本日(2020年5月16日)15時25分よりEテレにて放送の、高坂希太郎監督が手掛ける映画『若おかみは小学生!』。“大人も泣ける”と話題になり、「2018年最高のアニメーション映画」の呼び声も高い本作の魅力を、この機会にあらためてご紹介しよう。

児童文学を、誰もが感情を揺さぶられるアニメーション映画に

 本作は、累計300万部のベストセラーとなっている令丈ヒロ子氏による同名小説を原作としたアニメーション映画。

 両親を交通事故で失った小学6年生の女の子・おっこ(関織子)が、祖母の切り盛りする老舗旅館の“若おかみ”として奮闘するという内容で、傷ついたおっこが友人の真月(声:水樹奈々)や占い師のグローリー・水領(声:ホラン千秋)といったさまざまな人たちとの交流によってすこしずつ成長し、悲しみから立ち直っていくというストーリーになっている。

 この映画が子どもだけに向けてつくられた作品ではないのは、映画がはじまってすぐにわかることと思う。

 おっこたち家族が、舞台となる温泉地の名物“神楽(かぐら)”を見物する冒頭では、草木の色づきや観光地ならではの賑わいが丁寧に描かれ、その美しさと情感たっぷりに描かれる舞いに、惚れ惚れとさせられる。

 しかし、この幸福に満ちたひとときの直後、おっこの両親は帰らぬ人となる。

 その原因となった交通事故の場面では、対向車線から突っ込んできたクルマが猛スピードで迫ってくる様子が容赦なく描かれ、思わず顔を背けたくなってしまう。この“過酷な現実も容赦なく描く”というテイストは作中で終始一貫しており、だからこそ、おっこが真っすぐにがんばる姿も胸に迫るものになっているのだ。

 とはいえもちろん、辛いシーンばかりではない。

 おっこを支える女将や仲居さん、板前さんといった旅館の人たちの優しさには心が温かくなるし、おっこにだけ見える幽霊や魔物といったキャラクターたちとのコミカルなやり取りは楽しい。ライバルとなる大旅館の跡取り娘・真月は、プライドが高く鼻持ちならないが向上心が高く、おっこが成長するうえでなくてはならない存在だ。

 原作の膨大なエピソードから、おっこの成長物語として必要な要素を取捨選択。映画オリジナルのエピソードも盛り込みながら1時間35分の上映時間に収められた本作は、喜怒哀楽、あらゆる感情を激しく揺さぶられる、とても濃密な作品となっている。

 そんな物語に命を吹き込んでいるのが、映像美への妥協のないこだわりだ。

妥協のないこだわりが反映された映像美

マッドハウスの公式サイトでは、本作の美術設定の数々を見ることができる。(
http://www.madhouse.co.jp/special/wakaokami_movie/)

 本作の監督を務める高坂希太郎氏は映画『耳をすませば』や『風立ちぬ』をはじめ、数々のスタジオジブリ作品で作画監督を手掛けた人物。 マッドハウスで監督として携わった『茄子 アンダルシアの夏』、『茄子 スーツケースの渡り鳥』も高く評価されている。その美しい映像へのこだわりは今回もいかんなく発揮されており、本作の見どころのひとつとなっている。

 とくに公開当時話題になったのは、物体やキャラクターが何かの表面に映り込む“反射”の表現。卵焼きを切るときの包丁への映り込みや、水晶に逆さまに映り込んだおっこの姿などの丁寧な描き込みは、ほとんどのアニメでは省略される部分ということもあり、その細かな描写がとりわけ印象に残る。

 おっこが働く老舗旅館・春の屋の魅力を引き立てる、山にかこまれた自然豊かな風景や、宿泊客に振る舞われる料理の質感にもため息がもれる。実在する旅館で目にした従業員の気配りを反映したという、登場人物の丁寧なアニメーションなどもあわせて、「こんな旅館に泊まってみたい」と誰もが思える舞台づくりになっている。

 あらゆるディテールに高坂監督のこだわりが反映されている本作。ちなみにこれらのこだわりが制作現場でどのように受け止められていたかは、『若おかみは小学生!』公式サイトにあるスタッフアンケートで、その一端を垣間見ることができる。

 “高坂さんの要望で苦労したこと”の項目を読むと、「監督の経歴が伝説的な名作ばかりで、したがって求められる絵の要求が非常に高いのです」など生の声が書かれており、 スタッフさんたちのがんばりに改めて感謝したくなること請け合いだ。本作のファンになった方には、ご一読をおすすめしたい。

若おかみとしてがんばるおっこを待つさらなる試練とは?

 若おかみになったおっこは、作中で何組かの宿泊客を迎えることになる。

 このお客さんたちが、それぞれ大変な事情を抱えた人ばかり。おっこは戸惑いながらも、“若おかみとしてできる最高のおもてなしとは何か”を必死に考え、行動していく。

 そして、終盤に春の屋を訪れるある家族との出会いは、おっこにとって大きな試練となる。

 おっこはたびたび、両親のことを夢に見る。

 まるでふたりがまだ生きているかのようなそれらの夢からは、おっこが両親の死を心の底から受け入れることはできていないように感じられる。

 しかし、現実に両親はいないのだ。では、おっこはどのように辛い現実を受け入れるのか? それは、忙しくも充実した新しい日々によって、思い出を上書きしていくことなのだろう。作中に登場する人々は、おっこが若おかみになったからこそ出会えた人ばかりだ。彼らとの毎日を懸命に生きていくことで、おっこは本当の意味で過去を受け入れ、先にある未来を見据えるようになる。

 おっこの身に降りかかる出来事は壮絶だ。

 しかし、辛いこと、悲しいこと、うまくいかないことが起きても真っすぐにがんばるおっこの姿には、世代を問わず、背中を押される思いがするだろう。そうして映画を見終えたころには、誰もが前向きに生きていくためのパワーをもらえるはずだ。

 まだ観たことがない人も、鑑賞するたびに涙を流している人も。地上波初放送となるこの機会に、おっこの成長を見届けてはいかがだろう?

放送情報

  • タイトル:映画『若おかみは小学生!』
  • 放送日時:2020年5月16日(土)午後3時25分~
  • 放送局:NHK Eテレ