歌劇学校を舞台に、個性豊かなキャラクターが織り成す青春群像劇が楽しめるシミュレーションゲーム『ジャックジャンヌ』が、ブロッコリーよりNintendo Switch用ソフトとして2021年3月18日に発売される。 キャラクターデザインは、『東京喰種トーキョーグール』の作者として知られる石田スイ氏。キャラクターの立ち絵はもちろん、 総数160枚を超えるイベントイラストも石田氏が描き下ろしているうえ、原作、シナリオ、世界観設定も担当している。

 本稿では、音楽を担当している小瀬村晶氏へのメールインタビューを掲載。こだわりのポイントや楽曲制作時のエピソードなどを訊いた。

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小瀬村晶(こせむらあきら)

映画やテレビドラマ、ゲーム、舞台、CM音楽の分野で活躍し、国内外から注目される作曲家。本作の音楽は、ほぼすべて生音で収録しているという。

驚くほどスムーズに進行した『ジャックジャンヌ』の楽曲制作

――本作の依頼が来たときの率直な感想を教えてください。

小瀬村最初はブロッコリーさんの担当者からメールで相談依頼があり、失礼ながらその段階ではブロッコリーさんのことを存じ上げていなかったのと、メールに記載されていた企画内容がかなり漠然としていて、また石田先生の名前もなかったので、率直な感想としてはお断りしようと思っていました。一応、「もう少し具体的な資料はありませんか?」という旨のご連絡をしたところ、石田先生の作品だということが判明したので、それなら何かおもしろいことになるかもしれない、という前向きな気持ちが芽生えました。

――『ジャックジャンヌ』の音楽を担当されていますが、歌曲17曲、劇伴50曲以上作られたとうかがっています。この数は、ほかの仕事と比べて多いのでしょうか?

小瀬村今回の作品のために納品した楽曲数は、ほかの作品と比べても多いほうだと思います。ただ、映画音楽などの場合、楽曲に対するリクエストが多くなっていき、納品数に対して実際に制作する楽曲数という意味ではもっと多くなることも多々あります。『ジャックジャンヌ』の場合は、石田先生が最初に必要な楽曲のリストとイメージを伝えてくださり、僕はそのリストに沿ったデモをお渡しする中で、お送りするデモに対する新たなリクエストというものはほとんどなかったので、非常にスムーズに進みました。ただ、数年を跨いで制作していたので、一度プロジェクトを離れて、また戻る際に、気持ちの面で少し苦労はありました。やはり、作品の世界にフォーカスしていくためには、その世界に深く入り込む必要があり、一度プロジェクトを離れると、またもう一度、気持ちの面から作り直さないといけないような感覚があるので。

――曲作りは、どのようなやり取りを経てできあがっていくのでしょうか? また、印象に残っているエピソードもお聞きしたいです。

小瀬村基本的に、石田先生が想定する楽曲のイメージとその楽曲が使用される予定のシーンについての説明、さらにブラッシュアップ段階の脚本など、楽曲制作の際に助けになる資料は十分にありました。ブロッコリーさんの担当者を介して、石田先生とはオンラインによる往復書簡のようなやりとりで制作をさせていただき、本当にふたりで話し合って作っていくような感覚でした。数年に渡ったプロジェクトということで、仕事以上のつながりを感じるようになったので、エピソードのようなものはいろいろと思い付くのですが、印象に残っていることと言えば、初めて石田先生が打ち合わせのために僕のスタジオに来てくださったときのことです。トマトのお団子(?)和菓子のようなものを手土産にくださったのですが、「なぜトマトの和菓子なのだろう?」と思ったのを覚えています。先生のTwitterのアイコンも一時期、トマトだったので、お好きなのかなと。そういうどうでもいいことのほうが、案外、記憶に残っていたりします。

――作曲を行うときは、どのようにイメージを膨らませていくのでしょうか?

小瀬村劇伴の作品に入る際は、その作品の世界に入り込む、染まっていくようなイメージです。ビジュアル的なイメージや、プロット、脚本、役者、いろいろな情報があって、それらが融合していく世界をイメージして、自分がその世界に必要だと思う音楽を探求し構築していきます。劇伴の場合は、制作スタッフと話し合って進めていくことになるので、おもに演出スタッフとの話し合いを通じてイメージのすり合わせをしながら、具体的な楽曲を提案していくことになります。自身のオリジナル作品の場合は、企画から制作まで自分で行うので、もっとパーソナルな部分とつながったところからアイデアを生み出していくことが多いです。というのも、作曲という行為は、あくまで生活の“一部”であり、“すべて”ではないので、生活の中で生まれる些細な種のようなものを拾い上げて、きちんと水をあげていく作業、そうやって小さな気付きの中から作品を育てていくような。感覚的ですが、僕にとって作曲とはそういう類いのものです。

『ジャックジャンヌ』小瀬村晶氏インタビュー。「石田先生の才能を目の当たりにして、作品の仕上がりに手応えを感じています」
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プロの小瀬村氏も太鼓判を押す石田氏が手掛けた珠玉の歌詞

――ゲームの音楽を作るうえで、とくに苦労した点を教えてください。また、本作はジャンルが“少年歌劇シミュレーションゲーム”ですが、楽曲を作る上で“少年歌劇”っぽさというのも意識されましたか?

小瀬村“少年歌劇”っぽさというのは意識してはいません。先生の画やビジュアルの設定、脚本など総合的なイメージから受ける印象というのは大きく影響していますが、“○○っぽさ”というのは、もともと、この作品で石田先生が僕に求めていたものではないと思うので。“いままでにないゲームを作りたい”、この作品の根底には最初から最後まで石田先生のそんな想いがこだわりとなって表れていると思います。なので、そもそも“ゲーム音楽”という概念で制作をしていません。ブロッコリーさんとしては、これまでのやりかたと異なる部分で苦労はあったと思いますが、作曲家としてはゲームだからといって、とくに苦労することはありませんでした。

――どの曲もお気に入りだと思いますが、とくにお気に入りの曲を挙げるとすると、どの曲になりますか?

小瀬村それぞれ多彩な楽曲になるので、選ぶのは難しいですが、歌曲では最終公演におけるいちばん最後の歌が好きです。ゲームのクライマックスの曲ということもありますし、かなり難度の高い曲でごまかしが効かないので、声優の寺崎裕香さんは、この曲を歌うために、本当に何ヵ月もトレーニングを重ねてがんばってくださいました。大人になるにつれ、人は限界というものを経験値から自然と設定していくものですが、寺崎さんの歌は、そういった想定を明らかに超えたと思うので、感動しました。ぜひ、注目していただけたらと思います。

――本作では作詞を石田スイ先生が担当していますが、どのようなやり取りを経て作曲したのか教えてください。また、印象に残っているエピソードもお聞きしたいです。

小瀬村基本的に作曲先行だったので、歌詞は後から付けていただきました。まず初めに、先生からこういった楽曲が欲しいという具体的なリストと参考楽曲、そのシーンについての説明や脚本、キャラクターの設定など資料をいただいて、それに沿う形で楽曲を制作していきます。デモ段階の楽曲を聴いていただき、オーケーとなったら先生が作詞の作業に入られたのですが、譜割りを把握したり、歌割りを確定させていくために、仮歌を入れたデモが必要だったので、それをお願いしたところ、先生がみずから、すべての歌をキャラクターの歌いかたのイメージまで反映させて録音してくださいました。初めにそれを聴いたときの衝撃は忘れられません。これはいったい、誰が歌っているのだろう? 石田先生なのかどうかも正直、判別できませんでした。ブロッコリーさんと音楽チームのコアメンバーしか持っていないデータなのですが、一生の宝物になりました。肝心の歌詞についてですが、先生が楽曲に命を吹き込んだと言っても過言ではない仕上がりで、メロディーも極力、一度聴いたらすぐに口ずさめるようなものを意識していましたが、先生のいい意味での“ふつうじゃない”歌詞がそれを明らかに別の次元まで持っていってくれたと思います。こんな歌、ほかでは絶対聴けませんから。

――現在配信中の体験版では、新人公演の『Fortunecolor is crystal!』、『鈴かけの木をこえて』を遊ぶことができます。どんなところに注目してプレイしてほしいですか?

小瀬村体験版がどのような仕様になっているのかまだわからないのですが、やはり歌曲では石田先生の歌詞に注目してもらえたらと思います。ただ、歌詞を聴いていたらおそらくちゃんとゲームをプレイできないと思うので、何度かプレイしてみてもらえたらと。

――本作の発売を心待ちにしているファンや読者にメッセージをお願いします。

小瀬村何度も発売が延期になり、心待ちにしているファンの皆さんには申し訳ない気持ちがあります。僕もまだ完成した作品を何も見ていないのですが、これまでの制作の経緯やその過程で、石田先生の才能を目の当たりにし、作品の仕上がりはおそらく皆さんの想像を超えたものになっていると手応えを感じています。ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

『ジャックジャンヌ』小瀬村晶氏インタビュー。「石田先生の才能を目の当たりにして、作品の仕上がりに手応えを感じています」
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