VRゲームの開発を専門とし、2020年にスタートアップ企業として始動したThirdverse(サードバース)。2022年には複数の新作タイトルを発売予定で、これまでの累計資金調達額が20億円に達したこともニュースとなっている。
同社には、元ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)JAPANスタジオのクリエイター・伴哲氏と鳥山晃之氏も参画しており、両氏がどのようなゲームを発表するのかも、多くのゲームファンから興味を集めている。國光宏尚CEOも交えた3者に、同社の展望やVR業界の現状を訊いた。
伴哲氏(ばん さとし)
Thirdverse 取締役COO。SIEで『どこでもいっしょ』シリーズなどをプロデュース。その後、Googleのゲーム業界向け事業開発を経てThirdverseに参画。
鳥山晃之氏(とりやま てるゆき)
Thirdverse ゲームデザインディビジョン マネージャー/プロデューサー。『Bloodborne』やPS5版『Demon's Souls(デモンズソウル)』を始め、多くのSIEタイトルでプロデューサーを務めた。2021年より同社に参画。
國光宏尚氏(くにみつ ひろなお)
Thirdverse 代表取締役CEO。gumi取締役会長を退任後、2021年8月より、ThirdverseのCEOに就任。
気鋭のクリエイター陣がVR新事業に着手した理由とは?
――元SIE JAPANスタジオのクリエイターである伴さんと鳥山さんが、Thirdverseに入社することになった経緯を教えてください。
伴私はSIEに所属していたころから、VR市場の可能性に注目していて、プレイステーション VR用のゲーム開発にも初期から取り組んでいました。
ただ正直なところ「VRが世の中に広く浸透するには、まだ時間が必要だな」とも感じていました。その後Googleに転職して、ゲーム業界向けの事業開発をしているときに、当時のgumi会長の國光と知り合い、彼のVRの展望を聞き非常に共感できたんです。「波が来るのを待つのではなく、こちらから積極的に飛び込んでいかないとVRに関わる意味がない」と思い、Thirdverseに参加することを決意しました。
鳥山私もSIEに所属していたころからVRに興味があり、プレイステーション VR専用ソフトである『V!勇者のくせになまいきだR』、『ASTROBOT: RESCUE MISSION』、『Déraciné(デラシネ)』を制作しました。
ただ、やはりプレイステーション VRはVRゲームを遊ぶためにプレイステーション4本体が必要で、その周辺機器のひとつという扱いでしたし、本体との接続ケーブルや電源コードも必要ですから、「これがもっと手軽に遊べるようになるまで後2~3年は掛かるだろうな」と考えていました。
けれど、そんな矢先、価格やケーブルレスや性能といった多くの問題を解決したOculus Quest 2が発売されて衝撃を受けました。そしてVR業界の今後の展開を見聞きするうちに、再び「VRゲームの開発に挑戦したい!」という衝動が沸きあがってきて。そこからの流れは、伴さんと同じです(笑)。
――Oculus Quest 2から転職を決意してしまうほどの衝撃を受けたのですね。
鳥山これまでのVRは、ヘッドセットのほかにPCやゲームハードが必要だったりケーブル接続が煩わしかったりと、遊ぶには超えるべきハードルが複数ありましたよね。
ですが、Oculus Quest 2ではそれがなく、ゲームプレイの自由度が格段に向上しました。処理能力はハイエンドではないものの、現行のゲームハードと比べても、価格を考えると悪くない性能です。ただ、その魅力がまだまだ広く認知されておらず、いまだに「VR=準備や片付けが面倒だし、高い」と思われている方も多いと思います。それを何とかしたいですね。
――たしかに、「VR機器はセッティングがたいへん」という認識の人は多そうですね。
鳥山これはクリエイター側の問題でもあるのですが、ユーザーの皆さんに対して、手軽に遊んでもらえるさまざまなアプローチのVRゲームを提供し、「VRってこんなに手軽に楽しめるものなんだ」と思っていただけるように、提案し続けていきたいと考えています。
伴一度遊んでもらえれば、VRならではのワオ体験(アッと驚くような体験)が感じられるので、絶対に楽しんでもらえる自信はあるんですけど、現状ではヘッドセットを被るところまで、ユーザーさんを案内するハードルが非常に高い。本来はゲームって、「あのタイトルを遊びたいから、このハードを買う」というのが正しいパターンだと思います。ヘッドセットをかぶっている見た目のインパクトだけでなく、しっかりと中身でもゲームファンを引きつけられるタイトルを生み出したいですね。
2022年発売予定、新作VRタイトルの開発状況を直撃!
――配信中のVR作品『ソード・オブ・ガルガンチュア』についてお聞きします。本作を通して得た知見や、それを踏まえて新たに取り組んでいる企画がありましたら教えてください。
伴『ソード・オブ・ガルガンチュア』はすでに発売から2年が経過しましたが、アップデートを行うたびに盛り上がり、月間アクティブユーザーは現在がもっとも多い状態です。寄せられた反応を通して実感したのは、プレイヤーがVRに求めているのは“リアル”ではなく“リアリティーがある世界”だということ。VR空間でリアルな剣戟を再現することより、現実空間では不可能なバーチャルな世界でしかできない体験にリアルを感じるということです。そうした“VRゲームならではの遊び”を突き詰めていければと考えています。
國光『ソード・オブ・ガルガンチュア』の場合、“VR空間でリアルなチャンバラ”というのがコンセプトだったのですが、それを追求した結果、上達するいちばんの方法は“フィジカルを鍛えること”になってしまったんです。
――ある意味、リアル過ぎた(笑)。
國光より素早く攻撃をくり出すには、自分自身が武器(コントローラー)を振りかざして振り下ろす、その速度そのものを上げるしかない(笑)。VR空間では、限りなくリアルなんだけど、炎や雷をまとったりして、そこでしか味わえない“バーチャル空間でのリアリティー”を体験できることこそVRの最大の魅力なので、今後はもうすこしさまざまな可能性を試していきます。
――今後発表されるという、開発中の新作について教えてもらえますか?
鳥山概要のみとなりますが、2022年初頭に新作VR剣戟アクションゲームの配信を予定しています。『ソード・オブ・ガルガンチュア』がリアルな剣戟シミュレーターであるのに対して、本作はよりライトなプレイヤー向けの剣戟アクションになります。VR世界の中で、誰でも気軽に“自分自身が理想とするヒーロー”になりきれる。そんな体験が実現できるVRゲームです。VRが初めてのユーザーが、ちょっとした時間で手軽に遊べるように意識しながら、全力で開発に取り組んでいますので、続報を楽しみにお待ちください。
――世界観なども、可能な範囲で教えていただけないでしょうか?
鳥山現在鋭意開発中で、詳しい情報が出てくるのはもうすこし先になってしまいますが、最新作は仮想空間の中に存在する“空に浮かぶ島”が舞台になります。
――公開された資料の中には、いかにもファンタジー作品といった雰囲気の神殿と、世界観にそぐわない、まるでロボットのような人型兵士が描かれていますね。これらがどのようにして融合するのかも、非常に気になります。
鳥山少しずつ公開していきますので、ご期待ください。それと、私自身が本作でやりたかったのは、敵を斬ったり、吹っ飛ばしたりというアクションの爽快感を体感していただくことです。派手なアクションを楽しんでもらえるよう、武器の扱いかたにもこだわっているので、こちらにも注目していただけますと幸いです。
さらなる最新作に関する情報も! Thirdverseが目指す未来とは!?
――最新作は2022年初頭の発売予定とのことですが、これまでに鳥山さんが携わられたゲームと比べると、開発スパンはかなり短かったのでは?
鳥山たしかに、こんなスピードでゲームを制作するのはひさしぶりですね。
伴最近の家庭用ゲームやモバイルゲームは3年くらい掛けて作るタイトルも多いですが、VR業界は1~2年で環境が急激に進化するため、3年も掛けているとハードの世代が変わってしまうんですよ。そうなると必然的に、1年半~2年で完成させなければならないというわけです
鳥山ゆくゆくはVRでMMO RPGを作ることが目標なので、そこをゴールとして、いまはさまざまな技術を研究しているところです。実験的な意味合いも兼ねて、短いスパンでいろんなタイトルを作り、技術の向上に努めたいですね。
――そうした実験的な取り組みができるのも、VR業界のいいところなのかもしれないですね。
伴私たち自身も、まだまだ挑戦することだらけです。とはいえ、ひとつの研究に時間をかけ過ぎてしまうとVRの世代が変わってしまいます。「どこよりも早く挑戦し、どこよりも先に発表する」という姿勢が、現状のVR業界では正しいスタイルだと考えています。
こういうスピード感のある展開はスタートアップ企業ならではのメリットですね。他社に先駆けてどんどん新作を開発し、技術を高めていければと思っています。
――来年初頭の発売がいまから楽しみです。そのほかに何か予定しているものはありますか?
鳥山じつはまだ、社内でも明かしていない新作の企画を同時進行で考えていまして。
國光えっ。それ、俺聞いていたっけ?
鳥山いま言います(笑)。新しいVR剣戟ゲームを開発する中で思いついた、「こんなベクトルのVRゲームもおもしろいかも」というアイデアをベースに、それを実現するシステムや世界設定の準備を進めています。
伴当社は日本だけでなくサンフランシスコにもゲームスタジオがあるのですが、そちらでも日本スタジオとは別のVRタイトルを開発中です。そちらも2022年の配信予定で、ジャンルは“マルチプレイVRシューター”となります。プレイヤーからはどのように受け取ってもらえるかいまから楽しみです。こちらも続報をお待ちください。
國光大きな展望……“野望”としては、会社名にもあるように、最終的にはサードプレイス(自宅や会社とは異なる居心地のいい空間)をメタバース上に作り出し、10億人がそこで生活できるような環境を整えること。
そこではMMO RPGのような仮想世界がブロックチェーンと結びつき、ひとりひとりのユーザーが、そこで経済活動もできる。そういう未来を実現できればと考えています。これから続々と発表していくVR作品の開発で得たノウハウはすべてこちらに集約していきますので、今後の当社の展開にもご注目いただけますと幸いです。
なお、Thirdverseでは現在スタッフを募集中。VRでのゲーム開発に興味のある方はファミキャリの採用情報をチェック!