2017年にPC向けにリリースされ好評を博した、ゲームフリーク開発による2Dアクション『GIGA WRECKER』が、多数の追加要素を収録して家庭用ゲーム機向けに『GIGA WRECKER ALT.』としてリリースされることが決定した。ここでは、同作の発売を記念して本作のディレクター・尾上将之氏とゲームデザイナー・伊藤博人氏へのインタビューをお届けする。ゲームフリークの社内制度によって作品が生まれた経緯とは?

 なお、『GIGA WRECKER ALT.』は2019年10月24日にリリースされる予定だ。Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One向けで、Nintendo Switchはパッケージ版も発売される。Nintendo Switchのパッケージ版はレイニーフロッグから、ダウンロード版はライジングスターゲームズからの配信となる。

尾上将之氏

ゲームフリーク『GIGA WRECKER ALT.』ディレクター。本職はプログラマー。(写真左)

伊藤博人氏

ゲームフリーク『GIGA WRECKER ALT.』ゲームデザイナー。(写真右)

“物理エンジン”と“ロボット”がキーワードに

――そもそも、2017年にリリースされた『GIGA WRECKER』はどのような経緯で開発されたのでしょうか。

尾上ゲームフリークには、社員がチームを組んでそれぞれ企画を制作・提出し、その中から選ばれたものをプロジェクト化してゲーム開発を行うという“ギアプロジェクト”という開発制度がありまして、そもそもはその企画としてスタートしたプロジェクトです。

伊藤僕と尾上はゲームフリークでは同期で、「いっしょにやらない?」と誘って挑戦することにしたんです。

――『GIGA WRECKER』のベースとなるコンセプトは、どのようにして生まれたのですか?

伊藤まずは、お互いがゲームに組み込みたいもののキーワードを持ち寄ったんです。

尾上自分は最初、「物理エンジンを使いたい」と言った記憶があります(笑)。

伊藤僕は、「ロボットを出したい」と主張していましたね(笑)。そこからどういうゲームを作ろうか、とふたりで話し合いました。

――つまり、“物理エンジン”と“ロボット”というふたつのキーワードがベースになったということですね?

伊藤そうです。あと、“アクションゲームにしたい”という構想は、企画の早い段階からありましたね。具体的な内容はぜんぜん詰められていなかったのですが、“物理エンジンを使ったロボットが登場するアクションゲーム”という3つの軸は、企画の早い段階でありました。そこから、1ヵ月ぐらいかけてさらに練り上げて、ゲームとしての体裁が整うまでブラッシュアップしていったんです。実際の作業は、物理エンジンを試しに組み込んでみて、「これだったらこういうことができそうだな」という感じで進めていきました。

――それは実践的ですね。

尾上ドラム缶みたいなものを2Dで積み上げていったりしましたね。そのドラム缶にモノをぶつけて散らばるのを見て、ふたりでキャッキャ言って喜んでいました(笑)。

――クリエイターさんらしい(笑)。

伊藤その後に、参加してもらったデザイナーさんにお願いして、コンセプトアートを描いてもらったんです。いま思えば、そのコンセプトアートが、プロジェクトの方向性をある程度決めたと言えるのかもしれません。最初ふたりの中では設定や世界観はぜんぜん詰めていなかったのですが、デザイナーさんとのやりとりを通じて、何となく「こういう感じにすればいいよね」、という風にまとまっていったんです。コンセプトアートの完成図から、設定やゲームシステムの案がつぎつぎと浮かんできて、企画の完成がグッと近づいたという記憶があります。アートは、社内でもとても評価が高かったです。

――“ギアプロジェクト”の企画としては、すんなりと通ったのですか?

尾上それなりに手ごたえはありました。ちなみに“ギアプロジェクト”は、応募してきたものから有望な企画がセレクトされて、プロトタイプの制作が許されるんですね。候補はだいたい3つくらいに絞られるのですが、約3ヵ月ほどの制作期間が与えられるんです。そして、プロトタイプの制作が完了したところで、改めて完成度がチェックされて、製品化されるか、それともここで企画をクローズするか、審査が行われます。

――やりがいはありつつも、実現にいたるまではけっこうハードな制作制度なんですね。それで、プロトタイプの制作はどうだったのですか?

伊藤とにかく大変でした(笑)。ゲームのルールをいちから作る必要がありますし。あと、企画書では正直、自分たちの願望をそのまま書いていたところもあるので、それを実際にゲームとして実現化するとなると、かなり苦労しました。さらには、開発では物理エンジンがいうことを聞いてくれないこともけっこうありまして。

――物理エンジンがいうことを聞かないのですか?

伊藤はい。物理シミュレーションというのは、本来この地球上のルールを正しく反映している仕組みです。それはものすごく複雑で、いろいろな要素が絡みあって、結果も千変万化していくものでもあります。ゲームは、それを人間が理解できるようにルールを単純化しているんですね。たとえば、殴ったらダメージが入って、3回殴ったら敵が死んで、死んだらコインを落とす……みたいな。とてもわかりやすい世界になっているんです。実際には、殴る強さは一定ではないですし、その日の体調や相手が打撃を受けたときの角度などによって、受けるダメージは異なります。物理エンジンは、本来はそういったさまざまな要因で結果が変わってくる部分に関わるものなので、ゲーム的にある程度単純化されたルールに落とし込もうとすると、途端におもしろくなくなってしまう。そうなると、使う意味がなくなってしまうんですよ。

――なるほど。

伊藤それだとおもしろくないし、ほかのゲームと比べたときに差別化もできなくなってしまう。そもそも、ゲームの個性が失われてしまうので、そのゲームの存在意義そのものがなくなってしまうんです。だから、物理エンジンの予測がつかない挙動をしていくおもしろさを生かしていきつつ……という、そのさじ加減で苦労しました。あまりにもそれ優先していくとゲームとしてなりたたないし、ユーザーへのストレスが看過できないレベルになってしまうので、そこのバランスを取るためにあえてゲーム的なルールに落とし込むために嘘をつく、といったところはすごく大変でした。

尾上今回、よくある2Dアクションゲームのような挙動を取り入れたいなと思っていました。たとえば、箱がフィールドにあったときに横からすり抜けられるし、そこからジャンプして上に乗れる、というような。とはいえ、こういった2Dプラットフォーマーによく見られる挙動も、物理エンジン上だとふつうに箱にぶつかって押してしまうので、調整していかないといけませんでした。それで、当初使用していた物理エンジンだと対応できなくて、別の物理エンジンを持ってきて、細かく調整していくというスタートでしたね。

気持ちのよいプレイを重視して

――そこからはどのように制作が進んでいったのですか?

伊藤物理エンジンを使用するうえでの問題が解決してからは、ふつうのゲームの作りかたに近い流れで進行しました。まず、フィールドで物理エンジンに則ってものが壊れて、壊れたものがつながって、そしてその上に乗っかって、そこから新しいエリアにいけるようになる、という本作の特徴的なゲームシステムを作りつつ、いくつかステージを制作して、くり返し遊べるように成長要素などを実装しました。

――なるほど、本作の開発においては、物理エンジンとの格闘という要素が大きな部分を占めているのですね。そんな苦労の甲斐もあって、プロトタイプから製品化の流れはすんなりと?

伊藤というわけでもなくて……。ただ、じつはほかにもう1タイトル残ったプロジェクトがあって、「さすがに同時に2ライン進めるのはきびしい」という判断になったんですね。で、まずはそのタイトルを制作して、それが終わったら『GIGA WRECKER』に取り掛かるという流れになったんです。それが、2015年にリリースされた『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』というタイトルです。私と尾上も、まずは『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』の制作に参加して、そちらがひと区切りがついたところで、『GIGA WRECKER』へと移りました。

※『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』Steamサイト

尾上ただ、『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』を開発中に、当初デザインを担当してくださっていた社内のデザイナーさんが諸事情で会社を辞めてしまったんです。

――なんと! それはダメージが大きそうですね。

尾上ですので、まずはふたりで新しいデザイナーさんを探すところから始めました。

伊藤このままプロジェクト自体がなくなってしまうのでは? と大きな危機感はありました。

尾上まずは社内で探してみたのですが、手の空いている人がおらず……ネットなどで探して「この人がいいんじゃないか」ということで見つけたのが、あさぎりさんでした。そこでアポイントを取って、お仕事の依頼をして……となんとか進めていきました。

――あさぎりさんのイラストの、どんなところに惹かれたのですか?

伊藤あさぎりさんのイラストに、SF的な世界の中で機械化されたかのような女の子が立っているというイラストあったのですが、それを見たときに「『GIGA WRECKER』の世界観に合いそうだな」とピンときたんです。あさぎりさんはSFのような世界観のイラストを描かれるし、メカっぽいイラストも上手だし、女の子のイラストも綺麗で、僕たちがゲームで表現しようとしていた世界観と、あさぎりさんのアートのスタイルがとても合っていたんですね。

尾上あさぎりさんがプロジェクトに参加してくれた後に、すぐにもうひとりプログラマーがコアメンバーとして加入しました。そしてその後に制作スタッフの増員を開始しましたね。

伊藤最終的には、外注の方も含めると20人くらいの規模になりました。

――製品化に向けて準備は整ったといったところのようですね。

伊藤物理エンジンはよかったのですが、ゲームの“遊び”の部分について苦労しました。開発を進めていって、「シンプルなアクションゲームだけだと、どこかおもしろくないよね」という話になりまして。また、「物理エンジンを演出として使うだけだともったいない」という意見も挙がりました。それで、ゲームのコアな遊びに物理エンジンの要素をどう入れようかというときに、「パズルがいいのでは」という話が持ち上がりました。物理エンジンを用いて、地形が壊れてバラバラと瓦礫が散らばるというゲームのベースは作れたのですが、それをどうやってパズルとして成立させて、ゲームのステージとして成り立たせるのか、というのはかなり苦戦しました。これらの要素は、自分たちの中で作り上げるしかなかったので。

尾上また、ゲームのコアの部分になるのですが、もともとアクションだったので、攻撃したらヒットポイントが減っていって死ぬという仕様だったんです。パズルとして成立させようとした場合、“物を落として敵を倒せる”とか、“落ちてくる物の大きさによって0か1で死ぬ”といった、パズルにするためのルール作りをするのも大変でした。

――パズル要素との整合性をつけないといけなかったということですね。

尾上物理エンジンが入っているので、ジャンプの距離が変わると、パズルがうまくいかなくなるということもけっこうありました。キャラクターの挙動を気持ちよくしたいので、ジャンプの仕様を変えてしまおうということもありましたね。

伊藤“気持ちいいジャンプ”って、物理的に大嘘をつかないといけないんですよね。人間のジャンプのようなものを作ると、ものすごくもっさりしたり、勢いがいきなり死ぬ感じになってしまうことがあって、操作していても楽しくないんです。楽しい操作感のジャンプにするにはどうすればいいのか、ということで、開発中に大改修する時期がありました。そうすると、それ以前に作ったマップと、それ以後に作ったマップで、齟齬をきたしてしまったんです。しっかりといままでの狙い通りのパズルになっているかどうか確認するために、これまでに作ったマップをすべて確認しなければならず、とても大変な作業でしたが、プレイヤー挙動を気持ちよくしたいという想いが強かったので、そこは覚悟を決めてやり直しました。

尾上プレイヤーの気持ちよさは重視しましたね。

伊藤ボスでも苦労したよね。本作には、ゲーム内に5体ボスがいるのですが、「それぞれ違う遊びかたを提供したい」ということになりまして。そこで、各ボスごとにそれぞれ異なるコンセプトを考えて、そのコンセプト通りの行動パターンをゲーム内で実現するためにはどうしたらいいか……とにかく試行錯誤していました。

尾上フィールドではパズルの遊びが中心なのですが、ボス戦だけは気分を変えられるようにアクション要素のほうが強い遊びにしようと思ったんです。そこで、ボスが剣を振りかざしてきたタイミングでプレイヤーが攻撃を当てるとチャンスになる、というアクションの遊びを考えたのですが、“当たり判定がずれている”といった、アクションゲームのよくあるダメ出しが頻出しまして。

伊藤“テンポが悪い”とか、“ルールがわかりづらい”というところもありましたね。

――そこは根性で直した?

伊藤そうですね。それでもボス戦の遊びの部分に関しては、当初立てたスケジュールからは、だいぶ遅れました。

尾上各ボスには、キャラクター性があって、それぞれシナリオにも絡んでいるんです。見た目も特徴的ですし、さらにアクションもあるので。たとえば剣を持たせるにしても、アクションゲームの見地で考えてみて、「こうやって使うのかな」みたいな感じでデザインにフィードバックして……みたいなこともしていました。

伊藤それでいて、ボスのグラフィックのリソースを作るのが社外の方なので、早めに修正の用件を伝えないと手戻りがあった際に時間がかかってしまうので、最初のボスはとにかく大変でした。1回モーションを全部作り直したりもしています。そうなると、これ以上は手戻りは許されないからと、めちゃくちゃ細かい指示書を書いたりしました。あるボスは、装備している剣が折り畳み式になっていて、それがパカッと開いて振り下ろすという攻撃モーションを行うのですが、“このタイミングで開き切る”というふうに、フレーム数から指定したり。想定していた期間内にボスのグラフィックができあがらないかもしれない……という事態でしたので、“このまま作れば間違いない”というぐらいの指示書を出していました。

尾上製品化を前提とした開発がスタートした時点で、“プロジェクト”として、予算管理から人の管理、パブリッシャーの選定、PRなど、僕らがすべて自分たちでやりくりしないといけないんですよ。工程もしっかりと管理していました。開発が延びるとそれだけ人件費がかさむので、予算に響いてくるんですよ。

伊藤だから、きっちりと指示を出して、ちゃんと納期を守ってもらわないといけない(笑)。

――切実ですね。それにしてもパブリッシャーの選定まで?

尾上『GIGA WRECKER』が完成したあとの東京ゲームショウでは、海外パブリッシャーさんとずっとミーティングをしていました。おかげさまでいろいろなことが体験できて、とにかく勉強になりました。

――“ギアプロジェクト”というのは、スパルタですね……。ところで、本作の企画を立ち上げたときのコンセプトとして、物理エンジン、ロボット、アクションゲームという要素を挙げられていましたが、ロボットという要素はどういった過程でゲームに組み込まれたのですか?

伊藤僕は『ガンダム』が好きだったので、ロボットが出るゲームを作りたいなと思ったのですが、そのことはゲームのルールを考えているときは一旦頭から外していました。ですが、“敵をやっつけて、バラバラになったものを使って、また物を壊していって、破片が散らばる”といった、本作のルールを再構築しているときに、「だったら、敵もバラバラにしたいよね」という話になったんです。バラバラにして嫌がられないのは機械だから、「だったら敵をロボットにしよう」ということで、最終的には僕の希望もゲームに落とし込むことができました(笑)。

前作をプレイした方でも楽しめるタイトルに!

――家庭用ゲーム機向けに展開した経緯を教えてください。

尾上もともと家庭用ゲーム機向けに展開したいとは思っていたんです。2017年のA 5th of BitSummitに出展したところ、会場で多くのユーザーさんにご好評をいただいたことで、大きな手ごたえを掴みました。そこから、さまざまなパブリッシャーさんとお会いするなかで、ライジングスターゲームスさんとご縁ができました。まずは海外でNintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One向けにダウンロード版を配信するという話が決まりました。

A 5th of BitSummitの模様から。出展された『GIGA WRECKER』は大好評だった。

――Nintendo Switchはパッケージ版もリリースされるんですよね?

尾上そうです。日本語版のリリースが決まった前後に、レイニーフロッグさんからお話をいただきました。自分たちの作ったソフトがパッケージ化されるということで、うれしかったですね。

――移植作業に際して、苦労された部分はありますか?

尾上PC版で使用していた物理エンジンを、そのまま別のハードで流用することができなくて、各ハードごとに別のプログラム言語にすべて書き直す作業があったんですね。同時期に別のプロジェクトの業務を行っていたため、合間の隙間時間を利用しながらの作業になってしまいました。これはなかなか骨が折れましたね。

――移植作業もみずから行ったのですね。ちなみに、『GIGA WRECKER ALT.』の追加要素はどのようなものが?

伊藤家庭用ゲーム機でリリースするにあたって、新ステージをいくつか制作しました。こちらの追加シナリオは、物語の真実に迫る内容になっていますので、前作をプレイされた方でも、改めて楽しんでいただけると思います。

――ところで、今回の一連の『GIGA WRECKER』の開発で得たものは何ですか?

尾上これまではいちプログラマーとして、大きなタイトルに携わってきたのですが、プロジェクト全体を見るということはなかったんです。ですが、今回ディレクターをさせていただいて、プロジェクトの立ち上げから開発、そしてリリース後のインタビュー対応などの機会を、プロジェクトを通じて経験することができたので、大きく成長することができたと実感しています。

伊藤尾上と似た話になりますが、プロジェクト全体を管理しながらゲームを一本、最初から最後まで作るという経験は学びになりました。また外注スタッフとのやり取りなど、ゲーム制作以外の業務を経験できたのは大きいですね。

――それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

尾上『GIGA WRECKER ALT.』は、長い時間をかけて開発してきたプロジェクトの集大成となるタイトルです。新エンディングを始め、多数の追加要素を収録していますので、ぜひお手にとっていただければ嬉しいです。

伊藤ユーザーさんたちの声というのは、開発陣にとってなによりの励みになります。また反響次第では、新たな展開があるかも……しれませんので、本作をプレイした感想を、SNSなどを通じて声高にアピールしてください!