9月12日〜9月15日に開催された東京ゲームショウ2019が終了して間もなく、小島秀夫監督が世界中のメディアのインタビューに対応。ファミ通は、国内のゲームメディアとしては唯一取材することができたので、その模様をお届けしよう。なお、今回のインタビューは、東京ゲームショウで披露された『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』のゲームプレイに関する質問が中心のため、事前にそのアーカイブ動画と、ブリーフィング映像(下記参照)を観ておくことを強くオススメする。

『DEATH STRANDING Day-1 GAMEPLAY SESSION Vol.1』

『DEATH STRANDING』日本語音声・日本語字幕 / ブリーフィング 4K

小島秀夫(こじまひでお)

ゲームクリエイター。KONAMIで『メタルギア』シリーズなどを手掛け、2015年末に独立。新スタジオ“コジマプロダクション”としての第1作となる『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』が2019年11月8日に発売される。

点と点を結び、道を残すゲーム

小島今日は話したいこといっぱいありますよ。

──とことんお聞きしたいところなのですが、世界中のメディアが順番を待っているようでして……。

小島じゃ、関係ない話ばかりして、時間使い切りましょか?(笑)

──それはそれでおもしろいとは思うんですが(笑)。今日は『DEATH STRANDING』の話をたっぷりと。

小島どんな感じでした?

──いやもう、最高でした。

小島ずっと「どんなゲームなのか、ようわからん」と言われ続けていたのですが、それでもゲームイベントには出したくなかったんです。東京ゲームショウで見せたプレイ映像も、あれ(長い道のりをひとりで歩いてきて、目的地の街が眼下に広がったところで曲が鳴り出す)を初めて自分で体感したら、泣く人もいますよ。それをこっちから説明してしまうとね……(苦笑)。

『デス・ストランディング』は他者と距離を置くことで人にやさしくなれるゲーム。小島秀夫監督インタビュー_01

──確かに、試遊台で10分前後出展したところでゲームの魅力は伝わらないでしょうし、一連の流れを見せるしかないですよね。

小島オープンワールドのゲームを、15分くらいのプレイでわかってもらうのはちょっときついです。だから「出したくない」と言っていたのですが、どうしても出してほしいと。それで、いざああいう形で見せたら、おしっことかウンコにフォーカスされてしまって。あんなん、一部の要素ですから(苦笑)。

──あれは監督流のサービスですよね。

小島でも、ゲームの流れは何となくわかりましたよね? 実際に稜線を上っていくと、向こう側がどうなっているか気になるんです。その先にさらに道が続いていて感動したりして。その感覚って、実際にプレイしてみないとわからないんですよ。見るだけでは伝わらないので。

──早く遊んでみたいです!

小島きっと、しんどいですよ(笑)。『DEATH STRANDING』はいろいろなことを要求されるゲームです。

──それは最初からですか?

小島いや、世界観もゲームのルールも、ゆっくりとその人の中に入っていきます。モニターの人のリポートを見ても、中盤くらいからものすごくおもしろくなった、というのが多くて。

──裏を返すと、最初はよくわからない?

小島よく『DEATH STRANDING』をレースゲームにたとえるのですが、クルマの操作方法自体は従来のゲームと変わらないので、最初から誰でも乗りこなすことができます。でも、乗っているうちに「このゲームはコースを覚えてコーナリングを攻めたり、タイムを競うことがおもしろさではない」ということがわかってきて、そこから自由度が広がっていくんですよ。

──慣れてくると遊びかたが変わると。

小島自分のスタイルで“ものをつないでいく”ということができるようになってくると、そこから遊びかたは本当にバラバラですね。やたら他人のために橋を作る人もいれば、落ちている荷物を全部届けて回る人、敵と戦う人、交戦を避けて迂回する人。僕は、人のものを利用して我先に行く人です(笑)。ですので、人とのつながりを表すグラフみたいなのは低いままです。

──ストーリーそっちのけで、特定のことにハマる人もいそうですね。

小島大きな雪山があるんですけど、あそこが病みつきになるくらいすごいんですよ。みんな雪山から離れたくなくて、ストーリーが進まないっていう(苦笑)。過酷なんですけど、装備も増えて慣れてくると、攻めかたが変わってくる。

──攻めかた……? ふつうに雪山登山をするんですか?(笑)

小島そうです。吹雪いてホワイトアウトしたらまわりがまったく見えないうえ、その先が崖かもしれないところを進まないといけない。

『デス・ストランディング』は他者と距離を置くことで人にやさしくなれるゲーム。小島秀夫監督インタビュー_02

──命懸けの寄り道ですね……。

小島あとは、サムたちの荷物を狙う“ミュール”というのがいるんですが、彼らは荷物タグに反応するので、荷物を脇に置いてイタズラする人もいます。

──かわいそう(笑)。彼らは人間なんですか?

『デス・ストランディング』は他者と距離を置くことで人にやさしくなれるゲーム。小島秀夫監督インタビュー_03

小島人間です。配達症候群にかかってしまった元配達人ですね。ミュールは人の命は取りませんが、それとは別にいるテロリストはヤバいです。むちゃくちゃ強いので、見かけたら遠回りしたほうがいいですね。

──正面突破は難しいですか?

小島シューターが得意な人ならいけますよ。

──大きいストーリーはあるわけですよね。その進めかたも変わるのですか?

小島世界の点と点を結ぶというメインの目的はあるんですけど、オープンワールドなのでどう進んでもかまいません。自分が通ったところが道になるんですね。道を残すゲームです。道とは生きかたであり、人生であり、歴史であったりするわけじゃないですか。それを自由にできるゲームなんですよ。

──プレイヤーの行動によってフィールド内に新しい道ができていく、とおっしゃっていましたね。

小島人の足跡の上を通るとそれが獣道になり、やがて道路になります。自分が行ったり来たりすることでも道になっていきます。シルクロードみたいなものですよね。点と点をつなぐと人がそこを通り、異文化、異人種が交流することで、いろいろな人が仲よくなる。その一方で、戦(いくさ)も軋轢も生まれる。そこも体験してもらおうと。

──おお、そこまでは東京ゲームショウでも言及されてはいなかったですよね。

小島最初のころは荷物配達ゲームとか、ウォーキングシミュレーターとか言われていましたけど、そのあたりをわかってもらうには、とにかく遊んでもらうしかないと(笑)。

間接的だからこそ、相手を思いやれる

──今回のプレイ映像を見てとくに印象的だったのは、『DEATH STRANDING』はオンラインという要素を取り入れながらも、他人に対してものすごくポジティブに協力したくなるような仕組みになっている点です。

小島オンラインって、世界中の人が直接的につながりますよね。それで、匿名なのをいいことに、他人を心ない言葉で傷つけても何とも思わない人たちがいる。ゲームにしても、ネットにつながって何をするのかというと、銃で撃ち合ったりしているわけです。テクノロジーの進化によって世界中がリアルタイムでつながっているのに、何でそんなことばっかりしてんの……というのもあって。ネットに疲弊している人って、けっこういるじゃないですか。

──現代の電子掲示板、SNS、オンラインゲーム、すべてが抱えている問題ですね。

小島いまから200年くらい前は電話もなかったので、遠方にいる人とのコミュニケーション手段は手紙ですよね。たとえば、異国の戦地にいる兵士が奥さんに手紙を書くとします。“元気にしてる? ここで死ぬかもしれないけど、まだがんばってるよ”と奥さんのことを思いながら書くでしょ? このコミュニケーションにはすごくタイムラグがあって、手紙は船に載せられて国を渡り、3ヵ月後くらいに奥さんのところに届くんです。奥さんがその手紙を開けたときには、すでに旦那さんは死んでいるかもしれない。いまのように双方向ではないから、彼が手紙を書いたときの状況を思い浮かべて、相手のことを考えないとコミュニケーションは成立しないんですね。そういう、間接的なコミュニケーションをいま皆さんに与えることで、思いやりが出てくるかなと。

──間接的なほうが相手を思いやれるって、おもしろいですね。

小島ゲームって、これをやると自分がパワーアップするとか、お金が儲かるとか、自分のために行動するのが基本です。橋を建てるにしても、自分が通りたいから建てるんですよ。でも、『DEATH STRANDING』では、自分が建てた橋は世界中の人と共有され、ほかの人が利用すると、その人から“いいね!”が飛んできます。これを体験すると「橋はあそこでよかったのかな?」と考えるようになって、そのつぎに取る行動は、自分のためだけでなく、ほかの人にとっても便利な場所を選んで建てるようになるんです。不要なアイテムを捨てるにしても、誰かの役に立つかもしれないと共有のロッカーにしまっておいたりと、そういういいスパイラルが起こればいいなと思っています。でも、この“いいね!”はウチのスタッフは猛反対だったんですよ。「自分のメリットにもならないことに、誰が“いいね!”なんてするんですか?」と。

──実際、“いいね!”にはゲーム上のメリットはないのでしょうか?

小島“いいね!”は無償の愛ですね。お金や武器になったりはしません。

──その人の“徳”みたいなものですか。

小島フィールドに建てたもの、置いたものについても“いいね!”の数が見られるので、たとえば休憩所を建てたとしたら、多くの人に利用してもらって人気のスポットにしたくなるんです。これは現実世界と同じで、休憩所は道沿いにあるほうが寄ってもらえる確率が高いので、「じゃあ道から作るか」という人も出てくる。高速道路のようなものも作れるので、そこから誘導するとか。そうかと思えば、「俺は誰もこないような秘境に建てるんだ」みたいな人もいて。ものすごく辺鄙(へんぴ)な場所なのに、やたら“いいね!”がついていて、その先に温泉があったとか、そういうのがいままでのゲームと違います。

『デス・ストランディング』は他者と距離を置くことで人にやさしくなれるゲーム。小島秀夫監督インタビュー_04

──“いいね!”の逆の“Dislike”はないんですね。

小島この世界の意思表示は、ポジティブな“いいね!”しかありません。「この橋、ジャマだなあ」と怒っている人もいるかもしれませんけど、これが間接的なつながりです。足跡を見て、なんであっちに向かったんだろうとか、なんでここで休憩したんだろう、なんでここでおしっこをしたんだろうとか、いろいろ考えるじゃないですか。じゃあ、自分もおしっこしてみようとか。そういうつながりです。21世紀のハイテクな時代に、アナログなコミュニケーションに戻りましょうという試みですね。

──プレイ映像を見た限りでは、“いいね!”を2回しているところが確認できましたが、どういう仕組みなのでしょうか?

小島まず、他人が置いたものを利用すると、自動で“いいね!”が送られます。たとえ、あげたくなかったとしてもです。ちなみに、これについては北米のモニターの人にだいぶ反発されました。「“いいね!”を勝手に送るのはやめてくれ」と。理由は、彼らはチップ文化だからです。アメリカ人は対価のためにサービスをしますが、日本は“おもてなし”の精神ですよね。ですから、『DEATH STRANDING』には西洋と東洋の両方の文化が入っています。自動で“いいね!”が送られて、「よくぞ、ここに置いてくれた!!」という場合は、さらに“いいね!”が送れるようになっています。

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──それにしても、どうしてこのような要素をゲームに盛り込もうとしたのでしょうか?

小島いちばん思っていたのは、ぜんぜんゲームが変わっていないということです。ゲームがオンラインになって、無人島で戦ったり、協力して共通の敵を倒したり、それはそれでおもしろいんですけど、その先がないじゃないですか。皆さんが必要としないから作られないのか、そういうゲームが存在しないから必要かどうかの判断がつかないのかわかりませんけど……。僕の役割としては、『メタルギア』でステルス・ゲームを創ったときのように、やはり新しい世界を見せたいと。それで、今回はストランド・ゲームと呼んでいます。自分で名前をつけるのはイヤなので、ファミ通さんが名前をつけてくれたらいいんですけど(笑)。

──それは難しいお題ですね(苦笑)。

小島新しい世界といっても、これまでのゲームのように武器を使うことはできます。でも、武器で人を攻撃しても誰も褒めてくれませんし、“いいね!”ももらえません。BB(ブリッジベイビー。主人公・サムが行動をともにする赤ん坊)も、人を撃ったりするとストレスがかかるので泣きます。あの世界で褒められるのは、唯一、人のためになることだけなんです。それも結果論で、自分のためにやったことでも、あとあと誰かの役に立っていたりすると。

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──直接関わることのない、どこかの誰かが操作しているサムを感じながらプレイするというのが、とても新しいですよね。

小島“おなじゲームを遊んでいる”ってそういうことじゃないですか。お互いに撃ち合うのではなくて、間接的に関わっている誰かがほかにもいるんですよ。その幸福感というか、安心感ってありますよね。寂しくて孤独だったけど、自分みたいな人がほかにも世界中にいると。これは、コミコン(アメリカ・サンディエゴで誕生したポップ・カルチャーの祭典)に行ったときなんかと同じ感覚です。僕のまわりにはぜんぜんオタクなんていなかったのに、ここではふつうにいる。なんだ、みんなおったんか、ひとりちゃうわ、って(笑)。でも、ずっと距離感はあるんです。あまり近づいてしまうとね……。好きな女の子と恋愛しているときはいいですけど、結婚したらえらいことになるじゃないですか(笑)。

──それはまた別の問題のような気もしますが(笑)。

小島いずれにせよ、距離はあったほうがいいんです。とはいえ、ネットがない時代に戻ることは無理なので、ネットのある時代でちょっと違うコミュニケーションを取りましょうというのがストランド・システムというわけです。

“つなぐ”ことが意味するもの。象徴的な舞台としてのアメリカ

──東京ゲームショウで流された水樹奈々さんからのビデオメッセージで、“人間社会をそのまま映し出したゲーム”とおっしゃっていましたけど、突き詰めるとそういうことになりますよね。

小島国内メディアのインタビューなのでサービスで……。『DEATH STRANDING』は、“つなぐ”ということをゲームでやるんですね。それは親と子、生と死、都市と都市、ネット上の誰かと自分、ノーマン・リーダスさんのファンとマッツ・ミケルセンさんのファン、星野源さんのファンと三浦大知さんのファンをつなぐとか。では、つなぐとは何なのか。つなぐとは責任を取ることです。そして、それはとても厄介であると。結婚もそうですし、友だちとも頻繁に会っていたら喧嘩もします。いまのネット上のコミュニケーションは、その“責任を取る”という誓いもなく攻撃し合っている状態です。『DEATH STRANDING』では、距離は置くものの、つながりができてくると、そこは責任を負わないといけなくなる。そういうシチュエーションがゲーム内で起こります。どこかで知り合って、つながったということは、「知らん」では済まされません。だから厄介なんですよ。アメリカをつなぐということもそうですし、人それぞれのつながりって身の回りであるじゃないですか。学校の先生とか先輩、後輩、彼女や親とか。日本は分断してはいませんけど、そういう自分のつながりというテーマにどこか引っかかるはずなんです。

──とても重いテーマに感じますが……。

小島初めはそうは感じないと思います。つながっていくと徐々に……ですね。『DEATH STRANDING』の世界には“BT”という常人には見えない“あの世”の存在がいて、万が一そいつらと接触して食われると、その一帯がクレーターになってしまいます。ですから、一般人は外には出られず、隔離された地下で暮らしているんです。サムたち配達人が荷物を届けても、出迎えてくれるのはホログラムで、中にも入れてくれない。そういう経験をしながら、でも褒められ、つながっていく。そんな中で、ものを届けるというのは“未来”なんです。その未来を信じて、届くかどうかもわからない荷物を待っている人がいる。いまのネット世代の人たちも、そういうのを経験しながら、何となくわかってくるかもしれません。

──この、つなぐというテーマを表現するうえで、舞台をアメリカに選んだ理由はなぜでしょうか?

小島これはアメリカではあるんですけど、どこにでも当てはまるように作ってあります。ゲーム中でアメリカの特定の地名は出していないんですよ。

──あくまでガワというか。

小島そうです。見た目は生まれたての地球みたいな感じですよね。いわゆる“アポカリプスもの”の荒廃した世界ではなく、時雨(ときう)というものが降るとすべてを溶かして、原始の地球のようにしてしまうという設定です。そこをたったひとり、道なき道を行くので、他人の足跡があるとめちゃくちゃうれしいんですよ。それでついて行ったら崖から落ちて、荷物がつぶれたこともありましたが(苦笑)。

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──ゲームの目的としてはアメリカの東海岸からスタートして西海岸を目指すようですが、行ったり来たりはするのでしょうか?

小島東から西へ都市をつないでいくうえで、点と点のつなぎかたは人それぞれです。カイラル通信がつながった範囲で寄り道をしたり、道を整備してクルマで大量輸送したり、はたまた単独で暮らす“プレッパーズ”に会いにいってもいいです。プレッパーズはいろいろなところに点在しているので、マップが歯抜けになったりするでしょうけど、それ自体は問題ないです。100%マップをつなぎたい人は全員に会いにいってくださいと。

他者の痕跡の表示はプログラムで完全制御

──他者が置いたものや足跡がどのように自分のフィールドに反映されるのか、気になっている人も多いようです。

小島他者の痕跡はカイラル通信がつながらないと反映されません。そのため、まずは自分自身の力で目的地にたどり着き、カイラル通信をつなぐ必要があります。当然、初めて歩くエリアには他者の痕跡はありません。

──どれくらいの人と世界を共有するのでしょうか?

小島すべてプログラムで制御されていて、ほかのプレイヤーとのコミュニケーションが多い人ほど痕跡がたくさん出ます。コミュニケーションが少なめの人は、あまり痕跡が出ません。

──たとえば、100人ぶんの痕跡でフィールドが埋め尽くされるといったことはないと。

小島皆さんが危惧しているようなことは起こりません。発売してから半年後に遊んだら、建造物が建ちまくっているのでは、と言われますけど、それはゲームプレイの進捗など、フラグで制御しています。非同期なので、そこはうまくできるんですよ。また、建造物なども時雨によって溶けていくので、長時間放置していると消えてしまいます。維持したい場合はメンテナンスが必要ですね。僕なんかは自分で作るのがめんどくさいので、人が置いたものばっかり使って“いいね!”をあげています。“いいね!”をあげているとそれだけでつながりがありますけど、他者からの“いいね!”はあまり来ないです。

──あとは、自分が置いたものを他者が使えるようですが、ちょっと置いたつもりだったのに、いつの間にかなくなっていた、ということはありうるのでしょうか?

小島自分のメインミッションで必要な荷物はなくならないです。装備などは、けっこうな距離を離れたり、時間が経つと、なくなることもあります。ですので、大切なものはロッカーに入れてください。ロッカーには、他者に対して「どうぞ自由に使ってください」というシェアスペースと、自分だけが出し入れに使えるプライベートのスペースがあります。

──東京ゲームショウでのプレイ映像では、キャッチャーという敵と戦っているときに、他者(白いサム)が加勢しているシーンがありましたね。

小島あれは、コミュニケーションボタンを押すと、いまオンライン上にいる、自分とつながっている人たちが勝手に来ます。

──加勢するほうはとくに操作はしないんですね。

小島そうですね。共闘するわけではないです。

──呼ばれたほうはどう気づくのでしょうか?

小島白いサムに声を掛けると、返事をしてアイテムを投げてくれるんですけど、取った瞬間に相手に“いいね!”が飛ぶので、それで気づけます。さらに追加で“いいね!”を送れるのですが、キャッチャーと戦っているときに“いいね!”をあげるのはなかなかたいへんです(笑)。

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──そもそものお話なのですが、オンラインにつながないとどうなるのでしょうか?

小島他者のサポートがいっさいない、完全にスタンドアローンのゲームになりますね。プレイステーション4はネットにつながっている人が多いでしょうし、僕の狙いとしては、ふつうにソロプレイをしている感覚だけど、自然とほかの人とつながっているという状態です。この要素がないと、新しいおもしろさはないです。ネット環境がない人や、オンラインはいっさいイヤという人もソロプレイはできますが、あんまりやってほしくないですね。

──オンラインの機能がカギを握っているのに、実際はオンラインゲームのような感じはいっさいしませんね。

小島モニターをかなりやったんですけど、ふつうのゲームと感覚が違うんですよね。たとえば、途中でバイクを手に入れたとして、最初は誰も手放さないんですよ。カスタマイズしていくうちにかわいくなっちゃって、これ以上バイクでは進めないという場所に来ても、まだまだ充電して、それで最後まで行こうとする。バイクなんかは積極的に共有すべきで、街中にあるシェアサイクルと同じです。従来のゲームを引きずって入ってくるから、なかなかわからないんです。ある程度プレイが進むと、「これ、カスタマイズしたけど、みんなにあげよう」という気持ちになってくる。そんなカスタマイズされたバイクがあったら、みんな乗りますよ。バイクには前のオーナーの名前が残りますし、“いいね!”も届きます。

──履歴はいいですね。監督が乗り捨てたバイクに乗りたいです(笑)。

小島僕の足跡とかあるんじゃないですかね。変な足跡。ちなみに、意図的に悪いことをする人っているじゃないですか。そういう痕跡は“廃棄”を選ぶと自分の世界から消すことができるようになっています。

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ゲームオーバーとVERY EASYモード

──キャッチャーに食べられてヴォイド・アウトすると、どうなるのでしょうか?

小島その周辺に大きなクレーターができます。でも、ゲームオーバーではありません。従来のゲームにおけるゲームオーバーって、時間が巻き戻ることですよね。キャッチャーに食べられたらそこに大きな穴が空いて、地形も変わります。道のりも変わって、復旧もできません。

──ということは、フィールドが穴ぼこだらけになることも?

小島あります。ただ、時間が経つと時雨で地面がならされて、またもとに戻ります。ちなみに、クレーターは自分の世界だけに現れて、共有はされません。『DEATH STRANDING』は、基本的にゲームオーバーがないんです。崖から落ちたりテロリストに撃たれたりして死んだりすると、サムは“結び目”と呼ばれる海中の空間で魂としてさまよっていて、自分の体を探すことになります。体に入ることができると、あの世とこの世のあいだにある“結び目”からこちらに戻ってくることになります。初期のトレーラーでサムが裸で立っていた場所は、結び目の向こうにある“ビーチ”。あそこから奥はあの世です。

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──戻ってきても、クレーターはそのままと。

小島そうですね。時間は戻りません。ゲームオーバーって、ふつう“コンティニュー”ですよね。“人が死ぬ”ということをルールとして割り切っているんです。これは、アーケードが3分でゲームを終わってもらうために始めたルールなんですよ。いまだにそれを使っているわけです。そこは、『DEATH STRANDING』ならではの要素を入れています。これとは別に、ミッションフェイル(任務失敗)は当然あります。届ける荷物がなくなったり壊れてしまった場合は、少しだけ巻き戻ります。

──ゲームとしては、ちょっと難度が高そうな印象があったのですが、VERY EASYモードを用意されているそうで。

小島VERY EASYモードでは、キャッチャーは2〜3発で死にますし、荷物のバランスも取りやすいので、サムもそんなにコケません。でも、どうしてもコントローラを動かさないといけないのと、使うボタンの数は変わらないので、ゲームが苦手な人には練習してもらうしかないですね。ムービーを見るだけのようなものも作ろうと思えば作れますけど、それではゲームのよさって出ないじゃないですか。やっぱり、自分でサムを操って、カメラを動かしてもらわないと。

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描かれる表現の幅とリアリティー

──サムとのコミュニケーションが楽しめるプライベート・ルームですが、すさまじい作り込みでした。

小島メタルギア ソリッド』シリーズでもそうだったのですが、ステルスの緊張って相当なもので、そのバランスとして笑える部分を入れていました。『DEATH STRANDING』も、過酷な道のりをたったひとりで、しかも野宿をしたりして。そんな中でプライベート・ルームに行くことで、ちょっと明るくなってほしいなと。ふだんは自分がサムを操作しますが、あそこでは自分とサムが分かれて、サムを労うことができます。プライベート・ルームは直接的にはストーリーとは関係なく、ユーザーサービスに近いですね。いろいろ遊んでもらって、心が決まったらまた出て行くと。

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──キャラクターが爪を剥がしたり、排泄するというのは、小島監督の作品ならではだと思うのですが。

小島いまやったらダメなんですかね。フランス映画とかは、必ずと言っていいくらいウンコが出てきますよ。排泄は誰だってしますから。日本のアニメの多くはセックスもしなければご飯を食べるシーンもないでしょ?

──これは意識的にやられているのでしょうか?

小島いや、無意識です。サムがあれだけの荷物を運んでいくのに、いつ寝て、いつ食べて、いつ排泄しているのかが描かれないのは不自然です。映画では排泄そのもののシーンはないですが(笑)。

──キャラクターの感覚を共有するというか。

小島けっきょく、ゲームってバーチャルじゃないですか。VR(仮想現実)もそうですけど、絵的にしんどくても、自分はしんどくないんですよね。でも、『DEATH STRANDING』はちょっとしんどい。ものすごく疲れます。北米でのモニター会のとき、元消防士の方がいて「このゲームは俺の仕事といっしょだ。足もとに気をつけなければならない!」と言ったんです。小石につまずいてコケるヒーローはいませんからね(苦笑)。だいたい、早く走ったり、猛烈なジャンプをしたり、空を飛んだりするものです。日常ではできないことをやって快感を得るのがゲームとしたら、『DEATH STRANDING』はそうではなくて、主人公は足もとを見ながら荷物を背負っている。つまりはブルーカラーなんですよね。そんなキャラクターを操って世界をつないでいくと、だんだん逆の快感が出てくるんですよ。最初はしんどいんですけど、歩くだけでこんなに気持ちいいというか。

──目的地が眼下に見えて、感極まったり。

小島気を抜くと下まで転がりますよ。下まで落ちたら荷物はボロボロですから。別の意味で泣きそうになります(笑)。

KONAMIでの30年間と小島監督のつながり

小島ゲームはけっこうなボリュームですけど、僕たちはインディーズなんです。「ノーマン・リーダスを起用しておいてインディーズかよ」とも言われるんですけど、ノーマンさんの出演交渉だって僕が直接やっているんです。

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──それは、小島監督のつながりですもんね。

小島いまから3年9ヵ月前に独立して、そのとき53歳だったんです。もう引退すべき歳じゃないですか。家族にも反対されました。53のおっさんが、お金もない、何もない、たったひとり、オープンワールドのゲームを作ろうとしている。メディアも同業者もボロカスでした。絶対にうまくいかないと。その理由は、世界で有名なゲームデザイナーが独立しても、誰ひとりとして成功していなかったからです。

──事務所探し、スタッフ集め、ゲームエンジン選び、すべて同時進行でしたね。

小島銀行に行っても、お金を貸してくれないんですよ。「小島さんの名声はわかりますが、実績がない」と。日本はそういう国なんです。そうしたら、いちばん大きな銀行の役員が僕の熱烈なファンで、融資してくれたんです。

──ここにもつながりが!

小島事務所についても、参加するスタッフの家族に安心してもらえるように、なるべくいいビルがいいわけです。そこでも、だいたいいいビルでは入居するのに審査があって、「コジマプロダクションって何?」とか言われてしまう。そんな中で、いまのビルの役員が僕のファンで、入居することができたんです。そうしたつながりでゲームを作ってきたんですけど、いまの自分があるのはKONAMIでの30年間があってこそです。KONAMIには感謝していますし、そのつながりは否定できないんです。

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──『DEATH STRANDING』には、ステルスやシューター、サバイバルなど、過去の小島監督作品のエッセンスが入っていますよね。

小島そうですね。むりくり入れているわけではないです。ノーマンさんとは『P.T.』で仕事をしていましたが、マッツさんもレアさん(レア・セドゥ)も、本人は僕のことを知らなくて、お子さんや家族が僕のファンだったり、そういうつながりから作品に出てくれたんです。彼らはゲームに出演した経験もなければ、コジマプロダクションはまだゲームを1本も出していないわけで、ふつうは引き受けてくれませんよ。

──日本語音声を担当された大塚明夫さんや井上喜久子さんも監督のつながりですよね。

小島そうなんですよ。

──ゲリラゲームズと共同でチューンしていったDECIMA(デシマ)エンジンも、『DEATH STRANDING』の完成によってさらに進化したのではないでしょうか。

小島ゲームエンジンは基本的にはツールなので、自分たちのゲームデザインがあって、それに対応したものなんです。そういう意味ではDECIMAエンジンは『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ ドーン)』を作るためのもので、僕たちが作る作品が同じような世界観にならないよう、ライティングやカットシーンのツールなどを改良していきました。彼らのほうでもDECIMAを進化させていき、ある時期で機能を統合することで、DECIMAは近い未来、2〜3歩上がることができると思います。これについても、ひとりじゃなかったわけです。

──最後に、A HIDEO KOJIMA GAMEを待ちわびているファンへメッセージをお願いします。

小島独立1発目の作品なので、お待たせしていますけど……いや、そんなに待たせていませんよね?(笑) 最先端の技術で世界中どこでもつながって、リアルタイムに関係ができているのに、そのせいで喧嘩したり、殴り合ったり、病気になったり……。そういう、ネット恐怖症になりかけている人たちに向けて、人間のコミュニケーションを先祖返りさせることで、思いやりがあったころの時代を疑似体験してもらうのが『DEATH STRANDING』です。「何がつながりなのか」とか思うかもしれませんが、しばらく顔を見ていない家族に会いに行ったり、宅配便のおっちゃんにやさしくなれたり、その答えは人それぞれなのかなと。そういえば、どこかのネットの記事で、「『DEATH STRANDING』のことは自分でもわかっていません」と僕が言ったとか書かれていましたが、そんなわけないんで(笑)。言ったとしたら冗談ですよ。

──それにしても監督、東京ゲームショウの人の波と熱気、すごかったですね。

小島あんなん見たら、続けててよかったと思いますね。

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