老舗ゲームブランドが復活を遂げたTHQ Nordic GmbHのキーパーソンに、同社の戦略を聞いた。

 数多くのタイトルを手掛けていたアメリカの老舗ゲームメーカー、THQが倒産したのが2012年のこと。「同社のIP(知的財産)はどうなるのか……」と、多くのゲームファンが不安を抱いたが、2013年にスウェーデンに本社を構えるNordic GamesがTHQブランドを買収。その後、2016年にTHQ Nordic GmbHと社名を変更し、往年のIPをリマスターし、新しいプロジェクトも積極的に手掛けている。ここ数年は日本のゲーム市場に向けても積極的だ。そんなTHQ Nordic GmbHの戦略とは? THQ Nordic GmbH マネージング デイレクターのクレメンス・クラウザー氏に聞いた(2019年3月中旬収録)

クレメンス・クラウザー氏

THQ Nordic GmbH マネージング ディレクター

数々のIPを展開していたTHQブランド

 おもちゃメーカーとして事業を開始したTHQは1994年からビデオゲーム専業に。『スポンジ・ボブ』や『WWE 』、『UFC』、『ダークサイダー』など、数々のシリーズ作を手掛ける。ぶっ飛んだ世界観が魅力のオープンワールドアクション『セインツ・ロウ』シリーズなど、熱心なファンを持つ作品も多い。2006年からは日本にオフィスも構えていたが、2012年に倒産。多くのIPはTHQ Nordic GmbHに引き継がれた。

THQブランドのアクション『ブロブ』の最新作となる『ブロブ カラ
フルなきぼう リターンズ』は、今年2月に配信された。

THQブランドを中心に40プロジェクトが始動中

――改めての質問となりますが、THQ Nordicという社名にした理由を教えてください。

クレメンス THQの吸収が最終的に決まったのは2013年だったのですが、それまでの我が社はNordic Gamesという名前でした。ただ、“THQ”という名前はよく知られており、しっかりとした高い評価を得ています。加えて、私たちをつぎのレベルに引き上げてくれるこの契約に敬意を払いたかったんです。それで、できれば“THQ”というブランド名を残したいと思いました。とはいえ、“THQ”だけにしてしまうと、それはそれで少し混乱を招いてしまう。そこで、両者を融合した“THQ Nordic GmbH”としたんです。改名自体は2016年8月になりますね。

――社名を変更したことによる効果は大きかったのですか?

クレメンス はい。とくにアメリカでは、パブリッシャーとしての認知度や知名度はかなり上がったと思います。かつてTHQとお付き合いのあった企業は、ひときわポジティブに受け入れてくれましたね。

――THQ Nordic GmbHとなったあとも、積極的にゲームをリリースしていますが、方針を教えてください。

クレメンス IPを大切にし、尊敬することが第一です。私たちは2018年末の時点で、115のIPを保持しています。その多くは、THQブランドを含めて買収などで獲得したもので、取得したIPを活かして“往年の良作を現代にリリースしたい”と思っています。私たちは“アセットケア”と呼んでいるのですが、かつての資産であるIPを大事にするための方法論でもあります。いまあるプラットフォームでちゃんとプレイできるようにしたい。しかも、かつてのタイトルを少しアップデートして、いまの時代にマッチした形でリリースするというのが、私たちの方針です。

――過去の優良なIPをいま風にアレンジするというのが、THQ Nordic GmbHのタイトル戦略の核になるということですね?

クレメンス そうです。さらに言えば、デジタルだけではなくて、できればパッケージ版も広く展開していきたいと思っています。“モノ”としていろいろな人に広められるようにしたい。現段階では、デジタルとパッケージ版と、半々でやっていきます。アメリカドルで言えば、9.99ドル〜14.99ドルくらいの低価格タイトルに関しては、デジタルのみで展開していく方針です。

――IPを復活させるにあたっては、どのような方針でIPを選んでいくのですか?

クレメンス 人気や知名度のあるゲームのIPから順次展開していく予定でいます。やはりTHQのIPは人気なので、勢い優先度は高くなりますね。『Darksiders』シリーズなどは、1、2作目ともに、早々にリマスター版をリリースさせていただきました。

――ユーザーが期待しているTHQのIPは、おおむね取り組む予定ですか?

クレメンス はい。そして言うまでもなく、私たちの最終的な目標は、それらのIPの続編をリリースすることです! 2018年にリリースした『Darksiders III』や今年配信した『ブロブ カラフルなきぼう リターンズ』は、その一例となります。

――続編ですか? 今後もTHQブランドの続編なども期待できる?

クレメンス そうですね。ただ、続編を作るには何年もかかるので、とにかく忍耐強く取り組んでいくことが大切だと思っています。それもありまして、IPを正しく新しいコンテンツとして復活するにあたっては、私たちはオリジナルバージョンを作ったデベロッパーをなるべく見つけ出して依頼するようにしています。オリジナルのクリエイターのほうが、続編をやることになったとしても対応してもらいやすいですし。先ほどお話しした『Darksiders』はまさにそのケースになりますね。開発を担当したGunfire Gamesは、『Darksiders』シリーズを立ち上げたメンバーが多く参加する開発スタジオなのですが、『Darksiders III』は彼らと組むことで、開発がとてもスムーズに進みました。

4月18日に配信されたNintendo Switch用ソフト『ラッドロジャース:ラディカルエディション』。こちらはTHQ Nordic GmbH傘下のHandyGamesのタイトルとなる。

――オリジナルメンバーを捜すということで言うと、苦労もありそうですね。

クレメンス オフロードバイクゲームの『MX vs. ATV』がまさにそうでした。同作は、かつてRainbow Studiosという開発スタジオが手掛けていたのですが、THQが倒産する少し前、2011年に閉鎖してしまったんですよ。その後、私たちが「『MX vs. ATV』を復活させたい!」となったときに、スタジオメンバーをひとりずつ探しだして、THQ Nordicの傘下としてRainbow Studiosを復活させました。同スタジオは、最初は7人から始まって、いまは39人のメンバーになっています。

――いい話ですね。映画にできそう。

クレメンス (笑)。

――ちなみに、ファンの方から要望がありつつも、なかなか復活させられていないTHQのIPや昔のライセンスはあったりするのですか?

クレメンス ありますよ。『レッドファクション』や『Impossible Creatures』、『スポンジ・ボブ』などですね。なかには、取り組んでいるけれど、時間と忍耐を必要とするタイトルもあります。いずれもやりたいことはやりたいのですが、ソースコードなどが手に入りづらいものもあるんです。IPの“アセットケア”は大切で、とても時間がかかるものもあれば、週単位でできてしまうものありますね。

――さきほどタイトル名が上がった3タイトルは、まさに開発に取り組んでいるところなのですか?

クレメンス それは、現時点ではお話しできません。当社では、いま40のプロジェクトが動いていまして、そのうちの16本はすでにアナウンス済みですが、残りの24タイトルはまだオープンになっていない状態です。

――40 プロジェクトも! ちなみに、親会社であるTHQ Nordic ABは、昨年THQブランドの『セインツ・ロウ』や『メトロ』の権利を持つDeep Silverを傘下に収めましたが、THQブランドの統合などは考えていますか?

クレメンス THQ Nordic ABなどを交えていろいろと話し合いを重ねましたが、現段階ではそれぞれの会社がこのままでいこうという結論にいたっています。

――40プロジェクトも動いているとなると、相当多くの開発スタジオと仕事をしているかと思うのですが、現在は何社の開発スタジオと提携関係にあるのですか?

クレメンス THQ Nordic GmbH傘下は9社ですね。協力関係にある外部のスタジオは17社になります。おおむねヨーロッパとアメリカのスタジオです。

――協力関係にあるのは、それだけ各スタジオが有望だからだと思うのですが、いっしょに仕事をする基準はどこになるのですか?

クレメンス ずばり技術です。あとは、RPGやレースゲームなど、特定のジャンルに対する知識の深さなどを見ています。

――では、日本のスタジオとの提携の可能性はありますか?

クレメンス もちろんあります。日本のスタジオとはいっしょに仕事をしてみたいです。双方にとって学べることが多いと思っています。

THQブランドを代表するタイトルがNintendo Switchで蘇る。4月25日に配信されたダークアクションアドベンチャーの『Darksiders Warmastered Edition』。

存在感をさらに高めるため日本市場も一層の注力を!

――THQ Nordic GmbHのプラットフォーム戦略も気になるところです。近年プラットフォームも多様化していますが、現時点でもっとも注力しているプラットフォームは?

クレメンス 私たちは基本的には、すべてのプラットフォームに注力しています。ただ、ほかのパブリッシャーとは違って、少しだけPCゲームのほうに軸足があると言っていいかもしれません。その後で、プレイステーション4やXbox One、Nintendo Switchなどの家庭用ゲーム機が続きます。

――PCのプラットフォームというと、SteamとEpic Gamesストアが競合関係にありますが、優先順位などはあるのですか? 兄弟会社のDeep Silverは、『メトロ エクソダス』をEpic Gamesストアで独占販売することを発表しましたが……。

クレメンス Epic Gamesは、とても積極的な戦略をもって、PC市場にどんどん参入してきているので、私たちとしても、とても興味深く彼らと業界の動向を見ています。そういった意味で、今後もしかしたら、Epic GamesストアがPCプラットフォームにおいて大きなプレイヤーとなりうるかもしれませ
ん。ただ、SteamもEpic Gamesストアも、とてもいいプラットフォームだと思っています。両プラットフォームとは良好な関係を築いていきたいですね。

――Googleが新プラットフォームのSTADIA(ステイディア)を発表しましたが、こちらに関してはいかがですか?

クレメンス ストリーミングは、これからの時代にマッチしたすばらしいプラットフォームだと認識しています。ハードウェアに頼らなくてもいいわけですから。Googleがゲームビジネスに参入してきたことに関しては、極めて好意的にとらえています。

――THQ Nordic GmbHとしては、STADIA(ステイディア)に積極的に展開していく?

クレメンス 私たちのコンテンツやIPを展開したいと思うすべての新しいプラットフォームに対して、サポートしていきます。

――では、今後の日本市場に向けての取り組みを教えてください。

クレメンス 日本市場では、業務提携をしたワーカービーさんにPRのサポートなどをお願いできることになりました。ワーカービーさんの協力を得て、今後も日本市場で積極的に展開していきたいです。もっと言えば、THQ Nordic GmbHとしては、近い将来日本市場において、もっと存在感を高めていきたいと考えています。日本市場への注力は、私たちの最重要ポイントのひとつです。いま、会社の規模的にもそういうことができる段階に来ていると思うので。今後の展開にご期待ください。