まさに世界中に一大ムーブメントを巻き起こした宇宙の人狼ゲーム『Among Us』。プレイしていてふと気になったのが、日本語のローカライズに関すること。

 ご存じの通り2018年にリリースされた『Among Us』は、当初はそこまで遊ばれていたわけではなかったものが、2020年夏ころから人気に火が付き、世界で大ブームに。当然のこと当初日本語ローカライズはされておらず、有志のあいだで翻訳されていた感じだった。それが要望に応える形で、Nintendo Switch版の発売に合わて日本語ローカライズ化されたのだ。いちユーザーとして見ると、うまくローカライズしてあるなあとの印象だが、短期間かつ、すでに発売されているタイトルのローカライズということで、けっこうな苦労があることが想定される。

 そんな率直なギモンをぶつけてみたところ、今回なんと、ローカライズを担当した会社とコンタクトを取ることに成功。日本語ローカライズのあれこれについてインタビューさせていただけることになった。

 『Among Us』のローカライズを担当したのはKeywords Studios(キーワーズスタジオ)。世界各地に拠点を持ち、日本にもオフィスを構える同社だが、今回日本語ローカライズを担当したのはヨーロッパのオフィスとのこと。昨年、フランス語やイタリア語、ドイツ語などに同時にローカライズされたときに、日本語も手掛けることになったようだ(昨今の多言語化の流れを反映して、海外で複数言語を一気にローカライズするという傾向が増えているような気がする)。

 今回お話をうかがったのは、Keywords Studiosのプロデューサーのダニエル・パスティーナ氏とシニアプロダクトマネージャーのパオロ・カーニヴァリ氏、翻訳を担当したカオル・アクタ氏。さらには、『Among Us』の開発を手掛けるInnerslothのQAディレクターであるマイケル・ルリエーヴル氏にもご参加いただいている。Innerslothのスタッフがインタビューに応えてくれるのは、相当レアな機会と言えるだろう。

 まだまだ展開を広げている『Among Us』の、ローカライズのこだわりや苦労に迫る!

宇宙人狼『Among Us』日本語ローカライズの裏側。Imposterはインポスター、adminは管理室。大人と子どもが楽しめる、既存プレイヤーと新規プレイヤーへのバランスの取りかた

Daniele Pastina氏(ダニエル・パスティーナ)

Keywords Studios プロデューサー
(文中はダニエル・写真左)

Paolo Carnevali氏(パオロ・カーニヴァリ)

Keywords Studios シニアプロダクトマネージャー
(文中はパオロ・写真中央)

Kaoru Akuta(カオル・アクタ)

『Among Us』翻訳担当

Michaël Lelièvre氏(マイケル・ルリエーヴル)

Innersloth Lockit QA's Director(QAディレクター)
(文中はマイケル・写真右)

Keywords Studios
 アイルランドに本社、世界各国に拠点を持つグローバルカンパニー。ゲームや技術、コンテンツに関連したグローバルなサービスプラットフォームを作ることに注力し、支援している。『Among Us』でローカライズを担当。

Innersloth
 いわずとしれた『Among Us』の開発元。2018年にリリースし、2020年夏前ころから世界的に人気に火が付き、ゲームのプレイだけでなく実況・配信サイトで記録的な人気を得た。当初はモバイルとPCだったが、2020年12月のNintendo Switch版のリリースを皮切りに家庭用ハードにも展開。ダウンロード配信専用だったが、年内メドにパッケージ版の発売も発表された(執筆時現在、残念ながら日本での販売は未発表)。

『Among Us』ニンテンドーeショップページ 『Among Us』Steamページ

Nintendo Switchに合わせて最優先で取り組んだ日本語ローカライズ

――『Among Us』のローカライズではKeywords社が担当し、協力して行ったと伺ったのですが、Keywordsはどんな特徴の会社なのでしょうか?

パオロKeywordsは、現在『Among Us』のローカライズほぼすべての言語を担当することになりました。もちろんその話をいただいたときは、こんな爆発的人気が出ている作品に携われることにとても興奮しました。

 私たちはローカライズの統一方針を持っていて、それはあらゆる種類や規模のプロジェクト要件に柔軟に対応できるのが大きな特徴です。厳選された翻訳者と、通常のプロセスを管理するPMの両方が存在するチームをつねに持っているのです。

――『Among Us』独自の特徴や苦労した点はどこでしょう?

パオロ『Among Us』は発売前や開発のコア期間に携わることの多い、AAAタイトルとはまったく異なる経験ではありました。ゲームはすでにリリースされ大成功を収めていて、参考となるユーザーのコンテンツがたくさんあって、それらはとても貴重な資料にもなっていました。それと同時に、私たちが仕事を始める前にすでに熱狂的なファンダムからの期待も大きかったです。

――日本語対応はNintendo Switch版との同時進行ながら、非常にうまくローカライズされた印象が強いのですが、どのような点に気をつけたのでしょう?

ダニエルそのプラットフォームでリリースするために準備を整えることはたいへんなことが多いですね。

 もちろん、ローカライズにあたっても、押さえるべき重要な要件があります。また、ユーザーインターフェースの重要なポイントなどを迅速かつ確実に把握するためにも、開発者との密接な協力関係が不可欠です。いずれにせよ、Keywordsはこの点を強く意識するようにしており、目標を達成するためにさまざまな品質保証ツールやリソースを活用しています。

――ローカライズ全体の優先順位やスケジューリングはどのように進められたのでしょうか?

マイケル最初の翻訳は、ゲームが大ブレークする前にもっとも人気のあった国のファンメイドのものでしたが、2020年11月にInnerslothは私を本作のローカライズ開発のために雇い、さらに多くの言語をリリースする計画を立て始めました。このときすでにNintendo Switchでのリリースが12月中旬に決まっており、任天堂からの要望で日本語のローカライズは必須とされていたため、必然的にこのローカライズの優先度が高まり、かつ非常に短い期間で制作することとなりました。

――Nintendo Switch版の発表と同時のリリース、及び日本語化は電撃的でしたが、極めて短い期間でそれらが進行していたわけですね。

マイケル私たちは、KeywordsのローカライズチームやLQA(Linguistic Quality Assuranceの略。言葉に関する品質管理、言語に特化したデバッグ作業)チームといっしょに、日本語のローカライズを12月の発売に間に合うようにそれこそ一心不乱に作業していました。じつはほかの言語もそのあいだに制作していたのですが、もう少し作業が必要であったため、他言語版のリリースについては2021年春に延期することにしたんです。

――ローカライズで一気に多くの言語を追加しながらも多機種展開もあり、非常に困難なこともあったのではないかと想像できるのですが?

マイケルゲームのローカライズは、コードベースから意識して設計されていれば簡単な作業の分類に入りますが、『Among Us』はじつのところ当初は多言語バージョンをサポートするように設計されていませんでした。

 Nintendo Switchでのリリースにあたっては、Innerslothの開発チームとしてはそのテコ入れが必要だと認識しあっていました。多くの地道な手作業も伴う作業ではありますが、Innersloth開発チームは、グラフィックも含めてゲーム内の必要なテキストすべての対応に黙々と取り組みました。そして実装後は、LQAチームが記録的な速さですべてのバグを確認・報告し、プログラマーがリリースまでに最大限の修正を実行した。これだけの作業を短時間で行うことができたことに、私自身大きな感動するレベルのことでした。

宇宙人狼『Among Us』日本語ローカライズの裏側。Imposterはインポスター、adminは管理室。大人と子どもが楽しめる、既存プレイヤーと新規プレイヤーへのバランスの取りかた

――日本語対応した際、言語においてNintendo Switch版と他機種の差が生まれ、文字化けが起こっていた状態でもありました。開発やリリースの手法を変えざるを得ない状況であったことが認識できた時期で、苦労した点も多かったと思います。

マイケルローカライズに関しては、Nintendo Switch版ローンチ時にNintendo Switch版とPC/Mobile版が異なっていたのはその通りです。PC版はアップデートで簡単に修正ができるのに対し、Nintendo Switch版はアップデートに時間と手間がかかるため、2020年はNintendo Switch版への対応を優先していたという背景もあります。

 その工程においてあちこちでバグが見つかり一部残ったままであったのも事実ですが、取り組んだ課題と期間を考慮すると、このリリースは大成功だったと思っています。

 一方で2021年に入ってから、Innerslothのチームが大きく成長を続ける中、私たちはローカライズの手順をもう少し体系・構造化し、新しいテキスト表示プラグインを実装することにしました。このプラグインのおかげで、新しい言語を追加するのが非常に簡単になり、とくにグラフィックやアイコンなどの制作上のオーバーヘッドが大幅に減らすことができました。結果、以前のファンベース翻訳の見直しを含み、2021年春までに11言語を追加し、2021年夏にはさらに3言語を加えることができたのです。

宇宙人狼『Among Us』日本語ローカライズの裏側。Imposterはインポスター、adminは管理室。大人と子どもが楽しめる、既存プレイヤーと新規プレイヤーへのバランスの取りかた

“アマングアス”vs“アモングアス” ブームが来ていたゆえに難しかった日本語化!?

――今回、日本語の翻訳を担当したKaoru Akutaさんはどのような特徴を?

パオロ翻訳者選定プロセスは一元化されており、専門のリクルーターで構成されたリソースマネジメントチームによって管理されています。まず各プロジェクトのプリプロダクション段階では、ゲームのジャンルや必要な専門分野を特定するために、テキストを詳細に分析します。そして、過去の経験や類似したコンテンツ、ジャンル、IPに精通していることを中心に、いくつかのパラメータに基づいて、厳選された言語スペシャリストの中からもっとも適切なリソースを選択していきます。

 とくにKaoru Akutaさんについては、当社のシニア翻訳者のひとりです。彼女は、Keywords東京で数年間働いた後、フリーランスに転身し、現在に至っています。SFやマルチプレイヤーゲームなど、さまざまなジャンルのゲームの翻訳経験が豊富で、つねに非常に高いレベルの翻訳を提供してくれます。また、熱心なゲーマーでもあり、好きなジャンルはミステリー、ホラー、SFです。ゲームというジャンルに精通した経験とゲーム翻訳へのこだわりを持つ彼女は、今回のプロジェクトに最適な人材でした。

――経験、実績も豊富にお持ちなんですね。

パオロこれまで担当した作品の一部ですが、『Destiny 2』、『Outriders』、『RAGE 2』、『THE DARK PICTURES: LITTLE HOPE (リトル・ホープ) 』、『Dishonored: Death of the Outsider』、『Wolfenstein II: The New Colossus. 』となっています。

――日本語へのローカライズするにおける方針をお教えください。また、日本語ゆえに苦労したポイントはありますか?

カオル通常のローカライズでは、翻訳調にならず初めから日本語で書かれたような文章を目指しています。UI(ユーザーインターフェース)やOST(いわゆる劇中歌)以外のセリフやバーク(※)などは直訳が機能しないことも多いので、キャラクターになりきってその状況でその人物が何と言うのか想像するイタコ形式で作業します。

 これまでは未発表新作のお仕事が多かったので、『Among Us』のようにすでに英語版のプレイヤーがたくさんいるという状況はあまり体験したことがありませんでした。既存プレイヤーと日本語版からの新規プレイヤー両方に配慮するのが難しかったです。

※銃声や砲声、どなり声のこと

――英語版のみの段階ですでに日本でも大きなブームになっていました。英語版の用語が浸透していることは意識をするものなのでしょうか? たとえば、日本語としてはなじみのない”インポスター”がそのままカタカナだったのも、そういった要因があるのでしょうか?

カオル英語版をプレイしている日本人がたくさんいること、日本語版が待ち望まれていることは知っていました。“Imposter”自体も“インポスター”ではなく翻訳すべきだと考える人もいれば、マップの各部屋や“dead body reported”などのフレーズも英語のままがよかったという人もいます。英語版に慣れ親しんだプレイヤーだけでなく日本語版からの新規プレイヤーや幼いプレイヤーのことも考え、一部用語はカタカナ表記、一部用語は翻訳しています。

 友人とその小学生の娘さんとこのゲームをプレイしたことがあるのですが、そのとき、子どものためにも用語の一部翻訳は必要だと感じました。大人も子どもも、年齢に関係なくいっしょに楽しめるのがこのゲームの魅力だと思います。

宇宙人狼『Among Us』日本語ローカライズの裏側。Imposterはインポスター、adminは管理室。大人と子どもが楽しめる、既存プレイヤーと新規プレイヤーへのバランスの取りかた
英語版でプレイしていたユーザーからは、Imposterがインポスターの表記のままだったことが歓迎された

――日本の文化は独特といった話を聞きますが、“日本の文化がこうだから、ここのローカライズには気をつけた”といったポイントはありますか?

カオル前述したように、どこまでカタカナでどこまで翻訳するか決めるのが難しかったです。日本では、同じ言葉でもアルファベットで書いてあると何となくかっこよく見え、日本語で書いてあると微妙に見えてしまうことがあります。Tシャツなどでもアルファベットが書かれたものは着ますが、日本語の文字が書かれているとジョークグッズっぽく見えます。

――一時期、日本では本作の読みかたを“アマングアス”と読むか、“アモングアス”と読むかで分かれていた時期がありましたね。現在では開発者から“アモングアス”で統一されたとお聞きしています。

カオル議論になっているのは知っていました。自分は amongという単語をずっと “əmˈʌŋ”(アマン)と発音してきたので、“アマング”派でした。Innerslothから公式に、“アモングアス”という見解が発表されましたが、各プレイヤーが好きなように発音していいのかなと思っています。

宇宙人狼『Among Us』日本語ローカライズの裏側。Imposterはインポスター、adminは管理室。大人と子どもが楽しめる、既存プレイヤーと新規プレイヤーへのバランスの取りかた