2019年9月12日~15日、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2019(12日、13日はビジネスデイ)。2019年9月13日JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)ブースにて行われたeスポーツメディアによるディスカッションの模様をリポートする。
本ステージは、JeSUの主催により、eスポーツを伝えるメディアはこの1年のeスポーツシーンをどのように見ていたかという内容を語り合うもの。各登壇者からJeSUに期待したいことなどが発言された。
参加者は以下の5名。
浜村弘一氏
JeSU 副会長。本ステージのモデレーター。
目黒輔氏
Gzブレインファミ通グループ eスポーツ担当部長
石川龍氏
ビットキャッシュeスポーツ事業部部長SHIBUYA GAMEプロデューサー
大友真吾氏
CyberZ eスポーツ事業部RAGE総合プロデューサー
中村鮎葉氏
Twitch Japan代表
eスポーツ元年”から1年
浜村昨年は“eスポーツ元年”とも呼ばれ、すごい勢いで市場が伸びましたよね。メディアの方々はどのような1年だったと感じましたか?
石川ええ。僕は約2年半SHIBUYA GAMEというeスポーツメディアをうんえいしてきましたが、すごく認知が進行しました。2年半前は、eスポーツというもの自体「よくわからない」という人が多かったが、一般層への認知が広がったことは肌で感じでいますね。
目黒我々は“ファミ通メディア”というイメージが強いかもしれませんがFAV Gamingというプロeスポーツチームを持っていたり、闘会議を実施していたりしています。闘会議2018は、プロライセンス発行ということが話題になりました。その後、2019年ではどうなるかと思っていたら、来場者が1万人増えたんですね。これはeスポーツが根付きつつあるひとつの証拠ではないかとも思います。とくに“スプラトゥーン甲子園”は立ち見で1ホール埋まっちゃうくらいの熱気で、ゲームユーザーだけではなく、世の中にも浸透し始めてているなと感じます。
中村この1年で言うと、日本のプレイヤーの世界での存在感がすごく上がりましたね。これまで大きな大会、大きな賞金の大会に日本のチームはいなかったんです。でも、いまは誰かしらいる。僕は『Dota2』が好きなのですが、数週間前に海外で大きな大会があり、そこでも現地で日本人がインタビューされていたり、eスポーツの大会には、どこかしらに日本人がいるようになったな……というのが1年の印象です。
大友本当に……“バブってる”な、と(笑)。こんなに騒いでいただいてうれしい反面、期待値が高まりすぎているなという風に感じます。過去の日本のバブルのようにならないよう、しっかり地に足つけて、日本ならではの形を求めていければいいのかなと。
浜村“バブってる”と言ってもらいましたが……まさに、そういう雰囲気もありましたよね。もちろん、僕もいろいろな方に“eスポーツとは何か”ということを説明するときに、「海外ではスタジアムが45000人の観客で埋まるんだ」と、もちろんそういう事実はあるんだけど、それはMAXの量を伝えて、煽っている部分もあります。そういったことの期待の反動というのは感じませんか?
石川もちろんその規模の大会がすぐ日本で開かれるわけではないですが、私が最初に取材をしたのは、まさにバブってるというか、ラスベガスで開かれるEVOだったんですね。あの巨大な会場、会場のの熱気をお金を出していただく企業に少しでも体験してもらう、その人達の力で盛り上げていくのが大事だと思います。
大友大会で来場者、視聴者の熱気は着実に高まっています。とくに1年で驚いたのは、モバイルゲームの台頭。1年前はiTunes storeやGoogle Playでの売上TOP20を見ると、eスポーツ的なゲームは2~3個程度しか入っていなかった。ところが、いまは半分くらいがそういった要素のあるゲームになっています。というか「このゲームはeスポーツだ」と認知しなくても遊んでいるプレイヤーが増えていると思います、とくに若い子に。eスポーツが爆発する起爆剤が増えているのではないかと期待しています。
中村バブっているという言葉の定義が難しいとは思いますが(笑)。本来はこの状態をキープしないといけない。日本には顧客がいて、ショービジネスとしてライブエンターテイメントが成り立つポテンシャルがあります。その眠っていたライオンをいかに起こすかというのが課題で、“バブっている”と言うよりも、この状態を一時的にはせず、「これでいけるはずだ」という気持ちでより盛り上げていくのがいいのではないでしょうか。
浜村Twitchでのeスポーツの視聴数は伸びているのでしょうか?
中村日本の視聴データを見ていると、成長率が高いですね。
目黒報道だと、「日本はeスポーツ後進国だ」という伝え方をされますが、逆を言えば“始まったばっかり”と言えます。それぞれ、企業としてはライバルかもしれないのですが、互いに切磋琢磨して、動画視聴社数や登録者数を見て、「まずはここを目指そう」とか、RAGEの演出を見て「こういうやりかたがあるんだ」とか、ライバルがいていい相乗効果が生まれているなと思います。
中村以前は「eスポーツ大会がある」と聞くと、だいたい、誰がそれを主催してどの界隈が参加するのか、すぐに仲間の顔が浮かんできたんです。でも最近は「誰それ、どこがやっているの?」という大会が増えています。それは、自分たちとこれまで関わりがなかった方が増えているということで、いいことだとと思います。
浜村モーターショーでeスポーツ大会をやってみたりとか、自然発生的にどんどんふえています。ありがたいですよね、それは仲間が増えているということでもあります。
石川これまで、eスポーツのスケジュールを手作業で入力して、イベントカレンダーを作っていたのですが、最近ではイベントが増えすぎて、とてもたいへんになりました。イベント数が2~3倍ではすまないくらい。それだけ市場が活性化しているということの現れだと思いますね。
大友客層の広がりで言うと、“バトロワ系”の大会を見に来る人は、客層がビックリするくらい若い。男の子もシュッとしていて、女の子もギャルっぽい感じなんです。そんな彼らが、eスポーツを普通に観戦したり、トイレ待ちの行列で遊んでいたり、喫煙所で『PUBGモバイル』や『荒野行動』を遊んでいるんです。僕らが想像していた客層とはまた違った方々に広がっていると感じますね。
“ノンゲーマーのeスポーツファン”を増やすには?
目黒僕らが困っていたこととしては、ひとつのIPで大きな規模の大会が開かれていても、プレイしていない人には、その情報がまったく伝わっていないという点です。限られた範囲ではものすごく盛り上がっているのですが、横への広がりが弱い。
たとえばオリンピックは、スポーツをしない人でも情報はなんとなく伝わってきますよね、でもeスポーツは伝わってこない。本来、その分断されたクラスタに情報の横串を刺すようなことは、メディアがやらないといけないんだけど、それがうまくできないんです。“総合eスポーツメディア”というのが、いまは成立しない。
何かひとつのタイトルに特化したほうが根付くので、その根付いたタイトルの数を増やしていけばいつか横串を刺せるのかな? ……と、悩んでいるところではあります。
石川僕はもともと、音楽業界にいたんです。SHIBUYA GAMEを立ち上げた際は、“選手、戦う人、裏方、まつわるすべての人に光を当てて、シーンにスポットをあてる、メディア発信でシーンを作る”というコンセプトを掲げました。それは音楽でいうと“いか天(『三宅裕司のいかすバンド天国』)”をイメージしていただければと思いますが、かつてテレビからブームやシーンが生まれたんですね、例えをもう少し最近にすると『ASAYAN』とか。紙のメディアでは『rockin'on』という雑誌が“ロキノン系”と呼ばれるムーブメントを作って、業界を底上げし、それがいまのコンサートビジネスの隆盛にもつながっているのですが、“人”に光を当ててかっこよく見せるというのは大事でしょうね。
浜村錦織圭選手や大坂なおみ選手を見てテニスを見るようになるとか、大谷翔平選手を見て野球を見るようになると言った例がありますしね。
中村やはりどのプレイヤーが出ているか、どのチームが出ているかで、Twitchの視聴数も変わるんです。
ちょっと離れた話になりますが、個人的にもeスポーツを慈善事業でやり続けるのは無理だと思っています。そこでTwitchがやっているのは、視聴と、ゲームプレイと、買い物をつなげるという試み。
「大会を見ました」では終わらず、アマゾンと連携をして、視聴者にいかに買い物をしてもらえるかというものです。それはポップアップのウィジェットを出したりとか、単純な買い物だけではなく、ゲームの公式大会では、それを見るとゲームないアイテムがもらえるとかゲーム自体がもらえるとか。
そうすることでインゲーム人数が増えた、アクティブ人数が増えてよかったとか、プレイヤーにとってはまず無料でアイテムを使ってもらい、その後購入してもらう方向へつなげるなど、見ることをプレイにつなげ、買い物につなげるというプランをメディアとして開発していて導入も進んでいます。
昨年、あるeスポーツチームと我々が連携して、そのチームのグッズを販売するキャンペーンを行ったところ、そのチームの公式サイトで売り上げた数を、1週間で販売することができました。ここにいるメディアの方はご存知のことと思いますが、やはりメディアとEC、通販サイトは相性がいいんです。うまくそういう循環を作れないかとすごく可能性を感じたところですね。
JeSUの発表(ノーアクションレター)が今後与える影響とは?
浜村昨日、JeSUの発表で法律関係についてガイドラインなどを発表させていただきました。皆さんはあの発表を見てどのようにお感じになりましたか?
大友大会の参加者から参加費が取っても賭博罪にはあたらないということを、JeSUが正面切って証明してくれたのは業界にとって明るいニュースです。大規模大会を運営するのはたいへんなので、運営費の一部を参加費で担保するのはかなりありがたいです。そもちろん、中小規模大会の主催者にとってもかなりいいことだと思います。
浜村近くの商店街から20万円とかもらって分けようというのが安心してできるようになる。
中村ニュースで拝見しました。賞金と参加費について、両方とも法的にはっきりとしたということで、ありがとうございます。
浜村確定しないとなかなか発表できませんから、極秘で進めておりました。
中村これまでもあったと思うのですが、文面になるのはぜんぜん違いますから。私は個人でコミュニティ大会の運営もしていて、“参加費を取ったほうが大会運営が楽”というのは実感で知っているのですが、これまで確定的な法律の文面がなかったので……。「大会を1から始めたい」という人に背中を押せる発表だったと思います。
浜村ようやくですが、いい形で整理できたのではないかなと思っています。
地方とeスポーツ。その課題とは
大友いま、初めてeスポーツ大会を開く自治体や個人の方に手引書になるものを作っているんです。RAGEを立ち上げたときは経験がなかったのでわからなかったのですが使用するオススメの機材や放送するときの権利周りなどのガイドブックを今月末発行する予定です。
浜村JeSUにも、「eスポーツ大会をやりたいんだけどどうしたらいい?」というお問い合わせは地方からも多いんです。とてもいいと思います。
石川僕は愛媛県の出身で、東京からは離れたところで育っているので、地方でもそういったイベントが行われるようになるというのは、とてもいいなと感じますね。地方創生の一歩になると思います。
浜村日本のeスポーツは都市型というか、どうしても大都市でしか大会が行われないという面があります。海外ではどんな感じなのでしょう。
中村アメリカだけ、例外的にいろいろな都市で行われていますが、そのほかの国でも、日本と同じように大都市集中という感じですね。ただそれも当たり前というか、仕方のないことだと思います。
あと、いつも私はTwitchという会社側の立場でお話させていただこことが多いのですが、今回は少しユーザー側の立場でお話させてください。僕は、個人で“令和トーナメント”という一般社団法人の理事でもあり、大会の運営もやっているのですが、日本のユーザーは甘えている面があるというか、大会が開かれるのを待ちすぎていると思うんです。
自分の町でeスポーツ大会でやりたいのであれば、やってみるといいと思うんです。土壌はあると思いますよ。逆に「大会がないなら自分たちで開こうぜ!」という意思と実行力があるから、アメリカではいろいろな街で大会が開かれているんです。
あのねえ……東京でやっているこっちもたいへんなんだよ!(笑)
(一同爆笑)。
中村東京だから勝手に大会ができるんじゃなくて、がんばっている人がいて、できてるんですよ……と。
大友人材も都市部に集中しているがゆえに……というのはありますよね。
浜村人材も難しいですよね。
大友運営ノウハウも含めて、いまは東京に集中してしまっていて、仮に西日本でやろうと思うと、アゴアシマクラ(食費、移動費、宿泊費)でコストも上がってしまうというのがあって。
目黒地方創生という意味でいうと、土着というか、地域に根づいたeスポーツチーム。地域運営というのがあっていいと思うんです。阪神巨人戦が盛り上がるのも、関西対関東というアングルがあるからで、チームに地域性があるとストーリーも作りやすい。地方から出てくるチームが横浜DeNAベイスターズのように、市民、区民に応援されるようなチームになるというのは、可能性があると思います。
浜村地方に住んでいるeスポーツファン自身がやらなければいけないと。富山県では堺谷陽平さんが町ぐるみ、県ぐるみで行政を巻き込んでやっている。九州でもEVOを呼んできたり、情熱の塊みたいな人がひとりいつだけで、じつはできちゃったりする。
石川僕は先程も言ったとおり愛媛県の田舎の出身なのですが、そこにプロレス団体が地方興行でマットやロープといっしょに来てプロレスをやってくれることが、すごく新鮮な体験で、子どもにとって原体験になったりする。“地方巡業”というのはとてもいいことだと思うんですね。そこで大友さん、ぜひ、RAGEの全国ツアーをやりませんか?
大友いいですねえ(笑)。じつは、“RAGEブロスタ”では、全国7都市で地方予選をやっているんです。エネルギーあふれる地方の方が手を上げてくれて。そういったスキームでトライし始めています。地方のメディア、テレビ、新聞巻き込みながらイベントをやり、その中でeスポーツをやろうと。
浜村地方の新聞社やテレビ局は、地元のスター選手に出てきてほしいでしょうね。
目黒全国数ヵ所に行きましたが、地方の皆さんがあたたかいんですよね。イベントごとに対して熱量の高さというのは感じます。地方のコミュニティーは大事ですから、いろいろなところにコミュニティーを作らないとと思います。
中村Twitch自体はメディアに徹しているので、イベント自体はそんなにやらないのですが、ストリーマーやパートナーとコミュニケーションを取ることが多く、そうすると、みんなけっこう地方にいるということを、我々はしっているんですね。じつはこの人とこの人が、近い地域にいるということだったり。それを僕らは知っていますし、もしイベントやりたいとなったときに手助けできることはあるとおもうんです。ボク個人では、社団法人でやっているノウハウもあるので、小さい大会のときでもお手伝いできることはあるんじゃないかなと思っています。
メディアがJeSUに求めるものとは?
浜村メディアから見たJeSUへの期待や求めるものなどはありますか? 忌憚なきご意見をお願いします。
中村昨日発表があったような法律周りの整備では、1プレイヤーや外資企業には難しいところがあるので、そこは引き続きお願いしたいです。つぎの課題はすでに発表されていますし。
石川そうですね、プロライセンスを保有している選手のみなさんが、いまでも輝いていると思いますが、より輝く仕組みの部分、見せかたの部分での期待はあります。引いて言えばブランディング。
概念的ですが、いい模範となってもらって、メディアが見習いながら選手を際立たせる、光らせる、それでeスポーツを支える人たちが輝ける……という時代が来ると思います。
浜村いっしょにやってほしかった……。
石川(苦笑)。
目黒たとえば、こういうパネルディスカッションという場はなかなかお会いできない人と会える場でもある。そういう場をセッティングして、eスポーツ業界でのハブ(接続)役になってほしい。熱量を持った人たちを出会わせるハブに。そういった人と出会い、何かをいっしょに作りたいですね。
大友本来集まらない人たちが集まって、それぞれのためではなく業界のためにやる。たとえば僕もいま、ニコニコといっしょに作っていたりします。ただ各社の利益のためだけではなく、業界全体のためにやっていこうぜという雰囲気が出ているのはいいことだと思います。
……と、いったところで、さまざまに熱い話題が語られたパネルディスカッションは時間が来て終了となった。
所属企業も異なる各メディアが登壇したディスカッションの中で、大友氏からは「一蓮托生で」とのコメントもあったように、会社は異なっても同じeスポーツに関わるものとして、実感を含めた多くの示唆に富む発言が多くなされたステージとなった。
JeSUやメディア、そしてプレイヤーやコミュニティーといったeスポーツに関わる人々が自由な発想で手を取り合うことで、これからのeスポーツ界がより一層の発展していく。そんな未来に期待したい。