishが、上海のインディースタジオPixpilによるアクションアドベンチャーゲーム『Eastward』(イーストワード)を2021年9月16日午後4時より配信開始する。
本作の対応プラットフォームはNintendo SwitchとPCで、日本語にも対応。なおダウンロード版以外に、ローカライズを行った架け橋ゲームズによりSwitchのパッケージ版も11月25日に発売予定となっている。
寡黙な男と不思議な少女の凸凹コンビが列車に乗って世界の終わりを旅する
『Eastward』の舞台は、“タタリ”と呼ばれる瘴気により半ば壊滅した世界。寡黙な鉱夫のジョンと彼が採掘中に発見した少女“珊”(サン)は、ひょんなことから暮らしていた地下の町を追われることになり、外の世界へと動き出した列車とともに旅に出ることになる。
ゲームのスタイルとしては、見下ろし型のアクションアドベンチャーゲーム。各章ごとにさまざまなエリアで話が展開し、ジョン&珊の活躍や旅先での人々との出会いが描かれる。
美麗なドット絵で描き込まれたジャンクな世界
本作の特徴のひとつが、淡い色のドット絵で描き込まれたジャンク世界の描写。これまで公開された映像やスクリーンショットを見て本作に興味を持った人も多いと思う。特に3番目に訪れるダムの街は昭和レトロ的な看板にあふれていて、その細かな描写は日本人ですらも親近感を覚えるレベルだ。
しかしそれだけでなく、単に書き割りの背景が綺麗というレベルに留まらないのがポイント。駄菓子屋があれば中もきっちり作ってあったり、イベントが完了するごとにNPCの配置やセリフが毎度のように微妙に変わったり、そもそもそれぞれのNPCに個性的なアニメーションがセットしてあったり、作り込みから見られるこの世界への愛情がハンパじゃない。
30時間超の圧倒的ボリューム
そしてゲームサイズもハンパじゃない。なんとなく6~10時間ぐらいの「ちょっと大きめのインディーアドベンチャーゲーム」なボリュームを想定している人も多いかと思うが、公称サイズはメインを進めるだけで30時間。
コレ、レベル上げが必要なRPGや何度も挑戦するローグライト系などのある程度コンテンツの使い回しが効くゲームではなく、ほぼ毎回のように新たな敵やマップギミックや謎解きが出てきて、その間にスクリプトでガッツリ組まれたイベントシーンなどがもりもりのアクションアドベンチャーゲームとしてこのサイズなんである。これは正直常軌を逸しているレベルだ。
For those asking, Eastward is ~30 hours long, and that's without the minigame https://t.co/Ayl8RK6PSO
— Chucklefish (@ChucklefishLTD)
2021-09-03 20:11:44
ちなみに各マップの作り込みもちゃんとしていて、脇道のエリアや隠し通路などが用意されており、それらにはアイテムや体力等の強化要素などがちゃんと仕込まれている。こうしたものをきっちり探索していくとさらに時間がかかることは言うまでもない。
ゲーム内ゲームまで存在
その上で、さらに某国民的RPGからの影響を感じるゲーム内ゲーム『大地の子』なんてものまで存在。
この『大地の子』だけでも“ピクスボール”なる名称のゲーム内ガチャガチャ(課金要素などではなく、マップで見つかるトークンを使って本当にガチャを回す)で手に入るモンスターフィギュアとの連動要素があったり、本誌を含めたゲーム雑誌・攻略本的文体できっちりローカライズされたマニュアルがあったり、おまけ要素への気合の入りようも凄まじい。
ジョンと珊を切り替えながら進むアクション&謎解き
一方、アクション面のゲームデザインは比較的オーソドックスで、戦闘や爆破などの荒事を得意とするジョンと、魔法の能力でモンスターを止めたり特定の障害物を消せる能力を持った珊をうまく切り替えつつ、戦闘や謎解きをクリアーして進んでいくという感じ。
その中でも特徴的な部分といえば、ジョンと珊が別れて進まなければいけないパートの存在だ。それぞれの能力をどう使って相手が先に進むのを助けるかという一種のパズルになっているのだが、場面によっては敵が出てくることもあり、選択していない方のキャラは勝手に戦ってくれたりしないので要注意。
ジョンと珊は体力バーを共有しているので、ジョンが謎解きをやっている間に珊が攻撃を受けてしまい……ということも起こりうるので、先にジョンで敵を引きつけて倒すといった戦術も必要になってくる。
また最初のうちは近接攻撃(フライパン)連打で楽勝で倒せる敵ばかりだが、次第に弾を撃つ敵や突進系の敵が出てくるようになったり、タタリに追われながら対処に迫られるシーンが出てきたりして、徐々に難度が上がっていく。ボス戦などもそれぞれちゃんと固有のギミックや撃破手順が用意されているので、対処方法を見極めるのが楽しい。
野球勝負や川下りなどのミニゲームや、サイドストーリーなどの小ネタも
そういった探索&戦闘系のステージ以外に、道中ではストーリーに沿ったミニゲームが出てくることも。農場で家畜の追い込みのバイトをしたかと思えば、ジョンが愛用のフライパンで野球勝負に挑んだり、突然川下りステージが始まったりと、あの手この手で楽しませてくれる。
そして明確なサイドミッションの類はあまりないのだが、住民が欲しがっているものを用意すると報酬を得られたり、地蔵を見つけると幽霊による怪談披露を聞けたりと、小ネタは詰まっている。
この奇妙で愛おしき世界とその住人たち
本作でNPCとのイベントシーンの比重はとても高く、そこでのストーリーテリングは探索や戦闘と同じか、下手したらそれ以上に重要な要素となっている。
先に少し触れたように、ドット絵のアニメーションパターンもいろいろ用意されていて、セリフも豊富。そんな個性的な連中が勢揃いでとても愛おしいし、新たな出会いが楽しく、そして別れが悲しい。ゲームのスタイルは異なるものの海外誌などで『MOTHER』シリーズを参照するレビュアーが多いのもなんとなく理解できる。
「いただきます」が繋ぐ縁
家族のように一緒にいるジョンと珊の旅は、さまざまな出会いと別れに満ちている。そんな中で人々をつなぐのが、ジョンが得意とする料理だ。
本作で料理は新しく出会った人々との関係を深める要素でもあるし、プレイヤーにとっては回復アイテムを作る作業にもなっている。本作の探索&戦闘パート中は自動回復がないため、各所にあるコンロで料理を作っておいて、いざという時にリュックから取り出せるようにしておくのがとても重要だ。
料理要素は、町での買い物や探索過程で手に入る素材を組み合わせて行い、新たなレシピを発見すると追加されていくという形式。料理時に回るスロットで目が揃うとボーナス効果もついてくる。軽やかなサウンドとともに食材が舞う演出もいい感じだ(ちなみにすでにレシピを発見している組み合わせの場合はスキップも可能)。
細かな配慮にいたるまで圧倒的な作品
というわけで本作、ビジュアル面で注目を集めたゲームだが、中身はそれ以上に詰まった作品となっている。
イベントシーンで不要な移動はある程度省略していたり、ちょっとしたセリフや動きに珊や各キャラクターたちの性格や思いやりが表現されていたり、その質の高い部分を挙げていくとキリがない。ぜひじっくりと腰を据えてこの物語を味わい尽くして欲しい。