ついにサービスが開始された『NieR』シリーズ初のスマホタイトルにしてシリーズ完全新作の『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』。本稿は、サービス開始を目前に控えた某日に、ビデオ会議システムにて行ったインタビューをお届け。『NieR』シリーズのプロデューサーの齊藤陽介氏、クリエティブ・ディレクターのヨコオタロウ氏に加え、ディレクターの松川大地氏、シナリオ班から松尾勇気氏、小原隆史氏、クリエティブ・プロデューサーの高木正文氏にも参加いただき、『NieR Re[in]carnation』についてや開発秘話などをうかがった。
齊藤 陽介(さいとう ようすけ)
『NieR』シリーズプロデューサー。スクウェア・エニックス取締役/執行役員。『NieR』シリーズなど多数のゲーム作品のほか、アイドルグループ“GEMS COMPANY”もプロデュース。
ヨコオタロウ(よこおたろう)
クリエティブ・ディレクター。『ドラッグ オン ドラグーン』や『NieR』シリーズなど、手掛けた作品はどれも独特の世界が描かれ、魅了されるファンも多い。舞台やマンガの原作も手掛けるなど、幅広く活躍中。
松川 大地(まつかわ だいち)
ディレクター。アプリボットのゲームプロデューサー/ディレクターで、2019年10月よりアプリボット最年少で執行役員に就任。
高木 正文(たかぎ まさふみ)
クリエティブ・プロデューサー。かつて『ドラッグ オン ドラグーン3』の開発にも参加。クリエイティブスタジオ“SSS by applibot”の代表でもある。
松尾 勇気(まつお ゆうき)
リードシナリオライター。『NieR』シナリオ班の最年長でありまとめ役。かつて週刊ファミ通編集部に在籍しており、編集者ネームはデイリー松尾。
小原 隆史(おはら たかし)
BGMプランナー。『NieR』シナリオ班所属。高校時代の経験を活かし、BGMのプランナーとして本作の音楽の提案などを行っている。
『NieR』シリーズ初のスマホゲームの特徴や魅力とは
スマホアプリのイメージを逆手に取った作品
――まずは、2月18日のサービスインを控えたいまの率直なお気持ちは?
松川そわそわしています(笑)。その一方で長い時間をかけて仕込んできたタイトルなので、本当にサービスインされるの? と実感が湧かないというか。ただ、リリース日が近づくにつれ、ユーザーさんの反応が増えてきているのはうれしいですし、それを見て徐々に実感も湧いてきているところです。
――昨年夏に実施したクローズドベータテスト(CBT)は好評でしたが、フィードバックを受けて改善した点は?
松川いろいろと多岐にわたって改善したのですが、動作の軽さにはとくにこだわっていて、スペックの低いスマホでもなるべく軽快に動かせるように改良しています。
――そもそも本作はどんなコンセプトからスタートしたのですか?
ヨコオ開発の初期に松川さんに話したのは「スマホアプリってこういうものだろう」というイメージを逆手に取って、イメージにないことをすれば印象に残るのでは? といった話をして、いまの形になった気がします。そういう意味では、見た目や遊びかたは新鮮なものになったんですけど、まったく売れるとは思えない。
齊藤たしかにスマホアプリは無駄を全部省いて、いかにボタンを押す回数を少なくして、回していくかというイメージが自分にもありました。ただ、本作はそういう作りではないので、どう転ぶかはわらかないですね。お客様からどういう反応が得られるかは楽しみでもあり、恐くもありといった感じです。立場的には、ガチャを死ぬほど回していただきたい(笑)。
――本作は檻(ケージ)と呼ばれる謎の世界を舞台に、ヨコオさんの作品の中でも特徴的なウェポンストーリーの世界を絵本のようなグラフィックで描くというのも大きな魅力のひとつです。こうしたゲームデザインは初期から考えられていたのでしょうか。
松川スマホゲームということもあって、僕らからヨコオさんに「『NieR Replicant(ニーア レプリカント)』や『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』よりはキャラクターをたくさん出したい」という提案させていただきました。ただ、キャラクターイラストを出して掛け合いのような、よく見る表現は避けようということで、朗読劇風にキャラクターのお話を見せる、という方向性になりました。絵本パートはこだわっているところなので、ぜひ見てほしいですね。
齊藤絵本は想定していたものよりもかなりリッチなものになりました。最初は背景やアニメーションも含めて、もっとシンプルだったんですよ。でも、ヨコオさんがダメ出しをしてからどんどんよくなっていきました。
――フルボイスというのもスマホゲームのイメージにはあまりない部分ですね。
松川檻(ケージ)と絵本パートのテキストにはボイスが入っていて、絵本ではその物語の主人公を担当する声優さんに朗読をお願いしています。
――バトルもスマホとは思えないほどのクオリティーだと感じました。
松川バトル中の動きは、『NieR:Automata』のオートモード(難易度イージーを選択していると使える、操作キャラクターが自動で敵と戦ってくれる機能)を遊んだときのアクションを見ているような感じを意識しました。スマホアプリのアクションゲームは操作的に難しくて個人的に苦手なこともあって、最初からターン制のコマンドバトルにしようと決めていました。
ヨコオ『NieR:Automata』が好きな方は自分でキャラクターを動かしたいのでは、と思っていたので、CBTの満足度調査ではバトルについての不満がほぼなかったのでびっくりしました。さらにびっくりしたのが、その結果を受けてアプリボットさんもびっくりしていたことですね。
――開発チームもCBT前は確信が持ててなかったと(笑)。
ヨコオともかく、松川さんの判断は正解だったんだなと思いました。
齊藤『NieR:Automata』をプレイした人も何割かは難易度イージーだったと思いますよ。『NieR Replicant』の反省点として、ボス戦で挫折しないように安心して遊んでいただける作りにしたのが『NieR:Automata』でした。『NieR Re[in]carnation』も、どんな方でも問題なくクリアーできる難易度になっていると思います。
「シューティングを入れたのは松川さん。ここは太字で!」
――そんななかで、これまでもあまり好評とは思えないシューティングが本作にも入っていますがこれはやはり……。
ヨコオこれは大文字で書いておいてほしいんですが、シューティングを入れたのは僕ではないです。松川さんです。CBTのときに初めて見せられました。
――CBTのタイミングで初めてシューティングが入っていることがわかったと?
ヨコオそうなんです。松川さんは、ほかの要素は丁寧にチェックに回してくるくせに、シューティングだけCBTのタイミングで急に見せてきて「なんなのこれ!?」となりました。しかも、超ムズかしかったし(笑)。
齊藤ヨコオさんの無言の圧に耐えかねて、松川さんが泣く泣く入れたんだよ。きっと。
松川あれは、ヨコオさんと齊さい藤とうさんにサプライズを仕込みたかったという僕の気持ちの表れです。
ヨコオ正式リリース版ではもう少し遊びやすくなっているんですよね?
松川はい。もう大丈夫です。ランクが高いと大事な物がもらえるので、気が向いたら挑戦してみてもらえると。
――強化要素は武器、キャラクター、オトモ、スキル……といろいろ用意されていますね。
松川『NieR:Automata』がそうだったように、『NieR Re[in]carnation』もひとりでどこまでも遊べるゲームに、と思ってデザインしました。スマホゲームは、やることが尽きるとお客様が離れてしまうので、つねにやることがある、というのも大切な要素です。各パラメーターの影響は、モノによって大小さまざまなんですが、完全に強化しなくてもお話を進めるくらいのレベルデザインにはなっています。多少は強化したほうがいいものもありますが。
『NieR』シナリオ班は音楽やアートも担当
――本作では、数年前に人材を募集されていた『NieR』のシナリオ班がついに本格的に開発に関わる作品ということをうかがっています。
ヨコオはい。これまでもお手伝い的なことはやってもらっていたんですけど、彼らが本格的に開発に携わるのは本作が初めてになります。松尾さんにはリードシナリオライターとしてシナリオ班の全体的な総括と、プランナーやシナリオライターもやってもらっています。
――シナリオ以外のこともやられていると。
松尾そうですね。シナリオを作りつつ、ゲーム全体を見られるようになりましょう、というのがヨコオさんの方針で、シナリオ班では音楽やアートも見させていただいています。
小原シナリオのお手伝いとして入社したつもりだったので、入社後にその方針を聞いたときは衝撃を受けました(笑)。シナリオ班のメンバーはいろいろな経歴の人間がいるので、その個性を活かしながら各人が提案していくというスタイルです。
ヨコオ小原くんにはシナリオのほかに、曲のアイデアを提案してもらいました。提案してくれたものを僕が見て、オーケーしたものを岡部さん(『NieR』シリーズのコンポーザー)に作ってもらう、というプロセスで進めました。ですので、『NieR Re[in]carnation』の音楽はこれまでの『NieR』シリーズとは少し雰囲気が変わっているので、その味わいの違いも楽しんでいただけると思います。
――小原さんは音楽系の経験がおありで?
小原高校生のときに、シンガーソングライターを目指していたのですが夢叶わず、といった感じです。そのときにいろいろな音楽を聴いていたので、それが役立ちました。
――具体的にはどういった提案をされたんですか?
小原『NieR』はつねに新しいものを追求しているイメージもありますから、自分の好みの音楽の中から岡部さんの世界観とうまく化学反応が起きそうなものを意識して提案させてもらいました。本作にはノスタルジックな雰囲気もあるので、童話っぽい音楽だったり、檻ケージにしろ、絵本の中にしろ、すごくきれいな空間ができあがっています。そこにプレイヤーの方が没入できるような、アンビエント(環境音楽)的なものも意識しました。
ヨコオ『NieR Re[in]carnation』の音楽は『NieR:Automata』と比べて全体的に圧がない感じの曲を小原くんのセンスで選んでもらいました。スマホのゲームは同じBGMをずっと聞くことにもなるので、味付けが濃い音楽よりは一貫してサラッとした音楽のほうがいい、という僕の希望を小原くんが汲んでくれています。
齊藤スマホアプリは、音を出さずに遊ぶことも多いと思うのですが、シナリオ班からの提案と世界の岡部さんの化学反応をぜひ聴いてもらえるとうれしいですね。
――楽しみです。松尾さんは前職は何を?
松尾ファミ通を中心に編集者として……というか、いっしょにやっていたじゃないですか!
――その節はお世話になりました(笑)。まさか、かつての同僚にインタビューすることになるとは(笑)。ちなみに、ファミ通で培ったものはシナリオ班で役に立っていますか?
松尾はい。限られた文字数の中に文章を収める技術や、締切の延ばしかたなど(笑)。
体験をデザインする
――では、シナリオのほうに話を戻させてもらうと、シナリオを書く際に気をつけているところや意識していることはどこですか?
松尾『NieR』の名を冠してはいますが、構想の段階では過去シリーズに囚われすぎないように意識していました。最優先すべきはゲーム体験、ということで、遊んだ方の感情がどう動くのか、という部分を重点的に考えています。
小原シナリオはメンバーそれぞれの個性も活かされています。本作ではキャラクターごとにシナリオを描く担当を決めていて、僕も何人かのキャラクターを担当しています。ですので、書き手それぞれが思う『NieR』らしさが反映されたシナリオになっています。我々が作ったものはヨコオさんに監修していただいているので、『NieR』らしさは担保できていると思います。
――ヨコオさんはシナリオ班が書いた物語にどんな感想を?
ヨコオ内容はともかく、まずは“わかりやすくする”ということをここ数年言い聞かせています。たとえば、前に張った伏線を後で回収する際、読み手の全員がその伏線を覚えている前提で進めがちで、読み手の中にはわからない人もいることを想像していないんですね。なので、「わからないことをわかれ」と言っていました。
小原あと、ヨコオさんのアドバイスですごく印象に残っているのが“感情のコア”という言葉ですね。「この体験を通してお客様はどのような感情を持つのか」という、そこで生まれるものをヨコオさんは“感情のコア”と定義してらっしゃいました。
松尾“感情のコア”の話は、シナリオ班ができた初期のころにしていただいたのですが、そのときはみんなピンときていなかったんです。実際に作り始めると、ヨコオさんがおっしゃっていたことが徐々に理解できるようになりました。
ヨコオ「こうやるとおもしろくなる」という脚本のテクニック自体は存在するんですが、文字がすべてではなくて、そのときのキャラクターの表情、鳴っている音楽、お店で買う体験、ガチャでいくら払って手に入れて……などそういった気持ちも全部込みでひとつの体験なので、広い視点で考えようということなんです。シナリオ班にシナリオ以外のことをやってもらっているのは、これらをまとめた体験をデザインできるようになってほしいからですね。
――メインクエストの絵本で描かれるウェポンストーリーだけではなく、ガチャなどで手に入る武器にもテキストだけのウェポンストーリーが入っているので、物量はかなりあるのでは?
松尾ウェポンストーリーは大量に書きました。これからも増えていきますからたいへんです。
ヨコオ「武器が多すぎてウェポンストーリーが書けない」とシナリオ班が弱音を吐いたときは「こんなのすぐ書けるようにならないと!」と怒りました。そこで毎朝、ウェポンストーリーを書く時間を設けて、30分でひとつは書きなさいという特訓もしました。
齊藤そんなスパルタな一面もありますが、ヨコオチルドレンをもっと増やすべく、また募集することも考えていますので、実際に募集が始まったら興味がある方は応募してみてください。
グッズ企画などを行う“リィンラボ”が結成
――彩度は抑えたグラフィックも、『NieR』の特徴で、本作でもそれは踏襲されています。
松川ずっと彩度や色の数を気にしてデザインしていましたが、「ガチャ画面だけは色や明るさをはっきりしたほうがいい」とヨコオさんが言ってくださったんです。その後、それを会社に持ち帰って「色を勝ち取ったぞ!」と報告したときは盛り上がりました(笑)。
――「色を勝ち取った」というワードは童話感がありますね(笑)。デザイン面でヨコオさんの印象に残るディレクションはありましたか?
高木「トイレに貼ってもいいくらいのデザイン」というのが印象的でした。
ヨコオスマホのゲームということで、バナーなどを派手にしがちだったんですが、彩度を落として雰囲気を出してほしかったのと、必ず入れなくてはいけないという情報があるので、自分の好きなデザインにするにも限界があるんですね。なので、自分の部屋に飾れないまでも、せめてトイレに貼っても嫌じゃないくらいのデザインを目指してほしいということで、そういうことを言いました。
高木そういったオーダーもあって、今回、チームのメンバーはかなり鍛えていただきました。
――そんなデザインチームを中心に“リィンラボ”というチームができたとお聞きしたのですが。
高木正式な結成自体はこれからなのですが、『NieR Re[in]carnation』のグッズ企画やそれに伴うプロモーションなどを行うデザイナーチームです。本作は、世界観をとくに重要視しているタイトルですので、ゲームと同じような感覚でグッズなども作っていきたい、ということからチームを作ることになりました。
ヨコオ『NieR:Automata』では僕や田浦さん(『NieR:Automata』でシニアゲームデザイナーを務めたプラチナゲームズの田浦貴久氏)がヒィヒィ言いながら監修をしていたので、それを“リィンラボ”で引き受けてくれるといのはまさに渡りに船のようなお話なので、どんどんアイデアを出していただいて無限にやってほしいです。ただ、『NieR Re[in]carnation』がスタートで失敗して、大コケするといまの話は全部パーになりますが。
細部までヨコオ節が根付いた『NieR』入門的な作品
――最後に『NieR:Automata』のコラボについておうかがいしたいのですが、キャライラストは、『NieR:Automata』以来となる吉田明彦さんによる2B、9S、A2ですよね?
高木はい。そのほかのデザインなどは社内で手掛けています。
――『NieR:Automata』コラボのイベントは、絵本とはまた違った雰囲気のようですが?
松川期間限定のイベントクエストや、サブコンテンツなどに関しては紙芝居テイストの見せかたにしています。
――サービス開始直後から『NieR:Automata』とのコラボとはパンチがあるな、と思いました。
松川「いつかくるだろう」と待たれるよりは、最初に出したほうがいいかなと思ってリリースのタイミングに合わせました。
――ローンチはアクセス集中でサーバーダウン……なんてことも起こることもありますが、そのあたりは大丈夫ですか?
松川サーバーダウンしないように検証はしていますが……。
ヨコオでも、『シノアリス』先輩がいるから、落ちる分には大丈夫じゃないですか? あれを超える落ちかたはそうそうないと思います。
――では、最後に『NieR Re[in]carnation』についてひと言ずつお願いします。
高木ウェポンストーリーを筆頭に、表には出ていない世界観をたくさん散りばめた作品、デザインになっています。「もしかしたらこういうつながりがあるのかも?」と宝探しのような楽しみかたもできるので、いろいろな発見をしていただけたらと思います。リィンラボでも、グッズとしてカワイイのはもちろん、「どういう意図があるんだろう?」と考察できるような物も作っていけたらと思っているので楽しみにしていてください。
松川2月18日にローンチになりますが、がんばって制作したので、世界観、シナリオ、バトルなどゲーム全体を楽しんでいただけると思います。飽きない工夫というか、運用もただコンテンツを追加するだけではない、ギョッとするようなことも仕込んでいこうと思っていますので、まずは触っていただけるとうれしいです。
ヨコオ「売れるかどうかわからない」という話をずっとしてるんですが、それも含めてビデオゲームというものは、その時代に生きていないとプレイできない、時代に即した儚いものだと思うんです。そういう意味では本作は、いままで作った中ではいちばん消えてしまいそうなゲームだと思います。ですが、すごく美しいものを作っていただけたので、『NieR』シリーズを遊んでくださった方、興味がある方は一度のぞきにきてほしいです。どういう世界が広がっているのか、ぜひ体験してみてください。
齊藤いまの事前登録の数も考えると、『NieR Re[in]carnation』から『NieR』に触れる方も多いと思います。『NieR』入門にふさわしい、遊びやすいタイトルに仕上がっています。ヨコオさんは作っていただいたと客観的な言い回しでしたが、バリバリに監修して、バリバリにNGも出していましたし、若いスタッフも一生懸命それに応えてがんばってくれました。細部までヨコオ節が根付いたタイトルになっていますので、『NieR』ファンの方々はそのあたりも含めて楽しみにしていただけたらと思います。