今年で30周年を迎えた『メタルマックス』シリーズの最新作『メタルマックス ワイルドウエスト』について、シリーズの生みの親であり、原作・エグゼクティブディレクターを務める宮岡寛氏にインタビューを行った。
前作『メタルマックス ゼノリボーン』からの変更点や進化した点や、タイトルに込められた意味など最新作に関する話題を中心に、宮岡氏だからこそ語れる波乱万丈な『メタル』シリーズの歴史に関する興味深いお話を聞くことができた。『メタルマックス』シリーズのファンはもちろんのこと、『メタルサーガ』誕生の経緯についても語られているので、両シリーズファン必見の内容だ。
なお、本記事は週刊ファミ通2021年6月10日号(2021年5月27日発売)に掲載した『メタルマックス』シリーズ30周年記念特集内のインタビューの完全版。同号では『メタルサーガ』最新作についてもプロデューサーのKAZ氏にインタビューを行ったのでそちらもぜひチェックしてみてほしい。
宮岡 寛氏(みやおか ひろし)
『メタルマックス』シリーズの生みの親。『メタルマックス ワイルドウエスト』にはシリーズ原作、エグゼクティブディレクターとして開発に参加している。『メタルマックス』発表以前に『ドラゴンクエスト』シリーズの制作に参加していたことでも知られる。
『メタルマックス ゼノ』に縛られずシリーズの初心に帰る
――正式タイトルが『メタルマックス ワイルドウエスト』に決定しましたが、タイトルの意味についてお聞かせください。
宮岡ゲームの舞台が西になるというのがひとつ。それと、西部劇というのは初代のころから『メタルマックス』が内包しているテイストのひとつなので、シリーズのタイトルとして相性がいいかなと。
――“賞金首”など西部劇を彷彿とさせる要素は多いですよね。
宮岡あとは、カラッと明るく乾いた雰囲気のタイトルにしたかったというのもあります。そして、略したときの字面が“MMWW”となっておもしろかったので、いけるんじゃないかなと(笑)。今回はリメイクではなくて新作なので、“リボーン”という言葉は個人的には消したかったんです。かといって『メタルマックスゼノ2』というにはあまりにも内容が違うので、ならばタイトルもガラッと変えてもいいんじゃないか、という気持ちが強くなりました。
――ということは、前作のキャラクターは登場しないのでしょうか……?
宮岡タリス、ヨッキィ、トニは出てくる予定ですが、主役ではなくなります。ただ、自由度は前作『メタルマックス ゼノリボーン』にも増して高くするつもりなので、彼らと出会った後は、彼らをとともにゲームを進めていくことも可能です。
――物語の中でタリスたちと出会うことができれば、プレイアブルキャラクターとして仲間になる。という感じでしょうか?
宮岡そういう形ですね。『メタルマックス ゼノ』を作ったときは、続編の数作品は同じ主人公たちで進めるつもりだったのですが、開発体制やイラストレーターさんが変わったこともあり、今回は『メタルマックス ゼノ』で目指した部分から、さらに“シリーズの初心に戻ろう”という方向に舵を切ったこともあり、『メタルマックス ゼノ』に縛られないためにも主人公やタイトルの変更を行いました。
――東側でタリスたちの冒険に決着が付いて、そのままタリスたちが西へ向かうということではなく、まったく新しい物語が展開されると。
宮岡そうですね。少なくともゲームの始まりかたとしては、新しいキャラクターでまったく別の話、という形になります。西部劇でいえば、どこかから流れてくるよそ者と、よそ者が出会う地元の連中がいるわけですが、今回は地元の連中から物語が始まって、彼らがいずれタリスたちに出会う、という構想を練っています。
――バトルなどのシステムも変更されているのでしょうか?
宮岡戦車やキャラクター、UI (ユーザーインターフェース)の表面的な見えかたなどは『メタルマックス ゼノリボーン』を継承する形になるかなと思います。ただ、ゲームとしての手触りやテイストはかなり変わります。
――すでに公開されている情報の中では、モンスターに生活のリズムがあるのがおもしろいなと思いました。
宮岡あのあたりは友野監督(ディレクターの友野祐介氏)がこだわっている部分ですね。フル3Dで自由度の高いオープンワールド的なつくりかたをすると、モンスターもふっと消えるというわけにもいかないので、避けて通れないところですね。
――確かに自由度が高いからこそ、そういったリアリティーは必要になってきますよね。
宮岡そのほかにも、そのままでは渡れない谷に橋を架けたり、ユーザーが世界の一部を自分の手で再構築するようなクラフトめいた要素を追加しようと思っています。そういった細かいものを追加していくことで出てくる、見知らぬ世界を旅する“探索感”を今回は追及してみたいなと。
――従来シリーズのよさに回帰しつつ、クラフト要素などの新しいおもしろさも追加されると。
宮岡そこを目指してがんばっています。
波乱万丈すぎる『メタル』の歴史
――ここからはシリーズの歴史についてお聞きします。『メタルマックス』はかなり波乱万丈な歴史をたどってきたシリーズだと思うのですが、これまででとくに印象的な出来事があれば教えてください。
宮岡あまりにもたいへんなことの連続で、たいへんじゃなかったことのほうが少ないですね。逆に何事もなく作ることができたのは『メタルマックス2:リローデッド』くらいですね。それ以外は大体とんでもないことが起きていました(笑)。
――ほかのタイトルでは何かしらたいへんな出来事が……。
宮岡作り手としていちばん落ち込んだのは、『メタルマックス4』が売れなかったことですね。あれは、いまでこそ通販サイトなどを見るとすごく評価されていますが、作り手の立場からすると「遅いよ!」みたいな(笑)。発売されたころはネットで酷評されて、ぜんぜん売れなかったんですよ。
――いまではそれが信じられないほど評価されていますよね。
宮岡作り上げたときはそれなりの充実感があって、おもしろいものができたのではないかなと思いました。ただ、外から見たときにどう見えるかがわからなくなっていた部分もあって、酷評されて振り返ってみれば、アニメの部分があまりよくできているとはいえなかったり、反省する点もありました。それでもあんなに売れないとは思わなかったですね。あれはきつかったですね……(苦笑)。
――昔の画家の作品が後の世代で評価されて高騰するような。
宮岡そうですね(笑)。生きてるあいだに言ってくれと。
――ただ、いまでも過去のシリーズ作が再評価されることを考えると、ファンの熱量が高いシリーズだとも感じます。そんな熱いファンが多いことで助けられたことや、逆に制作に当たって悩んだことなどがあれば教えてください。
宮岡プレッシャーはもちろんありますが、重荷に感じるようなことはあまりなかったですね。むしろいつも熱い応援をいただいて、本当にありがたいです。ファンの皆さんの応援がなければ、とっくに終わっていたシリーズだと思います。『メタルマックス ゼノリボーン』発売後にTwitterで実施したキャンペーンの“リボーンを語る会”などにメッセージがたくさん寄せられたのですが、それを見ると『メタルマックス』への愛以前に、“ゲームへの愛”がすごい人ばかりなんですよ。そうした愛に触れて、『メタルマックス』は世界一いいお客さんを手に入れたゲームかもしれないなと思いました。
――ファンの熱量が開発の原動力になっていると。『メタルマックス』の歴史のなかで、『メタルサーガ』というシリーズが生まれましたが、宮岡さんにとって『メタルサーガ』はどういった存在ですか?
宮岡データイーストという会社が倒産してしまったときに、僕のところに破産管財人さんから電話があったんです。「『メタルマックス』という商標はあなたのところにも権利がありそうなのですが買いませんか」という話が来て。そこで初めてサクセスさんで『メタルマックス』の新作が作られていた事実が発覚しました(笑)。しかもそのときすでに、その新作はほぼ出来あがっていたんですよ。
――開発が始まった当初、宮岡さんもその存在を知らなかったんですね。
宮岡サクセスさんにしてみても、自分たちがライセンスを受けていた相手が倒産してしまいワケがわからない状態だったと思います。その後、「商標はどうなるのか」という話になり、破産管財人さんとの交渉も含めてサクセスの担当部長さんと急遽合って話合いました。商標をとるためにがんばったんですが、結果かなわず、タイトルを変えることになりました。
――そのとき変えたタイトルが『メタルサーガ』だったと。どなたが決めたんですか?
宮岡僕が名付けました。だから、『メタルマックス』がうちの子だとすると、『メタルサーガ』は孫みたいな存在ですね。担当部長さんや、『メタルサーガ』1作目のスタッフの方々にも会ったのですが、皆さん熱烈な『メタルマックス』のファンだったので、不思議な気持ちでした。作品的には孫だし、スタッフの皆さんは戦友みたいな感じですね。
――通常のゲーム制作では直面することのない出来事ですよね……。
宮岡商標権の問題は本当にたいへんでした。行ったことのない戦場に突然放り込まれた兵隊どうしみたいな(笑)。どう生き延びればいいのかもわからない状態からいっしょに戦った戦友です。
――そんな『メタルマックス』シリーズのすべてを見てきた宮岡さんが、特に気に入っているキャラクターがいれば教えてください。
宮岡全部思い出深くて、なかなかひとり選ぶのは難しいのですが、作り手という立場で振り返ると初代のレッドウルフですね。“少年が憧れていたモンスターハンターが死んでしまい、彼の残した戦車を受け継いで代わりに世界を救う”。そういう話にしてくれたのはレッドウルフなので、思いついてよかったなと思う存在ですね。
――『メタルマックス』の骨子となる存在ですね。
宮岡あの当時似たようなゲームがなくて、モンスターといえばクリアーしなければいけないクエストの障害物でしかなかったわけです。“モンスターを倒すことそのものをクエストの目標にする”ということは『メタルマックス』が初めてやったことで、それを職業にする賞金稼ぎをどのように描くかで悩みました。そういった点で見てもレッドウルフが導いてくれました。
――ファンからの人気も強いキャラクターですよね。
宮岡逆に嫌いだという人もいますけどね、傲慢なので(笑)。
夢のRPGに見た“この世の果て”
――30周年を迎えるシリーズのこれからとして、今後のシリーズ作品でやってみたいことがあればお聞かせください。
宮岡去年、とあるゲームを遊んだんですよ。僕にとっての“神RPG”の1本を過去に作った会社の新作で、おそらくは才能溢れる何百人というスタッフが集結して、膨大な時間と予算を使って作られた超大作RPGです。発売される前から、それは僕にとって“夢のRPG”になるはずの作品でした。実際100時間ぐらい遊んでみるといや、これは夢見ていたものではないな、と。かなりショックを受けました。
――宮岡さんが想像していた“夢のRPG”ではなかったわけですね。
宮岡ゲームの作り手としての僕は、これまで、「技術と予算と才能あるスタッフさえ揃えば何でも作れる」と、心のどこかで信じていたんですよ。自分たちにはそれが足りていないから苦労して来たんだ、と。その意味で「この世の果て」を見てしまったと言うか。どれだけ技術とお金と才能があっても、僕が信じて来たアプローチでは越えられない壁のようなものがある。その壁の一部を目撃してしまったような気がしました。
――そのRPGが宮岡さんのゲーム開発に対する考えかたを変えたと。
宮岡その衝撃を受けて、もう一度根本からゲームの作りかたや、ゲームとの向き合いかたを変えないといけないなと。この世の果てを見たことで世界の見えかたがいま変わりつつある、というところです。
――ゲーム制作の考えかたが大きく変わってきているということでしょうか。
宮岡この世の果てを見る前の自分が考えた結果が、設定などの形として残っているんですが、それを、本当にこれでいいのかと考えながらもう一度見直しています。この衝撃というか、コペルニクス的転回は、この先自分が何かを作るうえで避けては通れないものになると思います。出来ることならば、それが新しい何かを生み出すことにつながってくれればと思っています。
――『メタルマックス』の30周年記念でさまざまなグッズも発表されていますが、宮岡さんのイチオシがあれば教えてください。
宮岡僕個人としては10枚組のサウンドトラックCDがすばらしいと思いますね。ふつうの全曲集とはひと味違う、おもしろいものになると思います。僕の夢と銘打っているので『メタルマックス名言カルタ』も推したいですが、お値段がお値段なのでいささか心苦しいところはあります(笑)。
――どちらもファンならぜひ手に入れたいグッズだと思います。そんな『メタルマックス ワイルドウエスト』の発売を楽しみに待つファンのみなさんに向けてメッセージをお願いします。
宮岡がんばります! 30周年という月日を経て、初代を作ったころにはまだ若造だった自分が、いまや還暦を過ぎたおじいちゃんになっちゃっているわけで。たぶん、もう30年はもたないと思うので、ファンの皆さまにはもうちょっとだけお付き合いをいただければと(笑)。
――そう言わず、ぜひ30年後も『メタルマックス』シリーズの新作をお願いします……! バイアス・ヴラドのようになってみては?(笑)
宮岡ああ! 脳をコンピューターにね! そういうプロジェクト、クラウドファンディングしちゃいますか(笑)。