2019年9月4日~6日まで、パシフィコ横浜にて開催している日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンスCEDEC 2019。同カンファレンスより、“バンドリ!ガールズバンドパーティ!を支える開発・運用のしくみ”のセッションの模様をお伝えしていく。

Craft Eggの開発部 プロジェクトマネージャー・佐藤崇徳氏(左)、Craft Eggの開発部 キャラクター演出リーダー・井上順行氏(右)。

デバッグ作業の前後に、触れる機会を設けることでゲームの品質をさらに高める

 スマートフォン向けのリズム&アドベンチャーゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、『ガルパ』)。このセッションでは、チームで考えた制作プロセスや開発フローが紹介された。

 まず始めに講演者の自己紹介が行われた。Craft Eggの開発部 キャラクター演出リーダーである井上順行氏は、『ガルパ』のアニメーションと演出のディレクション、進行管理、アセット部分の管理・運用を担当している。ちなみにアセットとは、ゲーム内で使用するCGのモデルデータやアニメーションデータ、音声データといった各素材データのこと。Craft Eggの開発部 プロジェクトマネージャー(PM)であるダニエルこと佐藤崇徳氏は、『ガルパ』プロジェクトのマネジメントや、開発・運用の全体スケジュールの管理を担当している。

 ふたりが所属するCraft Eggは、“人生を豊かにするコンテンツをつくる”というビジョンを掲げており、そのなかでも4つの価値観を重要視しているとのこと。また『ガルパ』では、施策やコンテンツに対して、みんなで意見を寄せ合って、みんなで作品をつくるという姿勢を大事にしている。

◆Craft Eggが大切にしている4つの価値観
(1)ユーザーファースト
(2)チームワーク
(3)チャレンジ
(4)プロ意識

 そんなCraft Eggの主力タイトルである『ガルパ』は、ガールズバンドの活動と青春を描いたスマートフォン向けのゲームで、リズムアイコンをタイミングよく叩いて目標スコアを目指す“リズムゲームパート”と、Live2Dのキャラクターたちの日常的な会話を楽しむ“アドベンチャーパート”で構成されている。さらに、各ガールズバンドが歌うオリジナル楽曲に加え、有名アニメソングやJ-POPカバーを多数収録。これらの楽曲は毎月追加されており、現在の収録曲は200曲を超えている。また月に3本のペースで四季折々のシーズナルなイベントやキャラクターに紐づいたイベントストーリーが追加されているそうだ。

 さてここからが本題となる。講演の前半では、佐藤氏から『ガルパ』の開発はどのように行われているのかが紹介された。そもそも「開発と運用って何ぞ?」という話から。

 開発とは、新機能や仕様変更(バランス調整)といった新たな実装要素のことで、App StoreまたはGoogle playストアで『ガルパ』のアプリケーションをアップデートしなければならない。運用は、イベントやガチャ、キャンペーンといった日々のデータ更新で済む要素のこと。アップデートが不要な代わりに、『ガルパ』のアプリケーションを起動した際にデータのダウンロード及び更新が必要となる。

 開発と運用は、併行してデータの作成やゲームへの実装が行われている。開発のcltとは、ゲームクライアント、つまりは『ガルパ』のアプリケーション本体のことで、cltの横にある“v3.0.0”は、現在のバージョンを指す。このようにバージョンをつけることで、いま現在遊んでいる『ガルパ』はどういった要素が入っているものなのかを明確にしている。また、目に見える形では表示していないが、下記のように開発と運用、それぞれにバージョンを明記してわかりやすく管理している。

 ではどのようにして、そのバージョンに盛り込む新要素を決めるのか。まずは開発プロデューサーが、1年通しての計画と、直近半年間の詳細な計画を立てる。そのうえで施策の優先度を決めて、ロードマップを作成する。「この機能はユーザーからの要望も多いから早めに実装したい」「これは慎重にバランスを調整したいから遅めに実装しよう」みたいな感じで決めていく。ちなみにロードマップとは、新機能などをいつのタイミングで実装するかを時系列にまとめた図のことだ。

 このロードマップを見て優先度の高いものからオリエンテーションを行い、方針を固めていくのだが、優先度が高いもののなかには、作業量が多く、当初のロードマップのスケジュールでは、実装が間に合わないというケースもある。本当にこのスケジュールで実装できるのかという見積もりのもとにプロデューサーと相談しつつ、佐藤氏がどのバージョンでどのようなものを実装するのかを決めている。

 オリエンテーションと見積もりが終わり、実装する要素が決まったら、その要素を各セクションの担当者が作成し、それらを反映させたデータでQAを行う。QAとは、品質チェックのことでいわゆるデバッグ作業だ。新要素を反映させたゲームをプレイして、正常に動作するか、またバクや不具合はないかといったことをチェックして、発見したバグや不具合を修正し、再度検証してユーザーが遊べるものにする。そして、アプリ公開の1~2週間前に対応するOS(iOSまたはAndroid)に申請を行い、OSの審査でオーケーが出れば晴れてアプリケーションを公開。ユーザーはバージョンアップした『ガルパ』を遊べるようになるのだ。

 Craft Eggの開発部では、上記の開発フローを行ううえである工夫をしている。それはQAの前と後に“動作確認会”と“おさわり会”を行うこと。動作確認会は、QAの前に対応メンバー全員でゲームに一度触れておくというもの。こうすることで、ゲームの動作不良、セクション間での連携ミス、仕様の考慮漏れといった問題を早期に発見できる。こうすることでQAで起こりえる作業遅延などの問題を抑えることができ、品質が担保されるとのこと。

 おさわり会は、QAの検証がある程度進んだタイミングで、QAで出た不具合を修正したバージョンを社内メンバー全員で実機プレイするというもの。プレイ後、各メンバーにスプレッドシートを使って、実機プレイで感じたことや発見した不具合を報告してもらう。そして、企画やプロデューサーが集まったスプレッドシートをチェック。不具合があれば修正対応し、貴重な意見があれば次回のアップデートに役立てるといった感じだ。

『ガルパ』のアセットはイベントの5ヵ月前から作成がスタート!

 
 後半は井上氏から『ガルパ』の運用はどのように行われているかが紹介された。『ガルパ』で使用されているアセットは以下のとおり。とくにウェイトを占めているのが、月に3回のペースで行う、イベントとそこで追加されるガチャ専用のキャラクター。

 実際に使われてた7月の運用スケジュールも公開された。それぞれある赤い矢印がひとつのバージョンとのこと。つまり、イベント【1】、イベント【2】、イベント【3】、キャンペーンガチャ・誕生日データ、楽曲追加【1】、楽曲追加【2】、ログインボーナス追加と、計7つのバージョンが開発と併行して運用されているのがわかる。また楽曲データやイベント情報といったデータは、ゲームに反映した時点でユーザーに把握されてしまうので、つぎにどんなイベントや楽曲が来るのかがネタバレしてしまう。そのため、どれくらいネタバレしても大丈夫なのかをその都度、個別に判断しながら実装している。

 つぎに7月31日~8月8日にゲーム内で実際に開催されていたイベントを例に、アセット量が多いイベントでのアセット制作の流れが説明された。アセットは、シナリオ、イラスト、Live2D、スクリプト、UI素材、楽曲&譜面、QA(デバッグ)の7種類があり、これらの更新用のアセット制作は、なんとイベントが始まる5ヵ月前から進行している。全体の流れとしては、まず始めに担当者とプロデューサーがシナリオを決めて物語を制作。それが決まり次第、カードイラストや楽曲ジャケット、Live2Dの衣装などの制作がスタートする。

シナリオのあらすじやプロットが決まった後、衣装のデザインが始まる。このように段階的にアセット制作が進んでいき、最終的に QA へとたどり着く。

 開発チームでは、デバッグ時に同じ認識を持って開発・運用を行うためにデバッグスケジュール中に使用する言語を共通化させているとのこと。Develop確認は、デバッグ作業や修正対応のことで、Dev完了日は文字通りDevelop確認作業の締め切り日のこと。こうした言葉で表現することで、メンバーに締め切り日を意識させてスケジュールの遅れを防ぐ狙いがある。またStgとは、本番とほぼ同じ環境でゲームの動作チェックを行うことだ。

 さらに、井上氏がQAリーダーにDev完了日までにDevelop確認を終わらせる秘訣を聞いたところ、“初日にデバッカーを多く動員して、出来るだけ多くのバグを見つける”とのこと。最初にバグを見つけたほうが品質の向上にも繋がるうえに後々慌てる自体を避けられるという点が大きいようだ。バグ出しが落ち着いたら、新たに実装された機能やアセットのチェックとそれらの修正確認を行い、最終日は、バグがすべて直ったかどうかの確認のみを行う。Craft Eggはこうしてスケジュールどおりにバージョンアップを行っているのだ。

 またデバッグ作業を含め、開発には多くのメンバーが関わっているため、コミュニケーションを小まめに取り、チームの絆を深めていくことが重要だそうだ。現場では、スケジュールが遅れていた場合、怒ったりするのではなく、建設的にものごとを進めるように心がけ、互いをフォローし合うようにしている。井上氏いわく「チームワークを高めるには、ありのままの自分を出せる環境や雰囲気を作ることが大事」とのこと。

 こうした環境や雰囲気を作るには、業務以外の会話も重要であり、Craft Eggでは、自分と相手の年初の誓いを知るための書き初めや、部署を超えた繋がりを作るためのシャッフルランチなど、さまざまな社内施策に取り組んでいる。そのほかにも……

  • その月のアップデートの振り返りや翌月に実装予定のイベントなどの情報を共有する、全メンバー参加の月初会や、半期ごとの総会
  • 複数のチームにわかれての飲み会、通称“プロジェクト横丁”
  • バーベキュー
  • 半期ごとに各チームのリーダーが合宿を行い、課題の解決や議論を行う
  • クリエイティブについて語り合う"クリエイティブ懇親会"

 こういった施策も行い、社員の繋がりを日々強化している。最後に井上氏は、「アップデートが多くて大変ですが、施策などの効果もあり、会話も多く賑やかな現場でなんとかうまくやれています」と、講演を締めくくった。