スパイク・チュンソフトより2019年9月19日に発売された、サスペンスアドベンチャー『AI: ソムニウムファイル』(以下『AI』)。シナリオとディレクションには、同社在籍時代に『ZERO ESCAPE(極限脱出)』シリーズなどを手掛けた打越鋼太郎氏、そしてキャラクターデザインに『ファイアーエムブレム if』などで知られるコザキユースケ氏という、実力派クリエイターを起用し、制作発表時から国内外の注目を集めていた作品だ。

 すでに発売から約1ヵ月半が経ち、SNS上でも多くのユーザーが“解決編”までたどり着いたと報告。タイムラインを賑わせている。しかしながら、ゲームの随所に散りばめられた細かな仕掛けを始め、ユーザーたちにとっていまだ解けぬ謎もまだまだあるようだ。

 今回、打越氏、『AI』リードプランナーの岡田昌氏、そして、打越氏の歴代作品で記事を担当してきたファミ通.com編集長の世界三大三代川の3人が集まり、ゲームをプレイしながらそういったさまざまな疑問に答えていくという座談会企画が行われた。

 本記事では、そこで判明した事実をまとめて紹介。なお、スパイク・チュンソフトがYouTube上に開設している公式動画チャンネルでも、その模様が公開される予定だ。

 ちなみに本稿には、ゲームの真相に関わるネタバレが、これでもかというくらい登場する。まだすべてのエンディングを見ていないという人は、まずはそれを済ませてから読むことをオススメしたい。

【超ネタバレ!】『AI: ソムニウムファイル』のいまだ解けぬ謎を、シナリオライター打越氏&リードプランナー岡田氏&ファミ通.com三代川が語り尽くす!_01
左から『AI: ソムニウムファイル』リードプランナー&“ソムニウムパート”ディレクター岡田昌氏、ディレクター&シナリオ担当の打越鋼太郎氏、ファミ通.com編集長の世界三大三代川。

ソムニウムパートの気になる秘密を解明

 まずはゲーム発売から約1ヵ月(座談会実施時)、ユーザーの反響をどう感じたかという話題から。打越氏は「かなり評判がよくてありがたく思っています。Twitterを見るのが楽しみになっていて、おかげで仕事が進みません(笑)」と笑いを誘っていた。なお、ゲームの評価については、海外よりも日本のほうが辛口だとのこと。

 続いて、実際にソムニウムパートをプレイしながら気になるところについて打越氏、岡田氏が解説していくというコーナーに。

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ソムニウムパートには、全部で13ものステージが用意されている。なお、このフローチャートの形状にもテーマがあって、イリスルートだけが放射状に外に広がっておらずどん詰まりになっているのは、“このルートは先がない”ということを示すためだからだそうだ。

3日目:日曜日 対象者:左岸イリス PSYNCKIN' IN THE VaiN

 みずきの失声症の治癒に成功した(なお、失敗したルートでもすぐに治る)ルートで訪れる、イリスのソムニウムパート。この時点ですでにイリスの中には犀人が入っており、この夢世界はじつは犀人のものだったのである。

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犀人(inイリス)の夢世界。よく見ると、ここは犀人のPsync装置があった廃工場であることがわかる。

 最初の本格的なソムニウムパートであるみずきの夢世界から一転、ここには気味悪さや、恐怖を誘う仕掛けが随所に盛り込まれていた。岡田氏によると「ここから大きく展開が変わっていくことを示すために、みずきのものからは大きく変えて怖い印象を与えたかったんです」ということらしい。

 冒頭のテレビでの選択肢で“叩く”と犀人の子ども時代を振り返っていく展開に、“ダイヤルを回す”と第1サイクロプス事件”の流れを追う展開へと分岐していく。まずはダイヤルを回して第1サイクロプス事件の回顧へ。

 このルートの“殴殺”を行う場面では、棚を押して落ちてきた鉄球を投げるほか、トルソーを殴ることでも同様にストーリーが進むようになっている。「ここでやりたいのは“殴殺”だったので、鉄球をぶつけるでも殴るでも、どちらでも同じ結果になりますから」(岡田氏)。

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 じつは、ひとつのステージ中で複数の正解があるというケースはほかにもいくつかあるそうだ。たとえば、“叩く”のルートで手術台にてエアー手術をするシーンは、もう一度手術をさせることでもストーリーが進められる。ソムニウムパートは1回調べたら終わり、という選択肢が多いが、一部にはこうやって、もう1回調べると選択肢そのものが変わるケースもある。

 それらは“隠しルート”として岡田氏が用意したものだが、オーソドックスなルートと比べて消費時間などが短く済むようになっていたりするようだ。

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 なお、最後の“射殺”の場面で犀人に何度も刺されている、かわいそうな黄色い服の被害者は、もともとボスとしてデザインされていたのだという。それが、ボスはほかのデザインにしようということで被害者に……。そんな悲しい裏事情も披露されていた。

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 一方、もうひとつの“叩く”を選んだルートでは、色調がセピア風になっているが、それは犀人の子ども時代を描いたものであるかららしい。ここの最後では、顔が犀人の父、世島で首から下が先の黄色い服の女性……という姿の人物が登場する。

 打越氏によると「あれは世島です。しかし、犀人の歪んだ性癖が願望としてああいう形として表れてしまったんです」とのこと。犀人のそういった性癖は、生まれつきコルチゾールが分泌されない体質というだけでなく、母親がおらず、父親からも愛されなかったという環境も大いに影響しているようだ。

4日目:月曜日 対象者:89号 PSYNCKIN' IN THE CURTaiN

 続いては、89号との面会中に行われることになるPsync。このソムニウムパートでは、特定の正解ルートは存在せず、数多くある“緑色のもの”を処理していくことで進行する。どうして“緑色”なのか? 

 それは、ソムニウムパートが進行していくうちにだんだんと画面全体の色調を赤くし、危険な感じを出そうとした演出がきっかけなのだそうだ。赤と対照的に落ち着いて見える色が緑であり、緑が取り除かれてだんだん赤くなっていくことでより「ヤバい!」と感じさせられる、というわけ。

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画面を赤く染めていくことで、だんだんプレイヤー側に焦りを感じさせるという深慮遠謀だ。

 ちなみに、ここではPsyncによって狼範とファルコ(本当の89号)が入れ替わっている。そのため、作中でしつこく電話を掛けてきたり、窓の外からギョロリと家の中を覗いてきたのは、狼範の中に入ったファルコのしわざ。

 この“入れ替わり”が作中何度も登場するため、打越氏とスタッフとのやり取りではしょっちゅう混乱が起きていたらしい。「活字でやり取りすると、余計混乱するんですよ。だから工夫して“伊達in狼範”みたいな表記で書いたりしました」と、打越氏も裏話を語ってくれていた。

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しつこく掛けてくる電話や、窓の外の気味悪い目玉は、ファルコが入った狼範のもの。左岸家を想っての行動なのに、まったくの逆効果となっている。一方、後半に出てくる頭蓋骨は伊達(ファルコ)をイメージしたものとのこと。

 窓の外に狼範の目玉が現れたときの選択肢で、岡田氏のオススメは「レモン汁を掛けろ!」というもの。正解の選択肢ではないのだが、その後のアイボゥの行動がかなりおもしろいので、ぜひ試してみてほしい。

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そろそろ残り時間が気になるタイミングということもあって、ついついオーソドックスに「カーテンを閉めろ」を選びたくなってしまうのだが、ここでレモン汁を選ぶと……(正解はもちろん「カーテンを閉めろ」)。

 なお、このパートで打越氏のお気に入りは、緑色の鍋の中身をアイボゥが食べた後のシーン。ものすごい表情で象の味がするとつぶやくアイボゥは必見だ!

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一瞬気絶したあと、どんな味かと問われひと言「象」と答えるアイボゥ。その顔が……。

 とにかく残り時間との戦いがきびしいこのパートだが、じつはこの後に待ち受けている廃工場でのパートが最難関となっているため、それに次ぐものとして難度が設定され、この難しさとなっているらしい。

 それでも救済措置はあり、緑の“本”を引き裂くことで、道中の時間消費を極力抑えられる仕様になっているのだ。ただし、本を読むと“狼範の知るファルコ”の姿も見られることも覚えておきたい。

6日目:水曜日 対象者:伊達鍵 PSYNCKIN' IN THE CAPTaiN

 最後にプレイされたソムニウムパートは、みずきルートの最終盤に出てくるエピソード。感動的であり、いい歳をしたオッサンの世界三大三代川も、「ついウルッと来てしまう」と、乙女のような告白をしていた。

 ここでは、なんと最初に出てくる伊達作のシチューを食べるか食べないかで、「食べないと、選択肢での秒数が増えるんですよ」(岡田氏)と、難度が大きく変わることが判明。あえて茨の道を進みたいという猛者は、非情な決断をしてみてもいいだろう。

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じつはシチューを食べなくてもストーリーは同様に進むが、以降の選択肢で消費時間が増えてしまう。

 そもそも、ソムニウムパートを作り始めたときはTIMIEもなく、立ち止まっても時間は減り続けるシステムになっていたそうだ。その後、試行錯誤を続けながらいまの形になったという。

 ほかにもさまざまな裏話が明かされていく。みずき役の黒沢ともよさんは、ひとつのセリフの中にいくつも感情を入れるという高度な演技を披露してくれているのだが、その演技がすばらしすぎて、ビジュアルチームにとってはみずきの表情を作る難度が大幅に上がってしまったのだとか。まさにうれしい悲鳴である。

 打越氏によると、英語版のみずきもすばらしい演技が吹き込まれているそうで、機会があれば一度聞いてみてほしい。

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最後のシーン、みずきの瞳にはずっと涙が浮かんでいる……。事件の謎は一切解決しないが、もうここが真エンディングでもいいと思わせるくらい感動的なルートとなっている。

 みずきについては、伊達を蹴りつけるローキックは、某有名格闘ゲームをヒントに作られているという小ネタも披露された。

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 また、舞台となった伊達の部屋は、じつは開発初期に作られた。そのせいもあって形も真四角になっている。ちなみに、伊達がトイレに行きたくてみずきに「開けてくれ!」と懇願するシーンで出てくる扉だが、その向こうに玄関とトイレがあるのだそうだ。

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