サービス開始から17年目を迎えた『ファイナルファンタジーXI』の最新サントラアルバム『FINAL FANTASY XI Gifts from Vana'diel: Songs of Rebirth』が、iTunes、amazonMP3、MORA等にて2019年8月9日にデジタル配信開始。これまでのサントラ作品で未収録だった楽曲を中心とした選曲になっている。今回は配信開始を記念して、サウンドコンポーザーの水田直志氏に今回のアルバムのことや初めて音源化された楽曲についてお話をうかがった。

まずはアルバム収録曲をチェック

 インタビューの前に、今回アルバムに収録された楽曲の曲名と、どんな場面で使われた曲かを確認しておこう。

1〜6曲目は、プレイステーション2とXbox360でのサービスが終了した2016年3月以降に追加された楽曲で、今回が初めての音源化となる。

1. For a Friend
バトルコンテンツ“オーメン”のBGM。

2. Full Speed Ahead!
チョコボ以外のマウントに騎乗した際のBGM。

3. Times Grow Tense
バトルコンテンツ“アンバスケード”のBGM。

4. Between Dreams and Reality
バトルコンテンツ“デュナミス〜ダイバージェンス〜”WAVE1〜2のBGM。

5. Disjoined One
バトルコンテンツ“デュナミス〜ダイバージェンス〜”WAVE3のBGM。

6. Winds of Change
バトルコンテンツ“ヒロインズコンバットII”(イロハからの手紙、宮司からの招待状)のBGM。

7〜14曲目は、2015年11月11日発売のBlu-ray Music Disc『FINAL FANTASY XI 〜ヴァナ・ディールの贈り物〜故郷を称えて、冒険の想い出〜』にmp3ファイルとしては収録されていたが、サントラアルバムには収録されていなかった楽曲となっている。

7. Forever Today (instrumental version)
アドゥリンの魔境』エンディングテーマのボーカルなしバージョン。

8. Distant Worlds (instrumental version)
プロマシアの呪縛』エンディングテーマのボーカルなしバージョン。

9. Rhapsodies of Vana'diel ep ver.
“ヴァナ・ディールの星唄”エンディングテーマのエレクトリックピアノバージョン。ファンタスマゴリックのボーカルのみで、冒険者のコーラスは入っていない。プレイステーション2版ではこちらが使用されていた。

10. Iroha
醴泉島エリアのBGM。

11. The Boundless Black
エスカエリアのBGM。

12. Isle of the Gods
“ヴァナ・ディールの星唄”のカットシーンなどで使用されていたBGM。

13. Wail of the Void
“ヴァナ・ディールの星唄”のラストバトルのBGM。

14. ヴァナ・ディールの星唄 -Rhapsodies of Vana'diel
“ヴァナ・ディールの星唄”エンディングテーマ。

iTunes
amazonMP3
MORA
SQUARE ENIX MUSIC

ファンの声がアルバム制作を後押し

運営17年目の『FF11』最新サントラ発売記念。サウンドコンポーザー水田直志氏インタビュー_01

水田直志(みずたなおし)

スクウェア・エニックス所属のサウンドコンポーザー。代表作は、『ファイナルファンタジーXI』、『ファイナルファンタジーXIII-2』、『ファイナルファンタジーXV エピソード プロンプト』、『ファイナルファンタジーレジェンズII』など。

――今回のアルバムは、どんな経緯でリリースされることになったのでしょうか?

水田FFXI』のプロジェクトとして、17周年に何か思い出に残せるものを出せたら……という話があり、これまでにサントラとして出していなかった曲を集大成としてアルバムにしたいと思って企画しました。あと、2018年12月によみうりランドで行われたイベント(“FINAL FANTASY XI FAN EVENT 2018 #FF11メッセージ”)で、ナナーミーゴスで久しぶりに演奏させていただいたのですが、そのときにファンの皆さんから、ここ2〜3年で追加した曲のサントラもリリースしてほしいというお声をもらっていたので、それも制作の後押しになりましたね。

――ファンの声が届いたというわけですね。収録曲を拝見すると、新曲6曲のほかに、Blu-ray Music Discでリリースされていた8曲が収録されていますが、このラインアップになった理由は?

水田基本的には、音楽配信サイトで配信されていなかった楽曲を選んでいます。ライブラリーとして完成させるというか、『FFXI』の曲が全曲いつでも聴けるようにしたかった、というところが大きいですね。あと、Blu-ray Music Discにmp3ファイルで収録していた曲は、聴くまでにちょっと手間がかかるので、音楽プレーヤーやスマホなどでパッと聴けるようにしたいなと。

――確かに、Blu-rayプレーヤーで再生するか、対応機器でファイルを取り出さないといけなかったですもんね。

水田はい。1曲ずつでも購入できますので、気軽に聴いていただければと思います。

音源の制約が大きく軽減された後に作られた6曲

――今回、初めて収録される6曲は、『FFXI』の長い歴史の中では、わりと最近に作られた曲ですよね。

水田この6曲はすべて、“ヴァナ・ディールの星唄”(以下、“星唄”)が完結した後に作ったものなのですが、同時期に『FFXI』のプレイステーション2版とXbox 360版のサービスが終了し、Windows版のみになったんですね。そのため、音源面の制約(※)が大幅になくなり、生音や音価の長い音が使えたりと、いろいろなことができるようになりました。

音源面の制約……プレイステーション2の音源は、内蔵音源とストリーム再生の2種類あるのだが、『FFXI』で採用されていたのは現在主流のストリーミング(オーディオファイルを再生する方式)ではなく、楽器の音(波形データ)を取り込んで、シーケンス(演奏データ)によって音楽を演奏する内臓音源方式だった。サウンド用のメモリはなんと2メガバイト。さらに、同時発音数が48音までで、ゲーム内で使用される効果音の音数も考慮する必要がある。『FFXI』では、一度楽曲を作成した後、プレイステーション2で再現するために楽器の波形データとシーケンスを用意する必要があり、このコンバート作業がとても手間がかかるものだったのだ。

――プレイステーション2でちゃんと再現できるかどうかを、もう考えなくてもよくなったわけですね。

水田とはいえ、これまでとぜんぜん違うものにしてしまうと一貫性がなくなってしまうので、聴いていて違和感のない範囲で、新しいものにしていきたいと思って作りました。画面はいっしょなのに、急に音だけガラッと変わるというのも変なので(笑)。

――音楽だけ最先端でもおかしいですもんね(笑)。

水田はい。違和感がないように気を付けつつも、なにかおもしろいことをしたいなというのが全体的にありました。

――それでは、1曲ずつお話をお聞かせいただけますか。

For a Friend

――2018年12月のイベントでも演奏した“オーメン”の曲ですね。

水田この曲は生のバイオリンを使っています。

――打ち込みではなく、ミュージシャンを起用したと。

水田そうですね。いままでだと、プレイステーション2では生音がきびしいのでバイオリンは打ち込みにせざるを得ない、でも打ち込みだと映えないからやめておこう……みたいな、葛藤というか制限があったのですが、そういう部分がなくなったので、心おきなく使わせていただきました。

――生音の表現力は圧倒的ですね。

水田やはり、生楽器でメロディをとると、すごく躍動感が出ますね。本当はこうしたかったのになぁ……という悔しさを感じずに作れるのは、うれしかったです。

――ライブで演奏されたアレンジのバージョンも、ぜひ音源化してほしいです。そういえば、この曲はライブで演奏することが決まってから『For a Friend』と命名されたとイベントのときにお話しされていましたが、その原題は佐藤さん(佐藤弥詠子氏。スクウェア・エニックスのプランナー)によるもので、“友がために”でしたよね。できれば、ほかの曲に関しても佐藤さんがつけられた原題をお聞かせいただきたいのですが。

水田ちょっと佐藤に聞いておきますね。

というわけで、今回特別に佐藤弥詠子氏による原題を公開しよう。

For a Friend……「友がために」
Full Speed Ahead!……「ライドオン!」
Times Grow Tense……「風雲、急を告げる」
Between Dreams and Reality……「夢と現の間」
Disjoined One……「半身」
Winds of Change……「時の風よ、吹け」

いかがだろうか。原題から汲み取れるニュアンス、選ばれた言葉のセンスはさすが佐藤氏といったところで、単に英題だけ見るのとはまったく印象が異なることがわかるはず。これを見ると、既存の楽曲タイトルすべての原題が知りたくなってくる。

Full Speed Ahead!

――これはチョコボ以外のマウントに乗ったときに曲ですね。

水田確か、この曲が“星唄”の作業が終わってからいちばん最初に作った曲ですね。もう追加はないんだな……と思っていたら、1ヵ月後くらいにメールが来て、チョコボ以外のマウントを実装するので曲をつけてくださいと(笑)。ああよかった、まだ続くんだ……と、そんな思いで作った覚えがあります。

――この曲、ウキウキですよね(笑)。

水田そうですね(笑)。チョコボと似せたというわけではないのですが、そんなシリアスな感じにしないでおこうと……。ちょっと絵面と合わない場面もあるとは思いますが、楽しく移動したいというのを後押しできればいいなと。

Times Grow Tense

――続いて、“アンバスケード”の曲です。これは現役プレイヤーがイヤというほど聴いている曲です(笑)。

水田これはいかにも『FFXI』らしい曲というか、いままでの流れ通りに作ったような感じですね。

――アンバスケードは敵が固定ではなく、月替わりで登場モンスターが変わるコンテンツなのですが、どんな感じの発注だったのですか?

水田ひと言“バトル曲”というオーダーでしたね。ストレートに『FFXI』らしい曲にしようと思って作りました。あと、音源の制約がほとんどなくなったということで、1ループがわりと長めに作ってあります。そこはこれまでと違うところですかね。

Between Dreams and Reality

――“デュナミス〜ダイバージェンス〜”の前半(WAVE1〜2)の曲で、最初のコーラスはインパクトがありますね。

水田まさに、いままでできなかったけどやりたかったのが、最初のコーラス部分になります。ただ怖いだけでなく、神秘的な雰囲気にしたいと思って入れてみました。こういうコーラスが最初にくるのはいままであまりなかったと思うので、新しいフィールドと新しい曲が来た、みたいな感じを出せるかなと。

――新しいデュナミスについては発注時に設定などの説明はあったのですか?

水田設定というか、コンテンツの仕様設計書とビジュアルを資料としていただいています。このときは、暗い世界をどんどん奥に侵攻していくコンテンツと聞いていました。

――オリジナルのデュナミスの曲は意識されましたか?

水田なんとなく雰囲気は近いけれど、地続きであるような感じをイメージしていました。ただ、こちらのほうが自分で進んでいく感じを出しています。おどろおどろしい感じにはあまりしたくないなと……。逆に、後半でめちゃくちゃ気持ち悪い感じにしようかなと、対比を考えて作りました。

Disjoined One

――そしてこちらが“デュナミス〜ダイバージェンス〜”の後半、WAVE3の曲ですね。

水田こちらは、奥に入って「だいぶヤバいところに来たぞ」みたいな感じになればいいなと思って作っています。

――いまの『FFXI』にとっては、ひとつのコンテンツの中で曲が切り換わるというのはとてもぜいたくだなと。

水田『FFXI』のプランナーから、それをやりたいと言われまして。

――だから2曲用意しろと(笑)。

水田最初は4曲くらいオーダーがあったんですよ。でも、さすがにそこまでやるのはどうだろうと……。

――それこそ、WAVEごとに曲が変わるイメージだったのでしょうか?

水田そういうことだったのだと思います。でも、細かく変えると、逆に変わることに慣れてしまって、あまり効果的にならないよとこちらから申し上げて……。せっかくなら、曲数を絞ってかつ劇的に変えたほうがわかりやすいかなと。

――2体目のボスを倒した瞬間に後半の曲に変わるのですが、緊迫感が増すんですよね。曲調は、むしろ後半のほうが静かなくらいなのですが、かえって焦燥感を煽られるといいますか。

水田いろいろなアプローチがあるのですが、今回に関しては特定のタイミングで大きく変わったほうがシーン的にも映えると思ったんですよね。この2曲はそういう試みで作りました。

運営17年目の『FF11』最新サントラ発売記念。サウンドコンポーザー水田直志氏インタビュー_02

Winds of Change

――2018年8月に追加された“ヒロインズコンバットII”の曲ですね。冒険者にとっては最新の曲です。

水田新ヒロインバトルという発注でした。実装はいちばん後になったんですけど、発注をもらったのはかなり前ですね。“星唄”が終わってから、そんなに経っていない時期だったと思います。

――では、作り置きに近い感じですか?

水田そうですね。コンテンツの企画はだいぶ前からあって、曲は作ってあったのですが、バージョンアップの総合的な内容を考えて実装時期を検討した結果、けっこう後になってしまったと聞いています。長いあいだ寝かせていました。

――歴代ヒロインが総登場するバトルフィールドですが、どんなイメージでしたか?

水田企画自体を聞いたときは、もっとポップで明るい感じを想像していたのですが、わりとシリアスなの曲調がいいというリクエストだったので、そのようにしました。ですので、これは自分のイメージというよりは、求められているものに対して作ったという感じですね。

――このバトルは、戦う場所が“星唄”のラストバトルと同じエリアだったので、例の曲(アルバム13曲目の「Wail of the Void」)が流れるのかなと思っていたのですが、ぜんぜん違う曲だったのでびっくりしたんですよ。

水田あの曲はちょっと使い回しできないなと(苦笑)。

――確かに(笑)。あのシチュエーションでしかハマりませんね。それにしても、この曲は楽器の構成としてはけっこう豪勢ですよね。

水田そうですね。ここまでオーケストラっぽい構成は以前は無理だったのですが、制約が減ったのでできるようになりました。ぜひ、このバトルに挑戦して耳を傾けてもらえればと思います。

――今回、ジャケットにイロハちゃんが描かれていますが、これは水田さんからのリクエストですか?

水田ジャケットは僕ではなく、松井(松井聡彦氏。『FFXI』プロデューサー)と藤戸(藤戸洋司氏。『FFXI』ディレクター)、佐藤で話し合った結果、“星唄”以降の曲が中心なのでイロハに決めたと聞きました。

――最後に、いまだ熱量の高い『FFXI』ユーザーに、メッセージをお願いします。

水田よみうりランドでのイベントで、プレイヤーの皆さんからすごく大きな力をいただいた感じがしました。そのおかげもあって、今回サントラを出すことができ、本当に感謝しかありません。今後も『FFXI』をよろしくお願いします。あとは、いま『FFXI』からちょっと離れているという方も、これを聴いて最近のヴァナ・ディールを感じてもらって、少しだけでも帰ってきていただけたらうれしいです。

運営17年目の『FF11』最新サントラ発売記念。サウンドコンポーザー水田直志氏インタビュー_03

ジャケットについて、松井プロデューサーからコメントが到着!

 今回のジャケットは伊藤龍馬(スクウェア・エニックス所属のアーティスト)にお願いしました。伊藤には、よみうりランドのイベントのときにコースターのイラストを描いてもらいましたが、今回もそれに引き続いてお願いしました。彼はもともと『FFXI』をかなり遊んでいたので、ひと言伝えるとパッと10くらい返してくれるような感じなんです。カッコいいリアルなタッチでも描けるのですが、『FFXI』ではかわいらしいイラストを描いてくれています。僕が「かわいらしいのがいい」と言ったせいもありますが(笑)。