2021年2月6日(土)、ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジのタイアップイベントが開催された。
本イベントは、“ゲームクリエイターの仕事の具体的な内容や必要なスキル、その魅力について学生たちやゲームクリエイターを目指す方々に知ってもらう”という目的から実現した催しで、ファミ通グループ代表・林克彦と豪華ゲームクリエイターによるトークセッションを全3回で実施するというもの。
第1回のリポート記事はこちら!
第2弾の今回は、『鉄拳』シリーズや『ソウルキャリバー』シリーズなど、多数のヒット作を手掛けるバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー・原田勝弘氏がゲストとして出演。ゲーム企画書の作成方法や、ゲーム業界のリアルな現状について、具体的な内容含みつつ紹介した。本稿では、そんなトークセッションの内容を写真と併せて振り返る。
今回のセッションは、前回にも増してスライド内に貴重な情報がたっぷり。スマートフォンで閲覧している場合、スライド画像をタップ→“新しいタブで画像を開く”などで画像の拡大が可能になるので、画像の文字が読みづらい場合はぜひ試してみてほしい。
なお、講演の模様は以下の動画より視聴可能。興味を持たれた方はこちらもチェックしてみてはいかがだろうか。
ゲームクリエイターを目指す人に送る バンナム原田流! ゲーム企画のコツ【ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジ】
原田勝弘(はらだ かつひろ)
26年にわたり、『鉄拳』シリーズのプロジェクトリーダーを務め、マーケティングやファンイベント&コミュニティのマネジメントなどもこなす。現在はゼネラルマネージャーとして、多数の家庭用およびアーケードゲーム、モバイルゲーム、ヘッドマウント型VRゲームなどを開発&プロデュース。さらにはワールドワイドのマーケティング戦略や、eスポーツなども担当する。(文中は原田)
林克彦(はやし かつひこ)
1994年より『週刊ファミ通』編集部に勤務。ニュースページ担当デスク、副編集長を経て、2013年4月『週刊ファミ通』編集長に就任。ペンネームはフランソワ林。現在はファミ通グループ代表。(文中は林)
本記事はヒューマンアカデミーの提供でお送りします。
原田流ゲーム企画の作りかた
原田氏がこれまでどのように“企画”を生み出してきたか。まずは自身の代表作である『鉄拳』シリーズを例に出し、どのような形で企画がスタートしたのか? という話題からスタート。初代『鉄拳』のリリース当時(1994年)と現在では、時代背景が違い過ぎるため、あくまでも参考までに……という補足をしたうえで、90年代のゲーム業界についての説明がなされた。
このころの原田氏は営業部に所属していて、各地のゲームセンターに赴いては、大会などのゲームイベントを主催していた。そこでゲームをプレイするファンのリアルな反応や要望を目の当たりにし、ゲーム企画に対する見識を深めていったという。そうして蓄積した知識と経験を活かして、開発部に移動。多数のヒット作を手掛けるようになったことが語られた。
そうした裏話に続き、原田氏はゲーム企画の作成には“建前”と“リアル”が必要だと話す。
ゲーム企画の建前とリアル
昨今では学校を始め、書籍やインターネットなどでも、ゲーム企画に必要な知識を学ぶことができるが、これについて原田氏は「それらはどれも、概ね間違いではないと思います。とはいえ、そうしたノウハウは時代とともに変化するものなので、厳密にいうと正解、不正解で分けられるものでもないんです」とコメント。
そこで必要になってくるのが“建前”と“リアル”の使い分け……とのことで、まずは“建前”を考えるうえで重要な3つのポイントが挙げられた。
- 1:ターゲット像を明らかにする(仮説を立てておく)
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2:ビジネスモデルがゲームの仕様を決定づける(逆もしかり)
その企画にマーケティング戦略はあるか?
- 3:根源的な欲求に訴える要素があるか
各ポイントの具体的な説明は以下の通り。
1:ターゲット像を明らかにする
「ターゲットはゲーム好きの20代男性」で終わらせるのではなく、「ほかにもどんなジャンルのゲームで遊んでいるか?」、「ゲーム以外の趣味は?」、「毎日の通勤時間は?」など、徹底的に分析し、ライフスタイルまで細かくプロファイリングすることが大切。
原田氏によると、「現状のゲーム業界において、これができる人間は少なく、企画職にはとくに求められる能力でもある」とのこと。とはいえ、これができるようになるには、相当量の知識と経験が必要になるため、学生のうちから定期的に「仮説を立て、それを証明する」という訓練は積んでおいたほうがいいという。
2:ビジネスモデルがゲームの仕様を決定づける
プロモーションに人気YouTuberを起用したり、実況プレイ時に便利な機能をあらかじめ搭載しておく……といった施策なども、そうした市場戦略の一環であり、これなくしてゲーム企画の成功はあり得ないという。また、市場で成功している状態を想定しつつ、そこから逆算した仕様をゲームに落とし込むという方法もあるのだとか。
ビジネスモデルがゲームの仕様を決定付けている顕著な例
上記の説明の補足事項として、ビジネスモデルがゲームの仕様そのものに影響を与えた例も、ピックアップして紹介された。
これを受けて林氏は「自分がいま遊んでいるゲームや、ヒットしているゲームについて調べて、それがどういったビジネスモデルで開発されたのかを調べるだけでも勉強になりますね」と提案。原田氏も「仕様を理解するうえでいい方法」とし、その意見に賛同していた。
3:根源的な欲求に訴える要素があるか
トークセッションの前に、学生から寄せられた多数の企画書にも目を通したという原田氏。
それも踏まえて、若手社員が作る企画書は、「システムとしてのおもしろさは丁寧にまとめられているものの、どのようにして“人間の内なる根源的欲求”に応えるか? という部分に踏み込めていないものが多い」とコメント。
誰しも頭のなかでは「自分はこんなゲームが好き」という感覚をぼんやりと持っているが、それを具体的に説明できる人は非常に少ない。そこを明確にして、スタッフに適切な指示を出していく能力が企画職の人間には求められているという。
ゲーム会社(プロフェッショナルの世界)の企画提案のリアルについて
続いてここからは、原田氏が自身の経験をもとにしつつ、企画書作成時に気をつけるべきポイントを解説していく流れに。
まずは“ゲーム会社でゲーム企画を企画することの最終的な目的”について、フローチャートで説明。原田氏によると、これには4つのステップがあるとのことで、展開がうまくいけば作品はIP化(知的財産化)し、文化やアートといったさらなる発展にもつながっていくという。
そのうえで、続いてはゲーム企画を審査・承認する流れについて説明。“おもしろいかどうか”、“売れるか売れないか”、“開発にGOを出すか否か”など、ゲームの開発・販売にはいくつもの審査段階があり、それらを審査・承認するポジションについての説明がなされた。
プロが企画立案する際に大事にしていること
こうした現状を踏まえて、企画職の人間が企画立案時に注力しているのは、これらの要素だという。
どれだけ内容がよくても、“こいつにそれだけの能力があるのか?”、“本当に題材の魅力を引き出せるのか?”と思われてしまうと企画は通らない。つまり、企画立案者自身の魅力や人間性も、企画を形にするうえでは重要な要素になるのだそうだ。
バンダイナムコエンターテインメントの人気タイトルである『サマーレッスン』や『太鼓の達人』なども引き合いに出しつつ、企画書の本質は、その作品が“確実に売れる投資か”ではなく、“承認者が気持ちよく、心から賭けたいと思えるかどうかにある”……と、なんとも率直な、腹を割った表現で語ってくれた。
企画を企画書に落とし込む際に大事なことは?
原田氏によると、数年前までは「いまはこれが流行っているから、こういうゲームを作ると売れるといった“市場背景”を書く形が企画書の主流だった」という。ところが最近では“このゲームが発売されることで、世の中はどう変わるか”という“ビジョン”が重要視されるようになってきているとのこと。
そのうえで審査する側が“話を聞いていておもしろい”と思えるポイントや、笑いであったり、気づきといった感情を刺激する山場も多数用意しておく。こうした細やかな計算も、今後の企画書制作には求められるようだ。
ちなみに原田氏は、企画書に落とし込むためのアイデアがなかなか思い浮かばないとき、これらの3つの方法を実践しているという。
3つ目の“気になることを延々と考える”は、一見すると頭に疑問符が浮かんできそうな方法だが、これについては「いま目の前にある企画用のアイデアを……という考えでいると、思考が停止してしまい、発想はそれ以上広がりません。けれども、自分自身が興味を持っていることなら、時間を忘れていつまでも思考をめぐらすことができる。そうしたなかから派生して生まれた疑問やアイデアは、意外とゲームの企画にも活かせたりするんですよ」との補足説明がされ、視聴者からも納得や共感の声が多数寄せられていた。
ゲーム企画のアイデア募集
今回の第2回セミナーに続き、2021年2月27日(土)には早くも第3回のタイアップイベントが開催されることに。さらにゲストとして、原田氏の続投も決定している。
それならば、今回のトークセッションで教わった“ゲーム企画書の書きかたのコツ”を活かす形で、視聴者からゲームの企画書を大々的に募集してみよう!という流れに。
テーマは“視聴者(ユーザー)参加型ゲーム”で、ジャンルは問わず、ネットワークを介して多数のプレイヤーが楽しめる企画を募集するという。
プレイヤーはもちろん、見ているだけの人でも楽しめるような、そんな魅力あふれるゲームのアイデアを広く募集するとあって、原田氏からも「いいアイデアが出てきたら、弊社からも直接、声がけさせてもらうかも」という期待のコメントが寄せられた。応募作品は“中高生部門”と“一般部門”に分けて選考される。
投稿された作品は2021年2月27日の第3回イベントで発表・添削される場合がある。どのような作品が登場するか、ぜひ見てみてはいかがだろうか。
イベント終了後の原田氏にインタビュー
――イベントを終えられての感想をお聞かせください。
原田今回のセミナー用に資料を作成して、話す内容も考えてから参加させていただいたんですけど、実際に学生さんたちと話をしたり、寄せられたコメントを拝見したりするなかで、新しい発見がいくつもあって。
皆さんの反応から「こういった話が響くんだ」ということもわかったりしたので、僕のほうもいろいろと勉強になりました。学生さんたちも自分の考えや、用意した企画書を持ちあって、お互いにプレゼンし合うカリキュラムがあれば、思考する能力はさらに鍛えらます。そうした訓練を積み重ねて、おもしろいゲーム企画をどんどん生み出してほしいですね。今日は楽しい機会をいただきました。ありがとうございました。
林企画書の作りかただけでなく、企画のプレゼンのしかたまで教えてもらえる機会ってなかなかないし、しかもそれを、第一線で活躍されている原田さんから直接学べるなんて、本当にぜいたくで、楽しい講義になったと思います。こちらの記事で興味をお持ちになられた方は、ぜひ、YouTubeにアップされている動画の方もチェックしてみてください。
ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジタイアップイベント 今後の予定
第三弾:バンナム原田さん&ファミ通林さんによる「ゲーム企画添削会」
- 2021年2月27日(土)14:00~15:30
ゲスト:原田 勝弘氏
バンダイナムコエンターテインメント
エグゼクティブプロデューサー / ゲームディレクター
- オンライン開催(無料)
ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジ・タイアップイベント申し込みサイト
ファミ通×ヒューマンアカデミーゲームカレッジ・タイアップイベント(第2回)