『世界樹の迷宮X オリジナル・サウンドトラック』の発売を記念して、コンポーザーである古代祐三氏に話を聞いた。

 12年以上に渡ってニンテンドーDS/3DSにてシリーズ作品が登場し、2018年にはニンテンドー3DSでの最後であり集大成となる『世界樹の迷宮X(クロス)』が発売された『世界樹の迷宮』シリーズ。そんな『世界樹の迷宮X』の楽曲をたっぷりと楽しめるオリジナル・サウンドトラックが、2019年5月29日に発売された。

 そこでこの発売を記念して、シリーズの大きな魅力である“楽曲”を初代作品から手がける、作曲家の古代祐三氏にインタビューをさせていただいた。『世界樹の迷宮X』の作曲にはどのようなコンセプトで取り組んだのか? 『世界樹の迷宮』シリーズのサウンドのルーツは? さらに、レジェンド級のゲームミュージックコンポーザーである古代氏の作曲の取り組みかたについてまで、幅広くお聞きしたので、ぜひじっくりお楽しみいただきたい。

古代祐三(こしろゆうぞう)

作曲家。エインシャント代表取締役社長。『イース』シリーズや『ベア・ナックル』シリーズ、『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』シリーズなど多数のゲーム音楽を手がける。

『世界樹の迷宮X』楽曲のコンセプトは、純粋なロックバンドスタイルで過去曲を繋ぐ“接着剤”

――『世界樹の迷宮X』はニンテンドー3DSでの最後の集大成となる作品となりましたが、初代からずっと楽曲を手がけられてきた古代さんは、今作の楽曲作りにどのようなお気持で取り組まれたのでしょうか?

古代じつは……、とくに感慨深いとか、振り返っていこうというような気持ちはなかったんですよね。『世界樹の迷宮X』はシリーズの集大成とされてはいるのですが、私にとってはシリーズの新作のひとつという気持ちで、自分の中に「これでひと区切りになるんだ」というような想いはあまり感じていないのです。ですので、気持ちはフラットでしたね。

――そうなんですね! ちょっと意外に感じるところもあるのですが、そもそも、そういう考えかたや見かたをあまりされないですか?

古代そうですね。どの作品に対しても「あぁ、ここまで来たんだな……」みたいなことはあまり考えないです。「なんでそうなんだろう?」と自分なりに考えてみると、自分は新しいものが好きで、いつも新しいものを追いかけていたいという気持ちがあるから、かもしれません。その気持ちから“これまでにやってきたことのまとめ”を、あまりしたがらないのかも。

――振り返るよりも、つぎの新しいものへ気持ちを向けるという。もの作りの取り組みや姿勢として、そう意識されているところがあるのですか?

古代いや、とくに意識しているというわけでもなくて、自然とそう思ってしまうところがありますね。そうしなければいけないという理由はどこにもないですし、たまには振り返ってみるのもいいかなって思うときもあるんです。でも、あまりそういう気持ちにはならないですね。
 ちょっと話はズレますけど、同窓会に行くじゃないですか。そうすると、あまりに周りの時間が進んでいることにびっくりさせられることがあるんですよ(笑)。

――ゲーム業界の人はいくつになっても若々しい人が多いですし、なおさらですよね。

古代そうそう。ですので、同年代の状況を見たり聞いたりしてハッとさせられるんですよね。ふだんはひとりでずっと曲作りをしているので、あまり時の流れを感じていないというか、あまり考えることがないというか……。そのあいだに時間がすごく経っていることに驚かされるという。それくらい、あまり振り返ったりまとめたりするということをしないんですよね(笑)。

――なるほど。3DSでのシリーズ集大成ということではありましたが、古代さんとしてもまだまだ先を見ておられるということで。

古代あるといいなって思っています。

――『世界樹の迷宮X』の楽曲について、とくに新曲についてお聞きしたいのですが、いまのお話ですと“集大成だから”というような意識や意図はなかったわけですよね。

古代ゲームとしては集大成と言われているといっても、“集大成的なことを曲に込めよう!”という考えはなくて、“接着剤のような曲”になればいいと思っていたんですよ。

――接着剤ですか。

古代このゲームには過去作の曲も入ってくるから、過去の曲の中に『世界樹の迷宮X』の新曲が入っても、違和感がなく邪魔もせず、でも、ちょっと新鮮さもある。そういう、過去作品を結びつけるクッションというか、“接着剤”のような曲になれたらいいなと。そういうことを意識していましたね。

――“集大成だから”というアプローチで入っていたら、いい形にならないというか、ユーザーさんが求めるものともズレてしまうかもしれない?

古代それだと意味が違ってきてしまうのではと思いますね。かといって“炭酸が抜け過ぎてしまったようなもの”にもしたくないんですよね。そのへんのバランス加減はちょっと考えましたね。

――“炭酸”はいわゆる集大成っぽさみたいなことですよね。難しいところですね。

古代難しいところです。抜きすぎても強すぎてもいけなくて。

――集大成っぽさも欲しいけど……、

古代……ありすぎてもよくないんですよね(笑)。

――なるほどー。ディレクターの小森成雄氏からの“新曲についてのオーダー”はどうだったのでしょう?

古代もう長くやってきているシリーズということもありますので、オーダーのときのやり取りも、最低限の情報だけなんですよ。ラスボスに関しては、送られてきたサンプル曲が某作品の某曲だったので(笑)。

――某作品の某曲(笑)。

古代RPGファンの人なら、もしかしたら分かってしまうかもしれないですけどね(笑)。小森さんからは、予定しているシーンからハズレてしまわないための最低限の情報のみ伝えていただいて、あとはもう「お任せ」というスタンスですね。
 今回作った曲でNGが出たのも1回だけで、それが某作品の某曲をサンプルにした曲だったんですけど、そのサンプルを1回か2回聴いて、そこからバーッと曲を作り始めて。それで、できあがった曲を小森さんに送ったのですが「これは……、イントロが似過ぎじゃないですか?」って言われてしまって(笑)。

――(笑)。

古代「えぇー!? 似せたつもりないんだけどなー……」って思ったんですけど、やはりどこかサンプル曲が頭にインプットされてしまっていたのかもしれません。ですので、その曲は修正しました。今回の唯一のNG話ですね。

――古代さんは、何かを指定されたり言われたりすると、気を使い過ぎてしまって、それを忠実にやり過ぎてしまう……というところがあったりするのでしょうか?

古代あぁー、ありますね。それはあります。気を使いすぎてしまうほうだなって自分でも思いますね。というのも、オーダーに対して最低限のポイントは外したくないんですよね。必ず相手が求めているヒットゾーンへ飛ばしたくて。ただ、気を使いすぎてしまったがゆえに、最終的にちょっと違う方向へ行ってしまった……なんていうことも、過去にはありましたね。
 『世界樹の迷宮』シリーズのように、シリーズものであれば勝手知ったるということもあって、あまりハズさないとは思います。

――新しいプロジェクトの作曲ですと、どんなオーダーがありますか?

古代新しい案件でも、やはり『世界樹の迷宮』シリーズの影響は大きくて。いまはバンドスタイルの曲をという要望が多くなりましたね。依頼の半分以上がそうなっていて。そういうときには、いかに『世界樹の迷宮』シリーズとは似ないように新しい曲を作るかを考えているところがあります。

――古代さんと言えばFM音源や内蔵音源での名曲の数々で知られますが、“いまの古代さん”は、バンドスタイルな楽曲を求められることが多い作曲家さんになられているんですね。

古代そうですね。内蔵音源は、あれはあれで好きな人が多いですが、どうしてもあの時代感になってしまいますので。ゲームがレトロスタイルなものであればやりますけどね。

2018年8月2日にニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたダンジョンRPG『世界樹の迷宮X』。これまでのシリーズのエッセンスがクロスオーバーする、集大成的な位置づけのタイトル。

――なるほど。『世界樹の迷宮X』の新曲のお話に戻りますが、どのような曲になっていったのでしょう?

古代いままでのシリーズだと、生楽器を使っている曲には管弦楽器を入れていたのですが、今回はそこを抜いて、4ピースのロックバンドスタイルで演奏できるものにしています。そこに効果音的なシンセサイザーの音が載っていくという、そういうコンセプトです。“接着剤”になるようにと考えた結果、純粋なロックバンドスタイルに戻していますね。

――『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』で生楽器の曲になったわけですが、これまではオーケストラ調というか、管弦楽器が多かったと。

古代管と弦が多くて、打ち込みの曲にもオーケストラ系の曲を入れてきましたよね。

――そういう方向性だったこれまでの曲との接着剤になるように、ロックバンドスタイルにしているのですね?

古代骨格の部分は今回の新曲も変わってはいないんですよね。過去シリーズの曲もバンドスタイルで演奏できる曲なのですが、そこに管弦楽器の装飾を多く載せていたというものなんですよ。今回はそこを変えてクロス感を出しています。

――土台にあるものは変わらないけど、いつもとはちょっとテイストを変えていることで、繋ぎ合わせることのできる接着剤にしているということですね?

古代もうひとつお話してしまうと、『世界樹の迷宮』シリーズではライブをよくやるようになりましたので、ライブでもあまり変えずにそのまま演奏しやすい曲にしているというのもありますね。

――『世界樹の迷宮』シリーズ全体の楽曲の流れとして、最初はFM音源ベースの曲から始まっていって、『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』からは生楽器のオーケストラテイストに、そして今回の『X』ではロックバンドスタイルへ。今回はよりライブ寄りになったという変化とも言えるのでしょうか。

古代ライブ寄りになっていますね。でも例えば、また次の新作などがあって曲を作るときには、またオーケストラテイストのあるものに戻すのではないかと思いますね。もうちょっと“よりゴージャスな方向”へ振ってみてもおもしろそうだなっていう予感があります。
 シンプルなバンドスタイルで演奏できる曲は“曲を繋ぐのにも最適”と思うのですが、やはりゴージャス感が欠けてしまうところもやはりありますから。

――繋ぐためにシンプルで控え目なところも?

古代今回の新しい戦闘曲も、勢いはあるんですけど、そこまで派手ではないんですよね。賛否両論あるかもしれないですが、自分としては“うまいバランスのメロディーにしたな”って思えていて。前向き過ぎず、かといって穏やかでもなく、ちょうどいいフレーズができたのではないかなと思っています。

――難しい微妙なところを突けたというような。

古代はい。『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』や『世界樹の迷宮V 長き神話の果て』の戦闘曲ってノリノリなんですよ。前に向かっていく感じの曲で、人気もあるのですが、その中にまた新しくノリノリな戦闘曲を加えても食い合ってしまうなと思いまして。そこで、ちょっと踏みとどまるようなテイストにしているんですよね。

――ほかのシリーズ作の曲やアレンジ曲も入ってくるので、その対比も?

古代アレンジの上倉さん(※)が飛ばしてくるのも想像していたので(笑)。ノリノリで飛ばすのは彼に任せて、私は控えめな、繋げられる曲にしていますね。

※上倉紀行氏。世界樹の迷宮 SQ F.O.E bandメンバーであり、コンポーザー・アレンジャー。

――ちなみに、曲のオーダーは「こんな感じの曲にして欲しい」と、サンプルをいくつか出してもらうということが多いのでしょうか?

古代そうとも言えないのですが、作曲を依頼いただくときに、音楽をやっている人だと専門用語を使って的確に伝えられるでしょうけど、そうじゃない人はうまく伝えられないですよね。それならいっそサンプル曲をふたつか3つ出してもらうほうがいいんです。サンプル曲を聴けば共通項が見えてきますので「こういうのがいいんですね」と分かりますから。あとは、ひとつふたつの“これは外さないで欲しい”というキーワードをもらえれば、そこにドンピシャで考えて作っていきます。

――なるほど。『世界樹の迷宮X』の新曲にある“接着剤”のように過去曲を繋げるような曲をというコンセプトは、小森さんからのキーワードにあったのでしょうか?

古代そこは私が考えたものですね。小森さんはそういう意図はなかったと思うのですが、私は『世界樹の迷宮』シリーズを遊び込んでいるので、その上でゲームバランスを考えて、今回の曲はそういう方向にするのがいいだろうと考えたところなんですよ。

――『世界樹の迷宮X』に使用されている過去作の曲には、たとえば、古代さんから「このシーンならこの曲を入れたら?」というようなやりとりをされたりするのでしょうか?

古代いえ、そこはもうディレクターの小森さんにお任せですね。

――選曲についても、とくに意見や要望を言ったりすることもなかったですか?

古代そうですね。使用する曲のリストはいただくのですが、そこは開発チームがゲームの内容に沿って考えられたものですから、そこに何かを言うということはなかったですね。

――使用される過去曲にちょっと手を入れたいと思われたりすることはないでしょうか。もともとがニンテンドーDS世代の曲もありますし。

古代そこは正直なところ、手を入れる時間があればやりたかったというのは、ちょっとありますね。初代の『世界樹の迷宮』と『世界樹の迷宮II 諸王の聖杯』からの曲に関しては『新・世界樹の迷宮』バージョンがありますのでそちらを使っていますが、『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』に関しては3DS版がなかったので、今回は新たに上倉さんにアレンジをお願いしています。

――なるほど。ここまでのお話だけでも、古代さんがゲームのことを最重要視されて、全体のサウンドディレクションのような目線で取り組まれているのを感じます。個人的な「こういうものがやりたい」というのは、あまり出されないのでしょうか?

古代制限の中でやりたいことをやる、という姿勢はあるのですが、大もとはやはりゲームそのものの曲であるということがコンセプトですので、自分のやりたい音楽をそこでやるという発想はないです。オーダーを受けて、まず簡単なデモを作って「方向性はこれで合っていますか?」というのを確認して、OKをもらったら、その先のアレンジをどうするかを考えていくという流れで。少なくとも骨格作りまではゲームに寄り添って作っていますね。

――すごく職人的というか、徹底してゲームに合うものをというお考えなのですね。

古代じつは、自分は自由にやり過ぎると、どこにいってしまうか分からないところもあるんです。それこそFM音源時代はそういうところがあって暴れていたなと思います(苦笑)。それによるよさもあるのですが、いまのゲームは昔に比べるとコンセプチュアルと言うか、ビジネスモデルが変わってしまっているので。そこはしっかりと踏まえてやらないといけないと思います。
 逆に、たとえばインディーゲームとかで実験的なものをやれたら、自由に暴れた感じの曲を作ってみたいなとは思いますね。

――それはすごく聴いてみたいですね! かなり尖っていて暴れていて。

古代「理解してもらえなくてもいい、自分さえよければ」みたいな感じの曲を(笑)。

――古代さんとしては、そういう好きなようにやるというのは、もっと先でもいいかなというお気持ちでしょうか?

古代どうでしょう。いつぐらいになったらやろうかなというような、時期や年齢で考えているところはあまりないかもしれませんね。やるべきときが来たならやる……という感じです。それは自分で選ぶものではなくて、準備や積み重ねはしておきますが、タイミングは相手からくるものかなと思います。

――控えめというか、自分以外の大きな流れや時期を重視される。

古代いやいや、控えめというよりも、むしろ何事もうまくいかせたいという気持ちがあるからだと思いますよ。

――うまくやるためにタイミングがとても重要であると?

古代そうですね。エインシャントという会社を経営してきて、いろいろと自分の中で根深くトラウマになっていることがいくつかあったりはします。そこから学んだことがあるからこそ、いまの考えかたやスタイルになっているのかなと思います。

――場所であり、人であり、時期でありと?

古代それらがないと、こっちがいかによかれと思って作った曲もちゃんと噛み合わなくていい結果にならないですね。それも過去の経験から学んだことですね。

――『世界樹の迷宮』のお話に少し戻らせていただきますが、『世界樹の迷宮』シリーズでの曲作りはもう、長く組んでいるチームですし、そういった紆余曲折はなさそうですね。

古代『世界樹の迷宮』シリーズは楽な気持ちで取り組めますね。今作のディレクターである小森さんも初代からずーっとスタッフとして携わっている人ですし、みんながお互いにやりたいことを理解しているチームだと感じますね。

――もう、ほぼお任せで、合うものを最低限のやり取りでいいものが作れる。ベストな環境ですね。ちなみに、ユーザーさんからの曲への感想であったりを見たり、意識されたりすることはあるのでしょうか?

古代多少は見ますね。「みんなこういう曲を望んでいるんだな」と、参考にしています。というのも、作った曲の中で「この曲はイケてるなー!」って自信満々だったものも、世に出てみると反応がそんなによくなかったり、逆に「あんまりいい感じにならなかったな……」っていう曲がすごく人気が出たり。そういうのがあるんですよね(笑)。

――さらっと作った曲が予想外に……という。

古代「こんな感じでいいかなぁ……まぁ、いいや」って出したものがすごく人気が出てしまって。そいうことがあるので、ユーザーさんの感想を興味深く見てしまいますね。

『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』の再アレンジを収録! 上倉氏のアレンジは期待どおりに

――今回のサントラについてですが、どのような構成になっているのでしょうか。

古代2枚組みのアルバムになっていますが、ディスク1は『世界樹の迷宮X』の新曲ですね。ディスク2は『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』の曲のアレンジバージョンである“世界樹の迷宮X Ver.”を収録しています。『世界樹の迷宮X』での新曲と言える曲をすべて収めると、自然とこういう構成になるのかなという作りですね。

――ディスク2の『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』楽曲のアレンジは、上倉さんが手がけられているのですよね?

古代そうです。上倉さんは『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』や『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』の『スーパー・アレンジ・バージョン』をやっていただいているので、『世界樹の迷宮III 星海の来訪者』の曲をもう一度アレンジするというようなものになっています。ですので、今回も「あれと同じようにやってください」とお話して(笑)。それがいちばんやりやすいでしょうから。

――アレンジを聴いてみての感想はいかがでしたか?

古代まさに、期待していた通りの感じでバッチリでしたね。仕上がりはもう予想できていたというか、自分の頭の中には「上倉さんならこんな感じに、こういうところを押さえてくるだろうな」という予想があったのですが、そこもしっかり網羅されていましたね。

――お任せで、仕上がりも想像できるという関係性なんですね。もっと以前の『スーパー・アレンジ・バージョン』のころは、アレンジにいろいろアドバイスしたりはされなかったのでしょうか?

古代いやぁ、そもそも『スーパー・アレンジ・バージョン』はアレンジアルバム作品なわけで、ゲームとはまた違った展開だと思うんですよね。アレンジャーさんのよさを活かしてなんぼというものでもありますので、大きくハズレ過ぎていなければよしという感じで。私はたぶん1回もNGを出していないし、「こういう感じにして欲しい」というアドバイスも言っていなかったと思いますね。
 じつは、『スーパー・アレンジ・バージョン』をやっていただいた当初は、レコード会社を通じて上倉さんにご連絡いただいていたので、ご本人に会ったこともなかったんですよ。

――そうなんですね。でもそれを差し引いても、古代さんはあまり口出しをされない人なんだなと思えます。

古代私はぜんぜん言わないですね。“違う”ということがない限りは何も言わないですね。もし、「これは違う……」というものが出てきてしまったときには、それは“自分のミスだ”と考えると思います。

――そういう捉えかたをされますか。すごく自身で背負うというか。

古代はい。自分がちゃんと指定できていないから違うものになったと考えますね。自分が必要なことを指示していれば多少の解釈の差はあれど、大きくズレることはないわけで。それ以外のことはもう、アレンジャーさんの個性だと思いますので、自分があれこれ言うことではないなと思います。

――相手の人からすると、ありがたいのと同時に難しさを感じるかもしれないですね(笑)。

古代(笑)。別件で私の曲のアレンジをお願いしたのですが、「……どこまで変えていいのでしょうか?」という感じに、とても恐縮されてしまって。そのときも私は「こういう方針なので、そこだけ守ってくれれば、あとは別に自由でいいですよ」とお話して。

――その先は、もうその人のものだから、という?

古代そうなんです。基本的にその人が得意とするジャンルをお願いしていますし、それでもし違ったものが出てきてしまったのなら、自分の伝えかたに責任があるのではと思うんです。

――そのあたりの責任に対する考えかたは、エインシャントという会社の代表取締役である側面を感じさせるものがあると思えます。

古代いやいや、どちらかというと、“自分がそれをされたら嫌だなと思うことはしたくない”という気持ちからではないかなと思います。コンポーザーやアレンジャーさんの立場に立ったときに「こういうオーダーのされかたは嫌だな」と思うことを、自分はしたくないという感じですね。

――なるほどー。上倉さんともそのようにお仕事されているのですね。

古代そうですね。そもそも上倉さんはファルコムjdkバンドのメンバーだった人で、私の曲をいっぱい演ってくれているんですよね。私の曲をたくさん聴いてくださっていたということなので、最初からやりやすかったのではと思います。コツを知っているというか。人選は私が指定したわけではないのですが、レコード会社の当時の担当さんがそこを汲んでくださったんですよね。

――今日のお話も、『世界樹の迷宮』シリーズを制作する環境は全般的にやりやすく整っているというのを感じます。

古代そうですね、非常にやりやすいです。なにしろ10年以上続いていますからね。

――でも、一方でマンネリにはなっていないわけで。そこには作品ごとにアクセントというか何かしらの意識は持たれているのではと思うのですが。

古代私は放っておくと“変えすぎてしまうタイプ”なんですよ。幅の広さを求めたがるところがあって、自然にいろいろとやってしまう。そこで、曲を作るときには“ちょっと振り切った状態のところ”にしておいて、それを少し抑えていくようにして作っていくんです。

――足すのではなく、あとから落としていくんですね。カットの仕方を変えていくことが作品ごとのアクセントにもなっているような。

古代そうですね。やりたいことは山ほどあるんですけど、これをやってしまうと『世界樹の迷宮』ではないし……というように、カットしながら考えています。そこで、作品ごとに“『世界樹の迷宮』らしさの調整”をするというか。そのときのゲーム内容ありきで仕上げているんですよ。

『世界樹の迷宮』シリーズのサウンドのルーツは、モノ作りの熱心さと真剣さから生まれた

――『世界樹の迷宮』シリーズ全体の楽曲についてもお聞きしたいのですが、最初に『世界樹の迷宮』という作品に対して「こういう曲にしよう」と考えられたことが、いまに至る土台になっているのではと思います。最初はどのように取り組まれたのか、印象に残っていることはありますか?

古代初代のディレクターは新納さん(※)だったのですが、彼はやりたいことへの想いが強くて、とても熱心に伝えてくださるんですよ。ですので、基本的にはそれに忠実に従っていくようにして作ったという記憶がありますね。
 ただ、自分が制作の初期に曲のデモをたくさん出してみたものの、新納さんは「曲はいいんだけど、なにかコンセプトとのズレを感じていて。でも、それをどうしたらいいかわからない」と悩んでいらっしゃいました。そこで、私から「それはもしかしたら音色の問題かもしれないから、試しにFM音源にしてみましょうか」と提案して作ってみたところ、それがストライクだったんです。

※ 新納一哉氏。ゲームクリエイター・ディレクターで、2007年に『世界樹の迷宮』のディレクションを行う。現在はスクウェア・エニックスに在籍。

――『世界樹の迷宮』シリーズと言えばFM音源の曲もイメージが強いですが、最初はそういう流れだったんですね。

古代FM音源で作ってみるまでには、かなりの数のボツ曲がありましたね。FM音源で行こうとなってからは、すぐにPC88の音をサンプリングして、それでキットを作って。一気に曲を作っていきましたね。

――どういうアプローチで作曲されたのでしょう?

古代FM音源の音色がハマるということであれば、ある程度のノスタルジー感が欲しいのだろうなと考えました。そこで、音色の組み合わせかたや音の並べかたを、私が1980年代に日本ファルコムに在籍して曲を作っていたころにヒントを得て作っていきました。「昔の自分だったらどうやって作っているだろうか?」というのを想像しながら、最初の『世界樹の迷宮』の曲を作っていましたね。

――FM音源を使うだけではなく考えかたも80年代にしないと、求められているものにならなかった?

古代ならないですね。新納さんが求めていたことは「それらしい」ということで終わりではなくて、1980年代の当時感を出したいということを考えていましたので。それには音源だけではなく、作るときの考えかたごと、当時の方法に遡ってやらなければいけなかった訳です。
 音楽理論的なことになるのですが、音色は決まっていますけどアレンジメントに当時のものを使っていて。同じ音を縦に並べるときにどういう配置で並べたらいいか、どういうリズムで並べたらいいかというのを、昔に自分がやっていたことを思い出して取り組みましたね。

――1980年代のFM音源での制作というと、作る上での制限もいろいろあったと思うのですが、そこも、1980年代当時の制限にして取り組まれたのですか?

古代そうです。2007年ころの環境で作っていますから音数の制限は実際にはないわけですけど、制限なくやってしまうと当時の感じがなくなってしまうんですよね。ですので、8音までとか6音までという制限を自分で設けてやっていましたね。

――なるほど。FM音源からシリーズの楽曲が始まっていき、そこから生楽器に管弦の入ったオーケストラ調なり、今作では繋ぐという意味でロックバンドスタイルになり。歩みに幅が広くて変化もありますよね。

古代そうですね。でも基本は……、最初にFM音源で作ったところから大きく変わってはいないと思いますよ。

――10年以上に渡ってシリーズ全体で200曲以上を作られているけど、基本は変わっていない……。すごいお話だなと感じます。いくつも上の次元に到達されているような。古代さんは作曲において悩むということも少ないのですか?

古代どうでしょうか(笑)。自分では分からないですけども、ほかのコンポーザーさんとかの話を聞く限りでは、自分は曲が浮かんでくるほうみたいですね。あまり苦労したことがなくて、むしろ暴走してしまうところを制御することに悩んでいるところがあります。
 いっしょに飲みに行く人の話とかだと、曲作りですごく長く考え込まれたり、どうしてもワンパターンになってしまうというお話を聞いたりはするんですけどね。

――羨ましがられるのでは?

古代「首を絞めてやりたくなる!」って言われたことはあります(笑)。もちろん冗談なんですけど、「こっちはこんなに苦労しているのにー」って(笑)。

――(笑)。

古代私はなんでもやりたがりなんですよね。昔からジャンルをコロコロ変えてきていますから。

――本当に幅が広いですよね。

古代そこには、“モチベーションを落としたくない”という気持ちがあるんですよ。飽きてしまわないように自分の気持ちを保っていかないといけなくて。
 自分の制作時期において、1990年後期~2000年初頭までのあいだは自分でも“暗黒期”と呼んでいるのですが、あのころはモチベーションが落ちてしまっていたんですよね。
 技術的には向上してきているはずなのに、世間からの評判はよくなくて。「なんでこうなってしまったのかな」って考えたんです。そうすると、“ただ漠然と作っている”とか“手を動かしているだけ”だと思えて。そこに特別な意識や気持ちがなかったんですよね。

――技術も経験もあるがゆえに、形にできてしまう。

古代そうなんです。ですので、それに気づいてからは“どうやったらモチベーションが上がるか”をいまもずーっと考えています。モチベーションのエンジンさえかかってしまえば、あとは手を置けば勝手に曲ができていくので。

――今日のお話のところどころにも、古代さんはいわゆる天才型でモチベーションに大きく左右されるような、そういう印象を受けるところはありますね。

古代天才かはさておき、モチベーションに左右されるところは本当にあって、高めるためにいろんな方法を考えていますね。たとえば、新しい楽器を試したり、新しい音楽制作用のソフトを試したりして、いろいろ試して遊んでいるのは楽しいですから、その楽しい気持ちの中から出てきた「これはいけそうだ!」っていうものを曲作りに使っていくようにしたり。そうすると、モチベーションの高い曲ができあがってくれるんです。
 よく「高級な機材は音がよい」っていう話がありますよね。その音のよさで音楽を作るとよい曲ができるなんて言うんですけど、私が思うのは、それは実際によいものではあるのですが、それ以上に、それを手に入れて触っている充実した気持ちで曲を作っているから、よいものができるのでは……と思うんですよね。

――心の作用が大事だと?

古代そうそう。真空管を1個変えたからといって、突然音がよくなるわけはないんですよ(笑)。

――(笑)。

古代でも、所有した人は「これがいいんだよー!」っていう、高まった気持ちで曲作りに取り組むからよいものになる。私もそうですしね。

――モチベーションということですと、それこそゲーム内容にも左右されるのではと思うのですが、そこは?

古代それはありますよね。画面を見せていただいたときに「このゲームは大丈夫なのかな……」と不安になってしまうときも、正直に言うとあるにはあるんです。自分もゲーマーなので、そういうときは気持ちが落ちてしまうのですが、その状態で曲を作るのはよくないので、別のゲームを買って遊んで「楽しいなあ!」っていう気持ちにして、その勢いで曲を作るなんてこともありますね。

――別のところからモチベーションを持ってきてなんとかしちゃう(笑)。

古代そうなんです(笑)。

――これはもう聞くまでもなさそうですが、『世界樹の迷宮』シリーズにおいては、モチベーションも高く、長くやってこられた、やりやすいプロジェクトなわけですよね。

古代そうですね。ゲームのおもしろさももちろんそうですし、最初のディレクターだった新納さんがとても熱心だったのがとくに大きかったと思います。その熱心さに応えたいという気持ちがモチベーションになってくれました。向こうが真剣だから、こっちも自然と真剣になれるんですよね。
 それがたとえば、「……この人、ちゃんと考えているのかな?」っていう人だと心配になりますよね。うちもゲーム制作をやっていますから、これはゲームの出来が迷走するだろうなっていうのが先に分かってしまうんですよ。ディレクターさんの迷走って、ゲーム内容にそのまま出ますから。
 その点、新納さんはビジョンがはっきりしている人で、『世界樹の迷宮』シリーズの柱というものが初代作品でしっかりと完成していた。だからこそ、シリーズを長く続けていくことができたのではないかなと思います。

――新納さんの熱心さと真剣さが、古代さんにとっても重要だったんですね。

古代新納さんのやりかたって、いまのインディーゲームのシーンとすごく重なって見えるところがあって、開拓精神があるんですよ。そこに心を打たれたところがありますね。もちろん安定してシリーズが続いている作品の曲作りというのもいいですけど、“これから開拓していこう”というフロンティアスピリッツが溢れるプロジェクトに誘ってもらえるのは、とても嬉しいですね。

――利益などのビジネス的なところ以上に、まず“モノ作りの心”をとても大切にされているのを感じます。

古代自分は間違いなくそのタイプの人間で、逆に言うと、儲けを考えないでやってしまいがちなところをなんとかしないといけないって思っているぐらいですね。放っておくと、ずーっとやりたいことをやり続けてしまいます(笑)。

――『世界樹の迷宮』シリーズの曲作りもそういうところがありますか?

古代そうですね、毎回楽しいです。スタッフのノリがよいというのもあるのですが。やりたいことをやり続けていて……その結果、いつも納期と戦っています(笑)。

――(笑)。

古代氏オススメの“『世界樹の迷宮X』ならではのサントラの楽しみかた”

――それでは最後にファンの皆様へひと言お願いします。

古代サウンドトラックの発売となりました。今作の新曲は“これまでのすべてのシリーズの曲を繋ぐ”という意図で作っていますので、いままでのほかのサントラと混ぜて聴いてもらえると、より楽しめるかもしれませんね。
 シリーズ作の好きな曲を入れたプレイリストに今作のサントラの曲を入れてシャッフルしてもらうと、『世界樹の迷宮X』の曲の良さがより感じてもらえると思います。
 いまはサブスクリプションでアルバムというより単独の曲で楽しまれる時代だとは思いますし、それと逆行した考えかただとは思うのですが、それがシリーズものをやっていることの特権であり、ならではの楽しみかただと思うんですよね。
 シリーズ作の曲とまとめることで、パズルのピースが入って、ひとつのものになると思います。ぜひお楽しみください。

SQ F.O.E bandのライブが6月22日に開催!

 セガの代表作『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』シリーズの楽曲などを多数手がけけている、瀬上純氏率いる“SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE”と、『世界樹の迷宮』シリーズライブの演奏でおなじみの上倉紀行氏率いる“SQ F.O.E band”による対バンライブ“FACE to FACE vol.2 ~SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE & SQ F.O.E band~”が、6月22日に渋谷ストリームホールで開催! 古代祐三氏も“SQ F.O.E band”にゲスト参戦するとのことだ。ライブで聴いてみたいという人は、ぜひチェックしていただきたい。

“FACE to FACE vol.2 ~SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE & SQ F.O.E band~”

2019年6月22日(土)
開場:17時00分
開演:18時00分

会場
渋谷ストリームホール

※チケットの購入はこちらから

発売日:2019年5月29日
タイトル:世界樹の迷宮 X(クロス) オリジナル・サウンドトラック
価格:税抜3,200円
品番:UMA-1119/20
詳細ページ:http://www.umaa.net/news/p1008.html

トラックリスト
[Disc1]
01. 新たな冒険の舞台へ
02. 交錯する旅路
03. 街景 大志を抱き、その名を刻め
04. 街景 孤島のゆりかご
05. 島景 見果てぬ大地
06. 街景 秘宝を求めて
07. 迷宮 四方ノ霊堂
08. 戦場 高揚
09. 戦場 そして、蛮勇は血に沈む
10. 戦乱 屠られしもの
11. 迷宮 世界樹ノ迷宮
12. 戦場 死が分かつ十字路
13. 戦場 狂気を血で染めて
14. 戦乱 生きとし生けるものの黄昏
15. 迷宮 奈落ノ霊堂

[Disc2]
01. 街景 夕闇が包みし海の都 (世界樹の迷宮X Ver.)
02. 迷宮I 垂水ノ樹海 (世界樹の迷宮X Ver.)
03. 戦場 初陣 (世界樹の迷宮X Ver.)
04. 戦場 その鮮血は敵か汝か (世界樹の迷宮X Ver.)
05. 戦乱 剣を掲げ誇りを胸に (世界樹の迷宮X Ver.)
06. 迷宮II 海嶺ノ水林 (世界樹の迷宮X Ver.)
07. 戦乱 その忌むべき名を呼べ (世界樹の迷宮X Ver.)