コラボ記念で『パワポケ』のアレコレを訊く
2014年12月にリリースされ、2021年3月現在4400万ダウンロードを達成しているゲームアプリ『実況パワフルプロ野球』(以下、『パワプロ』)。2021年2月25日からは『パワプロクンポケット』(以下、『パワポケ』)シリーズの新シナリオである花丸高校が追加された。そこで、コラボシナリオを担当したメンバーにインタビューを行ったところ、当時の『パワポケ』開発にまつわる逸話が噴出。というわけで、『パワプロ』アプリファン、『パワポケ』ファンのどちらも見逃せないインタビューをお届けする。
西川直樹 氏(にしかわ なおき)
『パワポケ』の全シリーズのシナリオに携わる。『パワプロ』アプリでも、一部のシナリオを担当。文中は西川。
三浦陵介 氏(みうら りょうすけ)
ディレクター。『パワポケ3』から『パワポケ14』までの裏サクセスやミニゲームを担当。文中は三浦。
萩原千香子 氏(はぎわら ちかこ)
『パワポケ3』から『パワポケ14』、アプリでもデザインリーダーを担当。キャラクターやUI作成に携わる。文中は萩原。
木村和久 氏(きむら かずひさ)
『パワポケ』好きが昂じてKONAMIに入社。『パワプロ』アプリの『パワポケ』コラボでプランナーを担当している。文中は木村。
アンケート結果からわかる『パワポケ』人気
――『パワプロ』アプリと『パワポケ』のコラボ第2弾となるわけですが、企画の発端となる理由はあったのでしょうか?
三浦『パワプロ』アプリで行った人気投票で、“神条紫杏”というキャラクターがアニバーサリー部門1位となったことが切っ掛けです。1位になったキャラクターを実装するという話でしたので、“ブラック”というキャラクターと合わせて、『パワポケ』コラボ第1弾を行いました。そのコラボがとても好評だったので、今度はしっかりとシナリオ作ることになりました。どのタイトルのどの高校のシナリオを実装するかについては、西川と相談して、花丸高校に決定しました。
――なるほど。本日お集まりいただいた、西川さん、三浦さん、萩原さんは、長年『パワポケ』チームとしていっしょに働いてきたトリオという組み合わせなのですよね?
西川そうですね。『パワポケ3』から『パワポケ14』までだから……12年間ですか。そのあとに、アプリの開発チームで合流したという流れです。
――『パワポケ』に関わってきたスタッフが、コラボシナリオを作るということで、原作の『パワポケ』の味わいが出たものになりますね。
三浦どうでしょうか(笑)。
西川登場キャラクターのうち、ふたりは私が書きました。シナリオのテイストは時代とともに変わっていくものですし、イベント数制限もあるので、『パワポケ』とは違いますが、懐かしい感じになっていると思います。
三浦“現在の西川が作る『パワポケ』のお話”が、しっかりと展開されると思います。
――キャラクターデータを新たに設定したり、シナリオを書くにあたって、懐かしさや難しさはあったのでしょうか?
萩原懐かしさは、かなりありましたね。ただ、今回は『パワプロ』アプリに実装されるというのが前提です。『パワポケ』テイストをそっくりそのままというわけにはいきませんでしたが、“アプリ内での『パワポケ』の新しい形”を表現したつもりです。
三浦ゲーム自体は『パワプロ』アプリであって、『パワポケ』ではないですから。
萩原もし『パワプロ』の世界に『パワポケ』がやって来たら……? ということを考えながら、キャラクターやUI(ユーザーインターフェイス)を調整しました。
――実装されるシナリオは、『パワポケ7』に登場した花丸高校ですが、アプリで開発する際に苦労したことはありますか?
西川とくにないですね(笑)。
木村いわゆる『パワポケ』のシステムではなく、すでにあるアプリの育成システムなので。でも、画像のテイストやテキストの雰囲気は、『パワポケ』らしくなっていると思います。
西川いろいろなキャラクターで遊べるのがアプリのいいところですし、お金を払って手に入れたキャラクターなわけですから、実装するからには活躍させなければいけません。そこは譲れない部分なので、ストーリーや味付けの部分でを『パワポケ』らしさを出した感じですね。
――『パワポケ』と『パワプロ』アプリは似て非なるものだと思うのですが、アプリに落とし込むのは難しくなかったのでしょうか?
西川我々は今回のコラボのために集合したわけではなく、ふだんからアプリも制作しているメンバーでもあるので、作業としてはいつも通りですね(笑)。
木村『パワポケ』チームの多数のメンバーがアプリのチームにいて、私が配属されたときにとても驚きました。
――ああ、そうだったのですね。では『パワプロ』アプリではマンガ『北斗の拳』や『MAJOR』など他社のIP(知的財産)ともコラボしているシナリオが多くありますが、自社タイトルとのコラボということで、むしろ作りやすかった?
西川もともと自分たちで作っていたわけですから、そういう部分はありますね。ただ、もとが古いゲームなので、自分自身も忘れているところがありますし、ユーザーの記憶とズレがないように、改めて調べ直すというった作業は必要でした。
萩原私は逆に難しさもありましたね。『パワポケ』は作品として自由に製作できましたが、『パワプロ』アプリという制限の中で、どう『パワポケ』らしさを表現するかという葛藤は、つねに抱えていました。
――葛藤の末、出てきた答えはどういったものなのでしょうか?
萩原それは実際に遊んでみていただければ(笑)。
西川データのコピーにならないように、「このキャラクターがこういう状況下だったらどうなるか」と考えながら作ったので、『パワポケ』ユーザーも新鮮な気持ちで楽しめると思います。
コラボシナリオで実装されているイベキャラ
完成度がいちばん高かった『13』
――それぞれ、思い出深い『パワポケ』シリーズの作品というのはどれになりますか。
西川僕は『パワポケ13』がいちばんですね。表サクセスも裏サクセスも、ものすごく完成度が高かったと思います。作り終えたときに“やり切った感”が強かったので。残念ながら売り上げが足りませんでしたが……。
――『パワポケ13』の段階で、野球もかなり完成していた記憶があります。
萩原『パワポケ10』で3Dになったんですが、その段階でかなりできあがっていましたね。そこからは微調整のくり返しでした。
西川でも、『パワポケ14』で魔球が来ることになって……。
萩原当時のプロデューザーは「魔球は邪道だから出さない!」って、ずっと言い続けていたのですが(笑)。
西川『パワポケ14』開発のとき、どうやらシリーズで最後の作品になりそうだから、いろいろやろうということで「魔球はフィクションの野球マンガの華だから!」って作ることになり。
三浦あのときは「それまでと言うてることちゃうやん!」って感じでしたね(笑)。
木村サイボーグ編だった『パワポケ3』みたいに、ナンバリングが3の倍数のときは、はっちゃけていて好きだったんですけど、シリーズ最後の作品になった『パワポケ14』は主人公が小学生という内容だったので、当時「うーん」って思ったことを覚えています(笑)。
萩原プレイヤーとしてはガッカリだった?
木村遊んだらおもしろかったですよ。
西川本当は『パワポケ15』までやりたかったけど、シリーズを終わらせるために『パワポケ14』はプロ野球編ではなくなりました。『パワポケ13』で高校野球だったので、本来はプロが舞台の予定でしたが、どうやってもプロ野球でハッピーエンドのシナリオにする自信がなくて(笑)。
三浦おっさんが主人公で締めるよりは、将来に希望があるほうがいいだろうということで小学生編になりました。
西川本当は、シナリオ的にももっと最後っぽくバーンとクライマックスを迎えて後味よく終わりたかったんですけど、「シリーズの最後になるかどうかは、お前らが決めることじゃない」と偉い人に怒られたんですよ(笑)。ですから、ゲーム中では最後とは名言していないんですよね。でも、遊んだ人は、散りばめらたメッセージから汲み取っていたんじゃないでしょうか。
――開発時に『パワポケ14』が最後になるというのは、その制作開始時点で決まっていたのですか?
西川シリーズが一度終わりになることは決まっていました。そして、もう一回再建することもおそらく難しいだろうなという共通認識もあったので、「ジタバタするよりは潔く」といった気持ちでしたね。
――木村さんは当時プレイヤーとして、最後という雰囲気は感じていましたか?
木村プレイヤーとしても「どうやら最後っぽいな」とは感じていました。たしか「これでいったんお話は終わりです」といったメッセージがあったんですよね。もしかしたら新章が始まるかも? という期待をしていたんですけど、実際はありませんでした(笑)。
萩原「もしかしたら……」という希望は、開発側も完全に捨てたわけではなかったんですけどね。
――そういった意味では、当時からの『パワポケ』ファンは、コラボシナリオをすごく喜んでプレイしているのではないでしょうか?
西川コラボ第1弾の反響がよかったので、すごくうれしかったですね。熱心なファンも多くて、Twitter投稿がおもしろかったのを覚えています。
三浦キャラクターの“ブラック”のネタを見たときに「西川さん、めっちゃ仕込んでるやん!」と思いながら見ていました(笑)。
西川今回のシナリオで言うと、天本玲泉が『パワポケ4』のストーリーでは不自由なことをさせていたので、“日の出島でああいう事件が起こらなかったら、こういう彼女だった”というのを示せたと思います。
ハードが新しくなるときは地雷ゲーム
――三浦さんの思い出の作品はいかがでしょうか?
三浦僕は『パワポケ8』ですね。ミニゲームの敵として登場する“灰原”というキャラクターがすごく好きなんです。敵の行動パターンにバリエーションを持たせたかったので、勝手に刀を持ったキャラクターにしたところ、西川がそれに合ったシーンを作ってくれたので、とても印象に残っていますね。「降伏は無駄だ、抵抗しろ」というセリフを言うんですけど、これがめちゃくちゃ恰好よくて(笑)。おかげで、『パワポケ8』がいちばん好きになりました。
――『パワポケ8』といえば、裏サクセスは、今回アプリにも実装された“地雷ゲーム”こと“ドキドキ地雷パニック”が遊べる昭和冒険編になっていました。
西川じつは『パワポケ8』の裏サクセスのことを言われるとちょっと耳が痛いんです(笑)。
――それはまた、なぜ。
西川『パワポケ7』の裏サクセスであるRPG“大正冒険奇譚編”の続編だと期待していたファンが多かったと思うんですけど、本当に申し訳ない気持ちはあるんですが、ハードが新しくなるとメイン部分を最初から作らないといけないので、RPGやカードゲームといったものを作り込む余裕がないんです。結果として、裏サクセスは……毎度おなじみの地雷ゲームに(笑)。
――ああ、開発サイドとしてはそういう想いがあったのですね。まあ、裏サクセスはあくまで“裏”ですから(笑)。
木村今回、アプリで地雷ゲームを担当することになったんですが、すごくたいへんでした。それと比較すると、当時の開発がどれだけ大変だったのか、想像もできないですね。
三浦地雷ゲームは『パワポケ』の中では手がかかってないほうだから……。
萩原たしかに。RPGとかに比べると、まるで手がかかっていないですね。
西川それでいて長時間遊べるのが優秀なんですよ。ミニゲームだとクリアーされると終わってしまうので。そういう意味でも地雷ゲームなんですよね。
――なるほど。都合がよかったと。
萩原開発者都合ですけど(笑)。
――地雷ゲームのコツや攻略法があれば教えてください。
木村コツはありますが、最初から難しいことを考えさせると、似たようなゲームを遊んだことがない人の場合、「難しすぎる!」となってしまいがちです。そこで、最初は「地雷がないところを確実に進んでね」といったかんたんな教えかたにしてあります。
――なるほど。
木村木村"また、中盤くらいまでは、1・2・1”と表示されたらこうする、“2・1・2”ならこうする、といった定石を使うことで確実に突破できるように作ってあるのですが、後半はわざと“解けない部分”を作ってあります。というのは、そうしないと、うまければ無限に続けられるゲームになってしまいますので。アイテムを使えば抜けられるけれど、そうじゃない場合は運になりますよ、としています。ランキング報酬の差は称号だけなので“運も実力のうち”というノリで遊んでもらえたらと思います。
――運頼みの場面が訪れた場合、アイテムを使って切り抜けるか、アイテムを温存して自分の運に賭けるかを選択しなければいけないわけですね。
三浦この、わざと“解けない部分”を作ってあるというのは『パワポケ』のときからそうなんですが、いつか来るそのときのために、がんばってアイテムを温存しつつ攻略し、最後はアイテムを抱えながら爆発するのが地雷パニックの醍醐味だと考えています(笑)。
西川経験から言うと、アイテムがあるなら使ったほうがいいですね(笑)。
仕様書が存在しない『パワポケ』シリーズ
――萩原さんの思い出のタイトルはいかがでしょう?
萩原私の思い出深いタイトルは……『パワポケ5』でしょうか。じつは『パワポケ5』の製作時に裏サクセスのUIを初めて担当させてもらいました。完全に未経験だったんですが、気軽に「UIやらせてよ!」って志願したんです。そうしたら、『パワポケ5』の裏サクセスはRPG要素もあるシミュレーションゲーム(忍者戦国編)だったんです。
――おお、開発が難しそうなジャンルの掛け合わせ。作るのはたいへんだったのでは?
萩原めちゃくちゃたいへんで……。気軽に手を挙げた自分を呪ったくらいでした(笑)。
――アハハ(笑)。ところでゲーム開発というのは「ちょっとやらせてよ」と言って、経験がなくてもその作業を担当させてもらえるものなのですか?
萩原『パワポケ』チームはそんな雰囲気でしたね。決してユルいというわけですが「じゃあ、やってみる? どうなっても知らんで?」って感じで(笑)。
三浦「やる気のある人には任せます」という風潮でしたよね。
西川当時の開発手法として、作業を大きく切り分けた後は「各自が自由にやりなよ」って感じでしたから。その代わり、最後の調整までを担当した人が責任を取ることになるので、たいへんだけどかなり自由にできましたね。
萩原小さいチームだったからこその体制だったと思います。でも、そこでUIをやらせてもらったおかげで、以降の作品では私がUIをすべて担当することになりました。キャラクターを描いて、UIを作って、モンスターのイラストを描いて……と、ふつうは兼任することは少ない作業だと思いますので、「私は何をやってるんやろ?」とは感じつつ、忙しい日々がとても楽しかったことを覚えていますね。
三浦RPGのシステム部分のUIで、「この画面からこの画面に移行するから……こういう感じにして」といった感じで、萩原とふたりで紙に書きながらやっていました。
萩原懐かしい(笑)。ゲームの構造を整理をしながらフローチャートを作っていましたね。
西川ああ、それは仕様書がないからですね(笑)。
萩原そう、仕様書がないんですよ!!
――えっ!? そんなことがありえるんですか?(※)
※仕様書……ゲームの仕様をまとめた書類。プログラムの設計書。開発チームで仕様書を共有、それをもとにしてゲームを作っていく。ふつう、ゲームに限らずプログラム制作はこれがないと始まらない。はず。ふつうは。往年のゲーム開発では“仕様書がない開発現場”もちらほらあったとかなかったとか。とはいえそれは地図がない旅みたいなもので、往々にして迷走しがち。それでも毎回きちんと完成させるのはさすが『パワポケ』チームと言うほかない。
西川『パワポケ』がシリーズを重ねて、終盤にほかから人が入ってきたときに、みんなそろって仰天していましたね。
萩原UIの制作しつつゲームの構造をA4サイズの紙に書いていくんですけど、ゲームを作りながらなので、どんどん膨らんでいって、紙が足りなくなると、糊で貼って広げていくという(笑)。
――アナログ! 最終的にはその紙がゲームの仕様書的な存在になるわけですね。
西川ゲーム開発が終わったときに初めて完成する仕様書ですね(笑)。
三浦ゲームが完成したから、攻略本のために資料書き出さないとなぁ……みたいな。
西川そのときになって、初めてバグに気づくなんてことも(笑)。それだけ自由度高かった開発チームなので、いろいろな要素を詰め込むことができたんだと思います。
三浦ミニゲームに関しても、アクション、シューティング、パズルなどなど、自分がやりたいと思った部分をすべて入れられたので、仕事としてはものすごくやり甲斐がありましたね。
西川印象に残っているミニゲームといえば、『パワポケ14』にあった野菜を切るサウンドゲーム“トントンベジタブる~ん”ですね。あれはサウンド担当の人が、めちゃくちゃがんばってくれました。
――KONAMIの音ゲーといえば、もともと『beatmania』シリーズを担当されていたスタッフだったりするのでしょうか?
三浦製作には関わってはいないですが、『beatmania』が大好きだったので、鬼気迫る感じで作っていましたね。
西川ミニゲーム以外でも、裏サクセスがRPGの場合は、開発終盤は全員が燃え尽きていましたね。テストプレイも自分たちでやっていたので、徹夜でチェックして「ああ~クリアできへん~」って感じで。
――ちょっと! 道理で難しかったはずですよあのRPG!!
三浦いや、製品版では調整後のはずですから(笑)。ただ自分でクリアーできないのものを調整していく作業って難しくて……。
西川トカゲみたいなやつが、めちゃくちゃ強かった思い出が……。
萩原あと『パワポケ12』も裏サクセスがRPG編でしたっけ?(秘密結社編)
西川三浦に「このトカゲが強すぎる!」って、文句を言った記憶があります(笑)。
――ひとつの開発チームにいながらにして、いろいろなジャンルのゲームを作れるというのは、すごい開発現場ですよね。
萩原ある意味では夢のような職場でした。
西川みんなが好き放題やっていただけですけどね(笑)。イベントのテキストも各自が好き放題書いていたので、あとでつじつまを合わせるのが大変だったんですよ。一応、僕の中では“20パーセントは矛盾してても大丈夫”という持論がありまして。少しくらい矛盾があってもユーザーが補完してくれたり、許してくれるんじゃないかと考えながらやっていました。
――2割まではセーフ(笑)。
萩原彼女と話すときの主人公の口調が、シーンごとにまったく違ったりしましたよね。書いている人が違うから、すごく強気だったり、おとなっぽかったり、バカだったり(笑)。
『パワポケ』は“ブラック”ではなく“リアル”
――では、『パワポケ』好きが昂じてKONAMIに入社を果たしたという木村さんにとって、いちばんの作品はどれになりますか?
木村難しいですね……。どの作品も好きなんですが、すべてを総合すると『パワポケ12』でしょうか。表サクセスも電脳野球編というめちゃくちゃ変わったシナリオでした。さらに、裏サクセスはRPG仕立ての秘密結社編でした。RPGの正統進化系のサクセスでは『パワポケ12』がいちばんだと思っています。じつは発売当時は受験生だったんですけど、ずっと遊んでいましたね(笑)。
萩原ダメじゃん!
木村そのくらい楽しかったんです(笑)。シナリオ内容についても、ちょっとうろつきをサボっていると警察に逮捕されたりしますし。それに、『パワポケ7』に出てきたピンクの話があったりと、過去作の話題も拾われていたのもファンとして楽しかったですね。野球部分も『パワポケ10』以降すごく充実していたので、ずっと遊んでいましたね。いま考えてもすごく完成度の高い作品だったと思います。
――『パワポケ12』といえば、バッドエンドのひとつに、パカーディの脳だけが培養槽に……という、衝撃的なイベントが存在しますよね。
西川プレイヤーのみんながあんなにショックを受けるとは思わなかったです。
――ええっ!?
西川えっ?
――……たぶん、プレイヤーは自分が負けたことで悲惨なエンディングを迎えてしまうので、罪悪感を感じるから、より心に残るんだと思います。
西川ああ、でも、だからこそ、ハッピーエンドに向かってほしかったんです。『パワポケ』はきちんと成功した場合はヒロイックな展開になるようにしてあるので、プレイヤー自身がヒーローとして乗り越えてほしいと思って。ですが、プレイヤーの印象に残るのはバッドエンドのほうなので、なかには“鬱ゲーム”と呼ぶ方もいるんですよね(笑)。ですがどの作品も、きちんとクリアーすればハッピーエンドになっていますよ。
『パワポケ』がブラックな味わいになった理由
――なるほど。ああいった刺激的な内容だったりブラックな展開は、狙って作っていたのでしょうか?
西川これを説明するには『パワポケ』の成り立ちから言わないといけないですね……。
――ほう。
西川じつは、『パワプロ5』(1998年発売)の開発が終わったときに「いったん『パワプロ』というゲームは完成しただろう」という話になりました。
――『パワプロ5』はニンテンドウ 64で発売された2作目で、3Dスティックを使った打撃だったり投球操作も安定し、サクセスは高校野球編で、長いシリーズでも評価が高い一作ですね。
西川その流れで「これからの『パワプロ』開発はフレッシュな若者にやらせたい」ということになりまして。
――ほうほう。
西川同時に、それまで開発を行っていたスタッフたちには上から「お前たち年寄りは携帯ゲーム機をやれ」とお達しが出まして……。
――言いかた!(笑) 会社としては、実力と経験のあるベテラン開発者たちにこそ新しいハードでのチャレンジをしてほしかったということですよね、きっと。
西川そう言われてポカーンとしているメンバーが集まって、ゲームボーイで『パワプロ』を作ることになったんですが、ハード性能的に動かないことがわかりまして。みんなで話し合った結果、「テキストベースのゲームならハード性能は関係ないだろう」という結論になりました。『パワプロ』シリーズも、最初はストーリー性があまりなく、『パワプロ5』のときにサクセスの甲子園が舞台になってストーリー性が上がって好評を得ました。という状況を組み合わせて、「ストーリー性が高いサクセスモードを作れば、子どもたちが喜んでくれるんじゃないか」と考えたわけです。
西川ただ、作っていたメンバーが年寄りだったので、内容がひねていたんです(笑)。
――ひねて(笑)。
西川世の中に対していろいろと言いたいことがあって、それがシナリオににじみ出たんでしょうね。『パワポケ』がブラックだとよく言われますが、じつは“リアル路線”というだけなんですよ。
――リアル路線……!?
西川世の中の辛いところを、イベントに反映するもんだから、ブラックな展開になってしまうんですよね。
――開発者の人間味があふれ過ぎてしまったんですね。
西川年寄りからすると、バッドエンドは任侠映画のように容赦がないものだと思っているので、ユーザーには衝撃として受け取られたのかなと思います。そういう路線で開発スタートしたので、『パワポケ3』くらいからフレッシュなメンバーが開発チームに入った後も、変わらずこの路線を走り続けた……というのが経緯です。
萩原開発チームに入った時点で、『パワポケ』の世界って、こういう雰囲気のものなんだと思っていましたから(笑)。
――ちなみに、裏サクセスの舞台が、戦争編などの“死の匂い”を感じる設定が多かったのは、なぜなんでしょうか?
西川簡単に言うと、僕がミリタリー好きだからですね(笑)。
――個人的な趣味!
西川“いろいろなミニゲームで経験値を稼ぐ”というアイデアがあって、シナリオをどうしようかと話し合っているときに、戦争テーマを提案したところ、当時のディレクターが、凡田くんの日本兵姿の絵を描いたんです。それが「これしかないわ!」って感じで、めちゃくちゃウケたのが切っ掛けです。
萩原そんなノリでテーマやスローガンが決まるケースも多かったですね。
『パワプロ』の後ろで自由奔放だった『パワポケ』
――ここまでのお話を聞いただけでも、『パワポケ』開発チームは、相当に自由な雰囲気というか、いっそ奔放にすら思えますが、なぜそこまで自由だったのでしょうか?
西川期待されてなかったから……?
一同 (爆笑)。
萩原表現が難しいんですけど、『パワプロ』というメイン作品があり、それが大きな隠れ蓑になっていて、その後ろで目立たずにいられたので、自由にできたのかもしれません。
三浦みんなで「俺たちは太陽に当たると死んでしまう!」とか言いながら、好き勝手やっていましたね。でも、とても居心地はよかったと思います。
萩原居心地はよかったですね。たくさんチャレンジさせてもらえましたし。
――いい職場ですね。さて、今回『パワプロ』アプリで、そんな自由な『パワポケ』のコラボシナリオをプレイされる方に向けてひと言お願いします。
三浦まずは、『パワポケ』ファンの皆様、『パワポケ14』が発売されてから10年ほど経過しているにも関わらず、いまでも愛してくれてありがとうございます。当時遊んでくれていた小学生や中学生の方も大人になり、いまだからこそわかる『パワポケ』の意外な一面も感じられると思います。今回のコラボは、『パワプロ』アプリのプレイヤーだけでなく、『パワポケ』ファンにも向けた内容になっています。まだアプリを遊んでいない方は、一度触れてみてください! もちろん、アプリユーザーも楽しめる内容ですので、その点はご安心ください!
――ありがとうございました!
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