ファミ通関連の編集者がおすすめゲームをひたすら語る連載企画。今回のテーマは、宇宙探索ゲーム『No Man's Sky』です。

【こういう人におすすめ】

  • 星新一のショートショートに出てくる宇宙人になってみたい方
  • ひとり旅や読書が好きな方
  • 哲学、占星術、宇宙物理学のどれも興味がある方

※本稿は週刊ファミ通2020年7月2日号(2020年6月18日発売)の特集“いまこそ絶対に遊ぶべき46のゲーム”をWeb用に調整したものです。

藤川Qのおすすめゲーム

『No Man's Sky(ノーマンズスカイ)』

  • プラットフォーム:PS4、Xbox One、PC
  • 発売日:2016年8月25日
  • 発売元:Hello Games
  • 価格:6490円[税込]
  • パッケージ版:あり
  • ダウンロード版:あり
  • 『No Man's Sky』公式サイト

※データはPS4版のものです。

『No Man's Sky』 ローンチトレーラー

 “オープンワールド”のゲームを遊んでいると、抒情的な孤独感を感じることがある。延々と移動した先で、ふと美しい景色を見渡せる場所にひとり佇んだ瞬間などに、なんというかこみ上げるような孤独感が胸の奥底から湧き上がり、「ああ、きれいだ」と感じながらも、自分がそれをひとりきりで眺めていることも気づくような瞬間。

 この体験は、僕がオープンワールドタイプのゲームを遊ぶたびにどうにも気になってしかたがないことと密接に結びついていた。それは、“世界の果て”についての好奇心だ。

 用意されたマップの果ては、いったいどうなっているのだろうか? という疑問にさいなまれ、とりあえず行けるところまで行ってみたくなるのである。

 今回、この“ゲームで時折訪れるいい感じの孤独”について改めて考えていく中で、僕は発見したのだった。“前述のような孤独感を感じるのは、このオープンワールドで世界の果てを目指している途中だけ”だったということを。

 もちろん、たいていのゲームは“これ以上は行けない”という場所に行き着くことになるわけだが、僕は不思議とこの世界の果てを知った後では、なぜか前述の抒情的な孤独を感じられなくなってしまうことが多いのだ。それはもしかすると、世界の果てにある見えない壁の存在を認知することで、ゲーム空間として作られた箱庭の存在もいやというほど認識してしまうのかもしれない。

『No Man's Sky』18,446,744,073,709,551,616個の惑星のどこかで、いつか【推しゲーレビュー】_01

 壁や存在とか書いていると、なんだか作家・安部公房的雰囲気の話に……ちょうど似た寓話が、小説『壁』に登場するので、以下に引用する。

哲学者が申すには、
――ああ、こいつはひろすぎる、ひろすぎて、ここにはもうひろさがない。(中略)
しかしまあ行ってごらんよ、
ロビンソン・クルーソよりは淋しかろ。
なぜって、そこにないのは、
人間だけじゃないからね。(中略)
胸に世界の果をもつものは
世界の果に行かなきゃならぬ。

出典:『壁』新潮文庫 改版/阿部公房より引用

 作中でこの歌を唄う人物は、これは“旅への誘い”だと語る。この“自分の胸に世界の果てをもつものこそ、世界の果てを目指さなくてはならない”という概念は、目的地がスタート地点であるという話型――いわば幸福を探す『青い鳥』の旅や、パウロ・コエーリョ『アルケミスト』の神秘的な旅路が描くところのものであり、錬金術的な思想としても捉えられよう。『イメージシンボル辞典』によると、“旅は時空におけるすべての周期運動を象徴し、聖地巡礼・中心を求める迷宮の探求を表す”、とある。果てを求めて旅立ち、やがて中心(胸の中にある世界の果て)へと至るという周期性を持ったゲーム――そう考えてみると、思い当たるゲームがあった。“果てのない旅”が体験できる『No Man's Sky』である。

『No Man's Sky』18,446,744,073,709,551,616個の惑星のどこかで、いつか【推しゲーレビュー】_02
遊び続けていても、新たなる星系で未知の惑星に着陸する際には、いつも好奇心が抑えられなくなる。

 宇宙船に乗って、宇宙を再現した広大なオープンワールドを旅する『No Man's Sky』では、あなたは決して世界の果てに到達することはなさそうだ。ゆえに、必ずやいつかはあの旅の中でこみ上げる抒情的な孤独を感じられるはずだ。なぜなら、本作のフィールドの広さはゲーム史上最大。一説によると300垓平方キロメートル以上もあるとの話さえあり、惑星は1000京個以上もある。

 300垓平方キロという数は10の20乗以上――奇しくもいまから2000年以上前に、かのアルキメデスは『砂粒を数える人』という著作の中で、宇宙を満たすには10の63乗個の砂粒が必要だと記しているが、本作はある意味でその見積もりのスケール観にも近いような、広大なる宇宙空間を疑似的にシミュレートした“宇宙の模型”とも言える。

 2016年に本作がリリースされてからの4年間、ほぼ毎日のようにこのゲームで遊んできたが、実際に幾度となく前述の孤独感に浸ってきた。僕らを乗せた地球が太陽のまわりを4度回るまでのあいだには、さまざまなアップデートも行われ、いまではオンラインでほかのプレイヤーと気軽に交流・協力ができるようにもなり、よりゲームっぽくなったように思う。さらには、最近ではPS VRにも対応した。

 しかしながら、燃料や生命維持装置のバッテリーを気にしながら、ひとり宇宙船で惑星間を旅し続ける中で感じるのは、「つぎの惑星は、どんな風景だろう」、「ほかのプレイヤーの基地があるのではないか」という、リリース当初から変わらない孤独ゆえの希望にも似た“期待”なのである。

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プレイ2年目くらいに、ほかのプレイヤーと初めて遭遇。その瞬間は、我が目を疑った。

 いま僕は長い旅路の中で見つけた二足歩行のかわいい生物がいる“mina”という星(名前もすてき)を気に入って、そこに基地を作って暮らすようになっているが、2年ほど前――信じられないことに、別のプレイヤーと偶然出会ったのだ。一度だけ。最初は目の前にいるプレイヤーのことが理解できなかった。文字通り天文学的な確率での奇跡の出会いでは!? と興奮し、心臓は早鐘のようにドクドク鳴ったほどだ……もしかすると何かの勘違いだったのかもしれないが、とにかく何にせよ、あのときの興奮と感動は忘れがたい(上の写真はそのときのもの)。

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自分の宇宙船は、まさに旅の相棒といったところ。

 現実の宇宙空間には、見えているものだけでも1000億個の銀河があり、それぞれの銀河系には太陽のような恒星が2000億個も存在するという。僕らはそのたったひとつの太陽系第三惑星に住んでいて、いまは極小のウイルスでたいへん困ったことになっている。

 まあそんな状況だけれども、本作にはいまだに「ああなんて美しいのだろう」と思える幸福で孤独な瞬間が訪れる旅が体験できる。いまや世界の果てはモニターの中にある。それに――いつかどこかの宇宙の片隅で、これを読んでゲームを遊んでみたあなたとすれちがえたりしたら、などという天文学的な確率に思いをはせるだけで、ひとりひそやかに楽しい気持ちになれてしまうのである。

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別の星系へはワープ航法で旅する。本作は独特なネーミングも印象深い。“あつし”……どんな星系なのォッ?
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