サクセスが開発中の『メタルサーガ』シリーズ最新作『メタルサーガ 叛逆ノ狼火』(以下、『叛逆ノ狼火』)。家庭用機向けタイトルとしては15年ぶりとなるシリーズ新作の開発について、プロデューサーのKAZ氏にお話を聞いた。スーパーコンピューター“ノア”の脅威が去った世界観から、従来シリーズとのシステム的な違い、姉妹シリーズ的存在である『メタルマックス』との関係性などについてもうかがった。
なお、本記事は週刊ファミ通2021年6月10日号(2021年5月27日発売)に掲載した『メタルマックス』シリーズ30周年記念特集内のインタビューの完全版。同号では宮岡寛氏にも『メタルマックス ワイルドウエスト』についてのインタビューを行ったので気になる方はそちらもご確認を!
KAZ氏(カズ)
サクセス入社後『メタル』シリーズ好きであることが社内に広まり『メタルサーガ』シリーズのプロデューサーに抜擢される。最新作『メタルサーガ 叛逆ノ狼火』でもプロデューサーを務める。鼻の垂れた犬の仮面がトレードマーク。
15年ぶりの“家庭用機向け最新作”開発の意図は?
――家庭用機向けとしては15年ぶりの新作になりますが、プラットフォームを選んだ理由なども含めて、開発の経緯をお聞かせください。
KAZ『メタルサーガ』シリーズはいままでに5作品を発表しているんですが、現在も遊べるのがプレイステーション2の『メタルサーガ ~砂塵の鎖~』と、ニンテンドーDSの『メタルサーガ ~鋼の季節~』の2作品だけなんです。
――確かにそのほかのタイトルは、スマートフォンやPCブラウザ向けの運営型タイトルで、残念ながら現在はサービスが終了していて遊ぶことができませんね。
KAZそうなんです。過去作品をプレイしてそのシリーズが好きになる方が多いので、今後シリーズを展開していくにあたって“作品を後世に残す”という意味で、家庭用機での発売は外せない要素でした。
――将来の展開を見据えたうえで家庭用機でのリリースを選ばれたと。
KAZしかし、いまはソーシャルゲームの方が会社的に企画を通しやすく、家庭用機タイトルとして企画を通すのにだいたい2年かかりました。
――2年ですか! それだけ家庭用機向けのタイトルを開発するハードルが高くなっているんですね。
KAZただ、最近は『海腹川背』などで社内の家庭用機向けタイトルの開発体制も整ってきています。さらに、今回はサクセスでは初の試みとして、Unreal Engine4を採用して開発を行っているんですが、今後のためにも新たな開発環境のノウハウを蓄積する必要もあります。そうしたこともあり、上層部の理解を得ることができてようやく企画が通りました。
――2年ほど企画が通るまでに時間があったというお話ですが、実際に開発が始まったのはいつごろなのでしょうか?
KAZまだ最近で、半年も行かないくらいです。いままではUnityを使ったり、フルスクラッチで作ったりすることが多かったのですが、Unreal Engine4だとかなりリッチな表現が出来ますし、フルスクラッチで開発するのに慣れていると、とても楽ですね(笑)。
――『メタルサーガ』は家庭用ゲーム機以外でもブラウザゲームやアプリで展開されていましたが、プラットフォームはどういった基準で選んでいるのですか?
KAZそのときに出すべきだと判断したベストなプラットフォームを選んできたと思います。プレイステーション2が流行っていたからプレイステーション2で出したり、ブラウザゲームの勢いがあるときはブラウザゲームで出したり、というような感じですね。
――『叛逆ノ狼火』も同じように、状況に合わせたプラットフォームで発売されることになるのでしょうか。
KAZそうですね。まだ家庭用機での発売というところまでしか決まっていないので、今後のハードウェアの状況やゲームボリューム、クオリティーも見つつプラットフォームは選定しようと思っています。
ノアの脅威が去った世界と、タイトルに込められた意味
――“プロジェクトウルフ”として発表された本作ですが、『叛逆ノ狼火』のタイトルに込められた意味を教えてください。
KAZ“狼火”は狼煙を言い換えた言葉です。“プロジェクトウルフ”のウルフ(狼)はそこから来ていました。本作ではこの“狼火”がストーリーのなかで重要な役割を果たします。
――重要な役割ですか。
KAZ『メタル』シリーズは、ノアの脅威が残っている世界を舞台とした作品が多いのですが、今回の『叛逆ノ狼火』に関しては、ノアの脅威が完全になくなった世界を描きます。『メタルサーガ』シリーズとしては初めて描く世界観ですね。そこで敵となるものが何かというと、さまざまな欲望にまみれた人間たちなんです。
――人間が敵の『メタル』ですか! かなり新鮮ですね。
KAZはい。それが今回のコンセプトになっています。欲望にまみれた人間たちの支配に抗おうとするレジスタンスたちの物語が『叛逆ノ狼火』の“狼火”にかかる部分です。
――ノアがいない世界が舞台になっているという点に驚いたファンも多いと思います。
KAZいままでノアに頼りすぎていたところがあるなと思いまして(笑)。まあ、それは冗談として、『メタルマックス ゼノ』や『メタルマックス ワイルドウエスト』はノアが主軸となっているストーリーなので、今回『メタルサーガ』では思い切って別の世界を描いてしまおうと思い差別化を図ったというのもあります。
ちなみに、レジスタンスの物語だと説明しましたが、主人公はレジスタンスの人間ではなくて、とある理由でレジスタンスが暮らす集落に訪れた存在です。主軸はレジスタンスの物語ですが、『メタル』らしく、主人公がレジスタンスに手を貸すのかどうかはプレイヤーに委ねられます。
――レジスタンスに手を貸さずに自分の欲望のままに進むこともできると。
KAZはい。やはり『メタル』シリーズは“自由”が売りのゲームなので。
――お話を聞いていると世界観はこれまでにないものになりそうですね。ゲームシステムはいかがでしょうか?
KAZ基本的なゲームの流れは従来通りです。いままでの『メタルサーガ』と違う部分としては、モンスターがシンボルとして存在してフィールド上でシームレスに戦闘が始まる点ですね。これは企画当初から考えていたんですが、先に『メタルマックスゼノリボーン』でやられていまいました(笑)。
あれを見たときは「やられた!」と思いましたね(笑)。ただ、『メタルマックスゼノリボーン』のシステムと比べると、『叛逆ノ狼火』のシステムは、従来のコマンドバトルをそのままシームレス化したイメージになります。もちろん従来のシステムのダメだった部分にはテコ入れをして、ストレスがないように改良もしています。
――ノアの脅威が去った世界で主人公が戦うモンスターはどのようなものになりますか?
KAZもちろんこの世界にもモンスターは存在していますが、ノアが関係しているといえば、機械的なモンスターのイメージが強いと思います。今回はノアの命令で動いているモンスターはいないのですが、機械のモンスター自体は登場します。ノアがいないのになぜ機械の敵がいるのか、そして、なぜ人間を襲ってくるのかについてはストーリーにかかわる部分なので、いまは伏せておきます(笑)。
ふたつの『メタル』最新作
――現在『メタルマックス ワイルドウエスト』と『叛逆ノ狼火』が同時に開発中ですが、角川ゲームスさんとサクセスさんで、同時に制作するうえでの苦労や、気を付けていることがあれば教えてください。
KAZなかなかデリケートな質問ですね(笑)。シリーズファンの方は『メタルマックス』と『メタルサーガ』両方好きな方が多いので、なるべく発売日が被らないようにというのがひとつ。たとえば『メタルマックス ワイルドウエスト』をじっくり遊んだ後に『叛逆ノ狼火』もプレイしていただく、という形にできるといいなと個人的には考えています。
――『メタル』シリーズファンとしては理想的な形ではありますね。
KAZ「『メタルマックス』でこれをやるから、『メタルサーガ』ではやらないで!」というようにお互いを縛るようなことはなくて、それぞれが考える『メタル』という表現を存分にゲームに入れ込んでいます。ただ、両シリーズともにノアが大破壊を起こした世界という、主軸は同じ世界なので、遊びかたや世界観で体感的に違う部分は意識して作っています。『叛逆ノ狼火』のノアの脅威が去った世界というのもそのひとつですね。
――内容が被らないようにお互いに何か強制するようなことはないと。
KAZ日ごろから話し合って差別化を図っているわけではなく、お互いになんとなく意識はしながら自由に作っている感じですね。ただ、たまに打ち合わせをする機会があるんですが、そのときに『メタルサーガ』について質問してくるときの河野さん(『メタルマックス ワイルドウエスト』プロデューサー・河野順太郎氏)の目が怖いです。「(『メタルサーガ』の)いちファンです」と言っていましたが(笑)。
――やはりお互い気にはなりますよね(笑)。
KAZでも、こちらから『メタルマックス ワイルドウエスト』の情報を聞いてもぜんぜん教えてくれないんですよ、ずるいですよね(笑)。
――ちなみに『叛逆ノ狼火』に宮岡さん(『メタルマックス』シリーズの生みの親・宮岡寛氏)は関わっているのでしょうか?
KAZ今回は関わっていません。宮岡さんが作られた世界をリスペクトして踏襲しながら、『叛逆ノ狼火』については自分が世界観なども作っています。
――『メタルマックス』と『メタルサーガ』のコラボが発表されていますが、今後も新たにコラボする予定はありますか?
KAZ今回『メタルマックス』が30周年ということで、25周年と同じようにまたコラボしましょう。というところから河野さんにお話して企画が進んでいるのですが、やっぱりファンの方々の反応がすごくいいんですよね。25周年のときに初めて“鋼のコラボ”という形で、当時サービスしていた『メタルサーガ ~荒野の方舟~』に『メタルマックス ゼノ』の内容を入れるという形でコラボさせていただいたんですが、今回はグッズや壁紙など形に残るコラボをさせていただきました。今後のコラボについては、河野さんがどう考えているかはわかりませんが、私としては、ゆくゆくはゲーム本編でもコラボできればいいなと思っています。
――実現すれば両シリーズのファンはうれしいコラボになりますね。もし実際にコラボするならどういった内容にしたいですか?
KAZ転送装置という便利なものがあるので、キャラクターがお互いの世界に行ったりしてもおもしろいと思います。
個性派揃いの『メタル』キャラクター
――『メタルサーガ』シリーズの中でとくに印象に残っている作品やキャラクターについて教えてください。
KAZ初めて遊んだ『メタルサーガ ~砂塵の鎖~』のレッドフォックスですね。このキャラクターは賞金首なんですが、もともとはハンターなんです。しかも、戦車によって大切なものを奪われたことから戦車を破壊できる強さを求めたという設定があって生身で戦うんですよ。ふだんは飄々としていて、戦闘狂なところのあるキャラクターなんですが、影のあるキャラクターでもあって非常に印象的でした。じつは『メタルサーガ ~荒野の方舟~』で私が過去のストーリーを書いたキャラクターでもあります。思い入れのあるキャラクターなので書かせてもらいました。
――『メタルマックス』シリーズで印象的な作品やキャラクターについてもお聞かせください。
KAZ『メタルマックス2』がいちばん印象的ですね。当時のゲームには“オープニングで勝てないボスに挑んで主人公たちがあっさりと負ける”という展開はよくありましたが、そのときに主人公の親代わりのマリアがいきなり焼き殺されるというのが衝撃的でした。それもあってテッドブロイラーというキャラクターがプレイヤーの脳裏に焼き付いているんじゃないかなと思います。
――シリーズの代名詞と言っても過言ではない賞金首だと思います。
KAZ自分もテッドブロイラーは非常に印象的なキャラクターなのですが、じつはその上を行くキャラがいまして……。それが、テッドブロイラーと同じく『メタルマックス2』に登場するバイアス・ヴラドです。バイアス・ヴラドは元々人間なんですが、病気にかかって死期が迫る中で、生に執着して自分自身の脳をコンピューターに移植して永遠の命を手に入れるんです。その発想がすごいなと。キャラクター設定に当時非常に衝撃を受けました。
――たしかにかなりハードで印象的な設定です。『メタルマックス』に限らず、『メタル』シリーズはインパクトのあるキャラクターが本当に多いですよね。
KAZ多い分、作る側としてはすごく苦労しますね(笑)。宮岡さんが作るシナリオやキャラクターの設定がすごいので、それに負けないように作るのはシリーズを受け継いだものとしては当然なのですが、やはりたいへんです!
――新たにキャラクターを生み出すときに気を付けていることはありますか?
KAZたとえばモンスターに関しては、ネーミングは気を付けています。『メタル』シリーズのモンスターって、ちょっとおやじギャグやシャレみたいなものが入っていたりするじゃないですか。だから、考えた後に人に見せておもしろいかどうかはけっこう聞いています(笑)。あとは、容姿と名前のギャップなどですね。
――たしかにクスッとくるような名前のモンスターが多いですね。
KAZ人物などのキャラクターに関しては、世界観は違いますしルールなどはないんですが、やっぱり参考にしてちょっと似せたりはしますね。ファンが見たら「ここ、オマージュしているな」と気付くような要素は入れたりしています。
――両シリーズを遊んでるプレイヤーが「わかっているな!」と思うような要素ですね。
KAZそこはかなり意識しています。『メタルマックス』のほうはそんなに意識していないと思いますが、『メタルサーガ』はすごく意識しています。やはり同じ『メタル』シリーズなので、ぜんぜん違うものだと思われるのは嫌ですし、ちゃんと“知っている人”が作っていると思わせるようなものは入れるようにしています。
――これは『叛逆ノ狼火』に関してですが、『メタルサーガ』シリーズ内でのファンサービス的な要素はあるのでしょうか。
KAZ『メタルサーガ』独自の要素や、過去作オマージュもけっこう入れ込んでいます。
――非常に楽しみです! では、そんな『メタルサーガ』シリーズやKAZさんにとって『メタルマックス』シリーズはどういった存在ですか?
KAZただただ純粋に大好きな存在です。『メタル』に初めて触れたのがプレイステーション2の『メタルサーガ ~砂塵の鎖~』で、『メタルサーガ』からだったんです。友人に勧められて、戦車とかにはあまり興味はなかったのですが、ゲームとしておもしそうだったので遊んでみました。そこからファンになって『メタルマックス』シリーズをすべてプレイしました。いま自分がプロデューサーをしているのも、サクセスに入社してたまたま『メタル』が好きだということが社内に広まった結果なんですよね。ただ、いまは『サーガ』の新作を作っていて、四六時中『メタルマックス』と『メタルサーガ』のことを考えているので、恋人のような存在になっています(笑)。
――愛がKAZさんを突き動かしていると(笑)。シリーズ最新作『メタルサーガ 叛逆ノ狼火』を楽しみにしているファンのみなさんへメッセージをお願いします。
KAZシリーズを応援していただいているファンの皆さまからはずっと「家庭用機で出してほしい」という熱い要望を頂いていたので、まずは「お待たせしました」。まだ開発を開始して間もないので、リリースは先になってしまいますが、引き続き新たな情報を発信していきますので、応援いただけるとうれしいです。『メタルマックス』も今年で30周年を迎えますが、まだまだ『メタル』シリーズは続いていきますので、『メタルマックス』と『メタルサーガ』両方シリーズをよろしくお願いいたします!