2021年7月19日~24日(現地時間)に、世界最大級のゲーム開発者のカンファレンス“GDC 2021”が開催された(※GDC:ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。

 2021年7月22日(日本時間は23日)に、サッカーパンチプロダクションズによるカンファレンス“Creating Feudal Japan from Across the Pacific”が披露された。登壇したのは、『ゴースト オブ ツシマ』のクリエイティブディレクター/アートディレクターを務める、ジェイソン・コーネル氏だ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】

未知の文化を知り、サムライのゲームを作る

 サッカーパンチプロダクションズは、アメリカ・シアトルにある会社。そのため、当然日本の文化や土地柄には馴染みがなく、イチから勉強する必要があった。また、これまでのゲームの作りかたも変えることも重要だったそうだ。その苦労もあり、『ゴースト オブ ツシマ』は世界中で数々の賞を受賞したことに感謝の気持ちを述べていた(ちなみに、ジェイソン氏は週刊ファミ通クロスレビューで40点を獲得したことに、とても驚かれたとコメントしていた)。

 セッションのトークテーマはいくつかに分かれており、まずは“『ゴースト オブ ツシマ』の始まり”から語られた。サッカーパンチプロダクションズは、2014年に『inFAMOUS Second Son(インファマス セカンド サン)』のダウンロードコンテンツ『InFAMOUS First Light(インファマス ファーストライト)』をリリース。

 その後、新たなIPを立てるプロジェクトが始動したという。さまざまなアイデアを集めていった。そこであがったテーマが、“騎士”、“泥棒”、“サムライ”という3本の柱。しかし“サムライ”というテーマは未知のジャンルだったため、最初は“騎士”、“泥棒”をテーマにしたゲームを突き詰めていったそうだ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】

 ただ、そこから時間が経ったときに、やはり“サムライ”に挑戦しようと戻っていたとのこと。ジェイソン氏やネイト・フォックス氏(『ゴースト オブ ツシマ』クリエイティブ・ディレクター)が黒澤 明監督の時代劇が好きだったこともあり、その決断に至ったという。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】

 “サムライのゲームを作る”という、未知の開発に挑戦することに決めたサッカーパンチプロダクションズ。日本の文化については、日本のSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のローカライズチームなどのサポートを受け、そこから開発スタッフの規模を大きくし、さらにモンゴルに関することなど、文化的なスペシャリストたちにも協力を仰いだのだという。

 そこから、スタッフ一同で勉強に取り組んだそうだ。たとえば、文化的な部分を教えてもらったり、時代劇映画を見るなど、とにかくサムライについて勉強したそうだ。そしてさらに、日本の対馬での取材も敢行。「Googleで検索すればだいたい何でも知れるけど、やはり現地に行ったのは何よりも大事なことでした」とコメントするほどに、取材から得たインスピレーションは多かったようだ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】

 人々の身長はどれくらいか、建物の大きさはどんなものかといったものから、日本の気候、葉はどんなものが生い茂っているのか、などなど、非常に細かい部分まで調べ尽くしたという。カメラやドローンを使い、膨大な写真を撮りまくったそうだ。

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 また、刀についても勉強したという。ジェイソン氏は刀の“鍔”は、あくまで手を守るための部品という認識でいたそうだ。日本の博物館で実際に鍔を見たジェイソン氏は、鍔にもデザインがたくさんあり、そこに職人の作る美しさを感じたそうだ。そこからインスピレーションを得て、鍔には暴風雨が描かれているなどの、デザイン性を取り入れたとのこと。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
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 とくにジェイソン氏はガイドに感謝しているようで、蒙古との戦いにまつわる神社や、実際に戦いがおこなわれた小茂田浜などを熱心に解説してくれたことに喜んでいた。また、日本のローカライズチームなどにも感謝を述べており、実際に協力してくれたスタッフ陣をひとりひとり名前を挙げて紹介していた。

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歴史描写とエンタメの両立

 と、史実から日本的な文化や風土まで、徹底的に調べ上げた『ゴースト オブ ツシマ』チーム。しかし本作はゲームであることから、“歴史に忠実である”=“おもしろい”とはならない。歴史的な要素、文化、そしてゲームとしてのエンターテインメント性というのを両立しなくてはならない。

 そこで、テーマを設けたという。ひとつは“このゲームは対馬島での蒙古の戦いを描く、歴史シミュレーターではない”ということ。これらはすべての要素に関わるとのことで、たとえば“その服は本当に1274年当時のものか?”、“家紋などの文化は忠実なのか?”、“建物は本当にその当時の建築方法か?”など、突き詰めればキリがなく、しかも答えを見つけるのも難しい要素だ。そこに注力すると開発期間が大幅に延びることから、ある程度はファジーに選択していったようだ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
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 ただし、ディテールにこだわるのは重要だとジェイソン氏は語る。ジェイソン氏はそれまで“鳥居”の存在は知っていたが、何のためにあるものなのか知らなかったそうだ。神域への入口を示すものとして知り、さらに学びを深めていった。鳥居の詳細を知らないときにはとりあえず“巨大で豪華な鳥居を置けば良い”と考えていたそうだが、それは現代に残っている鳥居の形。より素朴に、古めかしい鳥居にしたりと、ディテールの深堀りは忘れないようにしたそうだ。

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 また、英語と日本語では名前の並びに、違いがある。たとえば日本語では“境井 仁”だが、英語では“Jin Sakai”と、姓と名前が反対だ。プログラム的にも脚本的にもどちらにすべきか決める必要があると感じていたそうだが、そこはすぐに解決したという。要は日本語音声では日本語読みで呼び、英語字幕は英語にならえばいいと、選択のオプションを用意することで解決したようだ。

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 人名といえば、そこの決定にも悩みがあったという。登場人物のひとり“ゆな”は、当初から長いあいだ“よね”という名前だったそうだ。しかしコンサルティングを受ける中で、「キャラクター性から“よね”という名前は彼女に合わない」と、あまりにも古めかしすぎる名前だと、指摘を受けたのだという(たしかに、“よね”はおばあちゃん的な歴史を感じさせる名前ではあるが、当時を生きる若者を描く名前としては、相応しくないかもしれない)。

 ジェイソン氏はそこの感覚がよくわからなく、「本当にそうなのか?」と困惑したそうだ。しかし、日本の感覚からそう見えるのであれば、キャラクター性にも関わってしまう、というところで“ゆな”の名前に変更することを決断したそうだ。

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 しかし先述のように、コンサルティングの声を聞く中で、こういったことを突き詰めていけばいくほどに、時間を要する。そこで、考えかたの基準をいくつかもって選択していったそうだ。たとえば建物や衣装は、できるだけ時代性を反映できるように研究していったそうだ。だが実際の対馬島は、丘と森林だらけの土地。それではゲームがおもしろくならないので、あくまでゲーム的なことを考えて設計していったのだという。

 また、コンサルティングの言葉を聞き、ゲームに反映させた要素もあるという。たとえば、ゲーム的には一応鹿を狩ることができるが、『ゴースト オブ ツシマ』では鹿を狩ると冷ややかな目で見られるという要素がある。「神聖な生き物である」と聞き、島全体が仁を助けてくれるという要素にも取り入れたそうだ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
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多彩な作品からのインスピレーション

 アイデアはさまざまな作品かた取り入れたそうで、たとえば『七人の侍』に始まる時代劇はもちろんのこと、スクウェア・エニックスの剣戟対戦格闘ゲーム『ブシドーブレード』や、オープンワールド(公式的にはオープンエアー)タイトル『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』も参考にしたそうだ。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】

 たとえばフィールドのデザインは、浮世絵師・川瀬巴水のシンプルな色使い、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の草原、そして日本らしい古めかしさなどを組み合わせて生んだもので、リアリティを追求せずに作っていたという。

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 たとえばフィールドのデザインは、浮世絵師・川瀬巴水のシンプルな色使い、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の草原、そして日本らしい古めかしさなどを組み合わせて生んだもので、リアリティを追求せずに作っていたという。

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 最後には、再度日本のローカライズチームなどの協力者たちはもちろんのこと、ファンに向けて再度感謝の気持ちを述べて、セッションは終了となった。

『ゴースト オブ ツシマ』セッションリポート。シアトルからいかに“日本”を構築したのか? 歴史と時代考証、ゲームのエンタメ性のバランスとは【GDC 2021】
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※画像は配信をキャプチャーしたものです。