アニメーション制作スタジオ・TRIGGERの最新作となるオリジナル劇場アニメーション『プロメア』が、2019年5月24日に全国の劇場で公開される。その劇伴を手掛けた作曲家の澤野弘之氏にインタビューを実施。氏が劇伴作曲家を志すきっかけや、劇伴の作りかたなど、貴重なお話をうかがった。

 なお、週刊ファミ通2019年5月30日号(2019年5月16日発売)では、全47ページの大ボリュームでTRIGGER&今石洋之監の特集を掲載している。そちらも合わせて読むと、本記事の内容をより深く理解できるハズだ。

澤野弘之(さわの ひろゆき)

ドラマや映画、TRIGGER作品の『キルラキル』、『プロメア』といったアニメの劇伴を数多く手掛ける。近年ではアーティストへの楽曲提供も行っているほか、さまざまなアーティストをボーカルに迎えたオリジナル楽曲も発表している。

劇伴作曲家になるまでの経緯と、お気に入りのゲームミュージック

――これまでの経歴をお教えください。

澤野 小、中学生くらいのときにCHAGE and ASKAのASKAさんの曲に感銘を受けて、聴くだけではなく作曲することにも興味を持ち始めました。その後、高校生になってから小室哲哉さんの影響もあって本格的に作曲を学び始め、シンセサイザーなどの機材を買って作曲したりしていました。

 そうした背景もあって、初めのうちは歌唱曲を作ることを目標にしていたのですが、作曲家の先生のところに通うようになってから聴いていたのは映画音楽でした。ちょうどそのころに、友だちの家で映画音楽を聴いてすごく新鮮に感じたんです。それから自分でもいろいろな映画音楽を聴くようになり、劇伴作曲家の久石譲さんや坂本龍一さんの曲に興味を持ち、本格的に劇伴の仕事を目指すことを決めました。

 そして、自分でデモテープを作って送ったりして事務所に入ることができて、ドラマなどの劇伴の仕事を担当するようになり、いまに至ります。

――最初のきっかけはいまのスタイルとはかなり違うんですね。

澤野 シンガーソングライターを目指していたのですが、途中で「自分には歌う才能がないな」と思いまして(笑)。あと、小室さんは楽曲だけ提供するという活動もされていて、作曲者という立場であれだけの存在感があるというところに衝撃を受けて、自分もそういう方向に進めないかと考えるようになったんです。

 それから、自分が映画音楽に興味を持ったのも、小室さんが映画音楽の曲も作曲されていることを知ったのがきっかけでした。

――澤野さんは歌の入っていないインストゥルメンタルの曲のどういったところに惹かれたのでしょうか。

澤野 友だちの家で聴いたときに、当時ふだん聴いていた歌の入った音楽と違う気がして、自分にとって新しい世界のように思えたんです。でも、思い返してみると、僕自身が初めて買ったCDは『ドラゴンクエスト』のオーケストラだったりするので、あまり意識はしていませんでしたが、子どものころから好きだったんでしょうね。

『キルラキル』や『プロメア』の作曲家・澤野弘之氏に訊く劇伴の制作の魅力と裏側。TRIGGERスタッフ陣のメッセージもアリ_01

――『ドラゴンクエスト』シリーズはプレイされていたのでしょうか?

澤野 じつはほとんど遊んだことはありません(笑)。もともと、背景に流れている曲に興味を惹かれることが多かったんですよ。

 ゲームだと、僕が中学生のときは格闘ゲームが流行っていましたが、友だちはみんな「どうやったら強くなれるか」を考えている中で、僕は後ろの曲も気になってしまって。『龍虎の拳』であったり、『餓狼伝説』であったり、サウンドトラックが発売されたらすぐに買っていました。

――とくにSNKの作品の曲を気に入っておられたのですね(笑)。

澤野 カプコンのゲームもよく遊んでいましたが、個人的にSNKの曲が好みのものばかりだったので(笑)。“新世界楽曲雑技団”というサウンドチームの方々が作られていたんですけど、すごくかっこよくて当時はよく聴いていました。

――ちなみに、ほかにゲームの曲で印象に残っている曲はありますか?

澤野 『ファイナルファンタジー』の植松伸夫さんの曲はメインテーマを始め、作品を遊んでいて、感情移入できるような曲が多いですね。『ドラゴンクエスト』のすぎやまこういちさんの曲も、作り込まれた曲が多くてただただ感心します。あと、ゲームボーイの『ドラキュラ伝説』の1面の曲が好きで、いまでも聴きたくなることがあります。もちろん、バンドアレンジもカッコイイと思いますが、原音の限られた音数だからこそのカッコよさもありますよね。

――『ファイナルファンタジー』はどの作品をプレイされていたのですか?

澤野 初めてプレイしたのは『ファイナルファンタジーV』でした。それまでアクションゲームばかり遊んでいたので、“セーブする”という概念が僕の中になくて、友だちに借りて初めてRPGを遊んだときは3時間くらいセーブせずにプレイした状態でボスに倒されちゃって、それ以来「RPGはもういいかな……」と思っていました。ですが、友だちから『ファイナルファンタジー』を熱烈に勧められて。それで「やってみようかな」と、友だちに借りてプレイしたらすごくおもしろかったんですよね。

曲の印象を変える映像の力がTRIGGER作品にはある

――今回、『プロメア』の楽曲を作ることが決まった経緯をお聞かせください。また、澤野さんはどの部分の楽曲を担当されているのでしょうか。

澤野 以前、今石監督の『キルラキル』で音楽を担当したことがありまして。ありがたいことに今回もお話をいただいて、制作に参加することが決まりました。『プロメア』の楽曲はすべて僕が作曲を担当しています。

――実際に楽曲を作ることが決まってからは、どういった工程を踏んで作曲されるのでしょうか?

澤野 最初に、監督と音響監督のあいだで打ち合わせがあり、作品に必要な曲がメニュー表にリストアップされます。たとえば、キャラクターのテーマや、悲しい雰囲気の曲、バトルの曲など、シーンごとの曲ですね。その後、キャラクターの雰囲気などの情報を教えていただき、それをもとに家で作曲します。

 制作では、極端に言えば即興で演奏してみて、それをブラッシュアップしていくという感じで、インスピレーションを大事にしています。インスピレーションと言うとカッコよく聞こえますけど、「戦う曲はこんな感じ」、「悲しい曲では弦楽器が鳴っていると悲しいよな」という感じで、これまでの経験や、聴いてきたものをもとに、自分の引き出しの中から作っていくということですね。ただ、自分の感覚ばかりに頼るとサウンドが偏ってしまうこともあるので、流行を取り入れるためにハリウッド映画の音楽や洋楽などをチェックすることもあります。

――これまでの知識や経験をもとに、オーダーに応えていくという感じなんですね。

澤野 はい。いろいろな人の曲を聴くうちに、自分の中で「こういう音が好き」という感覚ができているので、その感覚のおかげで作曲の作業もスムーズに進んでいるのだと思います。

『キルラキル』や『プロメア』の作曲家・澤野弘之氏に訊く劇伴の制作の魅力と裏側。TRIGGERスタッフ陣のメッセージもアリ_04

澤野 『プロメア』はいつものアニメの楽曲制作とは少し違う流れで、音響監督と打ち合わせする前の段階から、主要キャラクターのテーマや、『プロメア』全体のテーマを今石監督と打ち合わせして、作品に合うような曲を8曲ほど作りました。その曲を制作サイドに聴いていただき、その後、音響監督から必要な曲のメニュー表を作ってもらいました。

――『プロメア』の場合はメインテーマから作曲されたのですか?

澤野 そうですね。最初に作った曲の中には、自分の中でメインテーマという位置づけで作ったオーケストラ曲と、劇中でフックになればと思って作った歌の入った曲がありましたが、その歌の入った曲のほうのメロディーを今石監督が気に入られて。僕自身も、その曲を押し出したいと思っていたので、そのメロディーをオーケストラに変えてメインテーマに据え、もともと作っていたメインテーマはサブテーマにしました。

――制作陣の意向で曲が変わることもあるのですね。

澤野 たとえば、あるキャラクターのテーマが、オンエアでは別のキャラクターのテーマとして使われていて、そちらのほうが楽曲のイメージに合っていた、ということも過去の作品などでありました。

――(メニュー表を見ながら)楽曲にはそれぞれ使われる秒数が指定されているようですが、そのことも考えながら作曲されるのでしょうか?

澤野 映画音楽では映像の時間に合わせて音楽を作ることが多いのですが、『プロメア』ではテレビシリーズと同じ作りかたで作らせていただいていて、基本的には曲として作ったものを選曲の方に映像に合わせてもらうというスタイルでした。

――今石さんから楽曲に関してオーダーされたことはありましたか?

澤野 『キルラキル』では歌が入った曲や、オーケストラ、ダンスミュージックっぽい曲など、いろいろなジャンルの曲を取り入れて作ったので、今石監督にはそれを評価していただけたのかなと思っています。なので、今回も同じような方向性で、エンターテインメントとしておもしろくなるような音楽を作るということが前提にありました。

 今石監督からのオーダーとしては、主人公のガロが火消しなので、「和風っぽい音があってもいいかもしれない」というものがあったので、ガロのテーマのひとつではその要望を意識して、和のテイストを取り入れています。

――今石さんはクライマックスのシーンで曲を全面に押し出す手法を使われますが、プレッシャーに感じることはありますか?

澤野 クライマックスの曲を作るときというよりも、仕事を新しく受けるときにプレッシャーを感じますね。前回の作品で納得いく音楽を制作したあとなので、今回も同じように作曲を進めていけるのかという不安があって。でも、その不安になる期間もほんの少しで、取り掛かる前に少し気が重いくらいですね。

――連休明けに会社や学校に行くのがしんどいみたいな感じでしょうか(笑)?

澤野 まさにそんな感じだと思います(笑)。『キルラキル』では、クライマックスで使われていたボーカル入りの曲をいちばん最初に作りましたが、その曲にオーケーが出てから、以降の作曲にもモチベーションが出ました。実際に曲を作り始めると自分のテンションも上がって、「この曲はどんな感じで使われるんだろう」と、楽しみにしながら作曲に熱中できるんです。

――音作りで重視しているポイントは?

澤野 ものすごく簡単な言葉でいうと、自分の中で“カッコイイ”と思えるかどうかがポイントですね。たとえば、ハリウッドのホラー映画の劇中曲は、ただ怖いのではなく、カッコイイと思える部分がある。自分も作るときは、それを見習いたいと思っています。

 音楽にもエンターテインメント性を感じ取ってほしい。それによってより作品の価値が高められればうれしいなと思います。

――ご自身でその“かっこいい”曲を作るために意識されていることは?

澤野 いろいろあるので説明は難しいのですが、僕がとくに意識していることをひとつ挙げると、グルーヴ感が出ているかどうかですね。単調なリズムではなくて、横に揺れながらリズムを取れるような感じというか。そういうリズムを劇伴に入れ込んで、カッコよさを出せればと作っていますね。しっかり聴いてみるとわかるような音量で、細かいところにリズムを入れて、それがグルーヴのアクセントとして大事だったりします。

――『プロメア』の楽曲制作ではとくにどのようなことを意識されましたか?

澤野 今石監督の映像のテンション感を音楽で増強できないかと思っています。エンターテインメントという部分で、自分がどれだけ作品に貢献できるか、ということを重視していました。『プロメア』は暗い曲も作っていますが、作品の雰囲気が明るいから明るい気がしてくる仕上がりになっているなと感じました。

――映像に合わせた曲を聴いて曲の印象が変わることもありますか?

澤野 ありますね。僕は作曲家のハンス・ジマーの曲が好きで、映画を観る前にサウンドトラックを買っちゃうんですけど、映画観る前に聴くのと、観終ってから聴くのでは映像の影響によって、まったく違ったように聴こえることがあって。自分の曲でも、劇中のいいシーンで使われるとより愛着が湧いたり、お客さんに反応してもらえるとより好きになったり、映像によって曲へのイメージが変わるのが劇伴のおもしろさだなと思います。

――映像を見ながら聴くことで、音楽の価値が上がるというのはありますよね。

澤野 やっぱり、人は見るものの影響を強く受けると思うんです。ライブでアーティストが演奏する姿を見たら、そこまで好きじゃなかった曲が好きになることもありますし。映像を見ながら聴くことで、曲が違う情報になるというか、聴こえかたが変わるというのはあると思います。

 反対に、画を見ながら作業したときは、画の影響が強すぎて、悲しいシーンの絵を見ながら作曲すると、ちょっと音を鳴らしただけで悲しい印象になってしまうこともあって。そうやって作った曲をサウンドトラックで聴いたときに、「物足りないな」と思ったことがありました。だからいまでは、まず音楽として成立させることを重視しています。

――ご自身の中でTRIGGER作品のテンションの高さを意識されることは?

澤野 あれだけ熱量のある作品なら、音楽も、抑揚の少ないクールな曲があってもいいと思いますが、あえてそういう曲は作らず、音楽でもテンションを高めにするということを考えていました。そのくらいのテンションをぶつけないと、映像に迫力があるので音楽が負けてしまうと思うんです(笑)。「音楽でもがんばっていたな」と感じてもらえるくらいにしたいなと。

 それから、オーバーに作って、やっと“ふつう”に聴こえることがよくあるんです。演技でもそうですよね。多少誇張しないと、棒読みに聞こえてしまう。そういうことを考えながら作曲していたら、結果的にテンション高めの曲になることも多いです。

――最後に、『プロメア』でとくに注目の楽曲を教えてください。

澤野 オーケストラの楽曲や、ボーカル入りの曲も力を入れて作っているので、そうした楽曲が作品の中でどういった感じで使われるか楽しみにしてほしいです。作品全体としては、ギャグがバランスよく散りばめられているので、暗い場面でも深刻になり過ぎず、笑って観られる内容になっています。

 自分は、暗い曲はとにかく暗く作ってしまうんですけど、そうした今石監督の作風のおかげで、曲も違った楽しみかたをしていただけるようになっていると思います。

『プロメア』のオリジナルサウンドトラックもチェック!

  • タイトル:プロメア オリジナルサウンドトラック
  • 発売日:2019年5月24日(金)
  • 価格:3000円[税抜]
  • 品番:SVWC-70414
  • 概要:監督・今石洋之×脚本・中島かずき×アニメーション制作・TRIGGERによる初の完全オリジナル劇場アニメーション『プロメア』のオリジナルサウンドトラック。音楽・澤野弘之が本作品のために書き下ろした、作品を熱く盛り上げる楽曲、全21曲を完全収録。
  • 初回仕様限定盤特典:三方背ケース、特製ブックレット
  • 発売:アニプレックス
  • 販売:ソニー・ミュージックソリューションズ
    ※特典内容・仕様は予告なく変更になる場合がございます。
『キルラキル』や『プロメア』の作曲家・澤野弘之氏に訊く劇伴の制作の魅力と裏側。TRIGGERスタッフ陣のメッセージもアリ_05

『プロメア』制作スタッフ陣からのコメントが到着!

 最後に、『プロメア』の観賞を終えたばかりのTRIGGERのスタッフ陣からのメッセージもお届けしよう。

キャラクターデザイン・コヤマシゲト氏

――完成した作品をご覧になって、いまのお気持ちをお聞かせください。

出来上がるまで、いろいろありましたが、とにかく監督を信じてやるしかないなと思っていたので、出来上がったものをいま見終えて、関わった身としても素直におもしろいな! と感じました。

――公開を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。

とにかく大勢の方に観ていただきたいと思って作ったので、少しでもお時間ある方はぜひ、観てください!

作画監督/原画・五十嵐海氏

――完成した作品をご覧になって、いまのお気持ちをお聞かせください。

作画IN当初のところからするとここまでもっていくとは思いもよりませんでした。わりと時間がなかったので、いや〜、よく出来上がったな〜。というのが率直な感想です。あまりほかで見たことのない画面になっていました。

――公開を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。

バチバチにやかましくて楽しい作品です。ぜひご覧ください。

原画・菅野一期氏

――完成した作品をご覧になって、いまのお気持ちをお聞かせください。

観るまでは初めて原画担当ということもあり、自分のパートを見るのが恥ずかしくて緊張していましたが、観てみたら自分のパートが気になりつつも、ふつうに作品として感動しちゃいました。すごくよかったです。

――公開を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。

絶対に楽しいと思うので、公開を楽しみにしていてください。