2019年11月29日、映画『シティーハンター 史上最香のミッション』が全国公開となった。
『シティーハンター』といえば1985年から1991年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された人気マンガ。テレビアニメも高い人気を誇り、2019年2月には新作アニメ映画『シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』が公開されるなど根強い人気を誇る。
フランス本国での公開時には、その予告編映像がYouTubeで公開され日本でも話題になったので、目にされたことがある方も多いのではないだろうか。
※こちらは日本語版予告編。
こちらの映画、驚きなのは何しろ全編フランス制作で、スタッフもキャストもみんなフランス人ということ!
しかもフランスでは公開されるとともにその“シティーハンター愛”とデキのよさが大評判となり、168万人動員の大ヒットとなったというのだから、ダブルで驚き。
いったいなぜフランス人が『シティーハンター』を実写映画に!? 大きな期待と若干の不安を胸に、いざ観てみたら……これが超おもしろい!
ギャグ、下ネタ、そして激しいアクション!! 映画『キングスマン』的な現代のガンアクションシーンが存分に盛り込まれつつ、原作の魅力がこれでもかと凝縮されていて、マンガ・アニメへのリスペクトを感じまくる驚愕のデキ!
いても立ってもいられず脚本・主演・監督のフィリップ・ラショー氏に突撃しました!!
フィリップ・ラショー
フランス人の俳優。『真夜中のパリでヒャッハー!』(2017年)、『世界の果てまでヒャッハー!』(2016年)などで主演・監督・脚本。本作でも冴羽獠を演じつつ、メガホンを取り、脚本(共同脚本)も書く3役を担う。(文中はラショー)
「『シティーハンター』映画化がいつしか夢になっていた」
――『シティーハンター』を実写化するアイデアというのはどう生まれたのですか?
ラショー 僕はフランスのテレビ番組『クラブ・ドロテ』(※)を見て育った世代なんだ。
『シティーハンター』はアクション、刑事モノ、ラブストーリーもあってとにかくおもしろかったよ。冴羽獠は笑えるだけじゃなくて、何をやらせても完璧。探偵だけど、ボディーガードやスイーパーまでやる、いわばコメディー界のジェームズ・ボンドで、いつからか、この子どものころのヒーローを実写映画にするのが僕の夢になっていたんだ。
※『クラブ・ドロテ』……1980~1990年代にフランスで放送されていた番組で、日本のテレビアニメを多く放送していた。
――映画化権はすぐに獲得できましたか?
ラショー いや、とても長くかかったよ。取得に手間取ったので、フランス・ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの社長に助けを求めた。おかげで北条司さんに連絡することができたんだ。
「シナリオをチェックさせてほしい」とご本人から頼まれたときは内心怖かったけど、18ヵ月掛けて書いたシナリオを手に会いに行ったよ。シナリオは原作にとても忠実だと認めてもらえて、しかも「原作にこのストーリーを入れたかった」とまで言ってくれた。とてもうれしかった。原作者から得られる最高の褒め言葉だからね。
――映画を観て、原作に対する愛をとても感じました。原作の中で監督の印象に残っているベストエピソードはありますか?
ラショー それはアニメで? マンガで?
アニメの場合は獠と海坊主の出会いのシーンだね。両者が武器を構えて向かい合って。映画にも、このシーンのオマージュをちょっと入れてみたんだ。マンガでは、獠と養父の出会いにはすごく感動した。すごくインスピレーションを受けたよ。
――逆に、映画化にあたって変えてみようと思ったところは?
ラショー僕らは1990年代に日本のアニメをむさぼるように見た世代だから、今回は日本のアニメにオマージュを捧げる、愛を捧げるという意味で、いろいろな“目配せ”が入っている。
『キャプテン翼』や『ドラゴンボール』のちょっとした“目配せ”が、随所に散りばめられている……そういうところは、原作にないプラスアルファーだね(笑)。
――冴羽獠を演じるにあたって、どのような準備をしましたか?
ラショー 8ヵ月の食事ダイエットとトレーニングを自分に課して、筋肉を8キロつけたよ。並行して、アクションシーンの所作を懸命に練習して、髪も黒く染めたし、マグナムや機関銃など銃器の使いかたも学んだ。
スタイリストが冴羽獠の衣装を僕に渡してくれた日のことを覚えている。青いスーツに赤いTシャツと黒いズボンという出で立ちになった自分自身を見たときは、すごく感動したよ。
――撮影はどこで行ったのでしょう?
ラショー 一部は南ランスで、一部はパリ近郊で撮りました。原作マンガが新宿を舞台にしているけど、撮影にコストが掛かるし、登場人物が全員フランス語をしゃべることに違和感が出るはず。
だから、土地の特色を出さずにフランス国内で撮ることにした。3Dで建物を足したり、いくつかのシーンでエッフェル塔を消したり、要するに手掛かりを消した。最終的には特定できる場所はモナコだけになったね。
――冴羽獠というキャラクターについて、スケベとヒーローな部分の二面性があるキャラクターですが、演じる際に心がけた点はどんなところでしょうか?
ラショー 冴羽獠を演じるのは、すごい快感だったよ。
これまでの作品は全部コメディーだったので、今回、マジメでカッコイイ冴羽獠という部分をアクションで演じるのは、俳優冥利に尽きるものだった。
MeToo運動があったし、女性を侮蔑したり、モノとして扱うようなことがないように、女性を絡めたおもしろいギャグなんだけど、それが誰が見ても気詰まり感がないように、というところは脚本の段階から気をつけていた。
――そのあたりのバランス感覚には気を使われたんですね。
ラショー アニメの中では獠が女の子のスカートをまくってお尻を触ったり、胸を触るシーンが結構あるけど、そのままではできなかった。そこは自分たちで忖度したり、調整したりしたね。
――2019年2月に日本で公開されたアニメ映画『シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』の中では、「下ネタは時代遅れなのか?」みたいなことを、自分たちでギャグにしていました。
ラショー 『新宿プライベート・アイズ』のフランス版では、登場していた御国真司(声:山寺宏一)の吹き替えは僕がやったんだよ(笑)。
『史上最香のミッション』日本語吹き替え版では冴羽獠を山寺宏一さんが演じているけど、彼は『新宿プライベート・アイズ』では御国を演じていたよね。それで、私は今回は冴羽獠を実写で演じていて、その吹き替えは山寺さん。役柄を交換したみたいで、不思議な縁を感じるね(笑)。
――フランスで『シティーハンター』が人気だったというのはなんとなく聞いたことがありましたが、本当だったのですね。
ラショー テレビで毎日のように『シティーハンター』(フランス版タイトルは『ニッキー・ラルソン』)をむさぼるように見ていた。でもあるとき放送が終わってしまった。それでもいまなお『シティーハンター』のファンだっていう人たちはたくさんいるよ。
それに、この映画がフランスで2019年2月に公開されたとき、『シティーハンター』を知らなかった若い世代に「こんな作品があるんだ!?」と話題になって再放送されたり、これまで知らなかった世代にちょっとしたブームが起こってるんだ。
――日本のマンガやゲームなどの文化には、子どものころに人一倍夢中になりました?
ラショー 僕がシティハンターへの愛が人一番あるというのはおこがましいけど、「実写映画化をしたい」って気持ちがあったというのは、ほかの人よりも愛していたからこそかもね。でも、すごくたいへんだった。日本のマンガをフランス人で、かつ実写で作るには情熱と粘り強さが必要だった。
“原作愛”にあふれる実写映画を作る方策とは
――原作者の北条司先生がプロットを見たときに、1ヵ所だけ「冴羽獠はこれはやらないんじゃない?」と言われたと聞きましたが。
ラショー獠が香を抱いているシーンのことだね。
香には見えていないところでもうひとりいた女の子のスカートを自分が持っていたライフルでまくるというのが、僕の最初のアイデアだったんだけど。
先生がおっしゃっていたのは、実際のところ「獠は香を腕の中に抱きながらそういうことはするはずがない」ということで……僕は、風のせいにしてしまおうと。
風でドレスのすそがまくれてしまったのを、つい見ちゃった。それなら彼のせいではないよね。
――そこまでしてもスカートをまくるシーンを入れたかったと?
ラショー パンティーが見えることにはこだわりました。だって、大事でしょう?(笑)
そのシーンは、やはり北条先生のほうが正しかったと思うので、コメントいただけてありがたかったです。
――最近では、マンガの実写化作品が多く、原作ファンから非難が出るものも多いです。本作には原作ファンもすごく喜ぶものに仕上がっていると思いますが、原作のファンに愛される実写映画を作るとき、どういうところがポイントになるでしょうか?
ラショー いや、フランスでも「『シティーハンター』を実写化します」と発表したときは、ネット上で文句ブーブーだったんだよ(笑)。
でも、非難していたコアなファンの人たちが完成作品を見て、僕たちのやろうとしていた意気込みが、ビジネス的なものじゃなく、北条先生の世界観、魂をリスペクトしようとしているんだってことを感じ取ってくれて、公開後は大好評だったんだ。
みんな疑心暗鬼だったのが、両手を上げて「いいねー」って言ってくれたよ。
――「魂をリスペクトする」というのが第一?
ラショー 僕自身が『ドラゴンボール エボリューション』のときにすごくがっかりしたから、それを『シティーハンター』のファンに味わわせたくないという気持ちがあった。
そのために“『シティーハンター』の明細書”みたいな感じで、必要な要素をリストアップして、ひとつひとつ作品に盛り込んでいった。“100トンのハンマー”や、赤いミニ・クーパーは外せないな……みたいにね。
――「赤いミニ・クーパーが重要だ」とおっしゃっていましたが、旧ミニは2000年に生産終了していて、程度のいいクルマをいま探すのは大変だったのではないですか?
ラショー それが、フランスではまだあるんですよ。『シティーハンター』の影響でフランスではミニ・クーパーが有名になったので、あれで路上を走っていると、ときどき「『シティ―ハンター』のクルマだ!」とみんなが反応してくれたりして。
――じつは、数年前まで僕も乗っていたんですよ。よく壊れました。
ラショー 当然です(笑)。だから、撮影で使うには便利ではなかったね。駐車するのもたいへんだし。
――ちなみに、アニメやマンガのほか、好きなゲームはありますか?
ラショー 『コール オブ デューティ』や『アサシン クリード』シリーズが好きで、よく遊んでいるよ。Nintendo Switchも持ってるし。いちばんインパクトが大きかったのは『アンチャーテッド』かな。いまは『レッド・デッド・リデンプション2』を遊んでる。
――最近のゲームは映画的な演出が増えてますが、映画畑から見てどのように感じますか?
ラショー それがヒットの原因になっていると思う。ゲームにも、映画の脚本家を使っていると思う。『アンチャーテッド』は映画を観ている感じや、映画俳優を起用している感じがする。音楽も映画の音楽に近づいているしね。
――さて、それでは最後の質問です。監督は「『シティーハンター』の映画をやりたい」と昔から思っていて、その後、脚本を先生に見てもらったりして、長い時間を掛けて実現にこぎつけました。“自分のやりたいと思っていることを実現するための方法・コツ”というのは、何でしょうか?
ラショー ほかの人が「無理だよ」と言っても耳を傾けない。辛抱強さと、情熱と、自分を信じること。
他人は自分の代わりをしてくれない。最初は日本のマンガをフランス人の自分が実写化するのは、自分でも「無理だろうな」って気持ちが少しはあった。でも、いろいろな努力をして脚本が北条先生に気に入ってもらえたのは、やるべきことを全部やった結果だと思う。きっとね。
『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
2019年11月29日全国公開
- 主演・監督:フィリップ・ラショー
- 原作:北条司『シティーハンター』
- 配給:アルバトロス・フィルム
- エンディングテーマ:TM NETWORK『Get Wild』
- (2019年/フランス/93分)
声の出演(吹替版)
- 山寺宏一(冴羽獠役)
- 沢城みゆき(槇村香役)
- 玄田哲章(海坊主役)
- 田中秀幸(槇村秀幸役)
- 一龍斎春水(冴子役)
- 浪川大輔(パンチョ役)
- 神谷明 ほか
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[2019年12月4日追記:記事の表現を一部修正しました]