新型コロナウイルス感染症の流行によって新作アニメの放送が少なくなっている中、昔のアニメに目を向ける機会も増えていることと思う。本稿では過去の名作の中から、とくに注目してほしいアニメを筆者の個人的チョイスでご紹介。

 紹介する作品はアニメ制作会社、P.A.WORKS(ピーエーワークス)の原点となる恋愛青春群像劇『true tears(トゥルーティアーズ)』だ。

雪が降る町を舞台にした、少年少女たちの恋模様

 2020年3月公開の『劇場版 SHIROBAKO』や、ゲームブランド・Keyの所属クリエイター・麻枝准氏とのコラボレーションによるオリジナルアニメ第3弾『神様になった日』の発表など、近年も話題にこと欠かないアニメ制作会社、P.A.WORKS(ピーエーワークス)。

 設立以来、下請け としていくつものアニメの制作に関わってきたP.A.WORKSの初めての元請作品(企画、製作の段階から中心になって携わった作品のこと)が、2008年1月より放送されたテレビアニメ『true tears』だ。

  季節は冬、P.A.WORKS本社もある富山県を舞台に、高校生の男女の恋愛模様が、ときに切なく、ときに美しく描かれた。

 主人公は酒蔵を経営する一家のひとり息子・仲上眞一郎(声:石井真)。

 眞一郎は、とある事情から仲上家に引き取られひとつ屋根の下で暮らしている幼馴染・湯浅比呂美(声:名塚佳織)に恋心を抱いている。

 しかし、幼いころははつらつとしていた比呂美だが、仲上家の養子になってからというもの、眞一郎には笑顔を見せてくれなくなっていた。

 比呂美との関係、母親との不和、絵本作家という夢。いくつもの悩みを抱えた眞一郎はある日、通っている高校の裏庭で、木に登って降りられなくなっている奇妙な少女・石動乃絵(声:高垣彩陽)と出会う。

 この出会いをきっかけに眞一郎と彼を取り巻く人々の運命は、大きく動き始めるのだった。

OPテーマ曲『リフレクティア』はあのアイマスアイドルがカバーしたことも

主題歌『リフレクティア』CDジャケット

 かんたんに本作の概要やスタッフなどについて書いておくと、本作は 全年齢対象のPCソフトとして発売され、プレイステーション2にも移植された同名ゲームのメディアミックス作品でもある。

 しかし、登場キャラクターもストーリー展開も、ゲームとアニメではまったくの別物となっている。

 監督は、のちに『グラスリップ』も手掛けた西村純二氏。シリーズ構成は『花咲くいろは』や『凪のあすから』にも携わり、劇場作品では『さよならの朝に約束の花をかざろう』などの脚本も手掛けている岡田麿里氏。

 キャラクターデザイン・総作画監督は本作以降、『SHIROBAKO』シリーズや『サクラクエスト』に至るまで数々のP.A.WORKS作品に携わった関口可奈味氏などなど、その後のP.A.WORKS作品にも多数参加しているスタッフたちが主要スタッフとして名を連ねている。

 群像劇、登場人物たちのリアルな感情描写、地方の実在する風土や文化を取り入れた舞台設定など、作風的にも、その後のP.A.WORKS作品に通じるものが多く含まれている。本作よりあとに制作された作品で同社のファンになった方にとっては、その源流を感じられるはずだ。

 また、eufonius(ユーフォニアス) が歌うオープニングテーマ曲『リフレクティア』は知る人ぞ知る名曲。

 2012年放送のアニメ『TARI TARI』の第1話作中で合唱曲としてアレンジされていたり、同年に発売された『THE IDOLM@STER』のCDアルバム『THE IDOLM@STER ANIM@TION MASTER 生っすかSPECIAL 02』 で三浦あずさ(声:たかはし智秋)がカバーしていたりするので、『true tears』を観ていなくても、 耳にしたことがある方もいるかもしれない 。

恋をきっかけに、自分の“本当の気持ち”と向き合う物語

テレビアニメ5周年記念CD-BOXのジャケット

 タイトルの『true tears』の名の通り、本作のテーマのひとつは“涙”だ。 乃絵は眞一郎に「私……涙、あげちゃったから」と語る(第1話) 。

 とある出来事をきっかけに涙を流せなくなった乃絵は、「眞一郎なら自分に涙を取り戻してくれるかもしれない」と考え、眞一郎にちょっかいを出しはじめる。

 風変わりな女の子として描かれる乃絵だが、彼女の行動には彼女なりの理由があり、それは内に秘めた悲しみに由来しているのだ。

 本作の登場人物は、その多くが胸の内に苦しみを抱えている。

 比呂美が自分を押し殺しているのにも理由があるし、眞一郎の友人・三代吉(声:吉野裕行)の彼女である安藤愛子(声:井口裕香)も秘密を持つ。

 第3話から登場する乃絵の兄・純(声:増田裕生)も同様だ。

 眞一郎と乃絵も含め、誰もが自分の本心を隠していたり、そもそも自分の本心に気づいていなかったり、気づかないフリをしている。

 物語の見どころとしては主人公の眞一郎を中心として、比呂美、乃絵、愛子のヒロインたちが織りなす先が読めない多角関係の恋愛模様ではあるのだが、その中で描かれるテーマは“自分の本当の気持ちとどう向き合うか?”ということ。

 理想と現実には必ずギャップがあるし、その理想がほかの誰かの気持ちにも関わることであれば、なおさら思い通りにはいかない。

 彼らは恋心をきっかけに、自分の中にあるズルさや醜さともまっすぐに向き合い、痛みをともないながらも成長していく。

 多角関係の恋愛模様が描かれると、いわゆる“勝者”と“敗者”が生まれてしまうものだが、本作では恋愛の成就とはまた別の形で、すべての少年少女が自分なりの“答え”を見つけ出すことになる。

 本作の結末を見届けた視聴者の胸に去来する爽やかな感動は、そういった、大人になるために経験する変化を、みんなが乗り越えて一歩前に進んでくれるからなのかもしれない。

 登場人物たちに学生時代の自分を投影するもよし、どのヒロインがいちばん好きか語り合うもよし。『true tears』はその後のP.A.WORKS作品に勝るとも劣らない、たくさんの魅力が詰まったアニメだ。

 いまならdアニメストアバンダイチャンネルでの見放題配信も行われているので、視聴環境がある方には文句なしにオススメしたい。

 みずみずしい恋模様に胸を焦がしながら、タイトルにもある“本当の涙”の意味を、ぜひ知ってほしい。

作品情報

タイトル:『true tears』
全13話(2008年放送)
配信サイト:dアニメストアバンダイチャンネルほか

スタッフ

  • 原作:La'cryma
  • 監督:西村純二
  • シリーズ構成:岡田麿里
  • キャラクター原案:上田夢人
  • キャラクターデザイン:関口可奈味
  • 美術監督:竹田悠介、篠原理子
  • 撮影監督:福士享
  • 色彩設計:井上佳津枝
  • 音響監督:若林和弘
  • 音楽:菊地創
  • 音楽制作:ランティス
  • アニメーション制作:ピーエーワークス

キャスト

  • 仲上眞一郎:石井真
  • 石動乃絵:高垣彩陽
  • 湯浅比呂美:名塚佳織
  • 安藤愛子:井口裕香
  • 野伏三代吉:吉野裕行
  • 石動純:増田裕生
  • 黒部朋与:渡辺智美
  • 眞一郎の父:藤原啓治
  • 眞一郎の母:高橋理恵子
  • 酒蔵の少年:土倉有貴 ほか
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