「額の流星は宿命か。」(JRA 2012年度CM『The WINNER』より)
女帝・エアグルーヴが先頭でゴールを駆け抜け、母ダイナカールとのオークス母仔制覇を成し遂げたあの日から、約四半世紀が過ぎた2021年5月23日、今年も3歳女王を決めるレース“オークス”が東京競馬場で開催される。
オークスと言えば、『ウマ娘 プリティーダービー』(以下、『ウマ娘』)で“トリプルティアラ(桜花賞、オークス、秋華賞の3レースを勝利すること)”を目指すうえで最大の障壁となる難関レースだ。桜花賞の1600メートルから2400メートルと距離が大幅に延長され、要求スタミナもかなり上がる。さらにコースには坂がやたらと多く、その対策も必要となる。そういったコース設定が、多くのトレーナー(『ウマ娘』のプレイヤーのこと)を苦しめてきた。
本記事では、『ウマ娘』にも登場する歴代優勝馬エアグルーヴ、メジロドーベルらが、競走馬としてオークスでどのような活躍をしたのか、またそのエピソードがどのように『ウマ娘』に取り込まれているのかを解説しよう。
※『ウマ娘』最新の攻略記事はこちら
リアル競馬におけるオークスの歴史とコースの形状
オークス概略
- 開催:東京競馬場(東京レース場)
- 距離:芝2400メートル(根幹距離)
- 走る向き:左回り
- 開催時期:5月(『ウマ娘』ではクラシック級5月後半)
- 出走条件:3歳牝馬、優先出走権もしくは1勝以上(『ウマ娘』ではクラシック級、獲得ファン6000人)
オークスは正式名称を“優駿牝馬(オークス)”という。第1回は1938年(昭和13年!)11月23日、兵庫県にあった旧阪神競馬場(鳴尾競馬場。現在の阪神競馬場は兵庫県宝塚市にある)にて、“阪神優駿牝馬”の名称で開催された。
牝馬というのは女馬のこと。つまりオークスは、女馬のみが出場できる“牝馬限定戦”だ。創設の目的は“スピードとスタミナを兼ね備えた繁殖牝馬の検定競争”を作るため。芝2400メートルという距離は牝馬限定戦では最長である(ちなみに、最初の2年はもっと長い芝2700メートルだった)。
1946年からは東京競馬場で開催されることとなり、それをきっかけに名称も現在の“優駿牝馬”となる。また、1952年までは秋に開催されていたが、1953年から春季開催に。1965年から“オークス”の副称がついた。
本レースは開催当時から、イングランドの同名のクラシックレース“オークス”をモデルにしていた。なお、クラシックレースを始め、世界の競馬のシステムはイングランドのものを規範としていることが多い。
ちなみに、オークスは世界で2番目に古いクラシックレースで、ダービーよりも1年ほど長い歴史を持っていたりする。“競馬界の頂点”的なイメージのあるダービーは当初、「牝馬でオークスをやってみたらおもしろかったから、牡馬(男馬)でもやってみようよ」ということで始まったらしいのだ。
オークスのコースについて
現在オークスが開催されている、東京競馬場芝2400メートル外回りコースには坂が多いのが特徴だ。
東京競馬場芝2400メートル外回りコースの坂の場所
- スタート直後(上り)
- 1コーナー~2コーナー~バックストレート(※)半ば(下り)、
- バックストレート(上り→下り)
- 4コーナー~ホームストレート半ば(上り)
※バックストレートは、立体図における奥の直線。ホームストレートは同手前の直線のこと。
3回上って、2回下る。ゲーム内の東京レース場でもバッチリ再現されており、下のバックストレートから3コーナーに入るところの写真を見ても、バックストレートの上って下る構造がハッキリと見てとれる。
ちなみに、リアル競馬では最後の直線が長く(529.5メートル)、さらに上り坂がキツいということから、スローペースの場合は先行馬が、ハイペースの場合は差し馬がそれぞれ有利と言われてきた。このコースで開催された『ウマ娘』のゲーム内イベント“タウラス杯”でも逃げ脚質のウマ娘が苦戦していたようだが、そういったリアルの特徴がゲームにも反映されているのだろうか?
ウマ娘のモデルとなった競走馬たちの活躍は……?
オークスは、戦争による中断を挟み2021年で82回目を迎える。これまでに誕生した優勝馬82頭(同着優勝が1回ある)のうち、『ウマ娘』に登場しているのは3頭(3人)。オークスは牝馬限定戦なので、ここに名前が挙がっているウマ娘たちのモデルは、すべて牝馬ということだ。
オークスに優勝したウマ(ウマ娘)たち
- 1996年 エアグルーヴ(オークス前5戦3勝)
- 1997年 メジロドーベル(オークス前7戦4勝)
- 2006年 カワカミプリンセス(オークス前3戦3勝)
そのほかのオークスに出走したウマ(ウマ娘)たち
現在登場しているウマ娘の中では、イクノディクタス、ニシノフラワー、ユキノビジン、スイープトウショウも出走している。しかし本記事では、勝利した3頭(3人)にスポットを当てて紹介しよう。
- 1990年 イクノディクタス(9着)
- 1992年 ニシノフラワー(7着)
- 1993年 ユキノビジン(2着)
- 2004年 スイープトウショウ(2着)
※2021年5月23日18時26分追記:ユキノビジンを追加
エアグルーヴ:一族の宿願
『ウマ娘』でのエアグルーヴは桜花賞が目標レースとなっているが、史実のエアグルーヴは1996年の桜花賞を熱発で回避している。続くオークスでも体調が懸念されたものの、単勝2.5倍(支持率約32パーセント)と圧倒的な人気を集めた。レースでは、先行策から直線で危なげなく抜け出し、着差以上の完勝。観衆の支持に答えた。
父は凱旋門賞馬トニービン、母は1983年のオークス馬ダイナカールという超良血(ダイナカールは、現在の阪神ジュベナイルフィリーズにあたる3歳牝馬ステークスも勝利している)。そんな出自からデビュー前より騒がれ、期待され続けてきた彼女だが、重圧を跳ね除けて結果を出していった。とくに母に続くオークス母仔制覇は、クリフジ→ヤマイチに続く史上2例目の快挙。
ちなみに、本記事の冒頭に挙げた、「額の流星は宿命か。」というフレーズは、このオークス母仔制覇をテーマにしたCMで使われたもの。ダイナカールとエアグルーヴそれぞれの顔に、流星と呼ばれる白い模様が入ってたことに由来している。
1996年 オークス(GⅠ) | 第57回 | JRA公式
そんなエアグルーヴの優等生的な歩みや、強靱な精神力にちなんだエピソードは、『ウマ娘』の育成シナリオでも随所に見られる。
また、坂を苦にしないパワーと末脚はエアグルーヴの持ち味であり、生涯で勝ったGIのオークスと天皇賞・秋は、ふたつとも坂がきびしく直線の長い東京競馬場だった。東京競馬場を得意としたトニービンの仔であることもあっての成績だろうが、『ウマ娘』でパワーの成長率が高い理由は、ここにあるのかもしれない。
なお、札幌競馬場とも相性がいいのか札幌記念を2連覇しており、ゲーム内でも目標に設定されている。
メジロドーベル:牝馬戦線の頂点へ
エアグルーヴのオークス制覇から1年。翌1997年のオークスには、彼女と後に何度も死闘をくり広げることになるメジロドーベルが参戦した。出生時、さらにデビュー前の骨折と、2度の生命の危機を乗り越えて阪神3歳牝馬ステークス(現在の阪神ジュベナイルフィリーズ)を勝利し、3歳(※)女王となったドーベル。
※現在の2歳。昔は数え年で表記していた。
メジロアルダンやメジロパーマーも名を連ねるメジロ軍団において、ドーベルは同い年のメジロブライトとともに、マックイーン、ライアン以来久々に現れた注目株だったものの、1冠目を目指した桜花賞ではコース取りに失敗して敗北。そして迎えたオークスでも、前走の結果に加えてナイーブな気性面も不安視され、2番人気止まりだった。しかしいざレースになると、そんな不安を感じさせない完璧な走りでライバルに雪辱し完勝。名実ともに世代トップの座を確固たるものとした。
1997年 オークス(GⅠ) | 第58回 | JRA公式
テレビアニメ1期や、ゲームのストーリーなどさまざまな場面でメジロライアンとともにメジロ家の一員として登場するシーンが見られるが、じつはリアルでは、ドーベルはライアンの仔。そういった要素が、『ウマ娘』での関係性に落とし込まれているのだろう。
カワカミプリンセス:驚きのシンデレラ
カワカミプリンセスがデビューしたのは、『ウマ娘』におけるクラシック級の2月下旬(実際は2月26日)とだいぶ遅め。そこから3戦3勝でオークスに挑み、たった65日で無敗のままGIホースとなった。『ウマ娘』で換算すると、開始からわずか7ターンで勝ったことになる。
中小規模の牧場出身で、しかも6月生まれとサラブレッドとしては異例の遅生まれだった彼女。ウマ娘たちのプロフィールを見るとその傾向がわかるが、日本のサラブレッドのほとんどは3~4月に生まれ、5月でも遅いほうになる。
生まれが遅いということは、成長過程においてハンデを背負っているのと同じ。そういった背景もあってか、デビュー戦は9番人気、2戦目も6番人気とまったく注目されていなかった。しかし、快進撃を続けて臨んだオークスでは、なんと3番人気に支持される。そして迎えた本番は、ライバルの超大逃げに動じることなく、最後の坂を上りきったところから一気に前に出て、並み居る有力馬を抑え優勝。まさに故郷の“プリンセス”となったのだ。
2006年 オークス(GⅠ) | 第67回 | JRA公式
サポートSRカード“[一流プランニング]キングヘイロー”のイベントにて、キングヘイローを尊敬している姿が描かれているカワカミプリンセスだが、上のメジロライアン×メジロドーベルと同様、リアルではカワカミプリンセスがキングヘイローの仔という関係。それを踏まえてふたりのイベントを見ると、いっそう趣が深くなる。
出たくても出られなかった名牝たち
- ヒシアマゾン
- シーキングザパール
- ファインモーション
過去のオークスでは、ヒシアマゾン(1994年)、シーキングザパール(1997年)、ファインモーション(2002年)らも、出走していれば優勝を争っただろうと言われていた。だが、残念ながら当時は“外国で生まれた、もしくは外国の厩舎に所属する競走馬は出走できない(※)”という決まりがあり、彼女たちはそのルールに該当したため、オークスには出ていない。そのうっぷんを晴らすように、裏街道の重賞戦線で大暴れしたのである……。
※外国で生まれた外国産馬は“マルガイ”、外国の厩舎に所属する馬(出身国は問わない)は“シカクガイ”と、それぞれ呼ばれている。なお、現在は最大9頭まで出走可能。
なお、こういった例はほかにもあり、たとえばエルコンドルパサーも外国産馬のため、史実ではダービーに出られなかった。テレビアニメ版でスペシャルウィークと戦ったのは、“IF”展開だったというわけだ。史実のエルコンドルパサーはNHKマイルカップから毎日王冠へと進み、サイレンススズカ、グラスワンダー(こちらも外国産馬)と死闘をくり広げることとなる。
グルーヴとドーベルのライバル物語
『ウマ娘』でエアグルーヴの育成中、彼女に憧れる存在として何度も登場するメジロドーベルだが、リアル競馬ではなんと5回にもわたって新旧オークス馬としての直接対決をしている。
ふたりの直接対決は、以下の通り。
- 1997年 有馬記念:グルーヴ3着、ドーベル8着、ちなみにマーベラスサンデー2着。
- 1998年 大阪杯:グルーヴ1着、ドーベル2着。
- 1998年 宝塚記念:グルーヴ3着、ドーベル5着、ちなみにサイレンススズカが1着。
- 1998年 エリザベス女王杯:ドーベル1着、グルーヴ3着。
- 1998年 有馬記念:グルーヴ5着、ドーベル9着、ちなみにグラスワンダー1着、セイウンスカイ4着、キングヘイロー6着、マチカネフクキタル13着と『ウマ娘』キャラクターが6人も!
1998 有馬記念
エアグルーヴの4勝1敗という結果からわかるように、彼女が“女帝”の貫禄を見せ付ける形が続いていたのだが、4戦目ではとうとうメジロドーベルが一矢報いることに。いまのところメジロドーベルは育成ウマ娘として登場していないが、彼女が育成ウマ娘化した際には、このライバル対決の模様がより深く描かれることになるのではないだろうか。
とくに、エアグルーヴに勝った1998年のエリザベス女王杯では、メジロドーベルが最後の3ハロン(600メートル)で33秒5という驚異的な末脚をくり出しており、末脚自慢のエアグルーヴを超える超絶固有スキルが登場する可能性も……。
1998 エリザベス女王杯
ダイワスカーレットとウオッカのような名勝負を何度もくり広げたふたりだけに、より多くの人の目に付きやすいイベントシナリオでその物語が描かれるという展開もあり得そうだ。
カワカミプリンセスは先行、差しで良績を残しているので、育成ウマ娘化の際は、そのふたつの脚質がA評価の可能性が高いと見る。また、2006年のエリザベス女王杯では、反則で1着から12着に降着となったものの、タイム自体は2020年に破られるまで同レース歴代2位という2分11秒4の好タイムだった。そこを考慮すれば、スピード能力も期待できそう。また、スキルについては、その出自から“伏兵○”などが予想されるところ。
2006 エリザベス女王杯
オークスに出走したウマ娘の中で、育成ウマ娘化しているのは現在エアグルーヴのみだが、外国産馬の悲哀に泣いたヒシアマゾンたちや、距離の壁に阻まれ路線を変更、後に花開いたニシノフラワーたちなど、熱いストーリー展開にかけては女帝にも劣らない逸材ばかり。果たして、次にトレーナーたちの元に名乗りを上げるウマ娘は……?
著者近況:ギャルソン屋城
『ウマ娘』は、2018年3月の事前登録開始時から、週刊ファミ通で記事を担当。ゲームはリリース当日からプレイ開始し、課金額は3920円(デイリージュエルパック4ヵ月ぶん)の微課金勢。JRAへの課金額はその●●倍くらいかな……(回収率は聞くな)。
まったりプレイを楽しんでいて、チーム競技場はクラス5と6を行ったり来たり。プレイ状況は以下のような感じです。記事のほうでは、リアル競馬の知識を活かした読み物系でお楽しみいただければと思っています!