『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の高難易度レイド“希望の園エデン:再生編”を手掛けた開発者5名へのインタビュー後編をお届け。再生編の全層について深掘りしていく。

本記事の取材に際して、写真撮影時以外はマスク着用、座席の間隔の確保等、感染症対策を徹底したうえで実施しています。

中川誠貴氏(なかがわまさき)

リードバトルコンテンツデザイナー。バトルコンテンツを制作するモンスター班のリーダーとして、希望の園エデンシリーズの開発に携わる。現在はチームのまとめ役という立場だが、コンテンツを直接手掛けることもあり、希望の園エデン:覚醒編の2層、共鳴編の1層(企画)を担当。文中は中川。

秦 成志朗氏(はたせいしろう)

バトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:再生編の1層を担当。文中は秦。

高橋万里氏(たかはしばんり)

バトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:共鳴編の1層(実装、調整)、再生編の2層を担当。文中は高橋。

川本貴志氏(かわもとたかし)

バトルシステムデザイナー。希望の園エデン:覚醒編の1層、再生編の3層を担当。文中は川本。

吉橋和登氏(よしはしかずと)

バトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:共鳴編の3層、再生編の4層を担当。文中は吉橋。

“暗黒天空”の初期構想は雲の上での戦いだった!

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──では、ここからは各層の深掘りをしていきたいと思います。まずは再生編1層ですが、どのように企画を進めていったのでしょうか?

最初に暗闇の雲というお題をいただいて、アライアンスレイド“闇の世界”に登場する暗闇の雲を彷彿させるような要素は必ず必要になるだろうなと考えました。また、希望の園エデンシリーズ全体の要素として、光の戦士の(とても曖昧な)記憶から敵を再現するというものがあるため、その記憶をごちゃ混ぜにして、いろいろな要素を組み合わせたものが作りたいと思って、企画を考えていきました。

──そこから、具体的にどのようにしてギミックを考えていったのでしょうか?

敵の名前に“雲”が含まれているので、“雲を使った何か”というところから企画を考えていきました。それが、いまの“暗黒天空”につながっています。

──“暗黒天空”のときに四方から小さな雲が出現しますが、それのことですか?

いえ、じつはその雲のことではありません。暗黒天空ではフィールドが大きく変化します。あのフィールドが、構想の段階では黒い雲だったんです……。プレイヤーはその雲に乗って戦うわけですが、同じ雲に乗り続けたり、複数人で乗ろうとすると消えるという仕掛けでした。ただ、アーティストといろいろ相談していくうち、フィールドを雲のように見せるには、キャラクターの髪の毛と雲の半透明加算処理などで、かなりの描画負荷がかかってしまうということで、やむなく断念することになりました。ですが、時間経過や重さの概念で足場がなくなる、という要素は新しくておもしろいなと思っていたので、そこだけを残して、いまの暗黒天空になったというわけです。絵はけっきょく雲ではなくなってしまいましたが、発想の源はそこだったのです。再生編1層の企画は、ここからスタートしているんです。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!
暗黒天空のシーンより。零式では同じ足場に2名以上乗ってしまうと、即座に床が抜け落ちてしまう。

──床が抜けるという、1層でもっともインパクトがあるところが最初に生まれたわけですね。コンテンツの全体像はどのように組み上げていったのでしょうか?

コンセプトはふたつありまして、ひとつ目は“闇の世界 ワールドツアー”です。そもそも暗闇の雲は異界ヴォイドの頂点に位置する存在なので、暗闇の雲が召喚されたら、その周囲もヴォイドの影響を受けるだろうという考えのもと、先ほどお話ししたフィールドを変化させるという案を詰めていきました。また、ヴォイドにはいろいろな環境があるはずで、プレイヤーたちがかつて挑んだヴォイドである“闇の世界”や“魔航船ヴォイドアーク”を参考に、そこにいた植物系のモンスターの要素を取り入れて、暗黒森林ができ上がりました。そしてさらに、闇の世界のイメージにぴったりな神殿風のフィールドという計3つのシーンを作って、そこを巡りながらバトルをしていくというイメージです。

──なるほど、あの植物はヴォイドの影響であると。

はい。そして、もうひとつのコンセプトが、“ボスである暗闇の雲を見て判断する”という部分です。ヴォイドを巡るような演出だけでなく、暗闇の雲と戦っているという感じを強く出せるように、ちゃんとボスを見て、そこから判断して避けるといった要素を盛り込んでいきました。ここも最初にお話しした記憶の要素を絡めていて、“影の国 ダン・スカー”に登場したスカアハがくり出す、背中に生える手のような影を見て対処する攻撃が暗闇の雲に混ざり込んだら……ということで、ボスを見て判断するという部分につなげていきました。これが、“闇の戦技”であったり、“跳躍波動砲”などになっています。

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闇の戦技を筆頭に、ボスの挙動を見て攻撃範囲を判断する、という要素が多い。

──確かに、言われてみるとヴォイドの要素がそこかしこにありますね。そんな1層のギミックですが、やはり暗黒天空が群を抜いてユニークだと思います。

試行錯誤し、なんとかいまの形に落ち着きましたが、じつは暗黒天空も開発初期はもっと難しかったんです(苦笑)。

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──ぜひお聞きかせください(笑)。

暗黒天空フェーズの途中で、闇の戦技という技がくり出されます。

──フィールドの半面がなぎ払われるので、パネルの重複に気をつけながら全員が安全なほうに移動するというやつですね。

はい。2回目の暗黒天空フェーズのとき、初期の仕様ではただの闇の戦技ではなくて、闇の戦技:二重がくり出されていたんです。ですので、まずフィールド半面の攻撃を避けた後、さらに避けた先で散開するかペアになるかを判断するという想定だったのですが、難度としてはかなり高いものでした。テストを重ねた結果、1層ということもあり、1回目の暗黒天空と同じ内容で進めるという形に落ち着きました。

──とても1層の難度ではないですね(笑)。以前も制作秘話としてありましたが、後から難しくすることのほうがたいへんなので、始めは難度を盛っておくということですか。

中川はい。以前にも話しましたが、難度が足りないコンテンツを後から調整して難しくするのは、グラフィックスのリソースコストなどの関係上、かなり難しいのです。ですので、企画段階では難度やコンテンツのボリュームをある程度盛った状態で作っておいて、テストプレイをしながら削ぎ落としていくというやりかたを取っています。暗黒天空フェーズは、成功か否かがほかのプレイヤーの動きに依存するフェーズで、突破できたときの達成感は大きいのですが、そのぶんストレスも大きい。8人全員が知り合いで、ワイワイやるぶんにはよいのですが、なかなかそうもいかないでしょう……ということで、難度を落としていったフェーズになっています。

──現在の暗黒天空でも、仲間内でボイスチャットを使用していると、動いてほしい人の名前が連呼されたりして、だいぶ騒がしいです(笑)。

川本それはテストプレイ中にもあって、自分もよく中川の名前を叫んでいました。でも、悪いのは中川ではなくて、もっと奥にいる人が原因だったりするんですけど(笑)。

──「オレじゃなくて奥で詰まっているんだよ!」というやつですね(笑)。本当にいままでにないギミックで、とても新鮮でした。ギミックの難度の面で言えば、後半の“活性弾”からの“闇の戦技:二重”の連続攻撃も、なかなかの難度ですよね。ここは歯応えとしてあえて残したのでしょうか?

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1層の最後の山場となる複合攻撃。闇の戦技の2回目の攻撃を処理するのがなかなか難しい。

そうです。暗黒森林のフェーズは、暗闇の雲から出ている触手と、ステージの外に生えてくる植物を使ってテンポよく連続攻撃をしていくというところがコンセプトになっています。それが跳躍波動砲:零式だったり、闇の戦技:二重だったりで。テンポのよさ、連続攻撃感を意識しています。活性弾と闇の戦技:二重が重なるところは、暗黒森林フェーズの最後の連続攻撃ギミックになるので、そこは壁として少しせわしなくなるようにしてみました。

脳トレ系のギミックの猶予時間は長めに設けられている

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──続いて2層です。まずはバトルのコンセプトからお願いします。

高橋2層のコンセプトはシンプルで、さまざまな影の能力を駆使して光の戦士を欺いてくるようなボスという設定で企画しました。

──最初に戦ったときに、影から攻撃が出てきてビックリしました。

高橋たとえばギガスラッシュなら、黒い獣のモーションで左右のどちらから攻撃が来るかを判断しますが、実際に攻撃がくり出されるのは影からになっています。一見、黒い獣から攻撃を受けると見せかけて光の戦士を欺き、実際は影が実体化してきて別の方角から攻撃してくるという設定です。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──その影もいろいろなパターンがありますよね。

高橋名前が影の王ですので……(笑)。人の影を操ることもできれば、人の影に入り込んだり、自分がほかの影に潜り込んだりと、とにかく影を自在に操れるモンスターに仕上げようと考えました。影の表現もギガスラッシュやインプロージョン、影の従僕の時に出ている影の表現は特徴的なものになるように、影の王である“サイエラ”のシルエットを印象付けるデザインにしています。グラフィックスの仕様上、ボスと影の重なりが見づらさを生んでしまう、というところは、最後の最後までギリギリの調整をしたのですが、いまの状態が限界でした。それでもやはり、“見づらさ”が残ってしまったのは反省材料で、ここはさらに仕様を練り込み、今後に活かしていきたいと思います。

──先ほどのギガスラッシュでは咄嗟の左右の判断がキモになりますが、左右を使ったギミックが苦手な人もいますよね。

中川そういった得意・不得意が如実に出るギミックは、猶予の時間を長めにしています。影の従僕あたりは、ほかのギミックに比べると、ある程度の思考時間を取っています。もちろん、難度を担保したうえでの長さではあるのですが……。

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影の従僕のシーンより。4名に影が付き、影の方角を基準に分身が4体出現。分身は出現位置から左右いずれか半面(影の王のモーション準拠)をなぎ払うため、中央が退避場所となるようにうまく誘導する必要がある。

高橋脳トレ系のギミックは前回の共鳴編3層のときにもあったのですが、どうしてもふつうのギミックと比べて、得意・不得意の個人差が出てしまいます。ですので、そういったギミックが苦手という人に合わせて、猶予時間を調整しています。開発メンバーにも影の従僕が苦手と言っている人がいたので、そのメンバーをベースに調整を重ねていきました。

──ちょっと蛇足になってしまいますが、プレイヤー間で“影の従僕クイズ”が話題になっていましたよね。

高橋クイズメーカーが作られたのは、すごくビックリしましたが、とてもうれしかったです(笑)。影の従僕は脳トレが要求されるギミックで、プレイヤーの皆さんでも、コンテンツ外でも練習したいなあ……という方もいらっしゃったと思うのです。プレイヤーの方がクイズメーカーを作ってくれて、「影の従僕クイズ、何問正解した?」といったコミュニケーションが発生したのは、開発者としてはうれしく思います。

──2層では影を使ったギミックが多数用意されていますが、後半の“ヴォイドゲート”、“アンプリファイア”の連続技がくり出される、いわゆる“塔ギミック”も強く印象に残っています。

高橋あのフェーズは、追い詰められた影の王が光の戦士を倒すならばどうするだろうか? というのを妄想して作ったギミックです。8人パーティの光の戦士に対して、対処ができない数のヴォイドゲートを出したのではないかなと。しかし、バトル中に光の戦士を翻弄するのに使ってきた影の能力を、逆に利用されて乗り越えられてしまう、というのをイメージしました。

──影に塔を踏ませる、というのがおもしろい発想ですね。

高橋塔と呼ばれるギミックは、単純にサークルの中に入って対処するだけのものも多いのですが、そこに本来は踏んではいけないダメージ床をあえて踏み、自分の影を出現させて塔を踏ませるという、いままでになかった要素を付け加えています。パーティメンバーで息を合わせて担当の塔に影を乗せたり、シャドウエラプションを綺麗に重ねて捨てたりといったギミックが、パーティプレイの一体感を要求されるフェーズです。解くことは難しいのですが、綺麗に解けたときの気持ちよさや達成感を得ていただけたなら、とてもうれしいです。

──初見であの塔の数を見たら困惑してしまいますよね(笑)。パーティの人数以上の塔が一気に出てくるわけですし。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!
塔ギミックの解法の一例。2名ずつ入る必要がある塔が8ヵ所出現するため、自身の分身を利用して処理していく。

高橋それも狙いのひとつでした。本来踏んではいけないダメージ床をあえて踏み、自分の影を利用しなければ解けないという要素は、謎解きの役割として作っています。もちろん、完全にノーヒントというわけではなく、シャドウクリーヴフェーズの影の王命やノックバックで、シャドウスワンプを踏んでしまうような状況を用意して、そこからヒントが得られるようにしたつもりです。

 2層全体を通じて、手応えを感じられたところもあれば、その一方でオーブの処理にまつわる判定の速さ、処理を失敗したときに、ミスをしなかったメンバーにデバフが付与されるなど、バランスを調整するためとはいえ、いくつか自分の中で課題も残りました。このあたりは、プレイヤーの皆さんのフィードバックを拝見して反省しつつ、つぎの企画に活かしていければと思っています!

制約を設けて、ストレートで直感的な難しさを実現

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──続いては3層のフェイトブレイカーです。まずはコンセプトからお聞かせください。

川本設定的なコンセプトは、“最強のガンブレイカーを目指す”でした。これは中川と最初に話したときにも話題に挙がったのですが、サンクレッドがガンブレードを持っているなら、そこを突き詰めてみようということで。

 あとは、ギミックを作るときに自分に制約を設けて、“ストレートなボスにする”というのも、中川と話して決めていました。1層と2層はわりと変化球的なギミックを多く盛り込んだボスだったので、脳トレ的な仕掛けは入れず、ギミックはストレートに、直感的な攻撃になるように意識して作りました。

──3層であえてストレート勝負というのはおもしろいコンセプトですね。ほかにどんな制約を設けたのですか?

川本パッチ5.3で“ウォーリア・オブ・ライト討滅戦”が公開されましたが、あのバトルでの剣に魔法を込めるという要素と、ガンブレイカーのソイルに力を込めるという要素がかぶらないように気を付けました。ほかにも、左右を判断する攻撃を使わないとか、プレイヤー間で俗に“ダイナモ”や“チャリオット”(※)と言われている技も封じ手にするなど、こういうギミックを使うのは控えようというのを整理したうえで企画を考えていきました。

※“ダイナモ”や“チャリオット……大迷宮バハムート:侵攻編4に登場するネール・デウス・ダーナスがくり出す技“ルナダイナモ”と“アイアンチャリオット”に由来する。ルナダイナモはボス付近が安全地帯となるドーナツ型範囲攻撃で、アイアンチャリオットはボスを中心とした円状の範囲攻撃。これらと似通った技は“ダイナモ”や“チャリオット”とプレイヤー間で言い換えられ、共通言語として用いられることがある。

中川開発内では“ドーナツ範囲”や“PBAE”などと言っていますが、オーソドックスな2択攻撃としても、ほかの攻撃と重ねるときの汎用性としても、企画に組み込まれやすい傾向にありますね。

川本左右の攻撃もそうなのですが、作り手としては便利なんですよね……。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──プレイヤーが引っ掛かりやすい攻撃の代表格ですよね(笑)。確かに、3層は「このギミックはどうやって解くんだろう?」という部分がほとんどなかったように思います。一度見れば、ぼんやりと解法が見えてくるような作りでしたね。ただ、絶妙なのが、あの攻撃のテンポ感だと思いました。

川本まず、プレイヤーの皆さんの反応速度を考慮した猶予時間に調整して、難度づけをしていきました。それに加えて、ひとつの技だけなら簡単でも、技が連続したり、別の要素が重なることで急に難しくなるような、そういった“重なり”を意識して作りました。ひとつひとつの技はシンプルですが、それの重なり、連続性でギミック的な難度をつけようとしていった感じです。

──ギミックがシンプルだからこそ、そういった難度づけができるという感じですね。あと、やはり3層はストッパーといいますか、零式の本番はここから始まるというイメージですが、リリースの初週や2週目くらいまでの攻略状況は意識されるのですか?

川本そうですね。プレイヤーの皆さんの装備がこのくらいだから、数値をこれくらいにしようとか、ダメージ的な難度は3層で付けられるギリギリの数値になるようにイメージしました。

──とくに攻略初期では、継続ダメージ付きの全体攻撃“光焔光背”が猛威を振るっていましたが、あの調整も絶妙だったと思います。パーティ内でダメージ軽減の意識を共有できていないと、みるみるHPが減っていって。

川本軽減に関しては、光焔光背よりは、ダメージのシェアや散開などが求められる“エレメンタルブレイク”を初期攻略で軽減必須のギミックとして用意しました。装備が整う平均値やHPの値を計算して、再生編:零式実装から2週目くらいまでは、エレメンタルブレイクに軽減を入れないとやられてしまうダメージにしています。光焔光背は軽減を使うと楽になるのですが、ヒーラーの難度を上げる、という目的として実装されています。継続的にHPが減ることになるため、ヒーラーは被弾の瞬間だけでなく、その後のケアを意識しておかないといけないと。

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シンプルながら、目まぐるしく攻撃がくり出される3層。実装直後は一度の軽減ミスでもかなりきつい状況になっていた。

──アドルを忘れて怒られたキャスターは自分だけではないはず……(笑)。

川本すべての光焔光背に軽減を入れようとすると、逆に難度が高くなると思います。エレメンタルブレイクだけに軽減を入れるように決めておけば、担当する人が軽減を忘れても、ほかの人が代わりに軽減を使えるはずなので、全滅を防ぐことができるようになっています。もちろん、装備が整っていない状況となる実装初週はたいへんだったかと思いますが、装備が徐々に強くなっていくと軽減のミスが許されるような設定値にしています。

──そういえば、前回のインタビューで中川さんが冗談で「再生編でもパントクラトル(※)の流れやりますか?(笑)」とおっしゃっていて、もしかしたら“堕獄絶技”が再生編版パントクラトルなのでは? と予想したのですが、いかがでしょうか?

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

※パントクラトル……次元の狭間オメガ:アルファ編3に登場するオメガがくり出す技。全員が1ヵ所に集まり、ボスの周囲を回るようにいっしょに動いて、範囲攻撃をかわしていく。

川本いえ、それは違うと断言します!(苦笑) これも最初にお話しした制約の中に、“パントクラトルは絶対にしない”というのが入っています。覚醒編3層でリヴァイアサンがパントクラトルのような攻撃を仕掛けてきて、共鳴編3層の最終フェーズも「パントクラトル感があるよね」と話題になっていて、その流れがあったからこそ、僕は絶対にパントクラトルをしないぞと(笑)。

──最初から意識されていたわけですね(笑)。

川本じつは、開発チームの中には、“パントクラトルの定義”があるんです。たとえば、オメガならミサイルを撃ちまくったり、リヴァイアサンならビームを放ちまくったり、ダークアイドルなら竜巻で全体攻撃を連打してくるといったような、“ボスが窮地に陥った場面で、遮二無二攻撃をくり出している”様子。それに加えて、光の戦士たちがボスのターゲットサークルのまわりをぐるっと回るようなものが、開発チーム内のパントクラトルの定義です。

──なるほど。 “全員が同じように動く=パントクラトル”ではないんですね(笑)。

川本はい(笑)。堕獄絶技は、いわゆる“運動会”と呼ばれるギミックに近いものです。この“運動会系ギミック”の始まりは機工城アレキサンダーの律動編4からで、ボスを攻撃できない状態、つまり移動だけに集中できる条件下で、全員揃って難しいギミックを避けるというような要素です。プレイヤーの皆さんにとっては、大迷宮バハムート侵攻編4層の隕石フェーズが初体験に感じるかもしれませんが、開発チームの意図したギミック処理法ではなかったので、意図的に作られたのが律動編4からだったと思います。

中川この運動会と呼ばれるフェーズは、絶シリーズでもよく使われる手法です。だから自分は最初にプレイしたときに、テンポ感なども含めて「この堕獄絶技は絶っぽいな」と感じました。やっていることはシンプルだけど、テンポが早く、全員で動かなければいけない。そういった部分がとくに絶バハムートに近いなと感じましたね。

川本僕としても、絶バハムートをやさしくしたバージョンというイメージでしたので……。

──やや脱線気味でしたが、とても興味深いお話でした。

川本僕はこれを主張させていただいたので、とても満足です。ありがとうございます(笑)。

──最後、ちょっと話題が変わりますが、バトル中のサンクレッドやリーンのボイスはレイドオリジナルですよね。これは企画の段階から盛り込まれていたのでしょうか?

川本はい。企画がある程度進んだ段階で、ボイスを収録するということを聞いたので、まずは僕がセリフを考えて、それをシナリオ班のほうでブラッシュアップしてもらい、収録したという運びです。完成したボイスがすごくかっこよかったので、もっと作っておけばよかったなと……。

──自分が考えた技に新規録音でボイスがつくのは贅沢ですよね。

川本めちゃくちゃうれしかったです!

技名やモーションで『FFVIII』のファンも楽しめる作りに

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──では最後に4層についておうかがいします。まずは、零式でバトルを前後半に分けた理由からお聞かせください。

中川前後半に分けるかどうかは、レイドの大きな方針としてずっと議論が続いているものです。これまでの流れや開発側としてどう考えているかなどは、以前に取材いただいた共鳴編インタビューの後編で詳しくお話ししましたので、ぜひそちらをご確認いただけるとうれしいです。今回は後半戦に闇の巫女としてのガイアを出して、バトル内容を大きく前半と差別化したいという意図と、エデンシリーズの最後として零式にも大きな盛り上がりを作りたいという意図があり、その前提で企画を考えてもらいました。バトルシステム班とモンスター班の全員が集まって企画内容を精査する会議で、前後半に分けたときと、分けなかったときのメリット、デメリットを再度議論して、全員の意見を聞いたうえで、吉橋と大輔(中川大輔氏。バトルコンテンツデザイナー)に持ち帰ってもらって、最終的な結論を出したという流れですね。

──大輔さんは再生編4層の制作に関わられているのですか?

吉橋はい。自分のメンター(助言者)としてだいぶお世話になりました。自分が困っているときにサポートをしてもらったりして、二人三脚でがんばらせていただきました。

──おお、そうだったのですね。では、4層のコンセプトをお聞かせください。

吉橋プロミス・オブ・エデンのコンセプトは、“記憶と想像力との戦い”でした。覚醒編、共鳴編を通して、光の戦士の記憶をもとに、エデンを介して疑似蛮神を呼び出し、属性を励起させてきたという経緯があります。ここで呼び出した疑似蛮神は、もとの特徴を捉えてはいるものの、どこか違う。完全再現されているわけではなく、何かと混ざり合っていたり、変身、変形していたりとか、そういう要素がありました。この要素は、ボスの外見だけでなく、バトルのギミックにも取り入れられています。そういった戦いを経て、最後に対峙することになるプロミス・オブ・エデンは、記憶と想像力を活かした、どこかで見たことがあるけど、ちょっと違うという要素が詰まったバトルの集大成にしようと企画を進めていきました。

──その流れから、ジャンクションに発展していったのですか?

吉橋そうなります。記憶を利用してぶつけてくる攻撃のほかに、自分に纏って自身を強化するという発想から来ています。これらギミックはコンセプトを先に考えて、完成したギミックに“はなつ”や“ジャンクション”といった名称が後から付けられたという経緯があります。

──外周のクリスタルから疑似蛮神の力をジャンクションするという、すごく特徴的なバトルになっていますよね。

吉橋4層の草案を作るときに、まずノーマル難度でいちばん盛り上がるところはどこだろうと考えました。シナリオのプロットの段階から、ガイアの記憶が破壊されたり、最終的に記憶を失ったガイアをリーンが救い出すことがざっくりと決まっていたので、ここをバトルと連動させたいと思ったのです。リーンとガイアの物語をより近くで体験できるようにしたらすごく盛り上がるのではないかなと。そのプロットの中に、アシエン・ミトロンがガイアの記憶を抽出、具現化して破壊するというくだりがあったので、バトルでもそれを再現して、エデンの空間内の記憶であったり、リーンとガイアの思い出などが具現化して、クリスタルになって出現するという形でバトルのギミックに落とし込みました。

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──4層のボスが使う技なのですが、ショックウェーブ・パルサー、ヘル・ジャッジメント、アポカリプス、ダブル・トリプル、時間圧縮などは『FFVIII』由来かと思います。そこはアルティミシアを意識されたのでしょうか?

吉橋インタビューの前半で中川から話があった通り、アルティミシアを登場させることができないか検討していた時期があったので、後半フェーズのボスとしてアルティミシアを作ることになるかもしれないなとぼんやりと思いながら、プロミス・オブ・エデンの企画を進めていました。結果としてアルティミシアは出さないという判断となりましたが、コミュニティの中でアルティミシアとの戦いを期待されている声があるのは自分も把握していたので、ボスの技名やギミックに関連性があるものは、消さずに残しておくことにしました。

──エッセンスとして導入されたということですね。

吉橋はい。“はなつ”や“ジャンクション”をキャストするときのエフェクトも、原作の『FFVIII』のドローを再現してほしいと、発注の段階からお願いしています。

──アポカリプスのエフェクトも『FFVIII』にかなり似ていますよね。

吉橋そうですね。あの技も含めて『FFVIII』をモチーフとしたものは、動画などを見ながらアーティストと相談して、『FFXIV』らしいエフェクトに落とし込みつつも、リスペクトして再現することを意識しました。

──ヘル・ジャッジメントも原作通りHPが1になったり。

吉橋ヘル・ジャッジメントはバトル中に1回しか出てこないので、結果的にかなり贅沢な使いかたをしています……。でも、『FFVIII』でバトル開始直後にHPを1にされてギョっとした思い出が強烈に残っていたので、絶対にやりたいと。

──シェルクラッシャーやブラックヘイロー、とスピリットテイカーは『FFXI』由来でしょうか?

吉橋そこは自分からの発案ではなく、織田(織田万里氏。リードストーリーデザイナー)ともう1名の担当された方からの提案でしたので、お話を聞いてきました。「ハンマー技は『FFXI』からの引用です。ガイアに限らず、一部の武器を使ったアクションやモンスターの技名は、『FFXI』から引用して使用することがあります。今回もその例で、ハンマーといえば、『FFXI』に両手棍、片手棍があるので、そのあたりからイメージして、モーションやエフェクトに合いそうなものをピックアップして命名したパターンになっています」とのことです。

──わざわざヒアリングしていただいて、ありがとうございます! では、続いてギミックについてお聞きしていきます。“ダイアモンドダスト”は前半フェーズの難所のひとつで、ここで苦戦したプレイヤーも多いと思いますが、どのようなことを意図して作られたのでしょうか?

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零式の再生編4は、ダイアモンドダストとライオン(創られた獅子)ギミックに苦しめられた人も多いはず。

吉橋ダイアモンドダストは、かなり攻めた作りにした自覚はあるのですが、想定していたよりも難所となりました。ヒールをもらう側にも位置取りの工夫を求められたり、氷柱からの攻撃を散開して各方面に散らすときに、散開ルールを決めるか、アドリブにするかなど、気を付けるポイントが複数あることが要因だと思っています。

 ちなみに、ダイアモンドダストに限らず、4層全体を通して、ヒーラーの皆さんが、“ヒールをがんばれるコンテンツ”にしようと強く意識して調整をしています。バリアを付与したり、軽減を入れてダメージを減らしたり、インスタントの回復をどこで使うかを考えたりなど、相方のヒーラーと相談しながら役割分担をして経験を積み、ヒールが最適化されていく過程を楽しめるようにしたい、と意識していました。

 その後に続く大地の怒りや、創られた男、創られた獅子も同じで、しっかりとHPを回復しつつ、自身のギミックも並行してこなす。ヒールの最適化が進めば攻撃する余裕が生まれ、望めばヒーラーも火力で貢献できるというところにつながるよう、構成を考える段階から気を付けて作りました。

──確かに、全体を通して見ると、全体攻撃が多めになっていますよね。それにしても、ダイアモンドダストが序盤に出てくるのにはある種の温情を感じました。あれがライオン(創られた獅子)の後に来たらと考えると、震えてしまいます(笑)。

中川共鳴編4層でも、難所であった“光の暴走”が序盤に出てきますよね。あのような位置づけです。ちなみに、ダイアモンドダストはテストプレイにかなりの時間をかけました。このタイミングでヒールをして、ここでこう動いて、というのを何度も8人でテストして、意見を出し合いながら調整していきました。

──ヒーラーがうまく立ち回っても、ヒールをもらう側も意識しないといけないのがポイントですよね。

吉橋まず安全地帯に避けて、集合、散開と、それぞれの動きとヒールのテンポ感から固めました。その後に、どんどんダメージの値を上げていって、もうひと声とくり返した結果がいまの値です。上げすぎてしまったり、ちょっと下げて様子を見たりと何度も試行錯誤して、ギリギリを攻めたという感じになっています。

──先ほどちょっと話題に出た大地の怒りですが、ここで登場する3色のマーカーは零式の覚醒編4層を経験した人であれば見覚えのあるギミックになっています。このあたりはどういう経緯で採用されたのでしょうか?

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零式の覚醒編4で登場した特徴的なマーカーが再生編4でも使われている。攻略法は確立しているものの、咄嗟の判断が必要なシーンだ。

吉橋ここはギミックを考えるときに、すんなりとアイデアが浮かんだところです。零式の覚醒編4層のバトルで登場する3色のマーカーがすごく印象的だったので、そこに今回のコンセプトである、どこかで見たけどちょっと違うという要素を取り入れようと。

──3色のマーカーは今回の4層制作のメンターである大輔さんが作ったギミックですよね。大輔さんはどういった反応をされていましたか?

吉橋うれしそうな感じでした(笑)。ちなみに、大地の怒りのフェーズは、合計で3パターンのマーカーが順番に付与されるようになっていますが、調整の段階では順番がランダムで、さらに複雑なものでした。これはさすがに難度が高すぎるという話になり、いまの形に落ち着いたという経緯があります。ダイアモンドダストも攻めた値づけをしていて、それに続く大地の怒りも難度の高いものだと、ちょっとやりすぎになるためです。

川本テストプレイのときは、調整に参加したメンバーが「覚えられないよー」と嘆いていましたね(笑)。

吉橋実装初期のバージョンでは、付与されたマーカーを見て、すぐにどのパターンかを判断して動くことが要求されたため、この猶予時間では無理という話になりました。もちろん、猶予時間を延ばすという方法もありましたが、ギミックのテンポを重視した結果、いまの形に落ち着きました。

──ちなみにですが、ダイアモンドダストの途中でリキャストタイムが2分のアビリティが戻り、大地の怒りでリキャストタイムが3分のアビリティが戻ってきますよね。ここは意図的にそういうタイムラインにしたのですか?

吉橋ギミックとギミックの合間の待機時間の調整や、全体攻撃を挟むなどして、概ね1分間隔でギミックがくるよう調整をしました。ここは、共鳴編4層担当のバトルシステム班の玉置(玉置 輝氏。バトルシステムデザイナー)がすごく時間をかけて協力してくれて、ここはもうちょっと延ばしたほうがいい、縮めたほうがいいということをアドバイスしてくれたので、それをもとに調整していきました。

──あとは、ダイアモンドダストと並ぶ象徴的なギミックとして、ライオンのギミックがありますよね。いろいろな攻略法が早い段階で編み出されていて、いまでは“TT式”と呼ばれる攻略法が主流になっています。このあたりはプレイヤーの動向をチェックされていたかと思いますが、いかがでしたか?

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!
前半の最難関ポイント、通称“ライオン”ギミック。フィールドの内側にクロスさせるように火炎放射を誘導しつつも、対象のプレイヤー以外には当たらないという、絶妙な散開が現在の攻略の主流となっている。

吉橋先日の“14時間生放送”で、吉田がTT式を「ほぼ想定通り」のようなニュアンスでお話ししていましたが、じつはノックバック無効ありとなしでふたつの想定があり、TT式はノックバック無効なしの方式とは大きく違います。

──どういう攻略法を想定されていたのですか?

吉橋計3回の火炎放射が来るのですが、1回目はステージ中央に4人が縦に並んで火炎放射を受けます。2回目はおのおの線が付いた獅子がいるほうにノックバックして、外向きに火炎放射を誘導します。3回目はまた中央に戻るという感じですね。ダイアモンドダストもそうなのですが、開発調整中は、ノックバック無効技はあえて禁止にして調整しているため、ノックバック無効を前提としない解きかたです。

──いまではアームズレングスや堅実魔で、どのジョブもノックバック無効技は使えますが、それありきにはしないと。

吉橋できる限りノックバック無効なしを保証しましょう、というコンセンサスになっています。ですので、火炎放射の2回目はノックバックされる、という条件で解きかたを作っています。もちろん、プレイヤーの皆さんが、“ノックバック無効技を使う想定”の解法を生み出す可能性もあり、その際にはいま言われた“TT式”のような解きかたになりそうだ、というのがふたつ目の想定です。ただ、その場合には、ものすごくギリギリを攻めた位置取りをしなくてはいけないため、主流になるかどうかは微妙なところ、というのが率直な感想でした。吉田から皆さんに、「ニュアンスが微妙なことを言ってしまってごめんなさい!」とコメントをもらっています(笑)。

──ちょっとでも位置取りをミスするとすぐ戦闘不能になりますが、フィールドマーカーを使ってうまく対処していますよね。では、そろそろ後半フェーズの話題に移りましょうか。後半フェーズでは、覚醒編2層のヴォイドウォーカーが使う“ディレイスペル”を使ったギミックが中心となっていますが、後半フェーズのバトルを作るときにはディレイスペルのギミックを使うことは決まっていたのでしょうか?

吉橋闇の巫女のコンセプトは、“力強いハンマーと、すごい時魔法を駆使する”でした。公式な設定ではなくて、私個人の解釈なのですが、ディレイスペルは時魔法の一種なんだろうなと思っていて……。ガイアがこの魔法を使えるということは、本来の姿を取り戻した闇の巫女は、もっとすさまじい時魔法を駆使できるんだろうな……というのが企画の取っ掛かりでした。当然、ディレイスペルは外せないですし、象徴的なあのギミックと同じくらい印象に残るものを作りたいという思いがあって、“時間圧縮”中に展開していくリターンやスピードなど、時間をモチーフとした技が生まれていきました。

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──ディレイスペルの発案者は中川さんでしたよね。以前のインタビューで、ディレイスペルはランダム性の有無で難度を調整しやすいとおっしゃっていました。それが再生編零式4層の後半フェーズにも採用されているわけですね。

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ディレイスペルは、技の発動を遅らせるという一見単純な仕掛けに思えるのだが、技が発動する前につぎの技の予兆が出て惑わされたり、ディレイスペルの影響を受けていない技と発動順が混乱するなど、印象以上の厄介さがある。

中川誰か僕を褒めてください。

一同 (爆笑)

──開発初期の段階でディレイスペルを使うと話されていたのですか?

吉橋ディレイスペルは外せない要素でした。

中川何も言わなくても、きっと使ってくれるんだろうなと思っていました。

──ディレイスペルに関して、何か中川さんからアドバイスはされたのでしょうか?

中川今回は、大輔と吉橋のふたりに任せました。ただ、前半フェーズの企画をしているときに、いい案がぜんぜん思いつかないということで、会議に呼ばれたことはありました。ふたりとも、これでいいのかがわからなくなってきたと悩んでいて。そこで企画の内容を聞いたのですが、ふたりが悩んでいるほど悪いものではなかったので、このまま進めていいんじゃないかなとアドバイスしたくらいです。

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──根を詰めて作業をしていると、何が正解なのかがわからなくなりますよね。

これは開発者あるあるですね(笑)。

──さて、後半のギミックについてもうひとつだけ。“時間圧縮”は序、破、急、そして終の4種類がありますが、その命名の経緯についてお聞かせください。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

吉橋開発中は仮の名称でA、B、Cとつけていました。最初から3種類と決まっていて、織田に3種類の名前がほしいという発注をしました。ここも織田から回答をもらっていて、「3種類だったので序、破、急がちょうどいいなと思ってつけました」とのことでした。あとで時間圧縮に4種類目を追加することが決まり、序、破、急の後をどうしたものかと悩んだそうなのですが、「最後の締めくくりということで終とつけました」と、伝言を預かっています。

新しく登場するキャラクターに命を吹き込むことの難しさ

──まだまだお聞きしたいことは山ほどあるのですが、残念ながら取材の時間に限りがありますので、シリーズの総括をしていただきたいと思います。希望の園エデンシリーズ全体を振り返って、いかがですか?

中川希望の園エデンは、やはりガイアとリーンを中心としたコンテンツ、シナリオなので、最初から最後まであのふたりのキャラクターと、エデンという存在を強く意識して作ってきました。改めて振り返ってみて、この芯の部分は、ブレずにうまく作れたかなと思っています。覚醒編2層で、あの時点では名前もわからないガイアと対峙して、共鳴編4層でリーンがボスとして立ちはだかり、ノーマル難度の最後の演出でガイアがリーンを助けるシーンも描かれました。そして再生編4層で、プロミス・オブ・エデン、闇の巫女と戦う。実際に希望の園エデンシリーズをプレイした人も、この3つの層とエデン、ガイア、リーンという3人のキャラクターは、強く印象に残っているのではないかなと思っています。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──バトルもそうですが、シナリオ面でも大きな盛り上がりを見せる層ですよね。

中川バトル面で言えば、覚醒編2層のディレイスペルは、すべてのシナリオを見通して作ったわけではなくて、とにかくその当時はガイアというキャラクターの特徴をしっかり作っておくという意図と、覚醒編2層というバトルコンテンツをおもしろくするためのアイデアのひとつにすぎませんでした。それが結果的に、共鳴編4層のノーマル難度の演出で光の暴走を止めるときに使われたり、再生編4層でもバトルのギミックとして活用されていたりと、本当にうまく綺麗につながったなと。

──当初はそこまで意図されていなかったディレイスペルが、リレーのバトンのように、以降のシナリオ、バトルにつながっていく。なんだか感動的なお話ですね。

中川次元の狭間オメガシリーズでは、『FFV』や『FFVI』のボスが多数登場して、最後に『FFXIV』オリジナルのボスで締めくくるという構成でした。今回の希望の園エデンシリーズは、『FFVIII』の要素はありつつも、ガイアとリーンという『FFXIV』オリジナルのキャラクターを中心にしたコンテンツを作るという方針があったので、覚醒編の段階で初めて登場したガイアにそういった特徴づけを行い、キャラクターにうまく命を吹き込むことができたのは、振り返ってみると本当に大きなことだったなと思います。

 オメガシリーズのように、歴代の『FF』に出てきたボスをうまく使って『FFXIV』のバトルを作るのはとても楽しいことですし、『FF』ファンであるプレイヤーにとっても魅力的なものになることが多いです。ただ、歴代のボスを使う手法ばかりに頼っていると、いつかネタも尽きてしまいますし、『FFXIV』オリジナルのボスを期待するプレイヤーの声も無視することになってしまいます。ですので、今回『FFVIII』の要素を最小限に使いつつエデンシリーズをうまく作ることができたのは、苦労もありましたがとてもよかったなと思っています。

──すでにバックグラウンドがある歴代のボスキャラクターとは違い、オリジナルの難しさというのもありますよね。

中川レイドコンテンツは、1パッチだけ切り取ってみると、シナリオのボリュームはメインシナリオほど大きいものではないので、そこで初めて登場するキャラクターを、みんなの記憶に深く刻まれるようなものにするのはすごくたいへんなことなのです。今回はその点も含め、実装し終えられてほっとしています。

『FF14』“希望の園エデン:再生編”開発者インタビュー(後編)。バトルのコンセプトやあの印象的なギミックが生まれた秘話など、再生編の各層を深掘り!

──シナリオだけでなく、バトルも多くのプレイヤーの記憶に刻まれたと思います。運営は間もなく9年目に入ろうとしていますが、新しいレイドが実装されるたびに新鮮な驚きがありますし、大きな達成感をともなうゲームバランスというのは、そう簡単なことではないのは容易に想像がつきます。

中川希望の園エデンシリーズ覚醒編、共鳴編のリリース後、これまでと比較して多くのプレイヤーからたくさんのフィードバックをいただきました。これは、次元の狭間オメガシリーズと比較して、高難易度レイドをプレイしてくださっているプレイヤーの方がかなり増えていることが影響していると考えています。再生編はそういった多くのフィードバックに対して、かなりの時間をかけて開発チーム内で議論し、それを企画や開発にしっかりと反映していきました。その結果が、再生編のクオリティーにつながったのではないかと考えています。そして、再生編がうまくいったからそれに満足してしまうのではなく、6.0に向けて、つぎはさらによいものを! という熱い想いを持って、現在もたくさんのスタッフたちが開発を続けています。

 こういうインタビューを受けさせていただくと、ひとりのバトルコンテンツ担当者の裁量ですべてが決まっていると思われがちですが、レイドの開発には本当に多くの人たちが関わっています。僕たちが代表としてお話しさせていただいているだけで、ここにはいないたくさんのスタッフとともに議論し、皆で連携して開発しているからこそおもしろいコンテンツが作られています。

──では最後に、今後の『FFXIV』のコンテンツを作っていくうえでの意気込みや、プレイヤーへのメッセージをお願いします!

今後もいろいろなバトルコンテンツを作っていきたいと思っています。『FFXIV』が続いていくうえで、新しい体験や感動、驚きを継続的に伝えていけるように、工夫して、試行錯誤して、強く印象に残るようなコンテンツを作っていきたいなと思います!

高橋プレイヤーの皆さんのご意見を生で聞けて、その意見をフィードバックとして取り込んでいくのが『FFXIV』のいいところだと思っています。今後もプレイヤーの皆さんのご意見を拝見して、自分の企画をよりよいものにし、皆さんに楽しんでもらえるような体験をお届けしていきたいです!

川本コンテンツはモンスター班の若い子たちがどんどん新しいものを作ってくれると思うので、バトルシステム班として、それがバランスのいいものになるように、調整作業をがんばっていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

吉橋バトルをおもしろくするのは当然という覚悟で臨みつつ、そのうえで印象に残るギミックであったり、解いたときに「気持ちいい!」と感じられるものをこれからも考え続けていきたいなと思っています。そこに登場するキャラクター、シナリオ、BGM、エフェクトなどを含めて、『FF』としてすごく楽しかったと思える、心に残るコンテンツを今後も作っていきたいです。

中川いままさに『暁月のフィナーレ』の開発をガンガン進めていますので、新たな高難易度レイド“万魔殿パンデモニウム”の話もちょっとだけ……。

──なんと!?

中川いま本当に開発が忙しい状況で……。万魔殿パンデモニウムの開発も、もうすぐ8人テストができるかなといった状況です。万魔殿パンデモニウムは、ひさびさの『FFXIV』オリジナルのレイドになります。第1弾のボスについても過去の『FF』シリーズのボスは登場しません。そのうえで、『FFXIV』ならではの魅力的なレイドになるように、関係者一丸となって制作しています。ボスたちも『FFXIV』チームのアーティストによってすごく魅力的なデザインに仕上がっていますので、ぜひ、楽しみに待っていてください!