新型コロナウイルス感染症の感染拡大および、それにともなう外出自粛は、じつに多くの業種の仕事に影響を与えています。それは、ゲ ーム業界も例外ではありません。 そんな中、 ゲームサウンドの制作はどうなっているのか? 『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズや『消滅都市』シリーズなど、バラエティー豊かな作品のサウンド制作を手掛けるノイジークローク・坂本氏を取材し、新型コロナ禍における制作現場の一例を紹介しようと思います。
※本件の取材はメールインタビューにて実施。下記インタビュー内容は、2020年5月18日時点のものです。
坂本英城氏(さかもと ひでき)
作曲家/ノイジークローク代表取締役CEO
新型コロナで制作の現場はどう変わった?
――新型コロナウイルス感染症は、御社の業務にどのような影響をもたらしましたか?
坂本ノイジークロークでは1月末からリモートワークへの移行を段階的に進めていきました。 それ以前から、日常的にオンラインベースでの業務はおこなっていましたので、幸いにして業務に大きな支障が出ることもなく、とてもスムーズに全社員のリモートワークに移行できました。ただクライアントの方の中には完全に休業された会社様もありましたので、開発スケジュールの再構成などの影響でご依頼のペースは例年よりもゆったりになりました。あえてポジティブに現状を捉えると、社内に潤いというか、気持ちの余裕が生まれた気がします。
――ゲーム音楽制作を始めとする創作活動をされるうえで、もっとも影響が大きかったのはどんなことなんでしょうか?
坂本やはりコンサートやライブが軒並み中止や延期になってしまったことは非常に残念なことだったと思いますし、当社でもイベントを主催することがあるだけに、イベントに従事され ている方々のご状況は察して余りあります。とくに当社の場合は作曲した音楽はゲームに実装されて終わりではなく、それをステージで演奏したり披露したりしてお客様に喜んでいただく、というところまでを制作の段階から意識していますから、その道筋がいまだ見えないというのが本当にもどかしいですね。
――確かに、いまはゲームサウンドを使ったライブというのは、さまざまな形で行われているだけに、影響が大きいですね。
坂本たまたま今年は当社ではイベントを予定 していなかったのですが、大規模なイベントだと最低でも1年以上前から準備するものなので、“ポストコロナ”となってもなかなか企画を立ち上げにくいですね。一方で、ライブイベントに限らず、というところでは、オンラインが当たり前になったいまだからこそできる“おもしろいこと”があるはずだ、それは何だろう? という意見交換が社内では活発になっています。すでにいろいろなアーティストや作曲家がそれぞれのアプローチで示してくださっている通り、音楽の可能性は無限大ですからね。
――現時点において、ゲーム音楽制作分野とリモートワークの相性はいかがでしょうか。制作活動の中で見えてきたことがあるようでしたら、利点や欠点を教えてください。
坂本当社の制作環境と照らし合わせれば、とても相性が良いと感じています。もともと楽曲や効果音の制作は難解なパズルを解いているようなところがあるので、高い集中力をキープできる環境が望ましいんです。そういう意味で、それぞれの家庭の事情こそあれ、リラックスして集中でき、会社にいる時にありがちな些細なことで作業を中断しなくて済むリモートワークは向いていると思います。オンライン会議をベースにChatworkやSlack、boxなどを駆使してチーム内のコンセンサスは充分に取れていますので、現時点では大きな問題はないように思います。欠点といえば、社員みんなで美味しいご飯を食べに行けないことですね(笑)。
――そんな折、新プロジェクト“プライベート・ スタジオ・オーケストラ”を立ち上げられましたが、意図を教えてください。
坂本レコーディングにしろライブにしろ、音楽活動はいわゆる“三密”を生みやすいんですね。 どうしても防音をしなくてはいけなくて、そのためには密室にしなければいけない。そこに行けないとなれば、当然多人数でのレコーディングは開催が難しくなる。結果的に、オーケストラのような音楽は収録ができず、このままでは世の中のオーケストラが全部打ち込みの音楽になってしまう……と、ものすごい危機感を抱いたんです。それならば奏者は全員自宅にいるままで、逆に機材をこちらから提供して、こちらがよい音に処理すればオンラインでも収録できるのではないかと考え、プロジェクトを立ち上げました。参画いただいているトッププレイヤーの皆様のご協力もあって、プレスリリース直後から各方面より予想以上の反響があって驚いています。
――“with コロナ”など、今回の事態の長期化が言われるようなってきましたが、そうした状況のなかで、今後取り組みたいと考えていることを教えてください。
坂本“プライベート・スタジオ・オーケストラ” が最たるものですが、コロナがなければこうしたアイデアはまったく思いつかなかったですし、いまだからこそ価値のある活動やプロダクトというのは確実にあると考えます。オンラインの世界にこれまであまり触れられて来なかった方ほど、そのすばらしさに“気付いてしまった”と思いますので、僕たちにできることは音楽の持つ力を使って、オンラインでもひとりでも多くの人を元気にすること。月並みですがそれに尽きると思います。ノイジークロークらしい“おもしろいこと”を提供できるようにがんばります。
――最後に、ゲーム制作環境の激変を心配するゲームファンにメッセージを。
坂本この状況を逆手にとってやろうとか、こんな時だからこそ人を笑わせてやろうとかびっくりさせてやろうとか、そういうことを考えてしまうのがクリエイターの性だと信じているので、 もしかしたらとてつもない名作が生まれる可能性もありますよね。実際に遊べるのがいつになるのか不透明な中、お待たせしてしまうこともあるかと思いますが、どうか悲観し過ぎずに、 変わらずクリエイター活動を応援していただければと思います。とはいえ、音楽ということでは、やはりライブなどを通じて生で音楽を楽し んでいただきたいと考えているので、早く事態が終息することを心から祈っています。
オンラインで演奏録音が完結する プライベート・スタジオ・オーケストラ
“プライベート・スタジオ・オーケストラ”は、 ノイジークロークが新規に立ち上げたオーケストラレコーディングの事業。高品位の収録機材提供など宅録環境をサポートした上で、トップクラスの演奏家たちによる生演奏の収録が行え るのが大きな特徴だ。この手法で楽曲を制作されたゲームを遊ぶ日も遠くないことだろう。
Private Studio Orchestra(プライベート・スタジオ・ オーケストラ)に関するお問い合わせは以下のメールアドレスへ
ps.orchestra@noisycroak.co.jp
(ノイジークロークの本件専用窓口)