2021年5月15日、16日の2日間にかけて開催される、オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のオンラインイベント“デジタルファンフェスティバル2021”。初日のステージプログラムの合間を縫って行われた、メディア合同による開発者インタビューの模様をお届けする。この日に実施されたインタビューは6名分。いずれも短時間ながら中身の濃い内容となっているので、ひとつひとつのやり取りをじっくりお読みいただきたい。
また、開催最終日となる2021年5月16日にも別の方々による開発者インタビューが設定されている。こちらも取材が終わりしだいお伝えする予定なので、ぜひお楽しみに。
なお読みやすさを高めるため、本インタビューではコメントの中身に少なからず編集を加えている。記事中に掲載されている発言およびその順番は、取材時のやり取りと一致しない場合があるので、その点にご留意いただきたい。
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トップバッターとしてご登場いただいたのは、織田万里氏と高梨佳樹氏のおふたり。直前に行われたプログラム“ハイデリン探検隊”の中身を受ける形で、『FFXIV』の世界設定の深層を語ってもらった。
織田万里氏
リードストーリーデザイナー。『FFXIV』の世界設定およびストーリーを形作る中心人物のひとり。
――ステージプログラムを終えたいまの感想と、プレイヤーに向けたメッセージをお願いします。
織田 すごく緊張しました。“ハイデリン探検隊”がグダグダした感じの放送になってしまったので、お詫びしたいです。とは言え、個人的には楽しめたと思っています。ファンの皆さんと対面してお話することはできなくなってしまいましたが、これから2日間、デジタルファンフェスという機会を得られたことがすごくうれしいです。
――オープニングでもお話されていた通り、織田さんは今回からリードストーリーデザイナーという肩書きになられました。その結果、ご自身の周りで変わったことや、いまの役割みたいなところをお聞かせください。
織田 じつはまったく変わっていなくてですね(笑)。数年前から「肩書きをどうしようか」という話はあったのですが、それがズルズルと引き延ばされた結果、いまに至った……という感じです。特別、このタイミングで何かが変わったということではございません。
――引き続き、ストーリーと世界設定全般を担当されている部分は変わらないと。
織田 はい。
――世界設定やストーリーを生み出す作業のたいへんさは我々凡人には到底想像がつかないのですが、どのようなものからインスピレーションを受けるものなのでしょうか。また、お答えいただくのが難しいかもしれませんが、今回の『暁月のフィナーレ』の世界を作り出すうえで影響を受けたものや意識した点もあればお聞かせください。
織田 じつは僕の前職は編集者でして、お話を作る仕事に就くためにこれまで何か特別なことをしてきた、というわけでもありません。読書が趣味なものですので、たくさんの本を読んだりゲームをプレイしたりして、子どものころから無数のストーリーに触れてきました。そうした経験を自身の中でフィードバックして、いまに活かしているのかなという感じです。
今回のストーリーや世界観に関して、「過去に読んだコレを参考にしよう」みたいなところをいまの段階でお伝えするのは難しいので、その点はご容赦ください。ただ、10年近く携わってきたプロジェクトが、今回でストーリー的にもひとつの節目を迎えることになります。このため、しっかりとしたものをお届けせねばという責任は感じております。
――さきほどのステージプログラムでシャーレアンの設定について語っておられました。おそらく一連の設定は『蒼天のイシュガルド』の時代に作られたと思うのですが、今回の拡張パッケージに向けて、当時の段階から織田さんたちの中で何らかの仕込みがスタートしていたのですか?
織田 吉田(吉田直樹氏。プロデューサー兼ディレクター)も話していた通り、旧『FFXIV』はもともと6都市(リムサ・ロミンサ、ウルダハ、グリダニア、イシュガルド、アラミゴ、オールド・シャーレアン)からひとつを選んで冒険がスタートする予定でした。このため、“知識の都で学術が盛ん”という設定そのものは、自分が参加する以前から存在したわけです。ところが、そのあたりをプレイヤーの皆さんにお届けする機会がなかなか訪れませんでした。
そこで、廃墟みたいな状態になっていたとしても、せめてその中からメッセージ性を感じてもらおうと思い、『蒼天のイシュガルド』に低地ドラヴァニアを登場させることで、少しでもそれを解消することにしました。今回は、いよいよシャーレアンの都市に行けるようになるので、いままで考えてきたことや仕込んできたことをより深められるのではと楽しみにしています。
高梨佳樹氏
リードバックグラウンドアーティスト。本作の世界観や空気感を“見た目”で表現する、バックグラウンド(以下、BG)を担当。これまで数多くのタウンやレイドダンジョンの背景をデザインしてきた。
――高梨さんからもプレイヤーに向けてひと言をお願いします。
高梨 コロナ禍にある状況下でファンフェスを開催すべきなのか、というところは確かにあったと思います。ですが、前回参加させていただいて皆さんと直接触れ合った経験を持つ私としては、『FFXIV』プレイヤーの方々の熱意を感じられる部分がものすごく大きいので、デジタルであっても開催したいという思いがすごくありました。ですので、個人的にもすごくうれしく思っています。
――本日の基調講演で『暁月のフィナーレ』に登場するさまざまなフィールドがウォークスルーで公開されました。それを観ると、いままで以上に個々のエリアの特徴がまったく異なっていると感じました。この部分も今回の見どころかと思うのですが、開発時に苦労した点や新鮮に感じられた点をお聞かせください。
高梨 おっしゃる通り、今回はそれぞれの(フィールドの)ロケーションがほんとうに独特で、ユニークなものばかりです。そうしたあたりを、皆さんにより深く楽しんでいただけるよう作っていきたいなと。
――色合いも独特なものが多い印象ですね。
高梨 『漆黒のヴィランズ』のときもそうでしたが、今回はそれぞれの特徴がさらに際立っているなと。個性を引き出す作業は苦労する部分ではあるのですが、楽しみながら作っています。
――オールド・シャーレアンは旧『FFXIV』の時代から構想が存在したとのことですが、街の構造やデザインは、当時から存在していた案にアレンジを加えたものなのでしょうか。それとも『暁月のフィナーレ』を開発するに当たり、ゼロから作り始めたのですか?
高梨 さきほど織田も話していましたが、設定はもともと存在していたので、それを基にして織田や石川(石川夏子氏。リードストーリーデザイナー)たちといっしょに、新たにレイアウトなどを検討していきました。
――月という舞台は自然物がもともとないので、表現がすごく難しいのではないかという印象を受けるのですが、そのあたりはいかがですか?
高梨 おっしゃる通りです。まさにいま、そのあたりに苦戦しています(苦笑)。
――まだまだ調整が加えられている段階ですか?
高梨 はい。本日ご覧いただいたものも、まだまだ開発途中です。これから開発スタッフ一同力を合わせて、ブラッシュアップに努めていきたいなと。嘆きの海は、ほんとうに苦労しています。宇宙の映像などを、担当スタッフと参考にしたり……(笑)。いままで『FFXIV』の背景として宇宙のシーンが登場したことがなかったので、そのあたりも印象的ですね。
リーパーの両手鎌は“デザイン上の間口の広さ”を重視
続いてインタビューに応じてくれたのは、市田真也氏と宮澤隆信氏のおふたり。本作のビジュアルデザインの屋台骨を支える両スタッフに、この日に発表されたリーパーの見どころを語ってもらった。
市田真也氏
リードアーティスト。赤魔道士の武器の選定や侍のリミットブレイク発動時の演出など、ビジュアルに関する多種多様な要素を手掛けてきた。
――『暁月のフィナーレ』のリリースに向けた意気込みと、『FFXIV』プレイヤーへのメッセージをお願いします。
市田 『暁月のフィナーレ』で、ハイデリン・ゾディアーク編が完結します。『FFXIV』の開発を10年近く続けていくなかで、自分としても今回の大きな物語とともに歩んできました。それがひとつの区切りを迎えるということで、個人的にもすごく思い入れがあります。ストーリーに関しても、石川さんが素晴らしいものを描き上げてくれていますので、グラフィックスの面でもそこをしっかりと表現していきたいなと。いつも言っていることではありますが、いままでにない体験と景色のもとで、皆さんが楽しくプレイできるよう心掛けていきたいです。
――基調講演でさまざまなビジュアルが公開されました。市田さんはリードアーティストとしてこれらに広い範囲で関わられていると思いますが、そのなかでも注目してほしいポイントはありますか?
市田 基本的にはすべてに全力を注いでいるので、自分の立場からすると全部見てもらいたい気持ちはあります。今回の新しい種族は、大きなサプライズに向けて少しずつ準備を進めていったのですが、キャラクター班やアート班などが関わることもあり、そもそも制作に大きなコストが掛かります。そうした開発チームの体制を作るところから準備して、今回の発表に間に合わせました。まずは新しい種族を触って遊んでいただければなと。
――それはヴィエラ男性のお話ですね。
市田 はいそうです。
――併せてお伺いしますが、ヴィエラ男性はどのあたりに力を入れて作られたのですか?
市田 いままでにない男性キャラクターのフォルムとして、オトナびていながらどことなく中性的な雰囲気も漂わせる……そうしたあたりをうまく出せるよう試行錯誤しました。それこそキャラクターの顔の造形からモーションの立ち姿まで、細かいところをスタッフどうしで話し合いながら作り上げました。
――以前、市田さんは赤魔道士の武器の選定にも関わらていたとのことですが、たとえば賢者の賢具の決定にも携わっておられるのですか?
市田 そうです。
――新ジョブの武器に関して「この形にしよう」と決めた経緯や、たとえば賢者であればなぜ賢具にしたのか、などをお聞かせいただけますか?
市田 まずリーパーの両手鎌についてですが、今後いろいろな見た目を用意していくに当たり、アート班のスタッフが自由に発想できるよう、デザイン班の側で可能な限り間口を広げた形での実装を目指す……というのがコンセプトです。一例を挙げると、たとえばキャラクターのアクションに関して、長めの武器を振り回しても問題が起きないような動きにしてあります。ほかにもリーパーには、ヴォイドから呼び出すアヴァターがいます。これがリーパーと融合すると新しいデザインに切り替わるのですが、その際の仕組みも力を入れて作りました。
宮澤隆信氏
リードアニメーター。おもにバトルコンテンツなどのモンスターモーションを担当。レイドコンテンツ開発の裏側を知る人物のひとりでもある。
――続いて宮澤さんからも、本日のステージプログラムに参加した感想をお願いします。
宮澤 ステージに上がって緊張していたのですが、開発現場の雰囲気を少しでも皆さまにお伝えできてよかったなと思います。
――本日の開発パネルを拝見させていただいて、本当にたいへんなことをされているのだなと……。とくにオメガの男女が溶ける演出に工夫が凝らされているなと感じたのですが、なかでもいままでたいへんだったものをお教えください。
宮澤 やはり今日お話したオメガは、いままで携わってきたものの中でかなり手こずった部類です。レイドコンテンツは新しい表現を採り入れたりするので、毎回力を入れて作っています。
――『暁月のフィナーレ』の注目ポイントや、新たな部分に力を入れたところは御座いますか?
宮澤 今日発表した新ジョブのリーパーは、いままでの『FFXIV』にはない遊びかたと言いますか触り心地が楽しめますので、まずはそこにご期待いただきたいです。
極ダイヤウェポンや“レッドコメット”について訊く
最後にご登場願ったのは、中川誠貴氏と中川大輔氏だ。本作のコンテンツを長らく手掛けてきたおふた方から話が聞けるとあって、質問はバトル関連に集中した。
中川誠貴氏
リードバトルコンテンツデザイナー。ミスター・オズマの愛称で各国のファンから親しまれる。
――『暁月のフィナーレ』リリースに向けての意気込みと、『FFXIV』プレイヤーへのメッセージをお願いします。
中川(誠) さきほど市田が話していた通り、ハイデリン・ゾディアーク編が終わりを迎える拡張パッケージとなります。新しいレイドダンジョンの万魔殿パンデモニウムはもちろん、討伐・討滅戦、メインストーリーのクエストバトル……いろいろなところで新しいことやっていますので、期待しながらもう少しだけお待ちください。
――中川さんはバトル全般をご覧になっているかと思いますが、『暁月のフィナーレ』に登場するコンテンツの中で、おもに何に関わってこられたのですか?
中川(誠) 自分はコンテンツチームのリーダーなので、おもに「コレ!」と言うものはありません。そういう意味では全部、が答えになります(笑)。
――万魔殿パンデモニウムから新規アライアンスレイドのミソロジー・オブ・エオルゼアまで、すべてに関わっておられると。それらの見どころなどはまだお伺いするのは早いですかね。
中川(誠) すべてに関わっております。そうですね、まだお答えできないです……(笑)。
――パッチ5.5のPart2で『漆黒のヴィランズ』のコンテンツがひと通り出そろうことになりますが、そのなかでもとくに思い出深いものは何でしょうか?
中川(誠) 5.Xシリーズのバトルには、たくさんの思い出があります。最近のコンテンツで言えば、希望の園エデン:再生編ですね。覚醒編と共鳴編から続く最後の再生編で4層の構成を変えたり、ボスのヒットボックスを大きくしたりと、いろいろな工夫を凝らした結果、ここまでクオリティーを上げることができました。「やっと完成させられたな」と思っているので、再生編はすごく印象に残っています。またクエストバトルに関しても、4.Xシリーズとは比較にならないほどいろんな試みをしたので、「これは簡単だったな」とか「あれはよかったな」といった思い出がいくつもあります。
中川大輔氏
バトルコンテンツデザイナー。2015年1月にスクウェア・エニックス入社。ダイヤウェポン捕獲作戦や希望の園エデン:覚醒編4など、多数のバトルコンテンツを手掛けてきた。
――では続いて中川大輔さんにお伺いします。まずは開発者パネルに出演された、いまのお気持ちからお聞かせください。
中川(大) 今回は「自分の妄想でこういうコンテンツができるんだよ」というお話をさせていただきました。“頭の中のものが全力で形になっていく”という部分を実現できるのが『FFXIV』チームなので、そうしたところのよさが少しでも皆さんにお伝えできたのであればうれしいなと。
――開発者パネルを拝見させていただいたのですが、南方ボズヤ戦線の“赤チョコボのヌシ「レッドコメット」”に関してとくにプレイヤーからのコメントが多かったように思います。あのクリティカルエンゲージメントの難度をなぜ高めにしたのか……など、裏話みたいなものがあればお聞かせいただけますか?
中川(大) あれくらい強くすれば納得していただけるかなと(笑)。『ファイナルファンタジータクティクス』に登場した赤チョコボは裏ボス的な存在なので、すんなり倒されてしまうと「これってほんとうに赤チョコボなの?」みたいな話になってしまいますよね。ですので、事前に了解を取ったうえでバランスを調整させていただきました。
――本日の講演で、中川さんはストーリーを大切にされているのだと思いました。チョコボに関しても、そうした過去の経緯をだいじにされたと。
中川(大) そうです。
――今日の開発パネルを拝見したところ、担当されたコンテンツの中に最新のダイヤウェポン捕獲作戦が入っているのを見つけました。こちらを実際にプレイすると、いままでの討伐・討滅戦にはない動きを見せるおもしろいコンテンツだなと思ったのですが、開発時に気を付けた点などがあればお聞かせください。
中川(大) ダイヤウェポン捕獲作戦はどちらかと言えばギミックに振り切ったバトルになっています。やりたいことをやり切ったコンテンツです(笑)。最近の“極コンテンツ”はすごくコストが掛けられるので、新しいことにトライできる環境になっています。「せっかくのコンテンツにこれだけのコストが掛けられるのであれば、とびきり新しい体験を作ってみよう」ということで生まれたのがダイヤウェポン捕獲作戦です。
――豊富なコストが存在することから、大空を飛ぶGセイヴァー1号機と2号機を移動しながら戦うというダイナミックな流れを思いつかれたのですか?
中川(大) そうですね。あの形のアイデアを思いついたのは、わりとすぐです。さほど間を置かずにひな形まで完成しました。
――本日の開発パネルを、興味深く拝見させていただきました。アイデアをどの程度まで個人で固めたうえで、皆さんで力を合わせて形にしていくのか……そのあたりのサジ加減をお伺いできますか?
中川(大) 私はかなり作業面で任されているところが大きいので、ある程度初期の段階で自分の中で固めてしまいます。その後、途中で誰かの意見がほしくなったらリーダー格の中川(誠貴)に「こういうアイデアがあるのですがどうですか?」と聞いたりします。ただ私よりも後輩のスタッフはいろいろとやらなければならないことが多いので、ほかのデザイナーも同じ流れで作業をしているというわけでは必ずしもありません。