2021年3月12日に設立されたYouTubeチャンネル“Harada’s Bar・はらだのばぁー”。このチャンネルは、バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンナム)の『鉄拳』シリーズのプロデューサーなどとしても知られる、原田勝弘氏のチャンネルだ。

 本記事ではチャンネルを立ち上げた原田氏に、なぜチャンネルを作ったのかなど、気になる点についてインタビュー。後半には、原田氏が現在どのような立場にいるのか、興味深い話も飛び出したので、ぜひ最後までチェックしてみてほしい

聞き手・ファミ通グループ代表 林 克彦

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Harada’s Bar・はらだのばぁー チャンネルリンク(YouTube)
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原田勝弘(はらだ かつひろ)



26年にわたり、『鉄拳』シリーズのプロジェクトリーダーを務め、マーケティングやファンイベント&コミュニティのマネジメントなどもこなす。現在はゼネラルマネージャーとして、多数の家庭用およびアーケードゲーム、モバイルゲーム、ヘッドマウント型VRゲームなどを開発&プロデュース。さらにはワールドワイドのマーケティング戦略や、eスポーツなども担当する。(文中は原田)

対談するために作り上げた番組

――まずは今回、原田さんが個人チャンネルを立ち上げた経緯を教えてください。

原田そもそもの背景としては、バンナムの代表取締役社長が、宮河(宮河恭夫氏)に変わったときに、「プロデューサーやクリエイターの発信力を上げてファンと向き合おう」という方針になったんです。たとえばゲームファンの人たちならば、カプコンさんやスクウェア・エニックスさんなどを頭に思い浮かべたとき、おそらくその会社の代表的なクリエイターも頭に浮かぶでしょうし、だからこそその会社にファンが集まると思うわけです。ただ、バンナムって案外それがないんですよ。いや、もちろんマニアックなファンの方は知っているとは思いますが、社内では正直そこは弱点だよね、と言われていました。

 これまでも各クリエイターが発信や告知はもちろんしていましたが、「来週からCMが始まります」ですとか、本当に告知だけなことが多かったんです。もっと直接本音でファンに語り掛けるべきだ、というところで、各ゲームやプロデューサーの発信チャンネルを増やそうというプランが挙がりました。というのが最初の発端です。

――とはいえ、原田さんはそれ以前から表に立つことが多かったですよね。

原田そうですね。僕は『鉄拳』シリーズに限らず、イベント出演も多いですし、Twitterでファンとの交流もしています。おそらく、対戦格闘ゲーム界隈では“『鉄拳』の原田”として知られているとは思います。実際には当然もっと多くのタイトルに関わっていますが、“『鉄拳』の原田”というイメージがあるため、ほかのタイトルに色が付かないように隠れていることも多いです。

――ではそこからなぜ、個人チャンネルを立ち上げようと考えたのでしょうか?

原田発信チャンネルを増やすという計画の時点では、個人チャンネルを作ろうなんてまったく考えていませんでした。ただ、チャンネルを作るとするなら、どういう動画がいいんだろうと考えたのですが、YouTubeの動画を僕が見るときって、だいたい最初の1分くらいで見た気になって、最後まで見ないことが多くて。また、再生回数を伸ばすことをメインに据えたような、インパクト重視の動画も個人的にはあまり見ません。そのとき、もっとじっくり見ていられる動画って何だろうと考えたところ、自分がついじっと見ている動画って“人が対談している、または何か自分の考えを語っている”動画だったんですね。自分がもしチャンネルを立てるなら、トークをメインにしたいなとぼんやり考えていました。トークメインなら画面を見なくても聞いてられますからね。

 そんなとき、2020年の末に外部の方々からお声掛けいただいて、ファミ通さんにてトークバラエティー番組“はらだのゲームばぁー”を配信しましたよね。それがもう、すごく楽しくて。そして、長い動画にも関わらず、最後まで見てくれた人がかなり多かったんです。この形式はいいなと。もともと、対談が好きなんですよ。いろいろな人からお話を聞いて「へぇー!」って言いたくて言いたくて。そこで刺激を受けて、仕事に活かされることも多いんです。ですから今回、“はらだのゲームばぁー”の形式を引き継がせていただいて、“Harada’s Bar・はらだのばぁー”を立ち上げました。

――たとえばバンナムのチャンネルとして立ち上げる方法もあったと思いますが、なぜ原田さん個人のチャンネルとして立ち上げたのですか?

原田それは明確な理由があります。会社というのは、もちろん収益を上げるために動きます。YouTubeという場所で、YouTuberの方々はお仕事にされていると思いますが、我々の本業というのはゲームを作って、売ることです。そして、動画制作というのもスタッフが必要になります。カメラマンですとか編集担当ですとか。ですが、我々はゲーム作りが本職ですから、ゲーム制作作業の優先度のほうが当然高いです。だって、ゲームを作らずに動画作っていたらおかしいでしょう?

 かと言って、上司として内部のスタッフに命令するのも申し訳なくて。本職のゲーム制作が大事ですから、チャンネルの動画は基本的に休日に撮影することになっています。ですから、スタッフにやってもらっても「なんで上司のために自分が休日出勤して、動画撮影しなきゃいけないんだよ?」ということになるじゃないですか。だから、僕が個人的に外部の人と話をして、「原田さんとならいっしょにやりたいです」という人たちだけで制作スタッフを固めました。もちろんバンナムとしてチェックなどは入りますが、だからこそ個人のチャンネルなのです。と言っても、もちろん“バンナムの原田”としてのチャンネルですけども。ちなみに言っておきますが、僕は単なるいち会社員ですから、もちろんノーギャラです。

――収録の様子を拝見しましたが、すごくよい雰囲気のバーでしたね。

原田とても凝っています。じつは準備にはすごく時間を掛けていて、2020年の春からはもう動いていました。ただ、その中で進まなかったのは、会社的に「やはりバンナムのチャンネルとしてやるべきだろう」という声も聞こえてきて。何かあったときに責任を取るのは会社であることや、バンナムの発信力を上げるためにやっている企画なのに、外の会社と組むのはどうなんだという声もあって。決してみんなやりたくないわけじゃなくて、やりたいんだけど……っていうところで、けっこう内部でゴタゴタして進まなくて。ですが、外部の方々がそのあいだにしっかり場を固めてくださっていましたね。

――「対談がしたいがために、チャンネルを作った」とのことですが、対談のどのようなところが好きなのでしょうか?

原田僕はすぐ“仮説”を立てる癖があるんですよ。その仮説癖はやがて先入観になってしまう。つい「この人はきっとこうだからこう考えているんだ」と決めつけて聞いてしまうことが多々あります。それが「じつはこうだったのか!」って自分の中の仮説がひっくり返ったときの瞬間がたまらなく好きなんです。そのために立ち上げたと言っても過言ではありません。

 たとえば、第1回のゲストはプレイステーションの生みの親である、久夛良木健さんに来ていただきました。会社って60~65歳が定年ですよね。僕の考えとしては60を超えると老化などで人間的に衰えてくるから、定年退職がその年齢なんだろうと思っていたんですよ。ですが、久夛良木さんを見て原因はそこじゃないとわかりました。だってあの人70歳超えているのに、すごくチャレンジングなことをしていて。もう後先のことなんて見てない姿が、ヤバすぎるなと。

――久夛良木さんは、すごい好奇心の塊ですよね。

原田興味があったら何にでも突っ込むんだなと。未来予測までされていて。対談の中で「未来がライバルだ」とまで言っていましたからね。本当だったらお金払ってでも聞きたい話なわけです。それを仕事の一環として聞かせていただけるのですから、こんないいことはありません。

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――なぜ久夛良木さんを呼ぼうと決めたのでしょうか?

原田久夛良木さんを呼べたらおもしろいだろうなって思いまして。ただ、久夛良木さんがゲーム業界にまだいたら呼びやすかったのですが、いろいろ肩書もありますし、お忙しそうですよね。おいそれと「YouTubeに出てくれませんか?」とも言えないじゃないですか。しっかりとコンセプトやトークの落としどころも決めたりして、意を決してお声掛けしたら、まさかのふたつ返事でオーケーしていただきました。数ヵ月間くらいドキドキしていたのに、いざ打診したらさらっと「行くよ!」と言っていただいたという(笑)。

――実際に久夛良木さんにお会いして、緊張などはありましたか?

原田僕って、わりとどんなことでも緊張しないタイプなんですよ。ただ、ゲーム業界に限って言うと、2名だけ必ず会うたびに緊張してしまう人がいます。そのひとりが、久夛良木さんです。ちなみにもうひとりは、高橋名人です(笑)。なぜかこのふたりには会うたびに緊張しちゃって、しどろもどろになってしまいますね。

――やはり業界の大先輩だからこそ、緊張されるのでしょうか。

原田そうなんでしょうね。経験上、僕はハリウッドスターに会う機会があっても、まず緊張しないんですよ。逆に緊張するのは自分が生きているゲームの世界だからこそ、なんでしょうね。しかも久夛良木さんがレジェンド級の存在に駆け上がっていくのを、僕はリアルタイムに真横で見ていましたから。高橋名人はもう、小さいころから見ていた存在ですし。

――すでに動画を見た人も多いと思いますが、そのしどろもどろになっている原田さんを意識して見ると、またおもしろいかもしれませんね。

原田見返すとですね、僕は「はい」、「ですよね」しか言ってないんですよ(笑)。

――(笑)。久夛良木さんのつぎは、対戦格闘ゲーム界隈の方たちがゲストなんですよね。

原田はい。対戦格闘ゲームのプロゲーマーである、 DetonatioN Gaming所属の板橋ザンギエフ、eスポーツフォトグラファーとして活躍する大須晶、『鉄拳』の実況・MCを務めるウェルプレイド・ライゼスト所属のゲンヤがゲストです。この3人は、対戦格闘ゲーム界隈では知っている人が多いですし、ファンならニヤリとする3人です。どう考えても、ディープな内容になりますよね。ただ、一般層から見たらもちろん興味のない内容になると思うので、再生数はきっとそこまで伸びないのは分かっていますが、見た人に最後まで視聴していただけるものにしたいと考えています。こういったゲストたちを今後も呼んでいきたいです。

――具体的には、どのようなゲストを今後呼んでみたいですか?

原田一部の人たちがピンポイントで興味のあるゲストもそうですが、僕の知らない業界の人たちも呼んでみたいです。たとえばコスプレイヤーの方とかって、長い付き合いはありつつも、ちゃんとお話したことがなくて。コスプレイヤーの立場から、ゲーム業界や我々ってどう見ているのかって知らないので。

 あと、バンナムのクリエイターを呼ぶというのもアリなのかなと。バンナムはソフトは知られていますが、誰が作っているのかとか知らない人のほうが本当に多くて。あと、バンダイとナムコが合併してバンナムになったときの話も、あまり皆さん知らないと思うんです。どの会社も合併したら、まず反発が起きますが、そこから混乱が起きて、融合・融和していき、相乗効果を得るという流れがあります。僕はナムコ側でしたが、最初はもう文化が違いすぎてバンダイ側に違和感しかなかったです。もちろんバンダイ側も「何だこいつらは」と思っていたに違いないという(苦笑)。最初はそれがお互いにストレスでしたが、3年ほど経つと逆におもしろくなってきて。しかも仕事のアプローチなどに、意外に感銘を受ける瞬間も多かったんです。そういった興味深い内部の話って、表に出したほうが絶対おもしろいじゃないですか。大人の喧嘩みたいなのもありましたし(笑)

――たしかに、それはぜひ見てみたいですね。

原田さらに極端な例をあげると、本当に一般のユーザーをゲストに呼んでみるっていうのもおもしろそうです。単なるファンでもいいですし、ゲーム業界に入りたい人でもいいでしょう。再生回数は目標にしていないので、よりディープな感じで。

――ちなみに、どれくらいのスパンで動画を配信していくのでしょうか?

原田毎週配信を予定しています。1本6時間くらいかけて収録していて、それを区切りって毎週配信という形です。

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憧れられる役職を目指して

――せっかくなのでお聞きしておきたいのですが、原田さんは現在バンナムでどのような形でゲームタイトルに関わっているのでしょうか?

原田僕は現在、ゼネラルマネージャーとか、そういう立場です。一般的な会社でいうと、部長にあたると思います。これまでは人事から事務などすべて、会社全体を見ていました。日本の一般的な会社って、そのポジションの人が変わっても、同じ仕事ができなくてはいけないというシステムじゃないですか。バンナムももともとはそうだったのですが、バンナムは改革が進んできています。

 たとえば、睡眠時間があって、食事の時間があって、仕事の時間があって。1日にゲームに費やせる時間って、すごく限られていますよね。我々はその時間を、ゲームの魅力で奪わなくてはいけません。となると、ゲームに限らず、コンテンツ制作というのはその能力に特化した人たちがやるべきですよね。

――たしかに、そうですね。

原田ただ、過去にすごくヒットしたゲームを制作した人って、だいたい出世して偉くなっています。管理だの書類のハンコだの営業もやりながら、ゲームも作ったりするわけです。まあそれは、日本の会社の仕組みに合っているからでしょう。ところがですよ、たとえばすごいシナリオを書くクリエイターがいたとして、ゲームをヒットさせたとしましょう。では、その人を取締役にしようとなったら、クリエイトする時間が少なくなりますよね。とはいえ、給料という面でいうと、出世しないと上がらないわけで……。ヒットさせたのに肩書きが変わらないと、給料を上げられないというのもおかしいです。海外ですと、肩書き以前に、まず能力や功績で給料が決められたりしますが、バンナムはそれに近い形になりつつあるんです。

――能力などでも査定が変わってくると。

原田そしていまの僕の立場は、自分の定めたミッションをクリアーするために、存分にお金と資材と時間を使っていいという立場になりました。ちょっとだけ事務系の仕事も残っているのですが、面倒な事務作業が全部なくなって、まるで20代のころの時代のような感じで、集中してゲームが作れるわけです。あらゆる面で待遇もよくなりましたし。かなり都合のいい立場です(笑)。

――時間に余裕ができたわけですね。

原田そうなんです。前は本当にバンナムタイトルに広域で関わりすぎて、バンナムタイトルのスタッフロールを見てもらうとわかるのですが、広範囲で僕の名前が入っているんですよ。直接的にはコードを書いたり絵素材を描いたりしているわけではないのに(笑)。『テイルズ オブ』シリーズも、『DARK SOULS』シリーズにも名前が入っている。だけど世間的にはそんなイメージないですよね!?(笑)。

――『鉄拳』のイメージが強いですしね(笑)。

原田そうすると、たとえば年間20タイトルにもし関わったとしたら、1タイトル1/20の労力しか割けなくて、自分のタイトルの制作を進めるなんて時間はありません。ですから、本当の僕の作品、つまり僕が100%注力して作ったと言えるものは、たとえばここ数年はないとも言えるんです。それでは新しいものは生まれません。時間がありませんから。

――たしかに……。

原田バンナムの新規IPの立ち上げが少ないと世の中で言われるのは、そこも原因なんですよ。ヒット作を出した人間が出世して、課長や部長になったら、そういう管理職という仕事が待っています。そうなると、そういう新規IPを立ち上げられる能力を持つ人の時間が奪われて、若い人に託すしかありません。でも、若い人って逆に開発経験や成功体験がないから余計に難しい。このスパイラルです。

 これはどこの会社もあると思うんです。ゲーム開発が大型化していく中、大きな組織を動かさないといけない。では組織を動かせる人が誰かと言ったら、ベテランになってしまう。そのベテランたちが新しいIPを立ち上げようにも、大きな組織を動かすところに力が分散されていく。というサイクルが、日本の大手ゲーム会社が抱えるジレンマだと思います。

――ああ、だからこそ原田さんの現在の立場のような役職が必要だと。

原田そうなんです。そういった中で「ベテランの人が自由に動いたほうが、もっといいタイトルが生まれるのでは?」という発想が、いまの僕の立場なんです。待遇もよくなって、かつ、すごく面倒だった勤怠管理はしなくてよくなり、「こんなタイトルを立ち上げたい」ということが可能になりました。たとえば“日本格ゲーメーカー連合会”なんかは、僕の発案と呼びかけでスタートしたのですが、前の立場だと忙しすぎてできなかったことです。こんな都合のいい立場、ふつうないですよね(笑)。ただそれは、いかにユーザーの隙間時間を奪って、ゲームの虜にするための最適化の手段なわけです。いまその立場なのは、僕と坂上(坂上陽三氏。『アイドルマスター』シリーズのプロデューサーなどを担当)だけですね。

――バンナムさんほどの大きな会社で、そこまで構造改革をするのはなかなかないことですよね。

原田本当にそう思います。誤解が生まれることを覚悟で言いますが、社会人人生の中でいまがいちばんワクワクしています。若いときって何でもワクワクできるのですが、お金も経験も信頼も権限も何もないので、ワクワクしたところに届かなくて苦しいことのほうが多いんですよ。逆にいまは権限があったうえで、しかも時間も作れるようになったわけですよ。ホント、勤怠管理の仕事はやらなくていいと言われたときは、飛び跳ねて喜びましたよ(笑)。

――そこまで嫌いだったんですね(笑)

原田はい、嫌いでした(笑)。勤怠管理は組織運営の基礎なので重要な仕事ですが、それは僕よりうまくできる人がいるわけですから。あと、僕も世に出てプロデューサーとしてゲームクリエイターみたいな顔をしていますけど、じつは管理職としての仕事が1日の大半を占める仕事なんて、ちょっと理想とか夢とはかけ離れているでしょう? 若い世代の社員の中には僕に憧れて入ってくる社員も少なからずいるのですが、実際いっしょに仕事をしたらすぐ言われていたんですよ。「想像していた原田さんとぜんぜん違う! ずっとExcelとかパワポを作っていますよね!? ずーっとお偉いさんたちと会議をしていますよね!?」って(笑)。がんばってゲームを作って偉くなったら、開発現場を離れる立場になるなんて、憧れられないし、ガッカリするでしょう。だけど、いま僕はようやく理想的な立場になれたと思いますよ。

――たしかに。それはすごくよいことですね。

原田今後はより深く、新規タイトルなども出せていけたらいいなと。もうプロジェクト自体は立ち上がりつつあります。また、スタッフ増員も考えています。時間ができたことにより、開発現場をより密接に見られるようになって、そうすると足りなかったスタッフも見えてきたんです。近いうちに、大々的に人材募集を掛けたいなと思っています。新卒もいっぱい欲しいですが、中途だろうと何だろうと、何かの能力に特化した人を採用していきたいです。

――では最後に、今後どんな作品を作っていきたいのか、話せる範囲で教えてください。

原田たとえばですが、ゲームが500万本売れたとして、500万人がずっと遊んでいるかというとそうではなく、だいたい半年くらいでもうその熱は冷めていくのがふつうです。もちろんひと握りのプレイヤーは残ってやり続けますが。というのが、以前のスタイルでした。いまは100万人、200万人というアクティブユーザーが3年も4年も同じゲームを遊び続けてくれる時代になってきました。『鉄拳7』がまさにそうです。近年の市場の変化には驚きました。そうなってくると、ゲームの中で提供するサービスというのを、根本的に変えないといけないと思っているんです。

 ゲームそのものが持っているおもしろさを変えたい、という話ではありません。たとえばこれまで、アーケードのゲームの場合ならば、100円で何回もプレイしてもらって、半年保てば成功だよねというビジネスモデルで作ってきました。その前に基板を売った時点でビジネスとしては成功していて、半年続けば人気があるから続編が作れるかもみたいな。ですので、発売後の半年保つために注力してゲームを作って来たわけです。それが3年も4年も遊んでもらえるなんて想定すらしていなくて。だからこそ、3年も4年も遊んでもらえるゲームの作りかたを提供しなくてはならないなと。

 『鉄拳7』もシーズン4まで作っていますが、シーズン4まで最初から見えていたら、作りかたも絶対に違ったはずなんです。そう考える中で、僕はプレイヤーが、限られた趣味の時間を使ってゲームを遊んでくれたのだからこそ、何か共感を得られたり、学ぶことができたり、“このタイトルを遊んだからこそよい思い出になった”と思ってもらえるような、そういったタイトルを注力して作っていきたいですね。

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