松井聡彦氏(まついあきひこ)
『ファイナルファンタジーXI』プロデューサー。開発初期からバトルプランナーとして本作に関わる。2013年に田中弘道氏の後を引き継ぎ、プロデューサーに就任した。
藤戸洋司氏(ふじとようじ)
『ファイナルファンタジーXI』ディレクター。チャットまわりやアイテム合成、チョコボ育成など、生活系コンテンツを中心に幅広く開発に関わる。2016年、ディレクターに就任した。
20周年は、走り続けるためのチェックポイント
――まずは、運営17周年、おめでとうございます。2019年3月8日に放送されたWeb番組『第44回 もぎたて ヴァナ・ディール』(以下、『もぎヴァナ』)で、「少なくとも、20周年である2022年まではサービスを継続する」という趣旨の発言がありましたが、この決定がなされるまでの経緯を改めてお話しいただけますか?
松井昨年2018年の12月に、KADOKAWAさんのご協力でイベントをやらせていただきましたが、そのときに「20周年でも何か大きいことができたらいいよね」という話を、誰からともなくしていまして。でも、ここのところの『FFXI』は、計画やそれに伴う予算も単年で考えてきたので、仮に周年の節目にあたる5月に何か大きな企画をやろうとしても、予算を承認してもらうのが年度末(3月)という会社の仕組み上、準備が間に合わないんです。そういうことを考えると、スポーツ選手ではありませんが、“複数年契約”じゃないと、となりまして。
2018年12月2日、東京・よみうりランドで行われたリアルイベント、“ファイナルファンタジーXI FAN EVENT 2018 #FF11メッセージ”。よみうりランド全体を使った催しや物販、豪華キャストによるトーク、朗読劇、そしてサウンドコンポーザーの水田直志氏率いるナナーミーゴスのライブなどが行われた。
――なるほど。期をまたぐような企画は立てづらかったわけですね。となると、もうすでに動き出しているものもあるのですか?
松井まずは、17周年に合わせてインストーラーや動作環境コンフィグ用のアプリケーション“FINAL FANTASY XI Config”をリニューアルしました。こういうものを企画するときも、「これくらいの投資はいいよね」とか、「これはちょっとコスト的に見合わないね」という判断が、単年の計画では難しかったんです。来年どうするかということだけでなく、「20周年まではきっちり計画を立てて、いろいろとやりたいです」という話をしたところ、『FFXI』の現在の成績なら大丈夫だろうと許可が下りました。
――「現在の成績なら大丈夫」というのは、プレイヤーにとってもうれしい話ですね。
藤戸ええ。いわゆる典型的な“MMORPGにおける会員数のグラフ(推移)”というものがあるのですが、これまではそれに当てはめるようにして計画や予算を立ててきました。ですが、いまそのグラフの形をベースに考えると、『FFXI』にはすでにプレイヤーがいないという想定になってしまうんですよ(笑)。『FFXI』は、そうしたグラフから逸脱して、現在もたくさんの方が遊んでくださっている。それは、どうにか世界を維持できるようにと、開発を続けてきた結果かなと思います。
――あくまで統計的なものでしょうけど、そうしたグラフが存在するんですね。
藤戸そうですね。サービス開始と同時にバーンと上がっていって、頂点をどこかで描いたら、そこから自然減衰していきます。拡張版が出ると少し山ができて、また自然減衰していく。自然減衰というのは、どんなMMORPGでもだいたい決まった度合があって、それで描かれる下降線に沿うようにスーッと下がっていくのですが、『FFXI』はそれに逆らっている感じはありますね(笑)。
――特例を作っていく(笑)。
藤戸現在の『FFXI』は、基本的には横ばいです。ある意味、「底を打った」という言いかたもできますね。ちょっぴり上がったりもしますけど(笑)。今後、拡張版などの山に頼らずにどこまでがんばれるかということを考えると、前例をベースとした計画ではちょっとやっていけないなと思っています。
――「サービスを少なくとも20周年までは継続する」という発表後、プレイヤーは「この先、3年間は安泰だ!」と喜ぶ反面、「でも、20周年で終わったりしないよね?」という不安の声も見られました。21周年以降の計画も、20周年付近の状況を見つつ、また新たに立てていくというイメージでいいのでしょうか?
松井そうですね。2015年に最終章シナリオの“ヴァナ・ディールの星唄”を皆さんにお届けして、その後は開発スタッフも少人数体制になり、「また今年1年、走り切ろう」みたいな感じでやってきました。そうした中で、20周年という目標があると、スタッフのモチベーション的にももっとがんばれるかなと。20周年の先をどうするのかという話は当然出てきますし、そのときになってみないとわからない部分でもあるのですが、おそらく、プレイヤーの皆さんがいる限りは、我々はビジネスとして続けていくと思います。どういう体制で続けていくかということも考えていく必要はありますが、まずは現行のスタッフで20周年までがんばろうということですね。正直、現行のスタッフはいま抜けられたら困る人たちばかりなのですが、彼らがもし違うことをやりたいと言うのであれば、将来的に相談できる体制にはしたいなと思っています。
藤戸開発当初からのスタッフはもう自分と松井くらいですが、ほかのメンバーは途中からチームに入って10年選手みたいな人ばかりです。その人たちのキャリアプランはどうするのとか、「このまま『FFXI』といっしょに骨を埋めるの?」みたいな話も出てくるんですよね。それぞれ家庭があったり、生活もあるので。そういうところも含めて、やっぱりある程度の展望は示さないと、みんな不安を抱えたまま毎年契約更新みたいな感じになっていて、モチベーションを維持することにも問題が出てきました。そういう先行きの見えにくいところを、できるだけクリアーにしておきたいというのが、開発チーム内の目標としてありました。
――長期運営タイトルは、開発者のキャリアに対するケアも重要ですものね。
松井スタッフは皆『FFXI』が好きで、一生懸命遊ぶ人たちなので、何も言わないでいると、そのまま自分の体力を犠牲にしてひたすら走り続けるような状況になってしまうと思うんです。運営をさらに続けるのであれば、開発者も業務を引き継いだり、世代交代していかないといけないですし、そのための準備もしなくてはいけない。そう考えると、単年計画ではとうていやりきれません。
――ちなみに、開発体制がコンパクトになってからは、メンバーに変更はあったのでしょうか?
松井『FFXI』の開発スタッフは変わっていませんが、『FFXI』チームが所属していた第5ビジネス・ディビジョンが、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)を中心とした第三開発事業本部として再編されました。それに伴って、第三開発事業本部のエンジニアさんに手伝ってもらえるようになり、いろいろ新しいことができるようになったんです。以前はもうちょっと縦割りというか、『FFXI』チームと『FFXIV』チームは別々でやっていたのですが、両方に関わる人たちが流動的に動くようになったので、そういう意味では少し変わりましたね。
――それはいいですね。『FFXIV』チームには、かつて『FFXI』の開発メンバーだった方もいらっしゃるでしょうし。
松井そうですね。そういうところもあって、助かっています。『FFXIV』側とうまくスケジュールを調整し合いながら何かをやるという土壌もできつつあるので、いろいろな未来はあると思います。あと、『FFXI』の元開発スタッフで、現在、外注としてテクスチャー制作を引き受けてくださっている方がいるのですが、中長期計画が可能となれば、お願いできる内容も変わってきます。その方も、いつまでも『FFXI』専任でやっていただけるかはわからないですし、キャリアの見通しを立てやすくするためにも、「とりあえず20周年までは」という伝えかたになりました。
――こうしてお話をうかがっていくと、20周年は“ゴール”というより“チェックポイント”に近い感じですか?
松井そうですね。
藤戸旗を立てておかないと、走る方向がわからなくなっちゃいますから。たぶん、プレイヤーの皆さんも同じように感じている部分はあると思うんです。ヴァナ・ディールプロジェクト発表のときに「2016年3月でメジャーアップデートは終了します」と大々的に言ったのに、その後も毎月バージョンアップを実施して「まるでやめる気ないじゃん」みたいな感じに見えていると思うので……(苦笑)。こちらの開発体制的に、“できないこと”は最初にお伝えしたのですが、「できるんじゃないの?」という希望をみんな持ってくれて、「あれしてほしい」とか「こういうのを作ってほしい」というような意見が出てきています。
――確かに、ヴァナ・ディールプロジェクト発表の時点で想像していたよりも、かなりいろいろなことができているので、ついつい期待してしまいます。
藤戸それが悪いとかではぜんぜんないです。どちらかというと、終わりを感じさせない状況に持っていくことができたのですから、むしろいいことだと思っています。でも、そうした中で、キリのいいところでもう一度ドーンと打ち上げたい。ならば、20周年をひとつの目標点として設定して、そこまでの計画をちゃんと立てられるようにしたほうが、会社にしてもプレイヤーの皆さんにしても、安心してそこまで向かっていけるんじゃないかと、松井も一生懸命がんばったというところがあります。
中長期計画はこれから
――中長期的な計画が可能になって、どんなことができそうだとか、こういうことをやりたいといったことを、お話しできる範囲で教えてください。
松井じつは、中長期計画が立てられることが決定してからまだそれほど日が経ってないので(※取材日は2019年4月17日)、具体的にお話しできる段階ではないのです。それと、現時点ですでにタスクが詰まっているので、2019年の前半はあまり動けないんですね。今年の後半くらいから、本格的に計画を立てていきたいと思っています。
――これから動き始める感じですね。
松井ただ、バトルコンテンツに関して言えば、定期的に何かしら更新したいとは思っています。どのコンテンツに手を入れるかは、またそのときに応じてですね。あとはやはり、そんなに大きな規模ではなくても、ストーリー的なものを楽しんでもらえるといいなと思っています。年に2〜3エピソード程度でも、ヴァナ・ディールという世界や、そこに住んでいるNPCたちの物語を足したいなと……。でも、ストーリーを作るのにはけっこう時間がかかるんですよ。テキストができた後に、ローカライズ(翻訳)作業もありますし。いまの1ヵ月単位のバージョンアップで完結させるのは難しいので、やはり前もって計画を立てて実装できたらいいなと思っています。
藤戸以前、『もぎヴァナ』でお約束していたエンピリアン装束の強化というのは、どこかのタイミングでちゃんとやります。それも、単純に打ち直すのではなくて、新しいバトルコンテンツも合わせて実装したいなと考えています。オーメンやデュナミス〜ダイバージェンス〜のような規模感になるかはまだわかりませんが……。
――強化はコンテンツとセットで考えているということですか?
藤戸なるべく、そうしたいと考えています。とはいえ、まだ企画もない段階です。20周年をどう飾るかというのもそうですが、20周年までの3年間で、どこで何を実装しようかというのを、発注の速度感も見つつ、練っている最中です。松井からもあったように、ストーリー絡みで何かやってみたいなというのはありますね。
松井じつは、まだ17周年に合わせて全力疾走中のものがいくつかあって、落ち着いて藤戸とそういう話をする時間も取れていないという(苦笑)。
――中長期計画と言うならば、これは聞かずにはいられないのですが、拡張ディスクはさすがに望みすぎでしょうか?
松井いろいろな未来の可能性があるので一概には言えませんが、それでもきびしいとは思います。
藤戸いま、テクスチャーを作る人は確保できているのですが、3Dモデルやモーション、そして地形データを作るために、スキルのある専任のスタッフが必要です。また、拡張ディスク規模のストーリーともなると、それこそ2〜3人が額を寄せ合って、かなりの時間を使って作り上げる必要があります。
――やはり、人的リソースが壁になりますか……。
藤戸人数もそうですが、開発環境が古いのがネックですね。以前、シナリオ3部作(『石の見る夢』、『戦慄! モグ祭りの夜』、『シャントット帝国の陰謀』)を拡張コンテンツとしてリリースしましたが、あれはマップの拡張がなかったので、作る必要があるリソースが比較的少なめでした。もし拡張を作れるとしても、あれが最大の形だと思います。あくまで、枠としての可能性の話にすぎませんが。
松井『FFXI』が30周年を迎えるころには、初期の開発スタッフたちがみんなリタイアしていると思うので、ボランティアでヴァナ・ディールをコツコツと拡張できたら楽しそうですね(笑)。弘道さん(初代プロデューサーの田中弘道氏)にプロデューサーをやっていただいて。
――それはめちゃくちゃ楽しそうですね(笑)。
インストール時のつまずきを最小限に
――新しいインストーラーとコンフィグについて、詳しくお聞かせください。
松井これまで、PC(Windows)版の『FFXI』のクライアントデータは、『ヴァナ・ディール コレクション4』をそのまま公式サイトに置いていたのですが、より直感的にインストールできるよう、インストーラーそのものを新しくしました。
藤戸Windowsで『FFXI』を始めるには、いくつかの壁を乗り越えないと、そもそも起動までたどり着けない状態だったんです。
――Windows自体の設定ですね。
藤戸ええ。Windows8.1以降は“DirectPlay”の機能を有効にする必要があったり、DirectXランタイムがどうのこうのと、これまでプレイステーション2やXbox 360で遊んでいたプレイヤーからしたら、「何それ……?」となってしまう手順が多かった。ここでつまずいてしまい、インストールがうまくいかない、『FFXI』が起動しない、あきらめよう……という流れが、こちらで取ったデータとしても非常に多かったんです。そのあたりをわかりやすくするため、できるだけワンタッチでインストールが終わり、Windows側の設定も基本的に自動で行われるように整備できないか、いうのが目標でした。その準備を2018年の秋ごろから水面下で進めていました。
――すでに公式サイトでダウンロードできるインストーラーは新しいものになっているんですよね?
藤戸はい。ちなみに、インストールされる『FFXI』のクライアントデータも、これまでのバージョンアップが反映されているので、インストール後の差分バージョンアップも短時間で済むようになっています。これからゲームを開始したり、PCを買い替えたりする人は、ぜひ新しくなったインストーラーを使ってみてください。
――コンフィグについては、アプリケーションの“FINAL FANTASY XI Config”が新しくなった形でしょうか。
松井そうですね。ゲーム外で設定するほうです。
――こちらは、もうすでに『FFXI』をインストールしている場合はどうなるのでしょうか?
松井今月(2019年5月)のバージョンアップで新しいものに置き換わっているので、開いてみたら、「あっ、変わってる!」と思われるかと(笑)。
藤戸コンフィグは、以前のものは表現がわかりにくかったので、そのあたりをわかりやすく直し、インターフェースも直観的に操作できるようにしました。“Menu Buffer”とか“Front Buffer”とか、そうした単語も表現を変えました。
――一応、ヘルプはありましたけど、調べないとわからないですよね(苦笑)。
藤戸とくに、テクスチャーの設定項目はHIGH、MIDDLE、LOWの3つになっていて、じつはLOWのほうが描画クオリティーが高い、みたいな感じでしたから。
――有名なトラップですね(笑)。テクスチャーの“圧縮”に関する設定なので、LOW(すべて非圧縮)のほうが綺麗になると。
藤戸そういう、パッと見てわからないような表現をあちこちで使っていたために、その機能の意味を理解するのに時間を費やしてしまうという状況が多分にありました。インストーラーが新しくなって『FFXI』を無事インストールできても、けっきょくつぎにつまずくところはそこになるわけで……。どうせ刷新するなら、コンフィグも同時にわかりやすく変えましょう、ということになりました。
――設定できる項目は増えているのでしょうか?
藤戸あくまでインターフェースが変わっただけなので、コンフィグで設定できる内容自体は変わりません。たとえば、これまでリストボックスから選んでいたものがスライダーになったり、表現的にもそれを選ぶとどうなるのか、わかりやすくしています。
――なるほど。では、現行プレイヤーはとくに設定し直す必要はないわけですね。
松井はい。コンフィグが新しくなっても、設定内容はそのまま維持されています。ただ、設定のバックアップを取る機能が追加されていますので、何かあったときに設定をすぐに戻せるようにしておくといいかもしれません。
藤戸マクロや装備セットなど、そういったところまで含めたユーザーデータを丸ごとひとつのファイルとして書き出して、任意で書き戻せるようにしました。実際、ユーザーの設定データはある程度PCの知識がある方なら見つけることはできたのですが、バックアップを取ること自体はサポート外でした。それを公式としてちゃんとフォローした形ですね。望まれていたところに手を入れたというのが、今回のコンフィグです。
――別のPCに環境を移すときに便利でしょうし、複数のバックアップデータを用意して、マクロや装備セットを丸ごと入れ替えるといった使いかたもできそうですね。
藤戸ちなみに、バックアップはキャラクター単位ではなく、あくまでユーザーデータとしてアカウント内の全キャラクターの設定をまとめてエクスポート、インポートする仕組みですので、そこだけは間違えないようお願いいたします。
――あとは、ゲームパッドさえあれば、プレイステーション2やXbox 360で遊んでいた人も同じようなプレイ環境にできますね。
松井ゲームパッドは、プレイステーション4のDUALSHOCK 4(※)をUSB接続するのが簡単でオススメです。
※Windows環境でDUALSHOCK 4をUSB接続すると、一般的なゲームパッドとして認識します。振動機能やタッチパッドといった固有の機能は使えませんので、ご注意ください。なお、SHAREボタンやOPTIONSボタン、タッチパッドを押し込むタッチパッドボタンは、通常のボタンとして使用することができます。
サーバーの置き換え、仮想化を進行中
――インストーラーやコンフィグ以外に、足回り的な意味合いで、ほかに予定していることがあれば教えてください。
藤戸予定というか、現在進行中なので、説明もひと通りしているつもりではあるのですが、いわゆるバックエンド側、サーバーにも手を入れています。サーバーも老朽化が進み、故障率も上がっている。そういう側面を考慮して、リプレースと呼ばれる置き換え作業を、月に1〜2回、全体メンテナンスを実施して進めています。いまのマシンの性能は飛躍的に高くなっていて、メモリー空間も半端なく大きいので、単純に置き換えるだけではなく、サーバーの仮想化(※)も可能です。いろいろメリット・デメリットを考えつつ、裏のほうをキレイにしていっています。
※物理的な1台のサーバーで、複数の仮想的なサーバーを運用すること。VM化とも言う。CPUやメモリーの使用率など、サーバーリソースの有効活用ができるほか、管理コストの削減などメリットも多いが、リソースが不足すると処理能力が低下したり、障害が起こった場合の影響範囲が広くなるなど、デメリットも存在する。
――見えないところも整備されているんですね。
藤戸それがどんなメリットがあるのかという話になってくると思うのですが、やっぱりサーバーが故障しにくくなるということは、急にエリアが落ちたり、プレイに支障が出るようなトラブルも起こりにくくなります。あと、これはまだ実験中の話なのですが、もしかすると、レイヤーエリアにもう少し早く入れるようになるかもしれません。
――おお。それはインスタンスの数を増やせる、ということですか?
藤戸それもあります。ただ、インスタンスは増やしたら増やしただけ、どこかに負荷がかかってしまうので、その負荷がけっきょく全体的なパフォーマンス低下につながるのであればやるべきではないし、まだ実際にサーバー側がどこまでできるのか様子を見ている状況です。遊んでいる側からしたら、とくに何か変わったというようには見えないと思いますが、逆に言うと、変わらないようにするためにやっています。
――アンバスケード(※)の待ち時間は、いまのヴァナ・ディールのわりと切実な問題ですよね。人数の多いOdinワールドあたりだと、バージョンアップ直後は60組待ちみたいな……。
※現在の主要コンテンツのひとつ。レイヤーエリア(インスタンス)を使用しているため、同タイミングで突入できる人数(パーティ)に制限がある。
松井じつは、いちばんすごいのがAsuraワールドなんです。Asuraワールドはアンバスケードへの挑戦回数というより、挑戦者数が群を抜いているのですが、パーティを組む方も多いので、Odinワールドよりもむしろ回転はいいかもしれません。それでも、最近はさすがに重たいと言われるようになりました。だからといって、「じゃあ、空いているワールドに移動してよ」というのもちょっと違うと思うので、なるべく快適に遊べるように取り組んでいます。
――Asuraワールドはいまでも3000人とかになりますよね。
藤戸Asuraワールドは海外プレイヤーが中心なのですが、「ここに来たら仲間がいる」という感じの口コミで、人が集まってきている状況です。
松井アンバスケードは、レイヤーの生成数というより、どうしても入り口が詰まってしまう感じなんですね。一時期は、とりあえず入り口の混雑を緩和できるようにと、1回の攻略時間が長くなってもいいからポイントをたくさん稼げるという方向の修正をしたのですが、それでももう対応が難しくなってきたかなと感じています。そこで、先ほど藤戸が話した、インスタンスを増やせないかどうかの実験をしているのですが、理論上は効果がありそうなのだけど、本当に効果があるかどうかは、まだわかりません。じつはどこかにボトルネックがあって、結果的に何も変わらないという可能性もあるので……。あまり期待を煽りたくはないのですが、実験はしています。
藤戸ですので、手をこまねいて何もしていないわけではないんです。あくまで理論上では、待ち時間が半分程度になるはずなので、実験がうまくいったら進めようと思っています。
――いい結果を期待しています。ちなみに、「Asuraワールドはパーティを組んでくれる」とおっしゃっていましたが、国内のプレイヤーはソロが多いんですか?
松井そうですね。思いのほかソロの方が多いんですよ。
藤戸アンバスケードについては、かなり細かくデータを取るようにしています。Odinワールドはわりと日本人で占められているワールドで、プレイヤーの年齢層や時間の使いかたなど、プレイスタイル的な面もあると思うんですけど、ひとりあるいはふたりくらいの少人数で突撃していく人が多めです。一方Asuraワールドは、野良パーティが当たり前の文化っぽくなっているので、とにかく集まって突撃していく人たちが多いです。数字には顕著に出ていますね。
――それは興味深いですね。ソロとパーティ、半々くらいかなと思っていました。
松井パーティを組める人は絶対に組んだほうが効率がいいし、ガラントリーももらえるのでお得ではあります。でも、逆に言うと、ソロでも遊べることを目指して作っているコンテンツでもありますので……。
――コンセプト通りではあるんですよね。
松井ここで、「なるべくパーティを組んでください」と言うのはまた違うと思うので、ソロやパーティどうこうではなく、いま検証中の対策でもうちょっと待ち時間を減らせるのが理想ですね。あと、アンバスケードでは、必要なポイントを稼いだら「今月は卒業」みたいな感覚があるじゃないですか。そこについても、適度なポイントアップで卒業しやすくするというか、そういうことも必要かなとは思っています。ただ、あんまりそこの敷居を下げ過ぎて、アンバスケードをメインで楽しんでいるプレイヤーのやることがなくなってしまっても困るので、別のいろいろな遊びを整備することとセットにしないとダメだと考えています。
アンバスケード武器とパルスアームズ
――2019年4月のバージョンアップで、エミネンス・レコードに“マンスリー目標”が入りましたが、この狙いはどういったところでしょうか?
松井15周年に合わせて“15周年記念エミネンス・レコード”という月替わりの目標を入れたのですが、あれくらいの規模感の目標が、遊びとしてちょうどよかったという意見をいただきまして。週末にちょこっとログインするようなプレイヤーでも、気軽に挑戦・達成できるような目的があるといいかなと……。あと、アンバスケードのような毎月毎月“よーいドン”で走るタイプのコンテンツではなく、コツコツと貯めていって、一定のところにたどりついたらまあまあいいものがもらえる、みたいなコンテンツも欲しいという話が出ていたので、あの形になりました。
――ライトなプレイヤーでも達成しやすい目標を作って、かつ長期的な遊びにすると。
松井初心者でもすぐにできるものと、すぐにはできないけれども、2〜3日あれば達成可能なものをチョイスしました。ある程度、いろいろなコンテンツにまたがっていますが、「そういえば、こんなのもあったね」とか、「久しぶりにやってみようか」といった感じで挑戦してもらえるといいなと思って、旬ではないコンテンツもターゲットに選んでいます。基本的には、アンバスケードに通えるくらいの装備であれば、全部ソロでやれる難度になるように課題を選びました。
――目標が4種というのは固定ですか?
松井はい。内容はもちろん変わりますが、4種であることは固定です。上位ミッションバトルフィールドの目標は、敵単体のものが順に変わっていく感じです。残りの3つの目標は3パターンあって、それが3ヵ月ごとにループする形になっています。
藤戸マンスリー目標の実装にあたっては、ゲームをプレイした期間に応じてメリットを提供する“ベテラン報酬”的な求めに対する方法も念頭に進めていました。長く遊んできたぶん、それに対して何かメリットが欲しい、ということですね。ただ、いまは超がつくほどのベテランか新規の両極端しかいないような状況なんです。
――その中間は少なそうですね。
藤戸そもそも『FFXI』では、キャラクターが作成された日は覚えているのですが、ずっとプレイしてきたキャラクターか、途中で休止期間があるキャラクターかどうかというデータは持っていません。累積プレイ時間として、オンライン状態になっていた時間は計測されていますが、それをもとにベテラン報酬を与えるにしても、期間があまりにも長期にわたっていて、現実的ではないですよね。新規で始めた人が、17年目のベテラン報酬にたどりつけるわけがないですし(苦笑)。
――17年というサービス期間を考えると、プレイ時間に応じて何かを渡すというのは、難しいですね。
藤戸仮に、“17年継続”とかにものすごくいい報酬を置いたとしても、新規や復帰者にとっては「絶対もらえるわけないじゃん」という不公平感が生まれてしまうので、過去を遡る形のベテラン報酬の導入はないなと思ったんです。だったら、いまから一斉に始めて、エミネンス・レコードの形で新しくポイントを貯めていって、そのポイントで何かもらえるほうがいいかなと。報酬にも階段をつけて、皆さんにあらかじめお見せすることで、それもまたひとつのモチベーションにしてもらう形にしました。
――報酬が見えているのはいいですよね。
藤戸休止中のプレイヤーが期間限定で無料プレイできるウェルカムバックキャンペーンを年に3回くらいやっていますが、そのときだけちょろっと顔を出しに戻ってきてくれる人たちが多いんです。ちょっと楽しんだら「じゃあ、またつぎの無料のときに」という遊びかたをされているので、そういう方たちにとっても、継続のきっかけになればいいなと。
――ベテラン報酬的な意味合いを持つということは、マンスリー目標で得られる“ディード”というポイントはリセットはされないんですか?
藤戸されないです。サービスが続く限りは貯まり続けます。
――現在公開されている報酬リストの最後が“???”になっていますが、1年間欠かさずにディードを貯めていくともらえる計算ですよね。
ひと月で貯められるディードは40。NPCに話し掛ければ、累積480ディードまでの報酬を確かめることができる。
藤戸まずはそこまで貯めていっていただいて、その先をどうするかはまだチーム内で相談中です。単純に続けるだけでは、先ほどの“17年継続報酬”のたとえと同じになってしまうので、そこはどうしようかという話はしています。
松井どちらにせよ、追いつけない問題は出てきてしまうので……。“???”についても、どの時点で発表するかは、まだ相談中です。
――えっ、もう決まっているんですか!? 絶対まだ決めていないと思っていました(笑)。
松井いや、決まっていますよ!(笑)
藤戸決まってはいるんですけど、皆さんが「おお、すっげー」となるかどうかは、また別の話で……(笑)。
松井今年1年を盛り上げるために、発表するタイミングを設けたいというのがありまして。もちろん、RMEA(※)のような、プレイヤーの戦力をかさ上げするようなものではないのですが、いままでにないユニークな何か、という形を考えています。まだ、ゲーム内のデータとしては実装されていないものです。
※レリックウェポン、ミシック(エルゴン)ウェポン、エンピリアンウェポン、イオニックウェポンといった伝説武器群の総称。
――なるほど、楽しみです。現状、目玉となっている報酬としては、パルスアームズ(※)と交換できる“クーポンW-Pulse”が挙げられます。パルスアームズは、アンバスケードで入手できる武器の最終強化に必要なアイテムということもあり、いいエサを置いたなと(笑)。
※抜刀した際や攻撃モーションに合わせて、特殊なエフェクトが発生する装備群の総称
松井最速で5ヵ月目で手に入ります。パルスアームズまでは、みんな全力で走るでしょうね(笑)。じゃあ、そのタイミングくらいで“???”が何かを発表するといいのかな……。
――パルスアームズは、マンスリー目標でひとつは確実に手に入るのはいいとして、それでもアンバスケードの武器の最終強化に要求されるのは、難度的に高いのではと思ったのですが、このあたりの意図について聞かせてください。
松井アンバスケード武器は、最終段階でエフェクトを付けたいと話していました。でも、エフェクトが付いた武器はヴァナ・ディールの中でも非常に希少ですし、その条件としてはパルスアームズを要求するのが妥当だろう、であれば、これくらいはっちゃけた性能にしてもいいんじゃないか……という順番で武器の強さを決めたんです。
――話の発端は、武器のエフェクトにあるんですね。
松井「アンバスケードの武器なんだから、アンバスケードだけで完結させるべき」という声があるのは知っています。でも、そうすると、性能的にも抑えざるを得ない。パルスアームズを要求するぶん、あれだけの性能にできたというわけです。状況によっては、RMEAに並ぶぐらいの使い道もあるかなと。
――実際、かなり強いですよね。
松井ただ、パルスアームズを取るのはたいへんという声もかなり聞こえてきますし、それもあって“クーポンW-Pulse”をマンスリー目標の報酬に入れたという側面もあります。あと、長年言われていた“メリットポイントのツボチャージめんどくさいよ問題”も、パルスアームズのこともあり、じゃあ解決しよう……となりました。醴泉島の例のゴブリンのところに行くと、効果時間がかなり長いバフをつけてくれて(※)、そのあいだに稼いだメリットポイントは自動でツボにチャージされていきます。
※ゴブリン(Emporox)に100ビーズ渡すことで72時間のバフをつけてもらえる。また、500ビーズで“ヒギの指輪”と交換することも可能。ヒギの指輪を使うことでも、同様のバフが得られる。こちらの効果時間は24時間。3回まで使用できる。
藤戸補足すると、自動で転送されるのはメリットポイントが溢れたタイミングからなので、いったん貯め切らないとダメですね。
――また謎のテクノロジーが(笑)。
松井ヴァナ・ディールにも電子マネー化の波が……(笑)。設定的な部分で抵抗はあったんですけど、これでポイントが貯めやすくなると思うので、こちらでもパルスアームズを目指していただければ。
ジョブ調整はひとつのコンテンツ
――2019年の1月から始まっているジョブ調整ですが、これは1年をかけて全ジョブ実施していくようなイメージなのでしょうか?
松井申し訳ないのですが、1年間で全ジョブを調整するとはお約束できないです。ジョブ調整は、コンテンツを作る担当者がメインでやっていて、毎月どこかしら手を入れたいとは言っているのですが、状況によっては1ヵ月空くこともあるでしょうね。今回のジョブ調整は、バランスを調整するというよりは、ひとつのコンテンツとして考えているんです。
――コンテンツですか?
松井自分のメインジョブに手が入る、これでどうなるんだろう、どんなふうに遊びかたが変わるんだろう……というワクワク感って、強さがどうこう以前に、ひとつのコンテンツだと思うんです。どうしてもアタッカーだと、DPS(単位時間あたりの火力)にばかり目が行くので、なかなか悩ましい部分ではあるのですが……。
――確かに、ジョブに手が入ること自体がイベントになるというのは納得ですね。公式サイトのトピックに上がるだけでも盛り上がりますし。でも、先日のディアとバイオの調整は、随分と慎重だなあという印象でした(笑)。
松井ディアに関して言うと、ライトショットの効果が万能すぎて、赤魔道士や上位ディア系魔法の必要性が薄くなっていた部分を本来あるべき姿にしたかったんです。トータルでいままで得られていた効果を下回らないように、またライトショットにもきちんと意味があるように考慮して調整しました。
――どちらかというと、ジョブの可能性を横に広げていく感じなのでしょうか?
松井あまりかきまぜすぎないように……とは思っています。いままでの立ち回りが全部使えなくなったらダメですし、新しい選択肢ができたとか、いままでこの敵は敬遠していたけど戦闘が楽になったとか、そういう形で遊びかたが広がってくれればいいかなと。
――自分の好きなジョブに手が入るという過程を含めて、楽しんでもらえるといいですよね。
松井そうですね。あと、それをきっかけにコミュニティの議論がまた活発化してくれたらうれしいです。その中でいいアイデアがあれば積極的に拾っていきたいと思っていますし、そういう意味で「ジョブについてはもう何を話してもムダだよ」ではなく、「こうしたらいいのでは?」とか、「このアビリティをどうにかしてほしいなぁ」とか、そういう話が出てくると、我々もやり甲斐がありますね。
藤戸よくフォーラムで、問題点を挙げて、その解決法としてこういうやりかたがあるんじゃないか、といった感じで意見をくださる方がいるのですが、そういう書きかたをしていただけると、とても参考になります。なぜその問題が起こっているのかというのを、こちらが再現しやすくなるんです。これが、強弱の軸だけで語られてしまうと、ジョブの基本性能というか、何ができるジョブなのかというところを、まずいったんナシにしてから議論をスタートさせないといけない。ジョブの性能は火力だけでは測れないんですよ。
――アビリティや仲間とのシナジーなども含めて、総合的に考えるということですね。
藤戸単純にウェポンスキルが強いとか、このジョブのほうが殲滅速度が速いというふうに、火力の軸だけで語られがちなんですよね。それぞれのジョブが持っている本来の役割が果たせていないのなら、なるべくそれを果たせるように調整にしたいのと、あとは、新しいジョブ特性やアビリティが入るなら、それがこれまでの立ち回りをさらに円滑にし、かゆいところにも手が届くようになる……とか、そんな方向性の変更だという捉えかたをしてもらえるといいなと思います。
ヴァナ・ディールを守るために
――最後に、17周年にあたって冒険者の皆さんにメッセージをお願いします。
松井17周年って、とくにキリのいい数字ではないですが、ただ、17年積み重ねてこられたというのは本当に誇りであり、支えてくれた冒険者の皆さんの思いをすごく感じています。今回、「20周年までがんばるぞ!」という決意表明をさせていただきましたが、皆さんがいつでも戻ってこられるように、できるだけ長く、ヴァナ・ディールを守るのが私の使命なので、引き続き応援をよろしくお願いします。
藤戸先ほど、MMORPGの会員数グラフについてお話ししましたが、『FFXI』にはもうロイヤルなお客様しか存在しません。そして、ロイヤルなお客様がお友だちを誘って、いっしょに遊ぶという環境ができつつあるのかな……という分析が、売上の数字からもできるような状態です。ということは、この先がんばれば、このグラフが上がっていくほかないのかな! と。いまもプレイを続けてくださっている皆さんの中には、『FFXI』が生活になっているという方もすごく多いと思うので、いろいろな遊びを準備して、その生活を壊さないように、むしろ、そのコミュニティが促進するような形でいろいろな施策を打っていければと思います。
松井『クロノ・トリガー』というタイトルを開発したときに思ったんですけど、丁寧にコストをかけて作るということって、それだけで遊んでいる人たちに伝わるんですよね。僕はあのゲームに関わって、表からは見えないところであれ、手間暇かけることを大事にしようと思いました。『FFXI』もMMORPGにしては珍しく、定期的に細かく手を入れ続けていることが長く続いている秘訣かなとも思います。そこは守っていきたいですね。
――ちゃんと作ってありますよね、『FFXI』って。
松井コツコツ作ってきましたね。
藤戸たとえば、新しいコンテンツを作ってリリースするというのは、すごくセンセーショナルなことで、作っている側も楽しいし、プレイヤー側も楽しい。でも、そうじゃない細かいところは、やっぱり二の次になってしまいがちなんですよ。『FFXI』は、正直いつ終わるかもわからないゲームだったし、いま細かいところに手を入れたところで意味があるんだろうか、そんなことよりも盛り上がる要素を入れたほうがみんなハッピーなんじゃないか、という考えかたがわりと長く続いてきました。でも、その考えだけでいくと『FFXI』は死んでしまうんです。死なないための施策というのは、傍から見たら地味で必死に映るかもしれないけど、やらないといけない。いまこそそれをやらないと、20周年とかのチェックポイントの旗が見えたとしても、そこにたどりつけないかもしれないんです。実際そこまでちゃんとやりきるために、道を整えるし、外回りも必死になって整備する。これを17周年のテーマのひとつとしてやっていこうかと思っています。18周年、19周年はちょっと違う方向で我々もやっていく予定なので、ぜひその手で変化の感触を確かめていただきたいです。