『九龍』HDリマスター版についてインタビュー

 2020年6月4日にNintendo Switchにて、アークシステムワークスより発売予定の『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』(開発はトイボックス)。

 本作はプレイステーション2にて、2004年にアトラスより発売された『九龍妖魔學園紀』(略称は『九龍』)のHDリマスター版。2006年にはパワーアップ版の『九龍妖魔學園紀 re:charge』も発売され、いまだに根強い人気を誇る作品だ。

 そんな『九龍』を手掛けたのが、“學園ジュヴナイル伝奇”の名手であり、『東京魔人學園』シリーズでも監督・脚本を務めた今井秋芳氏だ。本記事では、今井氏と本作のプロデューサーを務めるトイボックスの金沢十三男氏に、『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』についてお聞きした。

 なお、本記事はインタビュー前編で、『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』についての話となっており、おもに『九龍』未プレイの人へ向けたものとなる。後編では、当時の開発エピソードや、『東京魔人學園』シリーズについてなど、今井監督ファンへ向けたディープな内容をお届けするので、そちらもぜひチェックを。

今井秋芳氏(いまいしゅうほう)

學園ジュヴナイル伝奇の第一人者。『東京魔人學園伝奇』シリーズや『九龍妖魔學園紀』の監督・脚本だけではなく、世界観やシナリオ、システムなど、すべての要素に携わっている。2018年にはジュヴナイルSF作品『がるメタる!』のディレクターとシナリオも手掛けている。

金沢十三男氏(かなざわとみお)

トイボックス所属。HDリマスター版である『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』のプロデューサー。作品によっては自身もディレクションをこなし、2018年に発表したミステリーアドベンチャー『ワールドエンド・シンドローム』ではシナリオも手掛けている。

HDリマスター化の経緯とは?

――なぜ『九龍妖魔學園紀』のHDリマスター化が決まったのか、その経緯を教えてください。

今井これはアークシステムワークスの代表取締役である木戸岡さん(木戸岡 稔氏)からいただいたお話なんです。木戸岡さんが「ぜひやりたい」と言ってくださり、それを金沢さんが取り持ってくれて。今回のリマスター版は、本当に木戸岡さんと金沢さんのおかげです。

――HDリマスター版ではなく、続編を出そうとは考えなかったのでしょうか?

今井続編の話の前に、そもそも『九龍』という作品を私の中でどういう位置付けで考えていたかですが、当時『九龍』を作っている時点から、すでに続編の構想がありました。九つの秘宝にまつわる話なので、タイトルも“九龍”と付けています。ということは、じつは最低でも9つの物語があるわけです。話の構成としては、主人公がいろいろな学校を転校しながら、転々としていって秘宝を集めていきます。主人公は、秘宝を得て転校するわけですが、最後にいろいろと壊していくという。“宝探し屋”は世間の法やルールに則った真っ当な仕事ではないので、キレイごとでは終わらないようにしたいなと。主人公が現れるところは、必ず破壊と混乱があったほうがおもしろいと思っているんです。破壊と混乱はあるけど、友情や恋愛や出会いや別離もある、そういうシリーズ作品にしたいと思っていました。

――では、当時はそれが叶わなかったと。

今井そうですね。残念ながら『九龍』の1作目は、最初の売れ行きが悪かったんです。そこから口コミなどで徐々にファンが増えていき、ロングセラーとはなりましたが、初速が遅かったこともあり、続編を出すという話にはなりませんでした。ただ、私としては“作れば必ずおもしろくていい作品に出来る”という自信があったので、いつかそういう機会があれば作りたいとは思っていました。今回のニンテンドーダイレクトでの発表や予約の反響を見ると、多くのファンが待っていてくれたようで、とてもうれしく思うのと同時に、続編を作ればもっとファンは喜んでくれるだろうとも思っています。

――ということは、HDリマスター版がヒットすれば、続編の可能性もあるのでしょうか?

今井ええ、ヒットすれば、きっと2作目という道も拓かれる可能性は出てくると思っています。リマスター版は、続編を出したいという思いを込めた、再スタートのきっかけ作りでもあります。

――では、ハードをNintendo Switchに決めた理由を教えてください。

金沢じつはかなり前から動いていたプロジェクトでして、当初は家庭用携帯ゲーム機を意識して考えていました。そんな中、Nintendo Switchが発売になり、携帯機も据え置き機でもあるこのハードがベストだろうと、迷いなくNintendo Switchで行こうと決めました。

――ほかのハードへの移植などの予定はありますか?

金沢いまのところ考えていません。ただ、ゲームエンジンはUnityですから、将来的に作ろうと思えば可能です。

――海外展開などは予定していますか?

金沢簡体語版も同時制作していますので、海外展開もあります。今井作品はあまり欧米に出ていないので、英語版も出したいですね。

――海外プレイヤーたちにもぜひ遊んでもらいたいですね。ところで、『九龍』には、『re:charge』版というパワーアップ版が存在しますよね。なぜ無印である『九龍妖魔學園紀』のHDリマスター版なのでしょうか?

金沢10年以上前の作品を現行機で再現するには、元素材から構築しないとリマスターにならないと考え、最初からプログラムは捨てるつもりでプロジェクトを始動させました。アドベンチャーパートはアトラスさんから大量の素材をお借りして、それでも足りないものは足を使ってかき集めました。それでも揃わない元素材は、元データから作り直すか、または最初から描き直しています。とくにダンジョンはフルスクリーンにこだわったこともあり、すべてゼロから作っているので、やってることは新作を1本作っているのと同じ作業なんです。『re:charge』の要素まで作り込むとなると、さらにもう1本、新作を作るのと同じ労力が掛かります。ですので、今回はとにかく『九龍』を現行機で復活させることに注力し、無印版に特化しました。発売後、『re:charge』の要素が追加されるのか気になると思いますが、いまのところは考えていません。

そういう意味でも移植ではないので心配されるかもしれませんが、プレイフィールはまったく変えずに、オリジナル版を完全再現しています。オープニングムービーもまったく同じ演出のものを16:9の画面比率で作り直しました。ぱっと見の印象はオリジナル版とほとんど変わっていないので、ファンが見ても何も変わってないと思ってしまうほど、オリジナル版そのままなのですが、3Dの弾丸まですべて作り直してます(笑)。

今井トレジャーハンター的に言えば、14年前の遺跡から素材の断片を発掘し、コツコツと復元していったわけです(笑)。

――えっと……『九龍妖魔學園紀』は実写の背景なども特徴的ですが、それらもすべてリファインを……?

金沢はい。実写の背景なども、すべてリファインしています。

――では、膨大に収録されているアイテムの写真は……?

金沢それも全部リファインしました。というか、描き直し。いやもう、アイテム数が多いゲームなので、本当にたいへんでした(苦笑)。

――それを聞くと、本当にたいへんだったことがわかりますね……!

金沢ええ、バトルのエフェクトも、敵グラフィックもすべて作り直しました……。そういえば敵といえば、今井さんが急に「敵のアニメーションなめらかにできない?」とか言い出して(笑)。

今井いまの技術なら、アニメーションのあいだをAIで埋めて、なめらかにできるので、やりたくなっちゃったんですよね。まあ残念ながら断られましたが(笑)。

金沢最初に何か変える要素はあるのか、今井さんに聞いたんですよ。そのときは「『九龍妖魔學園紀』は完成されたゲームだから変えなくていい」と言っていたのに……。

今井システムとか物語はそうなんだけど、グラフィックだけはやはり当時のままじゃないですか。さすがに当時できなかったことをやりたいなと思ってしまって。

――では、ダンジョンパートは画面比率が4:3から16:9になりましたが、バトル中はどうなるのでしょうか?

金沢 ダンジョンの画面は16:9ではありますが、オリジナル版のバトルシステムは4:3の画面比率の中ですでに完結しているものです。たとえば、これまで狙えなかった部分にまで銃の照準が届いてしまうと、バトルバランスが崩れてしまいます。そこを16:9の見た目はそのままに、うまく調整しています。

――また、ゲーム内に、レトロなRPG『ロックフォード・アドベンチャー』も収録されているのも特徴ですが、本作にも含まれていますか?

今井もちろんです。『ロックフォード・アドベンチャー』も、ドットにスムースを掛けてキレイに……なんてことはしてません(笑)。ドットそのままのグラフィックで遊べます。

フルボイス版はドラマ性がアップ

――今回の大きな変更点として、フルボイスモードが追加されましたよね。なぜフルボイス対応を決めたのでしょうか?

今井これは金沢さんがぜひやりたい、と言うので決まったことです。これまでもよく話しているのですが、私は自分の作る作品をフルボイスにしたいとはそんなに思っていなくて。フルボイスになると、セリフのニュアンスがそれだけになってしまうので、ユーザーの想像力を削いでしまうので好きじゃないんです。たとえば感情入力システムで“友”を押したときに、相手が「そうだな」と言ったとしても、そのボイスのニュアンスで相手の感情がわかってしまいます。ただ、テキストだけだったら“照れている”、“うれしそう”とか、微妙な感情を個々のプレイヤーが想像できるじゃないですか。小説を読んでいるときに、登場人物のセリフを自分の中で脳内再生するのと同じです。このプレイヤーの想像力と脳内補完に委ねるという考えかたは、私が『魔人學園』のときに考え出し、『九龍』でも導入している感情入力システムの考えかたと同じですね。ですので、フルボイス対応も正直反対していました。

ですが、実際に声を入れてみると小説を読む感覚というより、“ドラマ”を観ている感覚になることがわかりました。じつはこの感覚は、最初にドラマCDを手掛けたときにも感じたことで、自分が書いたシナリオすべてを声優が読んで演技をする……。それにより、文字だけのときにはなかった空気感というか臨場感が出るんです。スタジオで録りながら「ああ、声優ってすごいな」と思いました。今回のリマスター版でのフルボイスもプロの声優陣たちの力によって、フルボイスだからこそパートボイスとは違う雰囲気になっていると思っています。オリジナルモードとフルボイスモードは切り替えられますので、よりドラマ性が強くなった『九龍』が楽しみたい人はフルボイスモードで、従来通りの想像力で楽しみたい人はオリジナルモードで遊ぶといいと思います。

――フルボイスにしたことで、新たな発見があったわけですね。

今井フルボイスならではのよさはほかにもあって、たとえば朱堂茂美もフルボイスですから、もうテキストだけでは感じ取れなかったおもしろさが満載です(笑)。

――本編を楽しみにしています(笑)。本作は感情入力システムが特徴のひとつですので、セリフの量は膨大だったのでは……?

今井感情入力システムの、9つの感情に合わせて声を新録しています。しかも、たとえば「そうだな」という言葉だけでも怒っていたり喜んでいたりと、感情によるニュアンスの違いも収録しました。

――また、当時のキャストがほとんど集結しているのも驚きです。

今井もちろん、元々の『九龍』から私がキャスティングもしていたので、今回も全員同じ人に演じてもらいたいと思っていました。引退された人にも声を掛けて、その中で「どうしても出られない」という人以外は、出演してもらっています。亡くなられた椎名リカ役の松来未祐さんについては、所属事務所に「松来さんの椎名リカをちゃんと引き継いで演技出来る人を」というオーダーをして、サンプルボイスを聴いて新しい人を選びました。私がどういう人を選んだのかぜひ聴いてもらえたらと思います。なお、フルボイスモードはすべて新録ですが、オリジナルモードの場合は、当時の松来さんの声がすべて入っています。

――それはうれしいポイントですね。そのほか、ゲームの内容変更などはありますか?

金沢基本的には忠実にオリジナルを再現させているのですが、今回は難易度の選択を新たに加えています。バトルの難易度を、イージー、ノーマル、ハードの3種類から選べるようになりました。

今井ボイスと同じく、難易度選択もプロデューサーの熱い要望でした。僕は難易度選択も好きではないのですが、当時、難しくてクリアーを諦めたという人がいたという話も聞いています。細かく言うと、とあるキャラクターと主人公の身体が入れ替わってしまい、そこで詰まってしまうことがあるようで。探索中はいつでも難易度の選択ができるので、もし詰まったら活用してください。ちなみにハードにしてもなにも恩恵はないですが、もっとやり応えが欲しいという人は選ぶといいと思います。

金沢難易度選択は開発現場から出たアイデアです。あとは、単純にロードががものすごく速くなっていますから、ダンジョン探索などはかなり遊びやすくなったと思いますよ。

――ちなみに2周目に、とある条件を満たしてゲームを開始すると、タイトルが『黄龍妖魔學園紀』に変わり、『東京魔人學園剣風帖』の主人公で遊べるモードがありますが、それも含まれていますか?

今井はい、遊べます。じつは当初、金沢は削りたがってましたが、猛烈に反対しました(笑)。

金沢いや、本編を構築するだけでも相当苦労していたので……。それでも開発現場は「ボイスを用意してくれればやります」と言ってくれて、それじゃやろうか、と。さらに『東京魔人學園剣風帖』の版権を持つマーベラスさんとアスミック・エースさんに相談しないといけなかったのですが、どちらからも本当に快く許可をいただいて、無事に収録されることになりました。

――ファンとして安心しました……! 今回、限定版である『蘇える秘宝版』には、主人公の相棒である皆守甲太郎のフィギュアが付属していますよね。なぜフィギュアを作ろうと思ったのでしょうか?

今井じつは私の作品って、これまで1度もフィギュア化したことがないんですよ。ですので、念願のフィギュア化を皆守でしてしまおうと思ったわけです。ちゃんと原型師の方に原型を作っていただき、原型監修も私のほうでやりました。ただのフィギュアではなく、皆守の後ろにスマホが差せるようになっていて、スマホスタンドになっています。じつは特典のドラマCDのワンシーンをモチーフにしたフィギュアなんです。

――そのドラマCDも、今井さん書き下ろしなんですよね。

今井本作は『九龍妖魔學園紀 re:charge』のHDリマスター版ではないので、エピローグがゲームに入っていません。そこで、ドラマCDにエピローグを入れることにしました。すべてを入れることはできませんでしたが、皆守と八千穂のフルボイスエピローグが収録されています。また、本編のその後のエピソードと『九龍妖魔學園紀 re:charge』のエピローグも入っています。つまり、最終話以降がドラマCDとなっているので、初めてゲームをプレイする人は、絶対にドラマCDを先に聞かないようにしてください!

――太字にしておきます! それと特典にはアートブックが付いていますが、過去に発売されたアートブックとの違いを教えてください。

今井昔発売されたアートブックは、ゲーム中に使用されたアートのみが掲載されました。今回の特典は、店舗特典や雑誌用の描き下ろしなど、販促物イラストを含むアートブックとなっています。

――それでは、これから『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』を遊ぶ方々に向けて、メッセージをお願いします。

今井ふつうの人間である“宝探し屋”が、人ならざる“力”を持つ生徒会の人間や遺跡に巣喰う化人たちを相手にどうやって“秘宝”を手に入れるのか……。主人公は、プレイヤーであるあなたです。HDリマスター版で蘇った學園ジュヴナイル伝奇『九龍妖魔學園紀』の世界をぜひ体感してください。

 というわけで、今回のインタビューはここまで。後編では、よりディープな話や続編に関する話もあるので、ぜひチェックを!

『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE』パッケージ版の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE 蘇える秘宝版』の購入はこちら (Amazon.co.jp)