2019年9月12日(木)から9月15日(日)まで、千葉・幕張メッセにて開催中の東京ゲームショウ2018(14日・15日はビジネスデイ)。

 開催初日となる12日、日本eスポーツ連合(JeSU)ブースにて『レインボーシックス シージ』の今後の展開について講演が行われた。

 この日に登壇したのは、ユービーアイソフトでEスポーツシニアマネージャーを務める宮田幸子氏。発売から4年目を迎え、さらなる盛り上がりを見せる『レインボーシックス シージ』のeスポーツシーンにおける国内外向けの方針を、これまでの経緯を踏まえたうえで宮田氏が詳しく解説した。

・ファミ通.com 東京ゲームショウ2019特設サイト

『レインボーシックス シージ』初期出荷3万本から150万人のプレイヤーを抱える大ヒット作に。eスポーツ市場で成功した要因は「プレイヤー第一主義」【TGS2019】_01
宮田氏は「開催初日のお忙しいなか、お集まりいただきましてありがとうございます」と挨拶。
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ユービーアイソフトの代表取締役社長/アジア地域代表取締役のスティーヴ・ミラー氏も登壇。「『レインボーシックス シージ』は発売当初、すべてのプラットフォーム合計で日本では3万本しか出荷しませんでした。その後、コンテンツの増加やサービスの安定化および改善を実施したこともあり、全世界で5000万人の方に遊んでもらえるようになりました」と、これまでの実績を説明した。
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JeSU副会長の浜村弘一氏もステージに上り、『レインボーシックス シージ』を「日本でいまもっとも視聴者数が取れる作品」と分析。「これがどうやってここまで育ってきたのか、ぜひ聞いてみたい」と述べた。

“初回3万本”から“5000万人”へと発展したワケは

 『レインボーシックス シージ』が国内で発売された4年前の一人称視点シューティング(FPS)シーンは、ストーリーモードをひとりで進めるゲームが人気だった(※)。対戦型オンラインゲームは日本人の好みに合わないのではないか空気を感じることもあり、宮田氏自身も当初は本作の売れ行きに不安を抱いていたという。

※編注:基本無料の対戦型PCオンラインFPSはブームが続いていたが、買い切りパッケージタイプのFPSとはプレイヤーの傾向が異なるのかもしれない。

 ところがふたを開けてみると、コミュニティーの支えもあり人気が急上昇。全世界で5000万人を超えるプレイヤーを持つタイトルにまで成長した。

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『レインボーシックス シージ』はほかのFPSよりもマップが狭い。本作が発売された当時は広大なマップで戦う作品が多かったため、宮田氏はこの点にも不安を感じたという。

 一方で日本国内では、現時点で150万人を超えるプレイヤーが本作を楽しんでいる。ここまで成長できた要因として、宮田氏は以下の4つを挙げた。

【既存プレイヤーのための施策】
 新規コンテンツを定期的に追加。3ヵ月に一度のペースでオペレーター(プレイヤーが操作するキャラクター)を投入してきたほか、新たなマップの追加や旧マップのリメイクも随時実施。現役プレイヤーを飽きさせないための施策を怠らなかった。

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初期オペレーターは20人だったが、いまでは50人以上に増加。サービス開始から10年で100人を目指しているという。

【新規プレイヤーが入りやすくなる施策】
 初心者を狙った悪質な行為を防ぐべく、チームキル(悪意のある同士討ち)を抑止する機能を導入。また、ニューカマーと呼ばれるビギナー専用のプレイモードを追加し、新規プレイヤーでも快適に遊べる環境を整備した。

【コミュニティーの意見を尊重】
 プレイヤーから寄せられるフィードバックに耳を傾け、コミュニティーの身近な存在になることを心掛けた。また、世界各国のSNS上でどのような声が上がっているのかを調べる専用のチームを設置。無数のフィードバックが開発チームに集められ、プレイヤーの要望ができるだけゲームに反映される態勢を構築した。

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オフラインイベントではコスプレイヤーが多数来場するなど、コミュニティーどうしの交流も活発に行われている。

【eスポーツ】
 eスポーツの盛り上がりが、本作のプレイ人口に好影響を及ぼしているのは確かな事実。詳細は後述するが、各地で大会が開催されるたびに、より多くの人が『レインボーシックス シージ』を遊ぶようになっているとのこと。

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女性プレイヤー限定のイベントを開催するなど、eスポーツのすそ野の拡大にも努めている。

本作のeスポーツ戦略の現在と未来

 『レインボーシックス シージ』の世界大会は2015年から開催されていたものの、そこにはまだ日本チームの姿はなかった。

 しかし、2016年の12月にアジア太平洋地域がプロリーグに参加したことを契機に、国内における“大会の歴史”が動き出す。2017年11月に有力チームの一角“eiNs”が初めて世界大会に進出を果たし、そこからつぎつぎと日本チームが頭角を現したことで状況は一変したのである。いまでは“アジアの上位国”とまで言われるようになった。

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本作で開催されてきた世界大会の歴史。

 こうした経緯もあり、いまや日本は海外に匹敵、あるいはそれ以上に『レインボーシックス シージ』の大会が盛り上がる国へと成長した。

 これを受けてユービーアイは、2018年10月に東京で“Pro League Season 8 APAC Finals in TOKYO”を実施。現在も“Pro League Season 10”が開催されているなど、着実に拡大の歩みを進めている。その人気もかなりのもので、同大会の模様を伝えるインターネット中継が、日本国内だけで150万回もの視聴回数(平均同時視聴者数は1万6000人)を記録した。

 先述の通り“Pro League Season 10”はいままさに行われているところなので、この数字はさらに上積みされる見込み。宮田氏によれば「日本国内の視聴数は北米の視聴数とほぼ同じ」というのだから、国内の盛り上がりぶりは推して知るべしだ。

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世界のプロリーグは4つのリージョンに分けられ、日本はアジアリージョンに属している。
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今年の2月にカナダで開催された大会の最高同時視聴者数は、何と7万人!
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世界大会の国内視聴者数の推移。日本チームの活躍と視聴者の数が、見事に比例している。
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PC版、プレイステーション4版ともに、大会参加プレイヤー数が増加傾向。プレイステーション4版の国内大会にも毎回1000人以上のプレイヤーが参加している。

 リーグや大会が長く続いていくためにはチームやプレイヤーのケアも大切だ。『レインボーシックス シージ』ではチームに直接的に給与を支払っているわけでないが、“パイロットプログラム”という仕組みが2018年にスタートしている。

 これは、選ばれたチームのオリジナルアイテムがゲーム内に実装され、その収益の一部がプレイヤーに還元されるというもの。ファンはそのアイテムを購入すると、好きなチームを間接的に支援できるのだ。

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日本からは2019年2月に開催された“Six Invitational 2019”で世界4位に輝いた野良連合のスキン(グラフィック)が実装された。

 このように、未曽有の盛り上がりを見せる『レインボーシックス シージ』のeスポーツシーン。そんな中、2019年11月にプロリーグの世界大会が日本にいよいよ初上陸。愛知県常滑市の会場で、熱い戦いがくり広げられる運びとなっている。

 加えて、2020年3月には“Japan League ファイナル”も開幕。eスポーツ競技としての本作がさらに発展していくことも、どうやら間違いなさそうだ。

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4000枚のチケットはすでに完売。入場券がセットで購入できるパックツアーは、発売開始から3分ほどで売り切れたとのこと。
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“Japan League ファイナル”のチケットはまもなく発売予定。
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今後は“参加も視聴も楽しい”大会作りを目指す。
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大会の協賛社を募集中。本作は熱狂的なファンに支えられており、とくに10代~20代(おもに男性)からの人気が高い。効果的なサンプリングができるだろう。
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公式の大規模大会だけでなく、企業やコミュニティが独自で開催するような大会も大切。なるべく協力したそうで、現在は応募フォームを準備中。

 宮田氏による講演が終了後、質疑応答の時間が設けられた。最後に、そこで行われたやり取りをお伝えしよう。

【Q.】“参加も視聴も楽しい大会”を目指すとお話されていましたが、具体的な施策があればお聞かせください。

【A.】PC版では、オープンとマスターのふたつの大会が開催されていますが、マスター大会のほうは、近ごろ勝利を収めるチームが限られてきています。そうした現状を踏まえて、初心者専用のルーキー戦みたいな大会を別途考えているところです。

【Q.】SNSで発信されたプレイヤーの意見を収集する部署があるとのことですが、たとえばありふれたツイッターによるつぶやきなどもチェックされているのでしょうか?

【A.】皆さんの声はなるべくたくさん拾うようにしているので、ツイッターなどによるつぶやきを我々の側でご意見を収集し、開発にフィードバックさせていただいております。この部署は現在も拡大を続けており、(現時点でも)ものすごい人数で対応しているので、細かなご意見まで拾っていけると思います。

【Q.】『レインボーシックス シージ』の中国における展開が以前発表されましたが、その後の情報がなかなか聞こえてきません。中国版は、既存のバージョンとどのような違いがあるのでしょうか?

【A.】そうした(“違い”を設ける)計画が存在したのですが、中国にはさまざまな制限があるので……。開発側のスタッフではないので断言できませんが、コンテンツに手を入れない方向で現在検討しているところです。中国は大切な市場なので、(国内を)あえて刺激するようなコンテンツは入れません。ですので、たとえば既存コンテンツを改造したり……といったこともしないと思います。

 この日に行われた講演は以上の通り。国内でさらなる広がりを見せる、『レインボーシックス シージ』。eスポーツの展開も含めて、今後の動向から目が離せない。

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