2021年3月24日~26日にオンラインにて実施されている、日本最大規模のクリエイターのためのカンファレンス“CEDEC2021”。本稿では、会期1日目にあたる8月24日に行われた、SCRAP代表取締役の加藤隆生氏によるセッション“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”をリポートする。SCRAPと言えばご存じの通り、数々のリアル脱出ゲームを手掛けてきた企業だ。

 マンションの一室や学校など、さまざまな場所をイベント会場とし、脱出することを目的とした体験型イベントであるリアル脱出ゲーム。ゲームとのコラボなどでご存じの人も多いだろう。

 友人やその場に集まった人どうしで話し合い、協力して謎を解いていくのが醍醐味のリアル脱出ゲームだが、ソーシャルディスタンスを求められるコロナ禍で遊ぶには相性の悪いイベントとも言える。数々のリアル脱出ゲームを手掛けてきたSCRAPとしても、コロナ禍による事業への影響は大きかったようだ。

 そこからの機転として、オンラインで遊べるリアル脱出ゲームを作り出したSCRAPの手法が本講演にて語られた。

コロナ禍による大打撃から生み出されたオンラインでの脱出ゲーム

 新型コロナウイルス感染症の影響が拡大した当初、SCRAPとしては新型コロナウイルスはいずれ終わるはずなので、リアル脱出ゲームを作り続けようというスタンスだったという。

 しかし、状況は知っての通り好転しておらず、リアル脱出ゲームへの参加者も減少し始めたそうだ。そのことに危機感を感じた店舗のスタッフが始めたのが、後々の展開につながったオンライン謎解きゲーム。

 スマートフォンを持ったスタッフがプレイヤーの指示に従って行動し、オンライン上で指示しながら謎を解くというイベントを実施したところ、想定以上に人が集まったという。ここから、イベント会場やスタッフがいなくても遊べる、デジタルな脱出ゲームでもやれることがあると気づいたと加藤氏は語った。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 そこからSCRAPでは、4つのオンライン脱出ゲームを短いスパンで作り上げている。

 最初に作ったのは、『エイリアン研究所からの脱出』。こちらは大急ぎで作ったもので、前述したスタッフがスマホを持ち歩きながらオンラインでプレイするというものだ。そこから発展させたのが、『ある2つの通信基地からの脱出』。こちらはキットを販売し、それを郵送して自宅で遊べる内容になっている。

 ほかにもネット完結型、キット+店舗連動型とさまざまな手法で公演を実施したところ、ふだんの公演と変わらないほどにチケットも売れ、オンラインでも脱出ゲームは遊んでもらえるという確信を得たという。

 また、オンラインの場合公演に必要な会場の維持費や人件費などが少なく、圧倒的にローコストで済むことも加藤氏から紹介された。経費の面では、通常のリアル脱出ゲームより遥かに少なくて済むようだ。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】
コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 オンラインでの脱出ゲームがうまくいった背景として、SCRAPが培ってきた経験を、デジタルにも落とし込めていることが影響していると加藤氏は分析する。

 リアル脱出ゲームを通じてどんな経験をすると人が喜ぶのか、楽しめるのかといった知識は、これまでの運営から蓄積されていた部分。その感動をデジタルでも味わえるように調整することで、オンラインでも楽しめるような形になっている。

 また、コロナ禍で常識になったことや、生まれた飢餓感を活用したことも、成功の一因となったようだ。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 具体的な例として、『封鎖された人狼村からの脱出』ではコロナ禍で過ごす我々の生活を感じさせるようなルールが設定されていた。

 外出禁止令の出された街、夜な夜なオンラインで通話をして話し合い、人狼を暴こうとする。“外に出てはいけない”、“話し合いはオンラインで”という、コロナ禍で現れた日常を物語に落とし込んでいるのだ。

 これがコロナ以前であれば、全員がオンラインで話し合うという状況に、違和感を覚えていただろうと加藤氏は語る。いまの状況だからこそ、リアリティを生む結果になったのだという。

 なお、『封鎖された人狼村からの脱出』は人件費や場所代を必要とせず、既存のシステムだけで作れたため、200万円を切る開発費で生み出されたそうだ。開発期間も一ヵ月弱と短いが、熱量の高さから生み出された傑作だと加藤氏は自信をもって紹介していた。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 キットを購入して遊ぶ『ある2つの通信基地からの脱出』の場合、ふたりでZoomを繋いで遊ぶ作品になっている。遊ぶのに必要なキットは北極基地、南極基地のふたつがあり、それぞれのキットを購入してふたりで謎を解いていく形式。

 キットの指示では、音声を切ってジェスチャーだけで相手にメッセージを伝える内容などが含まれており、うまくオンラインの機能を活用した謎解きゲームになっているようだ。

 この作品は、オンライン飲み会という言葉が出始めたころに作り出されたもの。脱出ゲームが会話の切り口になり、ゲームをきっかけに雑談できるようなものを作りたいという意図があったという

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

リアル脱出ゲームの強みをオンラインでも表現する手法

 オンライン脱出ゲームを本格的に作るにあたり、そもそもリアルな体験ゲームの強みとはなんだったのか、そこに立ち返ってSCRAPは分析をした。挙げられたのは、制限時間のあるリアルタイム性、直接コミュニケーションをする協力感、実際にモノに触れるリアル感の3つだった。

 このうち、リアルタイム性とコミュニケーションを取りながら協力して謎を解く協力感は、オンラインでも再現できることが判明。残るひとつ、リアル感に変わるものを探す必要があったと加藤氏は語る。

 その答えが、リアル感を生み出すPCやスマートフォンの前にいる意味。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 ただモニターを見て指示に従うのではなく、自分が本当にその世界の登場人物となって遊べる、いわばロールプレイングの部分をオンライン脱出ゲームでは重視したようだ。

 たとえば『ある2つの通信基地からの脱出』では、“自分は通信技師だから、通信妨害を克服するために画面の前にいる”というリアルとの連動性を生んでいる。ほかのゲームも同様で、画面の前にいる意味、理由付けをストーリーや謎解きの一環として組み込むことで、ゲームに対する没入感を上げているのだ。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 参加人数が1万人の脱出ゲームや、『シュタインズ・ゲート』とのコラボ作品など、自分がストーリーの中でパソコンの前で通信をして指示を出す、謎を解くといったゲーム内容は、大きな反響を生んでようだ。

 1万人の中から勝ち抜けるのはひとりだけのサバイバルゲームなど、オンラインだからこそ実現できる参加規模のイベントも生み出され、リアル脱出ゲームとは違った進化を遂げているように感じる。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】
コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 SCRAPでは今後、リアルタイムでのウェブ謎解きの規模をさらに大きくすることも画策しているようだ。現在は1万人が限界だったが、10万人で一斉に謎解きをするイベントの実施にも期待を寄せていた。

 また、既存のビデオチャットシステムを使った謎解きには限界もあるため、デジタルのノウハウを持った人との共同開発で、より楽しめるゲームを作ることにも意欲を見せている。

コロナ禍で生まれた常識を活用した機転で窮地を脱した、SCRAP流の“オンラインリアル脱出ゲームの作り方”【CEDEC 2021】

 ふたたびリアル脱出ゲームで楽しめる日を待ちながらも、オンラインでさらなる進化を遂げた脱出ゲームを作り出しているSCRAP。デジタルのノウハウを活かすことでさらなる展開も期待できそうなので、今後登場するオンライン脱出ゲームにも注目していきたい。

※画像は配信をキャプチャーしたものです。

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