『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の高難易度レイド“希望の園エデン:覚醒編”を手掛けた開発者4名へのインタビュー後編をお届け。覚醒編の全層について深掘りしていく。

中川誠貴(なかがわまさき)

リードバトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:覚醒編では2層を担当。文中は中川(誠)。

中川大輔(なかがわ)

バトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:覚醒編では4層を担当。文中は中川(大)。

鍋島義人(なべしまよしと)

バトルコンテンツデザイナー。希望の園エデン:覚醒編では3層を担当。文中は鍋島。

川本貴志(かわもとたかし)

バトルシステムデザイナー。希望の園エデン:覚醒編では1層を担当。文中は川本。

1層でいきなりプライム戦!?

『FF14』の高難易度レイドはこうやって作られている! 希望の園エデン:覚醒編の開発者4名にインタビュー(後編)_01

──これまでの高難易度レイドシリーズの流れからすると、第3シーズンのラスボスがプライム戦だろうと予想していた人も多いと思います。それが、いざフタを開けてみたら、第1シーズンの覚醒編、しかも1層にエデン・プライムを登場させてきましたね。

中川(誠)こうした理由は、まず意外性というのがあります。あともうひとつ理由があるんですけど、いまはまだ話せなくて……。シナリオがパッチ5.4で完結するので、それを最後までプレイしていただければ、謎が解けると思います。少し先の話にはなるのですが、楽しみにお待ちいただければと。

──これは最初の打ち合わせの時点で決まっていたのでしょうか?

中川(誠)そうですね。

──インタビューの前編で各層の難度付けについてはお聞きしましたが、過去の零式と比べた場合の難度はいかがでしょうか?

中川(誠)難度バランスについては、「機工城アレキサンダー零式:天動編が答えだ」という話を何度かしていて、そこは希望の園エデンでも同じ考えでやっています。

 ただ、細かい話になりますが、次元の狭間オメガ零式:アルファ編と希望の園エデン零式:覚醒編の難度を比べたときに、意図して後者のほうを簡単にしています。その理由は、『漆黒のヴィランズ』という新しい拡張パッケージでプレイヤー数が一気に増えるタイミングなので、高難易度とはいえ、取っつきやすいものにしようという方針があったためです。そういう意味では、パッチ5.2、パッチ5.4とシーズンが進むにつれ、少しだけ難度が上がるようにしたいと考えています。

──逆に、これまでの零式と意図して変えている部分はありますか?

中川(誠)次元の狭間オメガ零式では、4層は前後半で明確に分けるスタイルを取っていました。これは、後半が零式だけのオマケ要素で、プレイヤーに驚きを提供するという意図によるものです。でも、それが“お約束”になると、驚きでも何でもなくなってしまいますよね。

 それに加えて、4層のトータルの戦闘時間が長いというフィードバックもいただいたので、希望の園エデン:覚醒編ではこの形を一旦やめています。とはいえ、二度と前後半構成にしないというわけでもないので、引き続きフィードバックをいただきたい部分ではありますね。

──先ほど「機工城アレキサンダー零式:天動編が答えだ」という話が出ましたが、これはチーム内の共通認識なのでしょうか?

中川(誠)そうですね。よくこの話はします。

中川(大)実際、我々も公開ワールドで天動編をプレイしてみて、あのバランスがいちばん楽しかったなと。

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機工城アレキサンダー零式は、第1シーズンの起動編、第2シーズンの律動編ともに難度が高く、多くのプレイヤーが苦戦した。そうした中で登場した天動編は、零式としての歯応えを残しつつも、着実に前に進んでいる感覚が得られる絶妙なバランスとなっていた。

──適度な歯応え、そして達成感がありますし、幅広い層のプレイヤーがトライしてクリアーできる絶妙な難度ですよね。あとは、“絶”シリーズができたのも大きいですか?

中川(誠)そうですね。天動編を作っているときに、こういう方針で行くのであれば、さらなる上の難度を求めてくる人が一定数いるだろうという話も出ていました。それを吉田に持って行って、そこから絶シリーズが誕生したという形ですね。

──では、ここから各層についてお聞きしていきます。まずは1層のエデン・プライムからですが、コンセプトから教えてください。

川本FFVIII』に登場するガーディアンフォース“エデン”の召喚演出を『FFXIV』で再現する、というところをフィーチャーして作っています。『漆黒のヴィランズ』の高難易度レイド第1弾、そして最初に挑戦する層となるので、インパクトのある画を出したいと思っていました。

 あとは、1層なので、歯応えは残しつつ難度をマイルドにするように意識しました。ゲーム内でもエデンは謎に満ちた存在なのですが、じつは自分が担当するとなったときも、あまり設定がよくわからなかったんですよ(笑)。『FFVIII』開発当時のデザイナーに話を聞いてみてもよくわからなくて。ですので、あまり設定には引っ張られず、それでいてエデンが使ってもおかしくないような技をイメージして作りました。

──1層と2層に関しては、コストがそれほど多くないという話でしたが、あの長尺の演出はコスト面でたいへんだったのでは?

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『FFVIII』に登場するG.F.エデンの召喚魔法、エターナル・ブレスを再現した演出。

中川(誠)かなり意識してやりくりしていましたね。

中川(大)あれを作るがために、ほかを極限まで絞っているように見えました。

川本デザイナーががんばってくれていたので、あの演出のコストがめちゃくちゃ多かったかというと、じつはそうでもないんです。いままでのノウハウとかもあるので、ほかの部分にもちゃんとコストを回せていました。

──あの演出、零式ではカットされると思っていたのですが(笑)。

川本あれはエデン・プライムのアイデンティティーなので譲れないです。3、4層でしたら、ワイプの頻度なども考えるとカットするのはやぶさかではないですが、1層ですからね。1層は、レイドを好む方であれば、2〜3週もすると1回挑戦して終わりというような難易度にしているつもりです。1週間に1回ならなんとか見てください……という感じですね(笑)。

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──続いてギミックについてですが、エデン・プライムが使う“パラダイスリゲイン”で特定のギミックの効果が変わりますよね。これはどうやって生まれたアイデアなのでしょうか?

川本1層はすぐにクリアーされてしまうものなので、実装から2〜3週目に改めて1層をプレイしたときに、意外と覚えていないことが多いと思うんです。ワイプの回数も少ないでしょうし、逆にギミックの内容を覚えていなかったりするんですよね。そのときに、同じ名前の技がきたときに、「あれ、どんな効果だっけ?」となってもらおうと(笑)。ちゃんと意識していればわかるんですけど、意外と忘れていたりするので、そんな心の隙を突くようなギミックにしたかったんです。

──1層でもルーチン化はされないぞ、と。あと、HP割合の全体ダメージが地味に痛いのですが、そのあたりも関係していますか?

川本そこもちょっとは関係していますが、それよりも見せかたの部分ですね。『FF』シリーズの重力系の魔法と言えば、HP割合ダメージというのがお決まりです。『FFXIV』での前例としては、次元の狭間オメガ:デルタ編4のエクスデスのブラックホールなどがあるんですけど、あれも重力系のエフェクトになっていて、HP割合ダメージなんです。それと同じような感じで、“エデン・グラビデ ”と“ディメンションシフト”はHP割合ダメージにしています。威力を高めにしているのは、1層でも気を抜かずにちょっと意識しておいてねと(笑)。

中川(誠)公開ワールドで1層をプレイしていると、詠唱中に「あ、これ、このまま死ぬな……」と、悟るときがあります。急いでアドルを入れても効果がないっていう(笑)。

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HP割合ダメージのため、軽減系のアクションは通用しない。HPをしっかり戻すか、バリアを張っておきたい。

川本バトルシステムチーム的には、ヒーラーに意識させたいなという狙いもありました。『漆黒のヴィランズ』からはヒーラーの回復量を全体的に抑えているので、HP割合ダメージかつ、威力が高めというところに設定したのも、そうした意図があります。

コンセプトと直結した連続剣は、当初ムチャクチャな難度だった

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──では、続いて2層です。コンセプトから教えてください。

中川(誠)自分が企画するときは、コンセプトを1行か2行で書いて、そこから始めることが多いんです。それで、今回の2層の企画書を確認してみたら、“剣と魔法に長けた謎の少女。闇の力を自在に操る”と書いてありました。

──いま改めて確認されていかがですか?

中川(誠)いやぁ、いいなって(笑)。いろいろと想像が膨らむコンセプトだなと。

一同 (笑)。

川本だいぶこじらせている感じがするけど……(笑)。

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中川(誠)自分がコンテンツを担当することは基本的にはないんですが、2層に関してはスケジュールリスクがあったため、自分が担当することになりました。それでも1週間くらいしか企画する時間がなかったので、最初にこういうコンセプトを決めて、世界設定とシナリオチームから闇の巫女の設定をもらったり、そこからどういうバトルがいいだろうと想像したりして、肉付けしていった形となります。

──その象徴的なものが“ディレイスペル”ですよね。

中川(誠)そうですね。仕組み自体は既存のもので作っているんですけど、新しい見せかたになっています。闇の巫女はこれからもシナリオに関わってくる重要なキャラクターで、彼女が使う能力、すなわちギミックの内容も特徴的なものにしたいという思いがあったので、ディレイスペルというものを作りました。

──見せかたがおもしろいですよね。完全にタイムラインを把握してしまえばディレイスペルという演出に惑わされることはないんですけど、実装直後は混乱するプレイヤーも多かったと思います。

中川(誠)かなり狙い通りに作れたなという印象です。じつは、2層の企画に取り掛かるときに、まだ3層と4層の企画ができ上がっていなくて、難度を調整しやすいギミックを考える必要があったんです。このディレイスペルの仕組みであれば難度を高くすることもできるし、低くすることもできる。そういう狙いもありました。今回は2層なのでランダム性は入れませんでしたが、これが3層、4層であればタイムテーブルをランダムにしていたと思います。

──時間がランダムになると、頭の中で発動順を整理する必要が出てきて、途端に難度が上がりますね……。あと2層と言えば、後半にくり出してくる“連続剣”でしょうか。

中川(誠)剣と魔法に長けた謎の少女というコンセプトですから、剣で次元を切り裂くとそこがヴォイドとつながり、切り裂かれた次元からはヴォイドの悪魔が出現するという能力にしようと最初に決めていました。それが彼女の基本の剣技で、その基本技を連続でくり出してくるという、最後の盛り上がりになるのが連続剣です。

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後半の最大の山場となる連続剣。パーティの火力があれば、連続剣がくり出される前にボスを倒すことも可能となっている。

中川(大)いまだに公開ワールドでプレイするとドキドキしますね(笑)。

──狭いし、避けにくい(笑)。

中川(誠)最初はあの悪魔に触れただけで10万ダメージとかだったんですが……(笑)。

川本しかも、悪魔が中央で消えなくて、そのまま交差して外周に向かっていったよね。

中川(大)画面にいま以上にものすごい数の悪魔がいたんです。これ、弾幕系シューティングゲームかな? と思うくらい(笑)。

──現在の仕様になったのは優しさですか?(笑)

中川(誠)そうですね(笑)。復讐の連続剣に比べて、混沌の連続剣のほうが難しいという意見はあったんですけど、そこは押し切りました。

中川(大)そのぶん、連続剣フェーズに入る前に、戦闘不能になった人を蘇生して全員でトライできるようにする猶予時間を作っていましたよね。

川本ホント、最初はめちゃくちゃ難しかったんですよ(笑)。

中川(大)各フェーズのテンポもとにかく早くて、蘇生するヒマもないくらいでした(笑)。

中川(誠)次元の狭間オメガでは、ギミックをくり返すという作りかたが多かったんです。それに対してとくに海外のプレイヤーの方々から、「くり返しではなくて新しいギミックを入れてほしい」というフィードバックをいただいていたので、連続剣はそれに応えたという部分もあります。

“大時化”の秘密

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──ではつぎに3層ですが、コンセプトを教えてください。

鍋島コンセプトは、“巨大な体躯を活かしたダイナミックなバトルを作る”です。さらにサブコンセプトとして、“リヴァイアサンらしく水攻めをする”と考えていました。

──3層と4層については、リヴァイアサンとタイタンという原初世界(『新生エオルゼア』)ですでに登場している同名の敵でありながら、見た目も攻撃方法も異なるものを作るということで、独特のたいへんさがあったかと思いますが……。

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原初世界に登場するリヴァイアサン。第一世界のリヴァイアサンは、光の戦士の記憶がもとになっている。

鍋島はい。とにかく原初世界のリヴァイアサンとの差別化をするのがたいへんでした。それに加えて、原初世界のリヴァイアサンと同じくらいのインパクトも必要で、ものすごく悩みましたね。紆余曲折した結果、いまの形に行き着いたのですが、ところどころに原初世界のリヴァイアサンを彷彿させる仕掛けを入れているのがポイントです。

 たとえば、姿を消して外周から突進をくり出してくるというようなところですね。大海嘯も原初世界のリヴァイアサンの履行技がもとになっていて、プレイヤーたちにさまざまな水の現象を引き起こすというふうに落とし込んでいます。ちなみに、突進攻撃と同タイミングで、原初世界のリヴァイアサンのように頭上から水の範囲攻撃が降ってくるということもやっていたんですが、「これは解けないだろう」と言われてやめた経緯があります(笑)。

──それは誰に指摘されたのですか?

鍋島横澤ですね。

中川(大)横澤が泥をかぶるような言いかたですけど、みんな言っていましたよ(笑)。あれは難しすぎると。

──いまは円形のヘヴィ床が発生するくらいですよね。

川本あれもヘヴィだけじゃなくてDoT(継続ダメージ)も付与されて、当初はとにかく凶悪なフェーズでした。

──そんなヤバいフェーズだったんですね(笑)。ちなみに、リヴァイアサンのビジュアルはどのようにして決めたのでしょうか?

中川(誠)方針を決めるときに、自分が原初世界のリヴァイアサンと差別化する要素を見た目にも入れたいと提案して、じゃあ首がふたつあるリヴァイアサンにしようという話にまとまり、それを鍋島にやってもらったという形ですね。

──そのふたつ首のデザインを受けて、そこから技を考えていったと。

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第一世界のリヴァイアサンは首がふたつある。

鍋島そうですね。組み込みたいギミックに合わせて、アーティストが対応してくれたこともありました。たとえば、リヴァイアサンの体をよく見ると、黄色い目のようなものがあるんですけど、当初はそこからレーザーが放たれるという想定でした。最終的にはその案はボツになったのですが、黄色い目はいまもそのままだったりします。

──3層ではフィールドが大きく崩れるのが印象的でした。これは当初から考えられていたのでしょうか?

鍋島じつは、企画の最後のあたりに考えついたんですよ。

──えっ、そうなんですか!?

鍋島最初はリヴァイアサンの特徴づけに困っていて、まわりの方々に相談してアイデアをいただいていたんです。そんな中で「大きな口でフィールドをえぐり取るように壊してみたらどう?」というヒントをもらって。そのヒントと、もともと考えていたギミックを組み合わせてみると、相性もよさそうだし、新しい画が生まれるんじゃないかということで、実際に組み込んでみたという感じです。

──パーティが左右に分かれて戦うシーンは特徴的ですよね。

鍋島両端にフィールドが残ったときに、片側のメンバーたちがやられるというのも状況的におもしろいだろうなと思っていて。あのようにフィールドが変化するのもいままでになかったと思うので、画だけでも楽しめるコンテンツになったかなと。

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途中でフィールドの一部が崩れ、パーティが分断されるシーンがある。その際、全員が片側1ヵ所に集まってしまうと、うまく処理できないギミックも存在する。

──“テンポラリーカレント”は左右のどちらにいるかで対処も変わったりして、相性もよかったですよね。

鍋島うまく噛み合ったなと思いますね。

──そういえば 、零式でのテンポラリーカレントは、ほんの一瞬だけ攻撃の予兆が出ますよね。これまでの零式の文法からすると、予兆はいっさい出ないイメージだったのですが……?

鍋島じつは、最初は表示していなかったんです。ですが、バランス調整のときに「どこまで逃げればいいかわからない」という話になり、一瞬だけ予兆を入れることにしました。フィールドによっては、“真心ライン”といって、床の模様を目安にできたりするのですが、3層のフィールドはブロックがいくつか組み合わさっている形で、そうした目印を入れにくかったこともあります。

──テンポラリーカレントのほかにも、“大時化”など、フィールド内を大きく動かされるギミックも多いですが……。

川本出た、大時化! 笑っちゃうんだよなぁ……。

一同 (笑)。

──むむ? 大時化に何か秘密が?

鍋島第一世界のリヴァイアサンは、光の戦士の記憶でもあり、私の記憶でもあります。少し話が逸れますが、私は次元の狭間オメガ零式:アルファ編3でオメガを担当させていただいて、そこで“パントクラトル”というギミックを考えつきました。ふと気が付いたら、今回のリヴァイアサンにその記憶が宿ってしまっていて……じつは初期の大時化は、もうちょっとパントクラトルに似ていたんです(笑)。

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中川(大)もうちょっとではなくて、ほぼパントクラトルだったよね(笑)。

──ずっと全員が同じように動くギミックということですか?

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次元の狭間オメガ零式:アルファ編3でのパントクラトルと呼ばれるギミック。全員1ヵ所に集まり、ボスの周囲を回るようにいっしょに動いて、AoE(範囲攻撃)をかわしていく。

鍋島そうですね。それでみんなにプレイしてもらって……。

中川(誠)みんな口を揃えて「これはパントクラトル2だよ」って(笑)。

川本そうそう(笑)。しかも、当初は戦闘中にそのフェーズが2回もあったんだよね。

鍋島吉田に見てもらったときも、「これは大時化じゃない、パントクラトルだ」と言われてしまって……(笑)。

──これが、インタビュー前編で「仇になった」と言っていたエピソードですね(笑)。いまの形にはどのようにして落ち着いたんですか?

鍋島当初の大時化はフェーズ1、フェーズ2と2回に分かれていたんですけど、その2回の難しいところをひとつにまとめて、いまの大時化フェーズができ上がりました。“ブラックスモーカー”までが大時化の一部だったのですが、大時化とブラックスモーカーは別々にして、パントクラトル感を薄めています。

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こちらは希望の園エデン零式:覚醒編3の大時化ギミック。言われてみると、パントクラトルの雰囲気が感じられる?

中川(誠)3層の調整チームは、最初にどうやってパントクラトル感を捨てるかということに、だいぶ時間を使っていたよね。

鍋島その結果、大時化の回数を1回にして、ブラックスモーカーというフェーズが生まれたんです。

──そういう経緯があったとは……(笑)。

鍋島個人的には墓場まで持っていきたいくらい恥ずかしい話なのですが……(苦笑)。

──ギミックとしては、大海嘯も事故が起きやすいと思うんですけど、これはどういう感じでアイデアを固めていったのでしょうか?

鍋島大海嘯は、さまざまな水のギミックでプレイヤーたちを海の藻屑にするというコンセプトで作りました。当初はいまと形も組み合わせも違っていて。

──これもやはり簡単にしたんですか?

鍋島いえ、解きかたに穴がありまして、作り直したというのが正確なところです(笑)。

中川(大)みずから晒していくね……。大海嘯と言えば、鍋島がテストプレイのときにデバフの名前をぜんぜん言えていなかったのをすごく覚えています(笑)。

川本そうそう、カンペを持っていたのにね。

中川(誠)鍋島は愛されキャラなんです(笑)。

禁じ手の“高低差”を取り入れた4層

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──そして4層です。こちらも、まずはコンセプトから教えてください

中川(大)“大地にある物を操ることに長けている”というシンプルなコンセプトで企画させていただきました。また、パワフルなイメージも併せ持っているボスなので、全体のイメージとして小賢しくなるようなギミックは避けています。公式な設定ではないですが、自分が思う第一世界のタイタンのキャラクターとしては、自身がどんな場所で戦ってもいいように、自由に操作できる岩を身にまとって暮らしているという風に考えています。

──リヴァイアサンと同様に、タイタンも原初世界に登場するボスですが、差別化するにあたって、どのような点に気を配りましたか?

中川(大)第一世界でタイタンと再戦するにあたって、同じようなプレイ体験になってしまうのがいちばんよくないと思っていたので、それを避けるためにとにかく意識しました。ただし、そもそも光の戦士の記憶から生まれているもので、まったく別物を作るとタイタンではなくなってしまうので、ところどころ原初世界のタイタンを感じられるようなものを入れてバランスを取っています。

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数ある『FF』シリーズのタイタンの中で、大きなインパクトを残した原初世界のタイタン。

──ボムボルダーのような懐かしいギミックもありましたね。

中川(大)新しいところと古いところをうまく共存させるように工夫しました。

──戦闘中にタイタンがクルマに変形したり、手を巨大化させたりしますが、これはどの段階で決まっていたんですか?

中川(大)キャラクターの発注の時点で明確にデザインのコンセプトを決めていました。ただ、“まとっている岩でできた鎧をバラバラにして、それを手や足に取り付けられる”というところまでがオーダーで、クルマに変形するとかは決まっていなかったんです。それからアートチームにどんな形状が考えられるか、いくつも案を出していただきました。その中のひとつとして、例のクルマの形状もあって。最終的にどの案を採用するかという決定権を企画側に委ねていただいて、クルマが採用されたという流れです。

 とはいえ、最終的な判断をしたのは、じつは私ではなくて、中川なんですよ。「亜種形状はクルマに決めたから!」とすごい笑顔で言われて(笑)。

中川(誠)おもしろおかしいアイデアがいっぱいあったんですよ。その中で「タイタンクってどう?」って(笑)。

──ダジャレじゃないですか(笑)。

中川(大)冗談ではないとわかっていたんですけど、本当にクルマになったんだと頭を抱えましたね。「どうするんだこれ!」と(笑)。結果的にはインパクトと驚きのある見た目になったので、この判断は正しかったんだなと。

中川(誠)最初にモンスターチームでプレイしたときに、タイタンクの形状に変化するところを見たみんなから笑いがこぼれたんですよ。ここまで盛り上がったのは、カッコよく仕上げてくれたアーティストのおかげでもあるので、そこにも感謝したいですね。

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クルマタイプに変形したタイタン。

──そうしたタイタンのビジュアルも特徴的ですが、高低差を取り入れたギミックにも驚かされました。高低差はテクニカルな部分も含めて問題はなかったんですか?

中川(大)すごく問題は出ましたね。それでも高低差を取り入れた理由は、巨大化したタイタンの見せ場というのを作りたかったからです。地形を変えるほどの力を持っているというところが伝わるとうれしいなと。

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零式だけの巨大化ギミック。

──最初に見たときは、「よくぞ作ったな……」となりましたよ(笑)。

中川(大)そう感じていただけているならすごくうれしいですね。ここが山場になるように、いろいろなギミックをこの場面に組み合わせていきました。『FFXIV』のボスコンテンツでは、高低差があるバトルはさまざまな問題が発生しやすいんです。そのため、例外はあるものの、基本的には高低差を使ったギミックはNGなんです。

──以前、吉田さんもそうおっしゃっていたのを覚えています。

中川(大)今回、零式4層というシビアなコンテンツでこれにチャレンジするというのは、リスク面を考えると、じつはあまりよくない選択肢でした。それに加えて、零式の4層らしくないギミックになるかもしれないという懸念もあり、最後まで採用するかどうかを悩みましたね。

 ただ、これを上司である中川が後押ししてくれましたし、話を聞いてくれたレベルデザイナーやプログラマーも快くバックアップ体制を築いてくれたので、だったらやろうと決断できた感じです。実装中もさまざまな問題が発生したのですが、新しいシステム仕様も含めて、いろいろな人に助けられました。彼らの尽力がなければ絶対に実現できなかったので、本当に感謝しています。

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フィールドの高低差を利用したギミックも存在し、一度下に降りてしまうと、上側に戻ることはできない。

──この高低差の中、パズルのようなギミックが展開しますが、どのように組み立てていったのですか?

中川(大)私の基本的な企画の進めかたとして、ギミックをパーツごとに考案するところから始めるんです。今回のタイタンで言うと、周囲のマスを爆発させる青色のマーカーと、そのほかのマーカーの攻撃は、まったく別のタイミングで考えついたものだったりします。最終フェーズで時計回りに床が爆発するギミックもありますけど、あれも単体のギミックとして考えついたものです。そうしてネタを出し終えた後に、すべてを組み合わせる作業を行っていきます。

──すべて緻密に計算されて組まれているような印象がありますが、アイデアが生まれたタイミングは別々だったんですね。

中川(大)そうなんですよ。それで、各要素を組み合わせていくと足りないものが出てきたり、余分なものも出てきます。このように、考えて、組み合わせて、また考え直す、というのをくり返しやっていくのが、自分の企画のやりかたです。そのため、ロジカルに見える部分に関しては、そこまで時間をかけてやっているわけではありません。

 では、企画を考えるのが早いかというとそうでもなくて、今回のタイタンは、ノーマル難度と零式の企画をまとめるまでにトータルで30日くらいかかっています。その多くの時間はネタ出しに費やしていますね。ネタ出しについては毎回苦労します。

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ノーマル難度が先か、零式が先か

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──皆さんはノーマル難度と零式のどちらから設計を始めるのですか?

中川(誠)そこは人それぞれですね。

中川(大)私の場合はノーマル難度から企画をします。やはり、ノーマル難度のおもしろさを担保しなくてはいけないので、ノーマル難度から作ったほうがイメージしやすいんです。

──なんと。てっきり零式から作って、そこから要素を削ぎ落としていくものかと思っていました。

中川(大)もちろん、そうやって企画を進める人もいます。本当に人によりますね。私はノーマル難度から考えることも多いですけど、ネタによっては零式から考えることもあります。実際、アルファ編4の前半戦は零式から考えました。

──ほかの方々はいかがですか?

川本自分は零式からですが、ほとんどノーマル難度と同時進行ですね。ノーマル難度は零式から要素を削ればいいと言いつつも、それでは物足りなくなってしまいます。逆に、ノーマル難度を充実させすぎると、零式のネタがほとんどわかってしまうと。それを避けるために、ノーマル難度と零式を同時に考えているという感じです。企画書を書くのは零式からですけど、いっしょに考えちゃいますね。

──鍋島さんはいかがですか?

鍋島自分も最初は零式から考えていたんですけど、希望の園エデンはノーマル難度から考えるようにしました。ノーマル難度を考えていく過程で零式らしいギミックを思いついたら、それをメモしておいて……。大輔が言ったように、ノーマル難度のおもしろさを担保してから、零式用の要素を考えるというように、考えかたを改めました。

──中川さんはいかがでしょう?

中川(誠)自分もノーマル難度から進めています。その理由は、ほかのスタッフたちには説明しているんですけど、零式でおもしろいものを作れたとして、それを削ぎ落としてノーマル難度の企画をすると、おもしろさの芯の部分まで削ぎ落としてしまう危険性をはらんでいるんですね。ならば、ノーマル難度でおもしろい企画を作って、さらに別のおもしろさを足したものを零式にすれば、リスクも低いんじゃないかという話をしています。

中川(大)実際に私がノーマルから考えるようになったのは、中川の意見を参考にした結果です。「確かにな」と思うところがあったので、最近そのやりかたを取り入れている感じではありますね。

──そのあたりはチーム内に伝播している感じもありつつ、川本さんは我が道を行っていると。

川本いえ、いま伝播されました!

──あら?(笑)

川本今回の1層で言うと、あの履行技を再現するのがノーマル難度、零式共通のキモとしてあったので、難度の違いを深く考えなくてもよかったというのがあります。そこがほかの層と比べていちばん大きな違いかなと。

──これは蛮神戦でも同じなんですか?

中川(誠)考えかたは蛮神戦も同じですね。

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──今回はとても興味深いお話、ありがとうございました。では最後に、『FFXIV』を楽しんでいるプレイヤーの方々に向けてメッセージをお願いします。

川本新しいものをお届けするという気持ちを忘れず、プレイヤーの皆さんを飽きさせないように挑戦を続け、コンテンツを作っていければと思います。

──最後、綺麗にまとめましたね。

川本ここは殊勝に……。

──では、続いて鍋島さんお願いします。

鍋島希望の園エデン:覚醒編では、つい私の記憶を込めてしまいました(笑)。つぎのレイドボスにはどんな記憶が埋め込まれるか、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

──続いて大輔さん。

中川(大)これまでも皆さんに驚いていただけるようなギミックを考えてきましたが、今後のパッチも驚きのギミックが待ち受けているので、ぜひ期待していてください!

──締めは中川さん、お願いします。

中川(誠)いままでは、メディアに出るのは自分や須藤、そして横澤だけで、バトルコンテンツに関わっているメンバーが話す機会はなかったんです。そういう意味では、今回この3人に話す場を用意していただいてうれしかったです。彼ら以外にも、かなりの人数のバトルコンテンツデザイナーがいろいろなコンテンツを作っています。そういった人たちが成長していって、また新しい楽しみを提供してくれると思います。

 パッチ5.2以降も、皆さんに楽しんでいただけるようがんばりますので、ぜひ応援してください。そして、プレイした後は、フィードバックをいただけるとありがたいです。フォーラムやSNSなど、自分たちはそのひと言ひと言をすごく見ているので、いい感想も、悪い感想も含めてお寄せいただければと思います。『FFXIV』チームは、そうしたフィードバックに迅速に応えていくというところを重要視しています。どんどんご意見をお寄せいただいて、これからのコンテンツにも期待していただけるとうれしいです。

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