2019年6月27日に発売された剣戟対戦格闘ゲーム『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』。7月4日には国内累計出荷本数とダウンロード販売本数が、発売後1週間で合計4万本を突破したと公式発表された。

 その『サムライスピリッツ』の発売を記念して、2019年7月7日にTHE AKIHABARA CONTAiNERにて、“『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』発売記念ミニライブ”が開催された。演奏を担当したのは、SNKサウンドチームの山添浩史(ZOE)氏(サウンドディレクター)、麻中“sha-v”秀樹氏、日野槙邑子氏の3名。本記事では、前半にミニライブの模様をリポート。後半にはメディア合同で行われた囲みインタビューの模様をお届けしよう。

『サムスピ』のサウンドはこうして作られた! SNKサウンドチームインタビュー&『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』発売記念ミニライブリポート_01
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左から、麻中“sha-v”秀樹氏(ギター)、日野槙邑子氏(キーボード)、山添浩史(ZOE)氏(ギター)

激アツライブで今夜は“鮪”で決まり!

 “『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』発売記念ミニライブ”は、先着30名の観客のみが楽しめた超限定ライブ。この日の天気はあいにくの雨模様となったが、整理券は配布と同時にあっという間になくなったのだとか。

 開場すると、演奏開始まで30分以上の時間が空いていることもあり、サウンドチームの3人が急きょトークで場をつなぐことに。トークでは、来場者たちの質問に答えるというQ&Aも行われた(その内容は後述)。

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 トークが終わると、まずはナコルルのテーマである『自然の宴』で、しっとりとライブがスタート。静かな音色が会場全体を包み込んだところで、開幕のご挨拶。そして続いては、黒子のテーマとも言える『お調子六句』をライブアレンジで演奏。ノリノリのギターサウンドで、一気にライブ感もアップ。観客たちも手拍子をしたり、身体でリズムを刻むなど、ノリに乗っているようだった。

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 そして3曲目は、『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』の新キャラクターである鞍馬夜叉丸のテーマ曲『鴉天狗』がスタート。ヒロイックかつ和風の音色と、熱いギター音が絡み合う和洋折衷なサウンドが、ライブにぴったりマッチ! 曲名がコールされると、観客たちからも「おおっ」という声が挙がっていたのが印象的だった。

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 最後の曲となるのが、『サムスピ』といえばこの曲という人も多いほどの人気楽曲である、ガルフォードの『鮪』! おなじみの楽曲ということもあり、観客たちも大興奮! 会場が熱気に包まれる中、大きな盛り上がりをみせながらミニライブはあっという間に終了となった。

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Q&Aの内容

 さて、ライブスタート前に急きょ行われたサウンドチームへのQ&Aコーナー。内容は『サムスピ』に関係があったりなかったりするが、貴重なお話も飛び出したこともあり、せっかくなので掲載しよう。

Q:『SAMURAI SPIRITS(サムライスピリッツ)』に、過去曲のリメイクやアレンジ版は追加されますか?

山添 よくリクエストをいただきますが、いまのところは考えていません。正直、過去曲を使うほうがいちばん手っ取り早くて僕たちも楽なんです。ですが、本作は新曲メインでいこうと考えて作り始めましたし、現在の楽曲が皆さんにぜひ浸透してほしいと思っています。

Q:千両狂死郎の「べべん」は、三味線の音も鳴らしてほしい。

山添 声優さんのセリフの台本というのは僕たちは関わっていないのですが、台本に「べべん」とあったのでそのまま使いました。そういう要望があったと伝えておきます。

Q:『ザ・キング・オブ・ファイターズ '99』(『KOF 99』)のK´のテーマである『KD-0079』。0079の由来は?

山添 僕が作曲した曲ですね。よく某『ガ●ダム』などと言われますが、違います。皆さんの夢を壊したくないのですが……。理由聞いて「しょうもない」と言わないでくださいね!? あの……僕の妻の誕生日が7月9日なんです……(笑)。8月4日は僕の誕生日なので、『KOF 2000』では『KD-0084』と付けました。ちなみに『KOF XIV』では『KD-SR』と名付けました。SRは……長男と次男のイニシャルです(笑)。

Q:『KOF 97』で、一部のキャラクターにBGMが付いていない理由は?

麻中 それは触れてはいけない問題ですね(笑)。『KOF』のサウンドディレクターとしてお答えします。『KOF 97』まではCPU(コンピュータ)がチームエディットして戦っていました。ですから、チームに曲を固定することができなかったんです。そして『KOF 97』は、よりリアルに世界大会が行われている演出が加わったこともあり、環境音だけのリアルな中継映像みたくしたかったんですよ。まぁ……1997年に戻れたら、「2度とやるなよ」って自分に言ってあげたいです(笑)。

SNKサウンドチームへインタビュー!

 最後に、SNKサウンドチームの山添浩史(ZOE)氏、麻中“sha-v”秀樹氏、日野槙邑子氏へのメディア合同インタビューをお届け!

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――まずはお三方の担当を教えてください。

山添 サウンドディレクターとして、サウンド全般を見ています。また、ナコルル、鞍馬夜叉丸、柳生十兵衛、ボスのテーマを作曲しました。

麻中 道場の曲と、牙神幻十郎、色、ライバル戦の曲を作りました。また、キャラクターまわりの効果音の大部分を担当しています。

日野 私は呉瑞香とタムタムの曲を作りました。また、ダウンロードコンテンツで配信されるリムルルの曲や、デモ回りのBGMも担当しています。効果音も少しだけ作りました。

――皆さんがこれまで関わってきたタイトルを教えてください。

山添 1996年に入社し、最初は『真説サムライスピリッツ 武士道烈伝』のチームに入って、効果音などを製作しました。その後、『月華の剣士』シリーズ2作の効果音と、『KOF 97』、『KOF 99』、『KOF 2000』の作曲に関わりました。その後、別の会社に行ったのですが、2003年くらいにSNKに戻り、『KOF XIV』の作曲をしました。

麻中 僕は1995年入社で、『KOF』シリーズ全般を担当してます。ほかにも『餓狼伝説』シリーズや、『サムライスピリッツ 天草降臨』にも関わっています。

日野 入社したときはSNKがパチスロをメインに開発してたころで、ゲームで関わったのは『KOF XIV』と『SNKヒロインズ』になります。『SNKヒロインズ』ではサウンドディレクターを担当しました。

――ナコルルのテーマである『自然の円舞』は、過去シリーズの代表的な楽曲の『自然の宴』のフレーズなどが入っていますが、ほかにも過去作のBGMを意識した楽曲はありますか?

山添 メロディをそのまま使っているのは、『自然の円舞』だけです。ただ、これまでもキャラクターを代表するような人気楽曲がありますよね。その雰囲気だけを抜き取って、新たな楽曲に仕上げています。何人かに楽曲制作を振り分ける際には、これまでの人気曲を超えて、新たな代表曲になるように作ってほしいとお願いしました。また、そのままのフレーズは使わないでと言ったのですが、僕自身は『自然の円舞』でフレーズを使ってしまいました(笑)。

――『お調子六句・再』と、『十六士~壱』は過去作のアレンジ曲となっていますよね。

山添 最初は『十六士~壱』だけが過去作のアレンジ曲になるはずでした。じつは当初、チュートリアルの曲は道場の曲だったんです。でも、麻中が納期ギリギリの土壇場で『お調子六句』を入れたいと言いまして。それはおもしろいなと思って採用しました。

麻中 最初、チュートリアルには声が入ってなかったんです。黒子の声が入り始めたら、道場の曲と画面、そして黒子にマッチしていないなと思いまして。しかも黒子の声が、かなりお調子者のような声に感じていて。だったら『お調子六句』しかないなと思って。本当に土壇場で悩みましたが、作らせてもらって感謝しています。

――ちなみに黒子が今後出てくる伏線というわけではないんですよね?

山添 いまのところ予定はないですが、皆さんの声が大きければ今後可能性はあるかもしれません。

――また、ストーリーモードのキャラクターセレクトと、ほかのモードでのキャラクターセレクトは『十六士~壱』と『十六士~弐』とで曲が違いますよね。

山添 ストーリーのプロローグが流れて、キャラクターを選ぶときには絶対に昔ながらの『サムスピ』のキャラクターセレクトBGMにしようと決めていました。ただ、暗めの曲ではあるので、対戦となると盛り上がる曲のほうがいいですよね。ですので、対戦の際には明るい曲でキャラクターを選んでもらおうと考えたのです。

――エンドクレジット曲の『Revive the Soul』は、メインテーマでもありますよね。英語の曲をメインにした狙いを教えてください。

山添 これまでの『サムスピ』には、ストレートな歌の曲ってなかったですよね。キャラクターソングやオペラ曲などはありますが。本作はワールドワイドでの展開ですから、世界観を表しつつ“大作感”の強いテーマ曲を作ろうと考えたのです。ちなみにメインの歌詞は英語ですが、後ろのコーラスなどは侍らしさを込めたつもりです。目指したところは、和洋折衷のテーマソングです。

――クレジットといえば、簡易エンドクレジットには祭りシリーズの新たな楽曲『祭り彩る』が採用されていますよね。

山添 『Revive the Soul』も大事ですが、やはり祭りシリーズも入れたいなと思ったんです。ですから、50人斬りや100人斬りを達成したときに流れる簡易エンドクレジットには、『祭り彩る』が流れるようにしました。

日野 ただ、メチャクチャ時間がかかるので、まずは10人斬りで聞いていただければと(笑)。

山添 みなさんどこで流れるのか知らないそうなので、ぜひやってみてください。

――ほかにも知られていない楽曲などはありますか?

山添 ボス曲は、ストーリーモードをやらないと聞けないので、知らない人も多いかもしれませんね。ちなみにボス曲だけは本作唯一のサラウンド対応です。コーラスにぜひ注目して聞いてみてほしいです。

――新キャラクター3人の曲についてもお聞かせください。

山添 僕は『KOF 99』で、イチから主人公格のキャラクターである、K´の『KD-0079』を作らせてもらいました。そこから“KDシリーズ”として、どんどん発展していきました。今回の鞍馬夜叉丸も、主人公クラスのメインとなるキャラクターと聞いていたので、『鴉天狗』は同じように、シリーズとして発展してほしい思いを込めました。もちろん続編などの予定はいまのところありませんが、今後『サムスピ』シリーズがさらに出れば、『鴉天狗』をもとにした曲が作られるといいなと思っています。

日野 私は呉瑞香の曲を製作したのですが、私本当に曲を作るのが遅くて。「これだ!」と思えるフレーズが浮かぶまでの時間が長いんです。呉瑞香のテーマのフレーズが、たまたまお風呂に入っているときに浮かんできてしまって。急いでお風呂から出て、メモするものがないので、洗面台の鏡を曇らせて、そこにメモを書いたんです(笑)。結果的に曲はなんとか完成しましたが、湯冷めで風邪をひいてしまいました。

山添 呉瑞香の曲は、中華でジャジーという注文をしました。すごい難しいお題目だったと思うのですが、本当に中華でジャジーな曲に仕上がってて驚きました。

――また、追加キャラクター4人がすでに公開されていますが、4人にもテーマ曲が付くんですよね。これがサウンドトラックなどで販売される予定はありますか?

山添 完全版サウンドトラックにするのか、追加BGMだけの曲を売るのかもまだ決まっていません。そのうち出したいのですが、どういう形にすれば皆さんに喜んでいただけるのか悩んでいます。ぜひ、皆さんの声を聞かせてください。

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――“一閃”を決めた際などにも流れる、弦のギリギリとした音が印象的でした。どういった発想で採用されたのでしょうか?

山添 僕が考えたと言いたいところですが、『侍魂~サムライスピリッツ~』が元になっています。三味線の音と弦の音が鳴りながら、筆絵のようなイラストが表示される一閃が個人的にとても好きで。ぜひあの雰囲気を取り入れたくて、一閃の際や、ここぞという場面で弦のギリギリ音を入れています。

――あのギリギリ音は生音なんでしょうか?

山添 いえ、収録したもののサンプリングになります。本作は和楽器をたくさん採用していますが、演奏が終わったあとに効果音などに使えそうな音をいろいろ鳴らしてもらったんです。

――和楽器はどれくらい使われたのでしょうか?

山添 琴、津軽三味線、中棹三味線、尺八、篠笛は生の和楽器音を使いました。いまはサンプリングが充実していて、それなりの音は出せます。ですが本作では、本物の奏者が演奏する雰囲気を絶対に取り入れようとこだわりました。奏者の方々も、和楽器界では知らない人はいないくらいの方々ばかりで、オールスターで収録できました。

――効果音で苦労されたポイントはありますか?

山添 普通のゲームなら効果音とBGMで完全に分かれるところですが、本作は波の音だけが聞こえるような、静かなBGMも多く、効果音でありBGMであるようなものも多いんです。そのバランスを見るのは普通のタイトルより考えたところです。

麻中 あと、開発当初はリアルな効果音か、NEOGEOライクな誇張された効果音でいくのかは相談を重ねましたね。

山添 開発当初は3Dということは決まっていましたが、墨絵調であることやキャラクターがデフォルメされたものなのかも決まっていませんでした。3Dと聞いて、だったらリアルな効果音にすべきだろうと思ったんですね。近年の3Dゲームは人を斬っても「ドブシュ!」という音より「シュッ!」っていう、リアルな音が鳴るのが基本です。ですが実際にモデリングが完成し、その音を当てはめたらマッチしなかったんです。最終的には、リアルな良さも残しつつ、誇張した音の方向性に決まりましたね。

日野 鞍馬夜叉丸ステージにカラスがいるのですが、あのカラスは弊社近くにいたカラスから音を録音しました。すごいカラスを追いかけ回したんです(笑)。

――ちなみにですが、モード選択時には、音声が必ず鳴るのはおもしろい要素だと思いました。

山添 ぜひ言語を英語にして遊んでみてください。英語表記だと、モードの名前が英語になるものもあるんです。それも、全部カタカナ英語の音声になっています。海外では、日本人が発した英語でモード名を言ってくれるのが逆に評価されてるみたいで。日本人から見ても、結構笑える要素です(笑)。

――ところで、みなさんのいちばん好きな楽曲はなんですか?

日野 自分が担当した中でいちばん好きなのは、呉瑞香の曲ですね。ほかの方のだと、ガルフォードの曲が好きです。

麻中 千両狂死郎の曲が好きです。いやもう、僕では作れないです。北直樹さんが作曲された楽曲なのですが、聞いたときの衝撃はすごくて。

山添 色の曲がすごい好きですね。ただ、やはりナコルルの曲はすごく気にしていました。ファンの人たちに「前の曲のほうがよかった」とか言われたらどうしようと思っていましたが、そういった声は聞こえてこないので、よかったなと思っています。

――では、ぜひここを聞いてほしい、という部分はありますか?

山添 BGMはもちろん頑張りましたが、効果音もかなり苦労しています。ぜひBGMの音量をオフにして、1度ゲームをしてみてください。波の音や、体力が減ったときにキャラクターが「はぁはぁ」と息が荒くなる音も聞こえると思います。また、プレイヤーの方々が「BGMがないほうが緊張感がある」と楽しんでくれたのもうれしかったですね。

麻中 無限死合モードは、じつはインタラクティブミュージックになっていて、体力の減り具合に応じて曲が変化するんです。入れ込むのには苦労したのですが、本作は知っての通り、“強斬り”1発で体力が一気に減ります。つまり、曲の変化を楽しめる機会が少ないんですよ(苦笑)。たまには攻撃の手を止めてみていただけたらと……。

――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

山添 『サムスピ』初期のイメージを踏まえて、それを現代に落とし込むというコンセプトが本作です。サウンドチームとしては、やりたいことをうまく落とし込めた自信作です。ゲームを楽しみつつ、ぜひサウンドにも耳を傾けてみてください。