2021年3月25日に発売した週刊ファミ通2021年4月8日号には、特別付録としてN高・S高ガイドブックを封入。

 この小冊子は、2016年に開校したN高等学校と、この春に開校となるS高等学校のふたつの学校の魅力に迫る内容となっている。

“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

 記事中には、N高の開校以前からプロジェクトに携わるS高等学校校長・吉村総一郎氏へのインタビューを掲載。“ネットの学校”として設立されたN高・S高の誕生秘話や、VRヘッドマウントディスプレイ、Oculus Quest 2を活用した学び方についての魅力などを語っていただいた。

 本記事では、この吉村総一郎氏へのインタビューの完全版をお届け。誌面では掲載できなかった内容も網羅されているので、ぜひご一読いただきたい。

吉村総一郎(よしむらそういちろう)

 S高等学校校長とN高等学校副校長を兼務。学校法人角川ドワンゴ学園のIT担当としても活躍している。

 なお、本冊子が付録となっている週刊ファミ通4月8日号は、以下よりバックナンバーが購入可能。N高・S高に興味がある人は、ぜひ購入してチェックしてほしい。

週刊ファミ通4月8日号 ebten(エビテン)で購入

創ったのは“ネットの高校”。設立から現在に至るまでの想い

――まず、これまでの学校とは異なる学びが行えるN高・S高を創ろうと考えられたきっかけから教えていただけますでしょうか。

吉村発案者は、企画を持ち込んだN高の奥平博一校長でした。通信制の高校を創ろうというものではなく、現在の制度を活用して“ネットの高校を創ろう”というのが、N高のコンセプトになっています。

――これまでにない学校であったため、立ち上げには苦労があったのではないでしょうか。

吉村そもそも学校が作れるのか、といったところからスタートだったので、どきどきでした。ここまで大きくできたのは本当に奇跡だと、振り返って思います。

――ネットの高校には、これまでの学校と比べてどんな特徴があるのですか?

吉村通学の時間や、みんなでいっしょに教室で勉強することが必須ではないので、全日制の学校と比べて自由な時間が取りやすいというのがあります。生徒には、その時間を利用して社会で活躍できる武器を得られる機会を提供します。同時に、従来の学校のように、先生がいる場所で同年代の友だちとコミュニティーを育めるというのも重要です。ネットなのに安心した空間を作れるというのが、ネットの高校のすばらしいところかなと思っています。

――現在も多くの生徒が学ぶN高ですが、まったく新しい試みであったため、当初は批判などもあったのではないでしょうか。

吉村そうですね。「ネットで教育ができるわけない」と言われたこともありました。でも、実績を重ねるごとに多くの人に理解していただき、肯定的な意見も多く見られるようになったと思っています。また、現在はコロナ禍ということもあり、多くの学校がリモートで授業を行っているほか、入学式や卒業式をネットで行うところもでてきました。当初、VRで行う当校の入学式は話題になっていましたが、現在は同じくVRで式典をやる学校なども増えてきているんです。偶然ではありますが、やっと我々のやってきたことが評価されるようになってきたのかなと考えています。

“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

――2021年4月に開校を迎えるS高ですが、N高とはどこが異なるのでしょうか。

吉村本校の場所、2年次に参加するスクーリングの場所が異なること以外、学習内容に差はありません。2016年にN高が誕生した当初は生徒数は約1400人でしたが、現在は約16000人が在籍する学校へと成長しました。高校の卒業資格を取るには日本の法律で、学校に直接通う“スクーリング”を行うことが必須なのですが、N高だけでは収容人数が溢れそうになってきているんです。この問題を解決するため、茨城県にS高を立ち上げることにしました。N高は沖縄県にあるため交通費や宿泊費がかかってきますが、S高は関東近郊に住んでいる生徒なら日帰りできるのが利点でもあると思います。

――新設される普通科プレミアムでは、VRで授業を行う新しい学びの形が話題です。

吉村普通科プレミアムは、Oculus Quest2を無償で配布し、単位取得のための授業と課外授業をVRで学ぶことができます。ヘッドマウントディスプレイをつけているだけでも重く感じる方もいると思うので、まずは一部の授業で、VRと映像学習の両方から選べる形式を採っています。

――構想から実現までは、スムーズに進んだのでしょうか。

吉村非常に長いトライアルがあって、いまに至ります。授業を全部VRで行うというアイデアもあったのですが、通常の映像で授業を見たいというニーズもありますので、まずは必要なところだけ取り入れようと。

――VR授業の特徴があれば、教えてください。

吉村同じ授業を受けたほかの生徒の仕草などを記録し、自分の横にキャラクターを出現させて、動きを再現させることができます。リアルタイムではないのですが、クラスメイトといっしょに授業をしているような体験ができます。

“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

――必須ではない機能だとは思うのですが、遊び心もあっていいですね。

吉村ふと隣を見たら、クラスメイトが変なリアクションをしてたりとか、そういう体験って“あるある”じゃないですか。VR授業でもそういった体験ができるとおもしろいんじゃないかと。そのほか、VR授業には『Virtual Cast』というソフトウェアを利用しているのですが、このソフトは誰でも好きなオブジェクトをアップロードできる機能があるので、授業中に出現させられる資料も比較的自由に増やすことができるのも特徴的な機能です。

――『Virtual Cast』はコミュニケーションツールとして有名ですが、それを高校の授業に使っているのでしょうか。

吉村『Virtual Cast』には“THE SEED ONLINE(ザ・シードオンライン)”という機能があって、自由に機能拡張ができるんです。その機能を使い、ドワンゴと、そのグループ会社であるバーチャルキャスト社が協力して独自のVR授業のプログラムを作りました。

――多彩な種類のあるヘッドマウントディスプレイの中から、Oculus Quest 2を選んだのにはどんな理由が?

吉村使いやすさを考えて、最初からオールインワンのものしか候補に考えていませんでした。VR授業を実現するためにPCを買ってくださいというわけにもいきませんから。もともとはOculus Questの採用を考えていたのですが、いいタイミングで2が出てくれました。

――もともとはOculus Questを使う予定だったのでしょうか。

吉村そうですね。プラットフォームは変わらないので、今後もOculus Quest 3のようなものが出れば利用していきたいと考えています。N高・S高は、通信制高校の制度を活用した、新しいスタイルの高校になります。コロナ禍の状況の中ではありますが、我々の学校の新しい勉強のスタイルやVRを使った学習や友だちとの交流を通じて、楽しい学園生活を体験していただければと考えています。ぜひ、高校選択の候補のひとつに加えていただければうれしいです。

――Oculus Quest 2はゲームにも使えますが、配布したハードでゲームをプレイしてもいいのでしょうか。

吉村もちろんです。むしろ、どんどんゲームに活用していってほしいくらいです。VRは慣れていないと酔ってしまうという人も少なからずいると思うので、ゲームを経て慣れていっていただけるとありがたいです。『Beat Saber』など、運動系のゲームをプレイしてみるといいんじゃないでしょうか。あとは月いちでコミュニティーイベントを開催したりとか、生徒たちの交流を盛り上げるさまざまな施策をしたいと考えています。

“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】

――今後のVRハードの進化がN高・S高のカリキュラムに深く関わってきそうですが、今後VRハードとコンテンツに、どんな進化を期待しますか?

吉村脳波を読み取って操作するというタイプが出てきてほしいなと思います。VRヘッドマウントディスプレイの“VIVE”でそういった取り組みが研究されているようですが、これが一般化すればすごいことになりそうです。もうひとつは、コントローラを利用しない“ハンドトラッキング”で操作できるハードを期待します。やっぱりVRハードを利用するときにコントローラを持つのは手間なので、手の動きを読み取って操作できるようになってほしいですね。

――脳波とハンドトラッキングの操作が合わされば、すごい進化になりそうですね。

吉村そこまで進化すれば、VR授業ももっと深いものにできるかもしれません。VRヘッドセット本体については、Oculus Quest 2のように、オールインワン志向になっていくと思います。いままではゲーミングPCを利用してハイエンドなVR空間を体感できるソフトウェアが多かったですが、それゆえに値段が高くなったり、コードが邪魔になったりして、手軽さを捨ててしまっていました。今後はハードの性能やグラフィックのキレイさはそこそこに、手軽さにフォーカスしたオールインワンなハードが主流になると思います。

――N高・S高に入学した生徒さんには、どういった学生生活を送ってほしいですか?

吉村大きく3つあります。ひとつは、ネットを介して、友だちをたくさん作ってほしいです。ふたつ目は、自分はすごく先進的な高校に通っているというプライドを持って生活をしてほしいこと。3つめは、社会で活躍できる武器を持って、社会に踏み出していってほしいということです。

――ネットを介して友だちを作るというのが、インターネット全盛の時代ならではですね。

吉村本当の友だちは、リアルじゃないとできないっていうのは、ちょっと違うんじゃないかなと思っています。いま、この世界のあらゆる情熱を動かしているのはインターネット上のSNSです。人のつながりこそが、世界を動かしているんです。趣味でつながったり、イベントでつながったり、インターネットがなければ出会えなかった人々との交流を経て、たくさんの友だちと思い出を作っていってほしいです。N高・S高では、先進的な学習が行えます。通信制の高校というとネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、「自分がすばらしい環境で勉強ができている」というプライドを持っていただければうれしいです。学力はもちろん、将来役立つ能力を育て、それを武器に社会に踏み出してください。教職員・スタッフ全員でサポートします!

――最後に、N高・S高に興味を持っている読者に向けて、メッセージをお願いします。

吉村コロナ禍という状況の中ではありますが、負けずに楽しい学園生活を歩んでいただければうれしいと思っています。高校生の方には、ぜひN高・S高を選んでいただきまして、VRを使った学習や友達つくりを体験していただきたいです。

“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】
“ネットの学校”であるN高・S高とは? 吉村総一郎氏インタビュー完全版【N高・S高小冊子企画】