アメリカで公開されたジョシュア・ツイ監督によるドキュメンタリー映画『Insert Coin』を紹介しよう。本作はストリーミングサービスのAlamo on Demandで配信中(英語のみだが、日本からも視聴は可能)。なお12月中旬よりiTunes等への配信も予定されている。
本作が扱うのは、格闘ゲーム『モータルコンバット』やバスケゲーム『NBA Jam』などにより1990年代に一斉を風靡したゲームメーカー、ミッドウェイゲームズの栄光と落日。
いかにも“洋ゲー”な濃いゲームを世に送り出したミッドウェイの内幕を、その源流であったウィリアムスの中心人物ユージン・ジャービス氏らスタッフへのインタビューで追っていく。
「ゲーム業界に登場したパンクロック」
そのスタイルを端的に言い表しているのが、ファンとして登場する小説家アーネスト・クライン(『ゲームウォーズ』)が冒頭で語る「ゲーム業界に登場したパンクロック」という言葉だろう。
ウィリアムスで世界最初のスクロール型シューティングとされる『ディフェンダー』やツインスティックシューターの『ロボトロン2084』を生み出したユージン・ジャービス一派を音楽で例えるなら、3コードだけで突っ走るパンクバンドというより実は技巧派タイプとするのが正しいだろうが、まぁ荒々しいサウンドのパンクを演奏してるからって技術がないとは限らない。それよりも大事なのはノリと勢いだ。
インタビューでは、ロケットランチャーが当たった人体がド派手に爆発四散するとか(『NARC』)、トドメとして相手キャラの頭を脊髄ごと引き抜く(『モータルコンバット』)といったやり過ぎ表現が、悪趣味スレスレ(というより“良識的”な人にとっては悪趣味そのもの)なユーモア感覚で「それはヤベぇ」と採用されていた様子があっけらかんと語られていく。企画書もあまりちゃんと作らず、「じゃあ何する?」といったノリでやっていたらしい。
モーコンやエアロスミスなどの収録風景も
ウィリアムス/ミッドウェイのゲームでは実写取り込みのグラフィックが多用されていたのだが、それもちゃんと撮影施設を用意するのかと思いきや、当初はジャービスの「よし、Target(アメリカの家電小売店チェーン)でカメラ買ってこい!」という鶴の一声で市販品のビデオカメラを使って撮影していたとか。
なお『モータルコンバット』や『NBA Jam』、そしてエアロスミスが出演したガンシューティング『Revolution X』など各タイトルでの収録風景なども収められており、次第に手慣れていく様子が見て取れるのも面白い。
社会との衝突、そしてパンクバンド的終焉
また本作は、ミッドウェイというメーカー視点で見たアメリカのアーケードゲーム業界史の一面もある。中でも、『モータルコンバット』の家庭用版を出すことになって、それまでゲームセンターで遊ばれていたものがより多くの親たちに“発見”されることとなり、議会でゲームの暴力表現が取り上げられるに至るという流れはなかなか考えさせられるものがある。
薄暗いアーケードでクォーター(25セント硬貨)を稼ぐのに適した、キワモノとパンク的カッコよさの間を縫っていく絶妙な嗅覚を持っていたミッドウェイだったが、家庭用ゲームの性能が伸びて市場がシフトしていくのに従って、次第に勢いを失い、時代の寵児から単なる一メーカーへとなっていく。
同時に、同じようなシリーズ作を作り続けなければいけなかったことによるクリエイティブ的な疲労や、チーム間の競争を無闇に煽ったことによる環境の悪化などがインタビューで明かされており、まさに初期衝動を失ったパンクバンドのような終焉へと向かっていくのがなかなか切ない。
というわけで、ミッドウェイの濃いファンの人には既知の内容も多いかもしれないが、意外といろんな切り口で見ることができる本作。言語は英語のみになってしまうが、オールド洋ゲーファンの人はぜひチェックしてみて欲しい。