PS5がもたらす次世代のUX(ユーザー体験)とは?
2020年11月12日、世界中のゲームファンが待ち望んだプレイステーションの次世代機、プレイステーション5(以下、PS5)が発売される。“Play Has No Limits”(遊びの限界を超える)をテーマに、従来のゲーム機を遥かに上回る性能と、いままでにないアイデアを取り入れて開発されたPS5は、どのようにして開発されたのか。
PS5を深堀りすべく、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のシニア・バイス・プレジデントを務める西野秀明氏にインタビューを実施。PS5という製品の大もとのコンセプトから、ユーザーインターフェース(以下、UI)に盛り込まれた革新的な機能やアイデア、PS Plusをはじめとする各種サービスの展開などについてうかがった。
西野秀明氏(にしの ひであき)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント シニア・バイス・プレジデント。
2000年にソニーへ入社。その後、2006年にソニー・コンピュータエンタテインメントにて、“Folding@home”、“Life with PlayStation”の企画、サービスアライアンスなどを担当し、現在に至る。PS5では、商品企画・UIデザインを統括している。
ゲームの世界へより深く没入してもらうために
――PS4では“SHARE”というテーマが強くアピールされ、ユーザーにもわかりやすく浸透していったと思います。PS5にも、同様の看板となるようなテーマはあるのですか?
西野すばらしい体験をしていただくために、ムダをなくすというのが、PS5のひとつの大きなコンセプトになります。PS4が発売された7年前と比べると、多くの方が忙しくなったと思いますし、スマートフォンの普及が進み、生活の一部になったと感じています。限られた時間の中で、テレビの前に座ってゲームの世界に没入していただくことは、人生の中でも貴重な体験になると確信しています。
ですが、ロードなどの待ち時間があると、スマートフォンなどについ手が伸びてしまい、ゲームへの没入感がなかなか得られません。ロード時間などのムダな時間をなくして、いかにゲームの世界に入り込んでもらえるか。そのために高速SSDを搭載し、グラフィックやサウンドの質を上げて没入感を高めています。
――次世代機というと、性能を上げるのは自然な成り行きだと思いますが、PS5の場合はまずムダな時間をなくすため、という思想が前提にあったわけですね。
西野当然技術が上がってくる中で、数々の技術の中から何を使うのかは、プレイステーションのミッションと言いますか、使命として毎回考えるようにしています。
――待ち時間の削減という点では、レストモードの充実ぶりにも驚きました。PS4と比べてすぐに起動できますし、細かく設定できるのも便利です。レストモードも、ムダな時間を削ぎ落とすために改善したわけですね。
西野はい。最近はライブなゲームが増えてきて、毎週アップデートが入ることも珍しくありません。日々、ゲームが進化するのはうれしい一方で、起動するたびにアップデートを行ったり、パッチを当てたりしないといけないのは、ユーザーにとってストレスだと思います。そこでレストモードのあいだに、後ろでやれることを増やして、遊びたいときにすぐにゲームを始められるようにしました。
とはいえ、クラウド上からPS5にダウンロードされるデータ量は、ユーザーごとに異なります。いかにお待たせせずに、軽快にコンテンツを提供できるかは、UIを完成させるうえでいちばんやりがいのある課題でした。
また、これはPS5に限った話ではありませんが、UIはゲームのほうに割くリソースとの共存関係にあります。私たちがUIのシステムでどこまでリソースを使えるのか、そこは今回もゲーム側とのせめぎ合いでしたね。メモリはあるだけほしいと言われるのが常ですので(苦笑)、これは今後も起こりうる問題なのかなと思います。
――お話をうかがっていて、PS4の使われかたや、PS4の改善点も意識されていると感じました。PS4のSHARE機能の使われかたについてはどのように分析されていますか?
西野PS4は、SHARE機能も特徴的でしたが、そもそもゲームをキャプチャーできるのも、大きな目玉だったと自負しています。多くのユーザーにこれらの機能を利用していただく中で、とくに我々が興味を持っていたのは、どこにSHARE されるのかと、どういうふうにSHAREされるのかの2点でした。
ユーザーの利用方法を調べる中で、いろいろなSHAREのしかたがありましたが、我々が大きなニーズがあると考えたのは、ゲームごとに存在するグループ内でのSHAREです。当然ですが、SNSなどで外部に向かってSHAREするよりも、仲間内でSHAREするほうが、ハードルは格段に低くなります。
――仲間内でSHAREするユーザーが多いぶん、そこにニーズがあると考えたのですね。
西野そうなんです。この比較的いっしょにゲームを遊ぶ機会が多い人たちのことを、我々は“インナーサークル”と呼称し、PS5ではこのコミュニティーがより盛り上がるような仕組みを考えました。たとえば、とあるゲームのグループと遊んでいるとき、ほかのゲームのグループに誘われたら、そこにすぐジャンプインできるようにしています。
――広く誰とでもつながる、というよりは、よくいっしょに遊ぶ仲間内のコミュニティーが重視されているのですね。ちなみに、ボタンの名前をSHAREから“Create”に変えた意図は?
西野Createと言うと、作成するといった意味から難しく考えてしまうかもしれません。ですが、難しい意味はありません。ユーザーの皆さまにはさまざまにコンテンツをSHAREいただいていますが、SHAREされるコンテンツはゲーム体験の一部です。
このゲーム体験の一部、そのモーメントをさまざまにクリエイトしていただきたいという思いを込めて、その行為により近い名前に合わせました。
PS5の画期的なUIやサービス
――PS5は、ゲームを終了することなく、プレイ中に必要なほぼすべての機能にアクセスできるコントロールセンターも特徴的です。この機能が誕生した経緯を教えてください。
西野プレイできるゲームの世界が広がるにつれて、すべての要素をクリアーするのに、ある程度の時間がかかるようになりました。クリエイターさんから、コンプリートしてくれるユーザーが減ったという声をいただくことが増えましたし、我々もそうではないかと残念に感じていて。
そこで、システム自体にゲームに没入できるヒントやフックを用意すれば、コンプリートしてくれるユーザーが増えるのではないか、と考えました。こうして新たに生まれたのがコントロールセンターになります。
このコントロールセンターには、PS4のクイックメニュー(PSボタンを押したままにすると出現するメニュー。状況に応じて操作できる項目が表示され、よく使う機能にアクセスしやすくなる)の役割もあって、PS5では頻繁にアクセスする機能を表示するとともに、“カード”という形でゲームのヒントやフックを提示するようにしています。
――初めての試みであっただけに、実装するには苦労も多かったと思いますが……。
西野これまでのノウハウもあるので、機能ボタンは比較的簡単に設定できるのですが、表示するカードは議論を重ねましたね。カードの順番はもちろん、シーンによって表示されるカードが変わります。どのように並べるべきなのか、熟考する必要がありました。
――表示されるカードのコントロールは、どのように行っているのですか?
西野カードは我々が用意したものと、メーカーが入れているものに大別できます。これらのカードをどのように表示するかは、我々システム側でルールを設定し、シーンに応じて適切なカードが選ばれるようにしています。
――カードと言えば、オフィシャルが提供したヒントを閲覧する、“ゲームヘルプ(” PS Plus加入者の特典)もユニークな試みだと思います。このゲームヘルプも、ほかのカードと同じく、ゲーム開発側が用意するのですか?
西野ゲーム中で表示されるカードは、デベロッパーにお作りいただいていますが、ゲームヘルプに関しては、ゲーム開発側が必ず作らなければいけないというわけではありません。ゲームメーカーが作ってもいいですし、場合によっては、我々が用意してもいいと考えています。
――つまり、ファミ通編集部で作らせてほしい、とアピールしてもいいんですね(笑)。
西野もちろんです(笑)。そういったお話をいただけると、非常に心強いです。
――ただ、開発者の考えかたによっては、このゲームにはゲームヘルプを用意しないほうがいい、と判断することもありえますよね?
西野はい。ヘルプを用意するかどうかはもちろん、どのシーンでどのようなヘルプを出すかも、ゲーム制作側のご判断になりますので。ただ、ゲームをしながら同じ画面でヒントが見られたほうが便利ですし、没入感もあまり損なわれないと思います。弊社としては、ゲームヘルプを充実させていきたいと考えていますので、各メーカーにご協力いただけるように、丁寧に説明を行っているところです。
――ちなみに、 PS5と同時発売されるタイトルの中では、『リビッツ! ビッグ・アドベンチャー』にヘルプが実装されています。ほかにどのようなタイトルが対応しているのか、気になりますが……。
西野残念ながら、具体的なタイトルを挙げることはできないのですが、ファーストパーティのタイトルに関しては、積極的に対応する方向で検討をしております。
――実機で確認できるのを楽しみにしております。ゲームヘルプはPS Plus加入者の特典のひとつですが、ほかにどのような特典を考えているのか、今後の展開を教えてください。
西野具体的なサービスはお話しできないのですが、PS4で利用してくれている方たちに、いかに楽しんで満足していただけるかが、PS Plusのサービスの主眼になっています。そして、ユーザーがPS4からPS5に移行されたときに、いかに魅力的なサービスに見えるかも、非常に重要なポイントだと考えています。
――そういう意味では、PS4の人気作や話題作をダウンロードしてプレイできる、PS Plusコレクションは非常に魅力的です。
西野おっしゃる通り、PS Plusコレクションは、PS5の付加価値のひとつとして用意したサービスになります。PS5でPS4のゲームが遊べるのなら、PS4のすごく売れたタイトルや、すごく有名なタイトルをまるごとパックにして、PS Plusで遊べるようにしたら、多くの方に喜んでいただけるのではないか……と。
――その狙い通り、PS Plusコレクションは、驚きと喜びの声を挙げるゲームファンが多いです。ただ、非常に実現の難しい企画だったのではないかと思いますが?
西野もちろん難しい企画でしたが、大事なのは、実現できると信じて行動に移すことだと思います。PS Plusコレクションは、PS5の発売に合わせてサービスを開始しようと考えて、1年ぐらいかけて練りに練って実現させることができました。
――魅力的なタイトルがラインアップされていますが、今後拡大される可能性はありますか? もしくは逆に、一定期間後にラインアップから外れるタイトルが出てくる可能性もあるのでしょうか?
西野PS Plusコレクションで提供される期間は、私どものほうで、明確に期限を決めているわけではありません。ただし、当然ながら新しいコンテンツが出てくると思いますし、ユーザーによってはプレイされないコンテンツもあると思うので、然るべきタイミングでラインアップの見直しをすることはあると考えています。
――とはいえ、現在のライナップは、しばらくは維持されると考えてよいでしょうか?
西野PS4の1億人のユーザーが、一斉にPS5に移行していただけるわけではありません。私たちとしては、今後、時間をかけて移行していただきたいと考えていますので、ナインアップの切り替えのタイミングは、とても重要になります。具体的なことは言えませんが、少なくとも、先月プレイできたタイトルが、今月からプレイできなくなる、といったことが起きないようにしたいとは考えています。
――なるほど。ようやくPS5を購入できたのに、遊びたかったあのタイトルがラインアップから外れていた……となる可能性は、当面はなさそうですね。そのほか、PS Plusコレクションやヘルプのほかに、どのようなサービスが実装されるかも気になります。
西野今後もPS4でお楽しみいただいたPS Plusの価値はそのままに、PS5という新しいプラットフォームに移っていただく際に、よりバリューを感じていただけるようなサービスを設計していきます。
――ということは、ほかにもどんどん追加される予定がある……と。
西野どんどんというと、大盤振る舞いになってしまいますので(苦笑)、オンラインに関わる機能の中で何か売りになる機能があったときには、PS Plusの機能に入れることを検討したいと考えています。
――お話をうかがって、PS5をプレイするのがますます楽しみになりました! 最後に、これから初めてPS5を遊ぶ人に、真っ先に試してほしい機能を教えてください。
西野まずは『ASTRO’s PLAYROOM』をじっくり遊んで、PS5の機能をひと通り体験してほしいです。そして、お気に入りのゲームを遊びまくって、感じまくってください! ユーザーの皆様にとって、ゲームのプレイ時間がいかに思い出に残るかが、私たちは大事だと考えています。つぎのハードが出る何年かを、PS5とともにお楽しみいただくという意味では、皆様の体験が実りのあるものになってほしいと思います。
ファミ通.comのPS5特集記事
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