アメリカのシアトルで現地時間2021年9月3日、ゲームイベント“PAX West”が開幕した。新型コロナウィルスの流行によるロックダウン等が行われて以来、アメリカでメジャーなゲームイベントがオフラインで行われるのはこれが初となる。
奇しくも最後に行われたメジャーゲームイベントは、ボストンで2020年2月末に行われた兄弟イベントの“PAX East”。翌3月のGDCや6月のE3が中止され、北米のゲーム業界がオンライン化などの対応に追われたのは記憶に新しいところだ。
PAXに終わり、PAXで始まるという形になったわけだが、ニュース等で御存知の通り、アメリカでも新型コロナウィルスのデルタ株が依然として流行中。当然、健康・衛生面に配慮したレギュレーションでの開催となったが、任天堂、マイクロソフト、ソニー・インタラクティブエンタテインメントをはじめとする、大手メーカーの多くが出展を回避する形に。出展されたのは小規模なインディー系を中心に、物販系のブースも合わせて80社ほどとなった。
ワクチン証明またはPCR検査結果等が必須&コスプレイヤーにもマスク着用義務
会場での対策やレギュレーション等をまとめると以下の通り。PAXではコスプレイヤーが自由に会場内を歩いて回れるのが特徴のひとつとなっているのだが、コスプレイヤーも含めてマスク必須で、かつワクチン証明等が必要となっている。
- 1. ワクチン証明またはPCR検査結果等の提出
- 会場があるワシントン州の規定に則り、参加者全員がフルにワクチンを受けた証明、またはPCRテストや抗原テストの結果証明を求められる。
- 入場前に身分証とともに提示することでリストバンドが渡され、会場入場時に明確に見せるよう求められる
- 抗原テストの場合は毎日開場の6時間以内、PCRテストの場合は入場の72時間前の結果が求められる
- 2. マスク着用義務
- 入場者全員が定められた食事スペースなどを除く全エリアでマスクの着用を求められる。
- バンダナやネックゲイター等での代用は禁止
- コスプレイヤーも同様。このため、マスクの着用状態を確認できない頭部パーツなどのあるコスプレは認められない
- 3. 入場者制限
- 入場バッジの販売数が削減(※例年であれば発売開始とほぼ同時に売り切れになるが、初日時点では土曜日以外の全日程でまだ余っている)
- また建物内の人数等もモニターされ、入場制限がかかる場合がある
- 4. ソーシャルディスタンスの推奨など
- 人溜まりを減らすために会場の導線を整理
- 出入り口近くで止まったりすると動くよううながされる
- ハンドサニタイザーなどが各所に設置されている
- 人溜まりを減らすために会場の導線を整理
帰ってきたという実感と、拭いきれない不安
大手メーカーをはじめとする出展者がぐっと減ったことで新作発表や初公開のデモ等がほとんどないPAXとなったが、これがE3だったらほとんど意味がなくなってしまうものの、PAXがもともと各ゲーマーが連日好きなように過ごす場所という性質を持っているのは不幸中の幸いといったところか。
各参加者は全米各地からそれなりのお金を払って集まってくるわけだが、なぜだかわざわざレトロゲームコーナーで家でも遊べそうなゲームを延々と友達と遊んでいたり、あるいはソファーに寝ながら携帯ゲーム機をダラダラ遊んでいる姿を目にするのは珍しくない。
今回もそういう自由な感じは相変わらずあり、ゲーマーが友達と好き勝手に楽しんでいる姿を見ると「帰ってきた」感がある。全米からゲーマーが集まってくるコミュニティとしてのPAXは、やはり唯一無二のものだ。
しかし一方で、会場を取材しながら腹の底に拭いきれない不安を常に感じていたのも事実。記者はアメリカ在住で5月末でモデルナ製ワクチンを接種済みだが、どこかから軽い咳やくしゃみか何かが聞こえるだけで神経が張り詰めるし、自分自身の単なる寝不足感さえ「これはもしや会場で……」と疑ってしまう(入場から数時間でいきなりそれは潜伏期間の事を考えるとさすがにない。前夜に変な時間に起きちゃっただけである)。
また、対策自体はかなり徹底して行われているように見え、特にマスクは100%と言っていい参加者がちゃんとつけていたと思う(ひとりだけネックゲイターに見える人とすれ違った程度)。それでもソーシャルディスタンスや通路の明確な分離まで完璧にできていたかというと、それは否と言わざるを得ない。
4日間の全日程で感染者ゼロといけば素晴らしいが、会場を出てホテルに戻って寝る前に街に繰り出す人もいるだろうことは想像に難くなく、そういった中でも開催に踏み切ったPAXがどうコントロールできるかが今後のゲームイベントの試金石となるだろう。