2020年7月にPS4で発売された『Ghost of Tsushima』(ゴースト・オブ・ツシマ)。世界的ヒットとなった本作に、さまざまな新機能や新たな追加エピソードなどを加えたディレクターズカット版である『Ghost of Tsushima Director's Cut』(ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット)が、2021年8月20日に、プレイステーション4とプレイステーション5にて発売される。

 本記事では発売に先駆けて、開発者インタビューをお届け。前半は、開発を手掛けるサッカーパンチ・プロダクションズのクリエイティブ・ディレクターであるネイト・フォックス氏と、アート/クリエイティブ・ディレクターのジェイソン・コーネル氏。

 後半は、本編より環境アートリードを務めるジョアンナ・ワン氏、今回の追加エピソードを執筆したシニアライターを務める、パトリック・ダウンズ氏のインタビューをお届けする。

Ghost of Tsushima Director's Cut (PS5)購入はこちら(Amazon.co.jp) Ghost of Tsushima Director's Cut (PS4)購入はこちら(Amazon.co.jp)

ネイト・フォックス

サッカーパンチ・プロダクションズ クリエイティブ・ディレクター(文中はネイト)

ジェイソン・コーネル

サッカーパンチ・プロダクションズ アート/クリエイティブ・ディレクター(文中はジェイソン)

ジョアンナ・ワン

サッカーパンチ・プロダクションズ 環境アートリード(文中はジョアンナ)

パトリック・ダウンズ

サッカーパンチ・プロダクションズ シニアスタッフライター(文中はパトリック)

ネイト・フォックス氏&ジェイソン・コーネル氏

より過酷な戦いの待つ“壱岐”

――まずは『ゴースト・オブ・ツシマ』の大ヒット、改めておめでとうございます。

ジェイソンこちらこそ、本当にありがとうございました。サッカーパンチプロダクションズを代表して、ファンの皆さんに感謝の気持ちをお伝えいたします。チームにとって、皆さんの愛情も感じられる1年でした。たとえば、いまだにフォトモードで撮影したスクリーンショットを、SNSなどで公開して楽しんでいらっしゃいますよね。世界的に多くのプレイヤーが遊んでくださったこともそうですし、いまなお遊ばれているという状況もうれしい限りです。

――今回発表された『ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット』は、どのような経緯で開発が決まったのでしょうか。

ジェイソン本編の開発が終了しても、よりプレイヤーを楽しませられないだろうか、とよく考えていました。そのひとつがマルチプレイモード“Legends/冥人奇譚”を実装した大型アップデートだったわけですが、さらに語れる物語もあるのではないかと考えました。とくに、境井 仁の人となりがより分かるような物語が描ければ、プレイヤーの皆さんにより楽しんでもらえるのではないかと考えたのです。それが今回、『ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット』に追加される、壱岐の物語となります。

――壱岐で語られる物語というのは、もともとあった構想、またはバックストーリーだったりするのでしょうか?

ネイト本編のストーリーを描きながらも、ほかにもたくさんのアイデアがありました。本編は仁が侍から“冥人(くろうど)”に変わっていくことを重視した物語で、その間にはたくさんのエピソードがありますよね。ですが、すべてのアイデアを入れ込むことが残念ながらできませんでした。今回追加するのは、いちばん気に入っていたアイデアをもとに、じっくりと練ったエピソードになっています。

――壱岐は本編の途中から遊べるようになるとのことですが、具体的にはどのあたりまで進める必要があるのでしょうか?

ネイト厳島をクリアー、つまり本編での“序之段”をクリアー後に、豊玉で壱岐に渡るミッションが発生します。すでに本編をクリアー済みの人なら、すぐにミッションが発生しますよ。

――壱岐と対馬は、自由に行き来できるのでしょうか?

ネイト基本は自由に行き来可能なのですが、初回のみ、壱岐に渡ったときにいくつか試練が待ち受けているので、それをクリアーすると、ファストトラベルで行き来することができるようになります。これから初めて遊ぶ人にはもちろんのこと、もうすでにやり込まれた人にとっても、遊ぶ意義のある物語と新たな体験が待っていますよ。

――以前、本編の制作時には、日本の対馬に訪れて取材もされたとお聞きしました。今回は昨今の世界的な情勢もあり、さすがに壱岐は取材できませんでしたか?

ジェイソン残念ながら、そうなりますね。こういう状況なので、仕方ありませんが。ただ、本編制作時にノウハウは培いましたし、壱岐のたくさんの資料なども集めました。また、ときには壱岐をよく知る方たちにコンサルティングもしていただき、制作していきました。

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

――そこから得たインスピレーションも、しっかり物語に練り込まれていると。現実の壱岐は対馬と比べると非常に小さな島ですが、ゲーム的なエリアの広さはどれくらいになるのでしょうか?

ネイト本編は3章に分かれていますよね。その1章ぶんくらいになります。フィールドとしては、本編でいう厳原、豊玉、上県のいずれかくらいのものを想像していただければと思います。

――実際に壱岐を旅するのを楽しみにしています。今回はプレイステーション4版だけでなく、プレイステーション5版も登場しますよね。とくに専用コントローラの“DualSense(デュアルセンス)”による新たな体験、というのはどのようなものになるのでしょうか。

ネイト“DualSense(デュアルセンス)”は本当に素晴らしいです。いままでも振動機能はありましたが、基本的にはただ震えるだけのもので、あとはゲーム画面を見て、音を聞いて、ゲームを遊ぶのが基本でした。そこにハプティックフィードバックによる細かな振動での感触、そしてアダプティブトリガーという感触が増えました。本作では仁が刀を振るったとき、たとえば敵の盾に防がれれば、跳ね返るような感触が味わえます。ほかにも弓矢を引き絞る感覚も味わえますので、さらに没入感が高まったと思っています。

――また、プレイステーション5版は高速SSDにより、さらにロードが早くなるとお聞きしています。ですがプレイステーション4版の時点で、かなりロードが早かったですよね……? ときおりある長いロードもなくなる、というような認識でいいのでしょうか?

ジェイソンそうです。サッカーパンチ・プロダクションズには“エンジニアの魔術師”たちがいます(笑)。プレイステーション4版のロード時間は、ユーザーの皆さんも驚かれたことでしょう。本編のほうでもロード時間を早めてくれましたが、今回のプレイステーション5版はさらにロード時間が短縮されるので、いかなる時でもロードを待つことなく、よりゲームに没頭しながら旅を楽しめることでしょう。

――そしてプレイステーション5の特徴のひとつとして、Tempest 3Dオーディオにも対応しています。これにより、対馬での旅はどのように変わるのでしょうか。

ジェイソンこれまでは前後左右からしか音が聞こえない世界でしたが、3Dオーディオの対応により、プレイヤーの360度にスピーカーがついているような音響が楽しめます。本作でとくに感じられるのは、仁を誘導してくれる風の音、上空に生い茂る木々のさざめきなどが、より感じられるようになるでしょう。また、雨が降ったときには、地面に雨音が落ちる音まで地面から聞こえますので、よりリアルな体験が味わえます。

――実際のゲームプレイが楽しみです。さらに、新たな敵や技など、多彩な要素が追加されるそうですが、とくにアピールしたいポイントはありますか?

ネイト新たな探索要素はもちろんですが、バトルがよりエキサイティングなものになります。既存の4つの型があると思いますが、新たに登場する敵兵が仁の型のことを学習し、それを踏まえて挑んでくるため、より型の変更が重要となってくるのです。また、個人的に推したいポイントなのですが、馬のための鎧が登場し、それを装着していると、馬で敵兵に突撃攻撃ができるようになります。馬への愛情もより深まりますし、さらに相棒感が増すのではないでしょうか。

――馬への愛情というのも、本作のポイントですものね。馬といえば、動物についても気になることがあります。PVを見たところ、ネコや鹿などを撫でられるようですが……?

ネイト本編でのキツネのように、壱岐ではより深く、さまざまな動物たちとの関係を深めることができます。本編でも、対馬全体が仁を助けてくれるというようなイメージがあると思いますが、壱岐もそれを踏襲しています。ちなみにあるスキルを習得すると、ネコとより親密になれたりします。

――最後に、今回の『ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット』の発売を楽しみにしているファンの方々へ、メッセージをお願いいたします。

ジェイソンサッカーパンチ・プロダクションズを代表して、日本のファンの皆さんに「ありがとうございます」とお伝えしたいです。私たちのモチベーションになる大きな部分は、日本の皆さんの反応なんです。これからも日本の皆さん、そして世界の皆さんも、『ゴースト・オブ・ツシマ』をより愛してくれると、本当にうれしく思います。ぜひ、新たな壱岐の旅を楽しんでください。

ネイト本当にこれまでも、プレイしてくださってありがとうございます。皆さんがSNSなどで投稿した写真を見るだけでも、私たちのモチベーションとなり、もっといいゲームにしよう、つぎのゲームも楽しんでもらおうという気持ちになれますし、チームの原動力になっています。本作は、我々の大好きなジャンルである“時代劇”に、なにか一石を投じたかった気持ちから始まったタイトルです。そんな“時代劇”が身近な存在である日本の皆さんに楽しんでもらえて、大変うれしく思います。ぜひ『ゴースト・オブ・ツシマ ディレクターズカット』も楽しんでください。

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

ジョアンナ・ワン氏

色使いの異なる壱岐の景色

――まずジョアンナさんの務める“環境アートリード”とは、どのような役職になるのでしょうか。

ジョアンナプレイヤーたちが遊ぶ世界を作り出すのが、私たちの仕事です。ゲームプレイがより楽しくなるようなスポットや風景、たとえば木々や砂浜などといった地形から気候まで、環境を産み出していくわけです。今回は、対馬島の自然豊かな環境を、チーム一丸となってデザインしました。

――海外から日本の時代劇を描く、そして“対馬島”を描くということで、苦労されたところも多かったのではないでしょうか。

ジョアンナやはり中世の日本の世界を作り出すというのは、いちばんのチャレンジでした。我々の住む世界や文化、そして時代もまったく違います。非常に大変でしたが、いろいろなことを勉強しましたし、日本にいる開発チーム、また日本語版製作チームの皆さんにも助けていただきました。さらに、文化や言葉、宗教やモンゴルに関することにも、それぞれコンサルタントがいます。本編だけでなく、今回の壱岐の物語も含めて、必ず何かに迷ったときには相談し、正しい選択を選ぶことができました。

 また、黒澤 明監督の時代劇をたくさん見て、そこからインスピレーションを得ていました。どのようにストーリーやキャラクターを周囲の環境が盛り上げているのか、表現しているのか、ストーリーのためにどんな環境を用意したのかなど、細かいところまで参考にさせていただきました。

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

――具体的には、どのようなポイントを心掛けて制作していったのでしょうか。

ジョアンナより本物に見えるようにしつつも、美しさを重視して手掛けていました。ただそれを突き詰めていくうちに、どうしても「あれもやりたい、これもやりたい」と、つい欲が出てくるものです。そこはアートディレクターであるジェイソンの得意分野で、“よりシンプルにしよう”という方向性にリードしてもらうことが多かったですね。“シンプルなものを作る”というのは、じつはかなり難しいんですよ。いろいろな意味、表現方法での“美しさ”を取り入れながらも、そこのバランスを取るという、本作ならではのビジュアルづくりに注力しました。
 

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

――では今回追加される壱岐の物語ですが、壱岐の島をどのようにデザインしていったのでしょうか?

ジョアンナ本作における壱岐は、対馬よりも小さく、かつ貧しく、より野性味あふれる土地になっています。これは、壱岐の設定を歴史背景から考慮して、“当時の壱岐はこうだった”というふうに作り上げているからです。そのため、環境作りにおいても、対馬よりもミステリアスな雰囲気を出そうと考えました。海賊がいる中で暮らさなくてはならない、という雰囲気も出したかったので、対馬よりも苦労して生活をしているような環境の実現を目指しました。

 また、対馬は基本的に明るい色で、かつハッキリとしたカラーで自然の景色を作っていきました。壱岐でもそのスタイルは採用していますが、色に関しては別のカラーパレットを採用しています。壱岐にしかない花やロケーションなども取り入れて、対馬と違う景色や風景が楽しめるようにしました。

――最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします。

ジョアンナ大勢の世界の皆さんが本作を楽しんでくださっていることが、いまだに信じられなくて、夢のような気分です。私たちが苦労して作りあげたものを、楽しんでもらえているということが、非常に光栄です。私たちが作ったゲームではありますが、ゲームは皆さんのものです。ゲームを遊んでもらえることこそが、いちばんの喜びです。ぜひ、壱岐の旅も楽しんでください。

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

パトリック・ダウンズ氏

壱岐で出会う、新たな敵

――パトリックさんは、今回の壱岐の物語を執筆したとお聞きしています。

パトリックはい。ただ、もちろん僕だけで作ったわけではなく、優秀なシナリオライターチームと、そしてデザイナーたちと作りあげていきました。

――もちろんネタバレのない範囲で、どのような物語なのか教えてください。

パトリックまず仁は、対馬に、コトゥン・ハーン配下の者ではない、新たなモンゴル兵が現れていることに気づきます。そして彼らが、“オオタカ”というリーダーの指揮下の兵であり、壱岐から渡って来ているのだということを知ります。そのために、仁は壱岐に行かなくてはならないと考えるのです。

 本作の壱岐は、海賊がいたり、島流しをされた罪人がいるなど、対馬と比べると治安が悪い土地です。これは、かつて壱岐が流刑の地であったという歴史背景から作り出した設定ですので、元寇当時の壱岐と思ってください。そのため、本作の壱岐は、侍を暖かく迎えてくれるような土地ではありません。また壱岐は、仁の過去に結びつく土地でもあります。境井家として、とあるトラウマがある場所なのです。このふたつの要素を持つ壱岐を旅しながら、仁の過去やオオタカとの戦いを描くストーリーとなっています。

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー

――なぜ壱岐を舞台にしようと考えたのでしょうか。

パトリック対馬との距離が、ちょうどよかったのがひとつです。また、モンゴル軍の侵略においても、重要な場所だったと聞いています。そういった意味では、ある意味理想的な場所でした。そして、本編の中においても、仁とつながりのある場所でした。仁の人生をさらに濃く描くために、つなげやすい場所でもありました。そして、デザインなどにおいても、対馬と異なる顔を持っています。その中で味わうアクションなども含めて、新しい体験を提供しやすい舞台だったと思います。

――後日談などではなく、本編の途中から派生した新エピソードというところで、後半とのつじつまを合わせたりと、物語を練るのは大変だったのではないでしょうか。

パトリックそもそもオープンワールドタイトルは、プレイヤーが自ら自由に道を辿り、ストーリーを楽しんでいくゲームです。そのため、ドラマ自体をプレイヤー側が描いていくという側面もあるため、自由度を与えるためのストーリーを描くというのが、非常に難しいです。壱岐の物語は、本編を尊重しながらも、並行して進められるような物語にしています。遊ぶことで、プレイヤーにとっても、そして仁にとっても意義のあるシナリオになるよう注力しました。これから遊ばれる方はもちろんのこと、すでに何回も周回したというプレイヤーでも楽しめるものになっていますので、ぜひご期待ください。

――ストーリーの中で、とくに注目してほしいポイントなどはありますか?

パトリックもちろん、“すべて”とお答えします! 皆さんには新しいストーリーを楽しんでもらいたいですし、そして壱岐でしか起きないことや、壱岐の人々との触れ合いなど、すべて味わってほしいですね。

――最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いいたします。

パトリックジョアンナのメッセージを、丸々盗んでいいでしょうか?(笑)。本当に本作に関われたことはうれしかったですし、光栄なことで、本当に幸運に恵まれていたとしか思えません。プレイヤーの皆さんがワクワクしながら遊んでいる反響が、我々の“ワクワク”にもつながりました。本当に本作を遊んでくださっている皆さんを感謝しています。そして、愛しています!

『Ghost of Tsushima Director's Cut』インタビュー