サイゲームス設立10周年を記念して、同社のスゴさを知る業界関係者にインタビューを実施。本記事では、サイバーコネクトツー代表取締役社長・松山洋氏に、サイゲームス代表取締役社長・渡邊耕一氏との交流や、同社のゲーム開発に対する姿勢について語ってもらった。

松山 洋(まつやま ひろし)

サイバーコネクトツー代表取締役社長兼ディレクター。『ドラゴンボールZ KAKAROT』、『NARUTO―ナルト― ナルティメット』シリーズなど、数々のタイトルを手掛ける。ファミ通.comで、原作を務めるゲーム業界マンガ『チェイサーゲーム』を連載中。

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『ウマ娘』のクオリティーを絶賛! そのとき、渡邊社長の反応は?

――まずは、松山さんとサイゲームスの交流のきっかけが何だったのかをうかがえれば。

松山社長の渡邊耕一さんと初めて出会ったのは10年くらい前でした。サイゲームスが設立されたばかりのころで、DeNAとサイゲームスとサイバーコネクトツーで何かやろうという話をいただき、打ち合わせをすることになったのがきっかけで。

 ウチはアクションとアニメーションならどこにも負けないものを作れるし、サイゲームスはアートワークに力を入れている。そこにDeNAも加わって、誰も見たことのないRPGを作ろうという話になったのですが、けっきょくその企画は飛んでしまって。じつは交流こそあるものの、いっしょにゲームを作ったことは、まだ一度もないんですよね。

――まったく何もですか? 渡邊さんとは頻繁にお会いになられているイメージですが。

松山イベントでいっしょになったり、飲みに行ったりすることは多いですね。私も参加していた業界関係者が集まるイベントに、渡邊さんが「おもしろそうなので、参加したいなと思って来たんです」と言って突然フラッと現れて、そのままイベントに出演することになったり。そこから付き合いが増えて飲みに行くようになりました。

――完全に飲み仲間なんですね。ちなみに、そういう場ではどんなお話をされるのでしょう?

松山最近会ったのは、ちょうど『ウマ娘 プリティーダービー』がリリースされた直後で。私自身もめちゃくちゃハマってやり込んでいるので、「お見事!」と褒めちぎってきました(笑)。

 ゲームとしてのおもしろさだけでなく、5年以上かけてちゃんと完成させた執念のすさまじさというか。クリエイターにはそういった信念、執念のようなものがないと、作品は絶対に完成しないから。空中分解の危機を乗り越えてプロジェクトを完成させたことを、まずは讃えさせてもらいました。

――ゲームもアニメも大ヒットしましたからね。

松山「本当に出るのか、出ないのか?」とヤキモキさせられたけど、いざリリースされたら、結果はまあ、お見事! 企画のコンセプトだけでも、形になればおもしろくなることはわかっていましたが、できあがったものは想像以上で。ゲームだけでなく、アニメのほうも非常によくできていて、数字の面でも素晴らしい記録を出して。

 それを素直に称賛したところ、渡邊さんは表情ひとつ変えずに「たまたまですよ」と言うので、そのときはさすがに「なんやねん!」と(笑)。そういうときは「めっちゃたいへんだったんですよ!」とか言えばええねん、と伝えました。

――(笑)。同じクリエイターとして、あれだけリリースを延期してでも、ゲームを完成させる姿勢をどう思われますか?

松山ただただ驚嘆というか、すごいと思います。とんでもない時間と労力、費用をかけて形にしたわけですけど、その過程における心労は並大抵ではなかっただろうし。それでも色あせることなく、最後まで貫き通したそもそもの企画の発想力は評価したいし、そのアイデアを信じて、ゲームを完成へと漕ぎつかせた開発陣営の努力、心の強さは拍手喝采ものですよ。

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――松山さんご自身も、『ウマ娘』にハマっているとのことですが……。

松山毎日、朝起きて最初にチェックするのは『ウマ娘』のスタミナですね。ちゃんとMAXまで回復しているか確認して、軽くプレイしてから仕事に取り掛かるようにしています。

 私だけでなく、サイバーコネクトツー内でもやり込んでいるスタッフは大勢いて。サークル機能を活用して、社内でも“CC2ウマ娘”というサークルを作って日々競い合っています。私はまだ、ファン数は4200万人なんですけど、うちの開発部長はすでにファンが7800万人もいて。私自身、それなりにプレイしているんですけど、ぜんぜん追いつけないんですよね。

――それだけ愛情が深いということでしょうか。

松山この部長はもともと競馬ファンで、馬に関する知識がすごいんです。『ウマ娘』はモデルになった競走馬の性格や得意な脚質などが忠実に再現されているので、そうした史実の知識がそのまま攻略に活かせるんですよね。そういうところも、よくできていると思います。

 私は競馬の知識がないので、単純にウマ娘たちのパラメーターだけを見て判断していたけど、後から調べて初めて、「メジロマックイーンは長距離が得意なんだ。だから、ああいったパラメーターだったんだ」ということがわかったり。ゲームをきっかけに、そうした知識が身についていくのもおもしろいところです。

――史実通りのレースに出て、優勝するとボーナスで能力がアップするような隠し要素があったり、細かいところまで作り込んでありますよね。

松山最初は、史実をもとにしていることを知らなくて。ずいぶんピーキーなバランスに調整しているな……と思いました。

 つぎのレースは16ターン後、24ターン後というときもあれば、間隔を空けず、2回連続で出場することにもなったりして。「何を考えているんだ!」と思ったけど、先ほど話に出た開発部長から“史実に基づいている”という理由を聞かされたときは、そのこだわりぶりにハッとさせられました。そうして、モデルになった馬の偉業を知ることで、ウマ娘たちへの愛着もさらに湧くという、徹底した作り込みには恐れ入りました。

――キャラクターの立てかたの巧さにも、サイゲームスらしさが感じられますね。

松山ゲームのサービス開始がきっかけでアニメも競馬業界やその関係者も盛り上がりを見せているように、たった1本のゲームで神風を吹かすというか、ブームを作り出せる可能性があるというのは夢がありますよ。これこそゲーム業界の誉れとでも言うのかな。「自分たちもおもしろい作品を作るぞ」という勇気がもらえる出来事になったと思います。

クオリティーで人を振り向かせる! CC2×サイゲームスの可能性は?

――サイゲームスという会社そのものに対しては、どのような印象を持たれていましたか?

松山最初は、「IT企業がゲーム事業を立ち上げて、スマホゲームを中心にうまくやっていくんだろうな」くらいに思っていましたが、実際に展開しているゲームに触れてからは印象が変わりました。

 『グランブルーファンタジー』にしてもそうですが、「たった1枚の美麗なイラストが世の中を変えることもある」ということを信じて疑わず、ひたすら突き進む姿勢は好きです。もちろんゲームだから、グラフィックだけでなく、音楽やシステムも含めて、総合的にいいものを作り出していかないといけないんだけど、たった1枚の絵にとことんこだわり抜くという、会社としての姿勢がとにかく素晴らしいと思います。

――その姿勢は、現在配信中のタイトルにも脈々と受け継がれていると?

松山それもあるけど、『ウマ娘』に関してはちょっと特殊だね。3Dのキャラクターの表現にしても、いまこれを見ていない奴はアホだぞと。このレベルのクオリティーで、安定してキャラクターを動かせて、しかもローディングも少ないという。この技術レベルは業界内でもトップクラスだし、ゲーム開発に携わる者として、これは見ておかないといかん……というところからプレイし始めて、いまではドハマりして遊んでいるんですけどね(笑)。

――『ウマ娘』の技術面で、具体的にここがスゴいというポイントはありますか?

松山キャラクターごとの優勝したときの演出や、日々の育成のアニメーションへのこだわりがすごいです。

 あと、ファン心理をつかんでいるなと感心したのが、才能開花によって大きく一段階パワーアップしたときの演出。あれは飛ばせないですよね。極上というか、美麗すぎる。そこに至るまで苦労して、ようやくたどり着けたときのうれしさと演出が、見事に一致・比例していて見入っちゃいます。あの演出はやっぱり楽しみだから飛ばすことができないですね。

 そのほかにも要所要所で、欲しいところには必ず、手の込んだ演出があって。ポスト処理とかアニメーションとか、瞳のシェーダーなども含めて、ものすごくこだわって作っているのがわかるので、ただただ勉強になる作品だと思います。昨今では世の中に、3Dの美少女モデルが溢れかえっているけど、いまのところサイゲームスの制作技術は日本一。そのカテゴリーで日本一ということは、つまり世界一と言えると思います。

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――実際、ひと目見た瞬間に「すごいクオリティーのモノが出てきたな」と感じますからね。

松山まさに、クオリティーでぶん殴られた感じです。すごいなと思うけど、それと同じくらい悔しい気持ちもあって。だから毎回、くそーって思いながらプレイしています。

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――サイゲームスは、ゲーム以外にもさまざまな取り組みをされていますが、そういったところで印象に残っていることや、感銘を受けたことがありましたら教えてください。

松山いろいろありますが、とくにすごいなと思うのは無料マンガ配信サービスの“サイコミ”ですね。スタートした直後は苦労していたイメージですが、ここ最近は『今どきの若いモンは』や『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』など、おもしろい作品が揃ってきて。私自身も毎日、更新を楽しみにしています。マンガという新たな境地で、ゼロから畑を耕していくという話を聞いたときは、ずいぶんと気骨のある会社だなと思いましたが、そうして信念を貫いて軌道に乗ってきた経緯を知っていると、感慨深いものがあります。

 そう考えると、そろそろつぎの段階を考えてもいいのかもしれないですね。現在は独占で配信をされていますが、他プラットフォームでの掲載だったり、他社の作品を預かったりということがあってもいいんじゃないかと、いちマンガ好きとしては思います。その際は、ぜひ僕の『チェイサーゲーム』も掲載してほしいですね(笑)。

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チェイサーゲーム(ファミ通.com)

――そこに行き着くんですね(笑)。ただ、実際に勢いが出てきているのは確かだと思います。サイコミ連載作品の中から、アニメ化されたタイトルもありますよね。

松山おもしろい作品が増えてきて、業績もよくなってきていると聞いています。いいものを作って、それが日の目を見ればビジネスはうまくいくんだ……ということをしっかり体現されていて、「負けてはいられないな!」という気持ちにさせられますね。

――現時点では、まだいっしょに仕事をされたことはないとのことですが、松山さんからご覧になられて“ゲーム業界におけるサイゲームス”とは、どのような存在の企業ですか?

松山急成長している企業だからこそ、何をするにしても大きく目立つというか。そのぶん、困難も多くなると思うけど、純粋に今後の展開が楽しみな、おもしろい会社です。自分たちの“モノづくり”を信じて、突き抜けて。作品の力で世の中の人たちを振り向かせてやるぞ! というパワーが溢れているところがおもしろいです。

 でも、それをいうなら、もともとゲーム業界って、こういう戦いかたをする世界だと思うので。我々も同じように攻めの姿勢で、これからも闘っていくので、お互いに切磋琢磨していけたらいいな、と。絶対に負けねえからな!

――サイバーコネクトツーの活躍にも期待しています! ちなみに今後、サイゲームスといっしょに何かやろう、といったお話などは?

松山まったくないですね。渡邊さんとはただただ飲んでいるだけ。絶対に組まないというわけでもないんですが、現状はウチの開発ラインも空いてないですし。ウチとサイゲームスがいっしょに何かするとしたら、歴史に残る大ゲンカをするか、世の中を変えるような大ヒット作を作るかのどちらかになるんじゃないでしょうか。おそらく、前者になると思いますけど(笑)。

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[インタビューこぼれ話]クオリティーの高さに脱帽! 松山氏のイラスト入りTシャツを勝手に制作! !

 とあるトークイベントに出演した松山氏は、ステージ上でいきなり、渡邊氏より「松山さんのTシャツを作ってもいいですか?」と相談されたという。最初は冗談だと思ったそうだが、それから半年後、サイゲームスより契約書とTシャツのデザインが送られてきて、肖像権の使用に関する書類にサインをすることになったとのこと。

 「“どうせふざけたデザインだろう……”と思って見てみたら、抜群のクオリティーで。話を聞いたら、アートディレクターの方がわざわざ描いてくださったらしくて、これには恐縮してしまいました。

 その方にも本業があるんだから、渡邊さんに“業務に差支えのない範囲でやってくれよ、さすがに申し訳ないよ!”と伝えました。ゲームやサイコミといったコンテンツの制作だけでなく、そんな悪ふざけにも全力で当たる姿勢はさすがですね」と松山氏は振り返る。

 このやり取りを経て完成した、松山氏のイラスト入りTシャツは、翌年のイベントで好調な売り上げを記録したという。

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